繋がっていた手は いつしか離れ


指先から 髪の毛の先まで

ゆっくりと ゆっくりと 俺の身体は冷えていく



俺と君を繋ぐ 一つの紐は

音も立てずに 切れた


一度切れてしまった紐は 元には戻らない

永遠に...
















「ありがとう。」















あれから どのくらい経っただろう

そうだ ちょうどあの頃から3年か


あの頃、君と俺は仲良く手を握りしめていた

君と俺 いつまでも微笑み合っていた


・・・はずだった








いつからだろうか

君と俺の心に距離が出来たのは







どちらとも悪くなかった


ただ お互い子供で 自分を守るのに精一杯だっただけ

ただ それだけ




君と繋いでた手が離れた時から

俺の中で 時間は刻まなくなった。




まわりだけが 今を生き

俺だけが 過去へと取り残される






もう 何も見えなくなった

何もかもが 暗闇に吸い込まれていった



















ベッドに座り込みながら、俺は広い天井を見つめていた。

見つめていたと言っても、ただボーッとしていただけかも知れない。






すると、キィとドアを開く音がした。

「おはようございます、司様。郵便受けのお手紙、ここに置いておきますね。」

「・・・・ああ。」




メイドは笑顔で俺に挨拶をし、テーブルの上に何十通もの手紙を置いていく。

「失礼します。また、お食事のお時間になったら、お呼びします。」

ああ。とだけ、短く答えた。








メイドは俺の部屋を出て行った。

はぁ、と小さくため息をついて、手紙の束を見る。







   【道明寺 司様へ】

手紙の宛名には、かわいい丸字で、そう書いてあった。




差出人の名前を見る。

差出人の名前は、聞いたことのないような女の名前。



誰だよお前は。

聞いた事ねぇよ、お前の名前なんて。



その手紙のほとんどは、どうでもいいような学校の女どもからの手紙ばかりだった。

俺は『いつものことだ』と、その手紙を読まずにゴミ箱に捨てる。


見知らぬ女からの手紙は、バサバサと音を立ててゴミ箱へと消えていった。







そして、最後の一通。

シンプルなピンク一色の封筒だった。

それにもやはり、他の手紙と変わらない、かわいい丸字でこう書いてあった。






   【道明寺 司様へ】






「はぁ。」

またか、と俺はため息を漏らしながら差出人の名前を見た。


「・・・・・・・・・・!!」

心臓の動きが止まったかと思った。





その最後の手紙の差出人の名前は・・・・


     “ 牧野 つくし ”



「牧野から・・・??なんで...」






手が震える。

胸が高鳴る。

こんなにも緊張するのは、何年ぶりだろうか。




俺は、封筒をゆっくりと開けようとした。

すると、ある自分の気持ちが俺の手を止めた。





《 本当に この封筒を開けてもいいのか? 》

《 せっかく 牧野への思いを封印したというのに 》

《 今 ここで開けてしまったら 》

《 一体 どうなる? 》



《 3年前に 俺と牧野は 別々の道を歩き出したんだ 》

《 今更 俺がどうこう言ったって どうにもならない 》

《 もう 俺と牧野が手を繋いで歩くことなんて ないのだから。。。 》

《 だから 素直に開けてしまえばいい 》



《 でも 》

《 この封筒を開けて 牧野への気持ちが溢れ出したら 》

《 俺は どうすればいいんだろう? 》










結局、開ける事が出来ず、震える手を押さえながら、封筒をテーブルの上に置いた。

そして、緊張の糸が切れたように、ベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。





広く、高い天井が見える。

俺は、目を瞑った。

何も見えなくなる。




見えるとすれば、そこには限りなく続く暗闇。


今度は、別の自分の気持ちが俺に問いかける。







《 あの封筒を開けないのか? 》

《 もしかしたら 牧野と類が別れた話かもしれない 》

《 そうだったなら 滅多にないチャンスじゃないか 》


《 もしかしたら 》

《 上手く よりを戻せれるかもしれない 》

《 もしかしたら 》

《 もう一度 アイツを抱きしめられるかもしれない 》








俺は、テーブルに置いた封筒を手に取った。

『もしかしたら』という気持ちを胸に、封筒を開けようとした。



「・・・・バカか、俺は!!」

俺は、封筒を壁に投げつけて、頭を抱えた。



本当に馬鹿げてる。

俺は、こんなに最低な奴だったのか。

人の不幸を期待するなんて。






「ごめん、牧野。類。」

心から、本当に『すまない』という気持ちになった。

壁に投げつけた封筒を手にして、もう一度封筒を開けようとした。




でも、もし。

もしも、この手紙が・・・・・・・。




この時、もっとも1番、考えたくない気持ちが頭に浮かんだ。

でも、考えちゃいけない、と思いを打ち消し、封筒を開けた。

そこには、宛名の字と同じかわいい丸字で、こう書いてあった。





   “ 道明寺 司様へ ”

   “ この度、新郎 花沢類と 新婦 牧野つくしは、”

   “ 結婚することになりました ”






「・・・・・・・。」

もっとも1番、考えたくないことが、見事的中してしまった。



『結婚』の二文字。





別に、その事を考えないようにしていたのは今日だけではない。

今日以外にも、なるべく考えないようにしていた。

でも、やっぱりできなかった。

いつかは、こうなることはわかっていた。

・・・だとはいえ、やはりショックは大きい。



 牧野・・・結婚するのか。
 
 君は俺の手ではなく、類の手を選んだ。



 俺ではなく、類を。


俺は、目が熱くなるのを感じた。







それには、日時、場所などが記されてあった。


俺は、封筒を持ちながら力尽きたようにベッドへと倒れ込んだ。

何回も何回も手紙を読み直す。


でも、何度読み返しても真実は変える事が出来なかった。


すると、封筒の中にもう一枚の紙が入っているのに気が付いた。





   “ 道明寺へ ”

   “ 元気にしてた? ”

   “ あれから3年も経つね ”


   “ 私 今でもあの頃のこと 全部憶えてる ”

   “ 本当に楽しかった ”

   “ 嬉しかった ”


   “ でも 私は今 新しい未来を歩もうとしてる ”



   “ きっとあの頃 道明寺と逢っていなかったら ”

   “ 今の私は ここにいないと思う ”



   “ 本当にあの時は 私と一緒にいてくれて ”

   “ 私と同じ時を過ごしてくれて ”

   “ ありがとう ”





「・・・ははっ。『ありがとう』って何言ってんだか。」



涙が零れた。

今まで我慢していたモノが、全て溢れ出した。





悲しみも。


苦しみも。


痛みも。



全てが、この涙と一緒に流れ落ちていった。




俺の中の時間が動きだした。

ゆっくりと、ゆっくりと、俺の中で時間を刻み始めた。





俺は、君の結婚式には行かないと思う。

いや、行けないだろう。



でも、いつか俺も

君に負けないくらいの幸せを手にしたとき

君に会いに行くよ


いつになるかわからないけど、きっといつか必ず。








一度切れてしまった紐は 元には戻らない


でも


結び直す事なら出来るじゃないか




そして


また 紐を結び直す事が出来た その時は


君に伝えたい





     「ありがとう。」











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司に、可哀想な想いをさせてしまいました・・・・。司ゴメンネ。(そして、司ファンの方々にもペコリ。)

切なすぎるのもちょっと申し訳ないので、一応ハッピーエンドになるように、と書いたつもりです。


小説のほうにも書きましたが、一度切れてしまった紐は元には戻りません。

でも、何度も何度も結び直していれば、いつかきっと繋がるはずですよね・・・・(願。笑)