彼女は待ち続けていた


二度と還ることのない人を

来る日も来る日も いつまでも














水色の言葉















うっすらと灰色をした空の下。

彼女はそこに居た。

白い石になったあいつを見つめながら、両手を真っ白な花束でいっぱいにして。








俺の存在に気がついた彼女は、にこりと微笑むと軽く俺に手を振る。



「久しぶり、花沢類。来てたんだね。」

「ああ。久しぶり、牧野。」

俺も彼女の方に軽く手を振り、彼女の近くへと歩いて行った。







数年ぶりに会った彼女はあの時と変わらず、綺麗だった。


それでも、昔とはやっぱり違う。

大きな瞳は透き通っていて、けれどどこか淋しそうで。

にこりと笑うその笑顔にさえ、影が見えたような気がした。



少し髪が伸びただろうか。

遠い昔は肩までの長さだった髪が、今では腹の辺りまで伸びている。

風が吹き抜ける度、彼女の髪は俺の鼻を掠めるように揺れた。

さらり、さらりと。







「きれいな、水色ね。」

俺の右手にある花束を見て彼女は言った。




濃すぎず薄すぎない水色をした花。

まるでそれは人間とは違い、汚れを知らないようで。

そんな純粋な容姿に惹かれ、ここへと連れてきた。





「ああ。きっとあいつも気に入るだろうと思って。」

ええ、きっとそうね、と彼女は頷いた。




先程、彼女が両手いっぱいに持っていた白い花束の隣に、それをそっと置く。

「誕生日おめでとう。」

祝いの言葉も忘れずに。




「毎年毎年いつもありがとう。あの人も、きっと喜んでいるわ。」

「いや、全然構わないよ。俺の大切な友達なんだから。」

「・・・そうね。ありがとう。」

彼女は、またあの笑顔で笑った。

哀しそうな笑顔で。





いつもそうだった。

彼女は、決して人に弱いところを見せない。

自分の胸だけにそれをしまい込んで、また笑うんだ。






















「いつまで待つつもり。」

還ってこない人を。

二度と還ることのない人を。



どんなに想っても会うことなんてできない事を知っていながら。

どうしてそんなにも待っていられる?

どうしてそんなにも笑っていられる?




「いつまでここに居るつもり。」




ただ彼女が心配だった。

いつか壊れてしまうんじゃないかと。

人一倍頑張りすぎてしまう彼女だから。

誰の助けも借りずに、独りで頑張ってきた彼女だから。



そんな彼女が今でも大切で。

今も昔も変わらず愛しくて。






「いつまで・・・。」

「ずっとよ。私の命が尽きるまでずっと。」





彼女は、あいつの眠る冷たい石に触れた。

ひんやりと冷えている石は、何も答えはしない。


そして、それからそっと手を離し、目線を俺に戻した。





「それまで私は待ち続けるの。いつか私を迎えに来てくれるまで。」





いつもの笑顔だった。

今も昔も変わらないその笑顔。


俺は、その笑顔にどれ程救われただろう。






「そう。」

別に悲しいとか、そんな気持ちは無かった。



いつまでもあいつを想い続ける彼女。

でもそんな彼女だからこそ、俺もいつまでも想い続けるのかも知れない。

来る日も来る日もいつまでも。



そう、彼女と同じように。

この俺の命が尽きるまで。






俺が捧げた水色の花は、小さな風に揺られ。

小さく微笑んでいるようにみえた気がした。







06/2/16



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20万打のキリリク小説。踏んで下さったみずきさんに捧げますー。

文中には書きませんでしたが、類が言う『あいつ』とは司の事でございます。

彼らに何があったのか、という前置きは皆様のご想像におまかせします〜。


『類つくでシリアスな話』とのリクエストを頂きました。・・・・あれ、ちょっと死にネタなだけでこれってシリアスじゃない!?アイタタ

ご期待に添えられなかったらゴメンナサイ^^;これが私の精一杯です。笑


20万打ありがとうございました!!