6月26日の日記「兄になった日」

6:00am 自宅
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「まだ、あさ はやいじゃん!!」
いつもより早く起されたひなさんは、テレビの時計の表示を見て、不機嫌そうな声をあげました。気持ちはわかります。みきさんが陣痛らしきものを自覚しはじめた一昨日、お腹の痛みが強まるたびに3人で病院にでかけること2回。しかしその2回とも「まだ早いよ」と助産師さんに諭されて家に帰されていたのですから。おっちょこちょいな両親を信じられないのも無理はありません。それでも「今度は本当っぽいから」と、何とか納得してもらい3度目の病院へ

7:00am 病院
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到着するといきなり産室に3人で案内されます。みきさんのお腹には測定器が装着され、これと連動して動き出したベッド脇のモニターについて興味深そうに見つめるひなさんに解説します。

「こっちの数字で赤ちゃんのドキドキがわかって、
 この長い紙のお山(折線グラフ)でお腹の痛さがわかるんだよ」

みきさん「イタタタタッ」

ひなさん「ホントだ、おやまが たかくなってきた!
     あっ100こえた! いたい?

だから痛いんだってば。

それでも、まだ陣痛はそれほど強くはなく、まだ時間がかかりそうという事で、入院用に用意していただいた個室で待機することに。そこでテレビを見たり、病院近くの公園にサンポに行ったりして時間を過ごします。

10:10am 個室
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サンポから帰ると、ちょうどみきさんも部屋に戻ってきました。陣痛促進剤を使うかどうかの相談のためです。みきさん、どうやら陣痛が弱いタイプらしくこのままでは、あと2〜3日かかるかもしれないとのこと。この状態が続くのも辛かろうし、いずれにせよ出産の際には促進剤は必要となりそう。ならば今日産んでしまおうと、促進剤の投与をお願いすることにして、みきさん再び分娩室に向かいます。

10:40am 分娩室
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「すぐに来てください」と、助産師さんから部屋にコール。あわてて分娩室に駆け込むと、みきさんの様子が一変しています。なんで? 実は検診中の刺激で破水し、その勢いで一気に降りてきた赤ちゃんが骨盤を圧迫して激痛となっているとのこと。ひなさんも見たこともないみきさんの苦悶の表情に状況が理解できない様子です。

例のグラフを見ると、高いお山が連続しています。「応援してあげて」と促すと、おずおずと「がんばれ、がんばれ」と励ましながら痛むという腰のあたりをさすってくれます。ところが「うん、がんばるよ」というみきさんの返事も弱々しく、だんだん怖くなってきたのかひなさん、「おへやかえる」と耳打ちしてきました。
助産師さんによると圧迫による骨盤の痛みはあるものの、陣痛自体はまだ十分ではないとのこと。仕方なくしょんぼりしているひなさんを連れて部屋にもどって待機することにしました。

11:30am 再び個室
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再び退屈し始めるひなさんに、今度は部屋を離れる訳にも行かず、どうしようもなく困っていたところ、みきさんのお父さん来訪。入院前に「今日一日かかりそうだから、生まれたら連絡します」と伝えておいたのですが、虫の知らせでもあったのでしょうか、とりあえずひなさん、遊んでくれる人が増えて大喜び、まさに天の助けです。

0:00pm まだ個室
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昼までは何もなかろうとの甘い見込みで家族分を病院にお願いしてあった昼食が届き、3人で昼ごはん。結果オーライ。その後「サンポにいこう!」と、ひなさん、おじいちゃんを言葉巧みに誘い出し病院脱出に成功。お義父さん、スミマセンがヨロシクお願いします。

3:00pm 個室から…
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じいちゃんの車で近くの大型スーパーにでかけていたというひなさん、おねだりして買ってもらったウルトラ怪獣カードを手にホクホク顔で帰ってきました。キミ、今お母さんが苦しんでる事、コロリと忘れてるだろう? しかも、事前に病院食のメニューに3時のおやつがある事を目ざとく見つけ、ギリギリまで遊んで時間きっかりに戻ってくるとは、どこまでしっかりしてるんだ、この5歳児。そして予定どおりにおやつのフルーツゼリーを運んできてくれたナースさんが「あと少しみたいですよ♪」と伝えて去っていったほんの数分後。室内にコールが鳴りました。

「生まれました!」

さすがのひなさんもゼリーどころではないとスプーンを置き、急ぎ3人で分娩室へ向かいます。

3:10pm 分娩室 その3
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分娩室につくと、みきさんお医者様から何やら処置をされている状態じゃないか。ホントに生まれたばかりなのね。いいの? 入ってもいいの? 実はこの病院、お産中は家族は分娩室に出入り自由、携帯もカメラOKという方針だったとのこと。じゃあ、別に部屋でボーっと待ってることもなかったのね。

それはさておき、まずは、ひなさんの手を引いて分娩台横に寝かされている、新生児のもとへ駆けつけます。

「なんか、ついてる」

初対面のわが子にかけてあげる言葉としては実に間の抜けた第1声ではありましたが、
とにかく男の子です。
すごい声で泣いています。 
元気です。

「あっ!」

どうしたひなさん、いきなりそんな声をあげて。

「時計がっ!」

指差す方向を見ると、部屋の隅に架けられた時計の針がグルグルと回っています。

「電波時計だよ。一日に何回かああして自動で時間調整するんだ」

処置をする手を休めることなく、やさしく説明してくれた先生に、「へぇ〜」と、助産師さんたち。それにしてもひなさん、生まれたての弟を目の前にしたこの大変な状況下でよくそんなことに気がつくものです。

やがて、新生児は助産師さんの手で体重計に乗せられます。

   3,202グラム。

目方でドン。最後の検診の日にエコー検査での推定体重(3,200グラム)とほぼぴったり。顔も4D映像そのまんま。最新の技術ってすごいね。

3:50pm 最後の分娩室
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とりあえずのご対面を終え、処置が終わるまでの間、再び部屋で待機した後、三たび分娩室にいくと、すでに泣きやんでいた新生児はまだほとんど出ないみきさんの初乳をすごい勢いで飲んでいました。顔つきもひなさんの時と比べるとかなりしっかりしているように見えます。

 

ひなさん、そんな「弟」「かわいいね〜♪」と、慈愛の表情で見守ります。

「赤ちゃんそろそろお部屋に行くから先に戻ろうか」と、ナースさんに促されても、

「やだ、まだここにいる!」
"兄として"というよりも、"母性愛"に近いものを感じます。ホントにこの日が来るのを楽しみにしていたんだねえ。生まれた瞬間から見る人みんなに「気が強そう」とか「やんちゃそう」とか言われる弟。その予想が当たったらナイーブなキミはきっと苦悩するだろうけど、これからもこの調子で可愛がってあげてね。

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こうして家族4人仲良く新しい生活が始まるかと思いきや、産後5日間の入院の後は幼稚園の都合などもあり、みきさんと新生児は、仕事を休んでドンと待ち構えていてくださっているみきさんのお母さんの元へ、ひなさんは入院中から引き続いて幼稚園にほど近いウチの実家へ、そして僕は実家と自宅を行ったり来たりと、一家離散状態。

家族が揃うまで、もうしばらくのご辛抱。
そして、それまでには名前を考えなければいけないのだな。

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出産までの詳しい経過はこちらのブログでリアルタイムで記録していました。ドキドキの一日でしたが、新しいメッセージをいただくたびに、心を落ち着かせることができました。ブログの記録はみなさんのメッセージとともに大切に保存しておき、とても多くの人たちの祝福の中で生まれてきた事を、今は名もない新生児の彼がいつか大きくなったときに見せてあげようと考えています。

応援&祝福メッセージをくださったみなさん、改めてありがとうございました。