其所は一番の隠れ処であり
居心地の良い所であり
何よりかけがえのない場所であった非常階段

だからこうやって偶に訪れてしまうのも
きっと彼女が忘れられないから











  ブレスレス oxygen-deficient air













久しぶりに顔を出したその場所は、何だかひっそりとしていた。

人の出入りが少ないからだろうか。校舎などに比べて、ここだけは時が止まったかのようだ。あの頃と至って変わらない。このコンクリートの感じだとか、日の入り具合だとか。何だか嬉しくなって、頬が緩むのを感じた。だが、それと同時に変えようのない真実に気が付くのである。

いない。どこにもいない。
そんなことはとうに分かっていたくせに。

探し求めていた彼女の姿は、何処にもなかった。
其所にあったのは、懐かしい思い出と、幼かった頃の日々と。



それでも会いたくなってしまった。触れたくなってしまった。
彼女との思い出に。二人だけの思い出の場所に。

そお、といつもの指定席に座る。布越しに伝わるコンクリートのひんやりとした冷たさ。こんなにも固く、冷たかったものだったろうか、とぼんやり考える。彼女がいつもいた場所をじい、と見つめる。日が当たった其所、隣には誰もいない何も感じない何も残っていない。あの大好きだった笑顔も温かさも何もかも全部。全部全部全部。こんな所に居たって彼女は戻ってはこない。そう頭では理解してるくせに、どうしても心が理解を避ける。拒否する。

両手で顔を覆う。頬を伝うものでさえ、今となっては無駄でしかないものだ。
幼く、愚かだった自分。分かってるふりして、平気なふりして。
本当は寂しかったくせに。傍に居て抱きしめて愛していると伝えたかったくせに。

ほら、苦しい。
呼吸困難。酸素不足。
彼女がいなくなってからずっとずっと。


(彼女のいない世界なんて息が出来ないだけ、)



07/3/1

◇ ◇ ◇


みんな高校を卒業してばらばらになってからのおはなし。
なくしてから気付く大切さ、そんなのを書きたかったんです。切ないね。