透き通って見える世界は

それは それは 鮮明で



ぼやけて見える世界とは 別世界のよう
















コンタクトレンズ

















「もうっ!!・・・・・一体何処に落ちたのよ!?」





夕方。


少し赤みが差した、学校の非常階段。

狭いスペースの中、地を這いながら独り嘆く私が居た。





気持ちよくてつい、うたた寝をしてしまった。

最高の一時と、最悪の出来事。



「それにしても、うっかりしてたわ。こんな所で落としてしまうなんて。」






それは、ほんの一瞬の事。

寝ぼけて左目を擦ったら、左目のコンタクトレンズが落ちてしまった。


片方のコンタクトレンズだけ無くなってしまった視界は、

なんだかチカチカグラグラして、とても見やすいとは言えないものだった。




とりあえず、感覚を頼りに地面に手を這わせる。

下手に動けば、コンタクトレンズを壊しかねない。


慎重に、慎重に。













「何やってるの?」

突然後ろの方から声が聞こえた。

探すのに集中しすぎて、ドアが開いたのに気が付かなかった。





振り返ってみると、ドアに寄りかかってこちらを見ている類の姿があった。


「あ、花沢類。」

「なんか落としたの?」

「うん。コンタクトレンズ落としちゃって・・・・・。」



自分の左目の方を指さして答えた。


「それで、さっきから探してるんだけど、なかなか見つからないのよ。」

「へぇ。そりゃ大変だね。」

「そう、これが結構大変なのよ。」

ふぅ、とため息をつく。




しかも、このコンタクトレンズ一ヶ月用で、まだ一週間くらいしか使ってないのに。

ああ・・・・もったいない。






ガックリと肩を落としている私をチラッと見た類は、こう一言。

「そっか。頑張ってね。」


それじゃ、と一言短く言い終えた後、類は帰ろうとドアノブに手を掛けた。






「うん。頑張るね・・・・って、ちょっと待ちなさいよ!!」

とっさに、出て行こうとした類の腕を掴む。


「・・・・・・・なに?」

類はいかにも怪訝そうに、私のほうに振り返った。





「ここまで理由聞いておいて、それはないんじゃないの?」

ここで手伝うのが親切心でしょう?と、私は類に言う。


「はぁ・・・・親切心ねぇ・・・・。」

類は腕を組んで、ドアにもたれ掛かる。

「そう!!親切心よ!」






自信たっぷりと言い切った私を見て、めんどくさそうに言った。

「悪いんですけど俺、親切心とか持ってないし、今すごい眠た...」


「手伝ってください!!!」



一瞬、私の大声にものすごく驚いていた様子だった。


そして、類は少し考えた後。

「・・・わかったよ。」

しぶしぶと了解してくれた。



















「あ!!踏まないように気を付けてよ!?」

「俺は、牧野みたいにドジじゃないので、そんな失敗はしません。」


地面を見渡しながら、類は呟いた。


「なによー!!私がいつもドジしてるみたいな言い方しないでよね。」

「いや、コンタクトレンズ落としてる時点で、もうドジだって。」




うっ。

さりげなく痛いところを・・・。


「・・・・・そうだけど。」


はい。

確かにそうです。

私はあなたの言うとおり、どうせドジですよーだ。






「プッ。何その顔。」

急に類は、私の顔を見て吹き出した。


「何よ。私の顔がどうかしたっていうの??」

「だって、眉間に皺寄せて、口元尖らせて・・・・くっくっくっ。」





そう指摘されたので、思わず両手で顔を覆う。

「・・・・笑わないでよっ!!癖なんだもん!!」


そうなのよね。

ムッとしている時、何故がいつもこの癖が出ちゃう。





「くっくっくっ・・・・その癖治さなくていいよ。オモシロイから。」

「・・・・ったくもう。人をからかって。」

ふん。と、私はそっぽを向いた。




そんな私を見て、類は急に笑うのを止めた。

「あ。」

謎の一言と共に、私の方に歩み寄り、片手で私の肩を掴んだ。





「牧野。動かないで。」

「え?・・・・」




真剣そうな類の顔。

いつもより、必要以上のドアップ。




そんなこんなで、私はもう一杯一杯だった。






「なっ・・・なによ!?何する気!?」

動揺を隠しきれず、柄にもなくあたふたとしてしまう。



「シッ。黙ってて。」


そんな私の気持ちを知ってか知らずか。

だんだんと近づく類の顔。



ああ。

これってもしかして・・・・・。


私はゆっくりと目を閉じた。




















・・・・・・・。

・・・・・・・・・ん??

なんだか遅くありませんか??











「あ、とれた。」

「・・・・へ??」


おそるおそる目を開けてみると、類の手には探し求めていたコンタクトレンズ。


「牧野の髪の毛につっくいてたんだ。」

「そ、そう。」



な、なーんだ。

コンタクトレンズか。



ほっ。と息をつきながら、拾ってもらった片方のコンタクトレンズをケースの中に入れておく。







あんな風な態度を取るから、私は、てっきり・・・・・。

「キスされるかと思った?」



そうそう。

キスされるかと・・・・・・・って、ん!?


「・・・・・ええぇ!?」

「だって、そう言いたげな顔してたもん。」






ええ!私そんな顔してたの!?

・・・・いやいや。

私にかぎってそんな事は・・・・ないはずだわ。



「してない!!」

「した。」

「してないってば!!」

「したってば。」

「してないったら、してない!!」


こう何度も図星をつかれてしまうと、無気になってしまう私。



そんな私をじぃーっと見つめながら、またもや吹き出す類。


「やっぱりオモシロイね、牧野って。」

くっくっくっ。っと笑いながら、私に手を差し伸べた。


「ほら。早く帰ろ。家まで送ってってやるから。オンナノコに夜道は危険デスヨー?」







また人をからかって。

まぁ、いいわ。



差し出された手を、思いっきり強く握りかえしてやった。


「痛っ!!」

「オンナノコを家まで送るのなら、これくらいで弱音はいちゃダメでしょう?」

くっくっくっ。と、今度は私が笑ってみせた。















校舎に響く二人の笑い声と

夕日に照らされた非常階段を下りる足音が


なんだか 軽やかな音楽のように聞こえた










05/6/12


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やほーい。管理人のまっきぃです。

ちと、ベタなネタやっちゃいました。(アチャー;)


この小説のつくしは『目が悪い』という設定にしちゃいましたが、本当のつくしは目良さそうですよねぇー。羨ましい。


ちなみに管理人は、ソフトコンタクトレンズ派です。

勉強やってないくせに、未だに視力低下中↓↓どうしてぇ・・・??


みなさんも、コンタクトレンズは落とさないようお気を付けくださいませー^^