「類、どう。」

くるりと振り返り、自分の唇を指さした彼女。

何の意味なのかさっぱり分からず、そう自分に尋ねる彼女にしばしの間首を傾げるしかなかった。どう、ってそれはキスしてもいいよ、みたいな合図か何かだろうか。いや、でもあの恥ずかしがり屋の彼女に限ってそんなことはありえない。(でも本当にそうだったらちょっと嬉しい)

自分が特に何も言わないことに痺れを切らしたのか、結局は待ちきれず自分から話すことに決めたようだった。

「最近リップ変えてみたの。どうかな。」

イチゴ味だよ、目の前に差し出された彼女のリップクリームには、美味しそうなイチゴの写真がプリントされていた。ご丁寧な事に「イチゴの味付き」とまで書いてある。

ああ、やっぱり合図じゃなかったのか。違うと分かってはいたものの、ほんの一握りの期待は捨てていなかったので、がっくりと肩は落ちるのは仕方がない。どうかした?という彼女の問いかけに、ううんなんでもないとだけ答えておく。(迷わずキスしておけばよかった)

基本彼女は周りの目を気にするタイプだ。人目でいちゃつこうものなら、断固として拒否される。でも、何だかんだいって少し照れてるようで、顔を赤くする彼女が可愛いから、まあ結果オーライなのだが。



「すごいでしょ。本当にイチゴの味するんだから。」

・・・そう言われましても、残念ながら自分がリップクリームを使うことなど無いに等しく、そのイチゴ味とやらが一体どうすごいのかなど知るはずも無い。

「他にもね、レモン味とかオレンジ味とかたくさんあったんだけど、イチゴ味が一番美味しそうだったから。」
「あ、そう。」
「・・・うわー、興味無さそう。」
「うん。」
「でも本当にイチゴの味がするんだってば。・・・さては信じてないわね?」
「信じるも何も、リップ自体よく知らない。」
「ああ、そうかもね。」

言われてみれば、と彼女は頷く。

「あっ。」

ぱっと顔が明るくなったところを見ると、きっと何かを思いついたんだろう。手に持っていたリップクリームのキャップを開けた。ぽん、と小さな音と共に薄いピンク色のそれが現れる。彼女の唇と同じきれいなピンク。買ったばかりであまり使い込んでいない為か、それは新品同様きれいな原型を留めていた。

「特別大サービス。類だけに使わせてあげる。」

にこりとしながらそれを自分に手渡すと、彼女は自分が唇に塗るのを期待しているようだった。右手にイチゴ味。目の前にもイチゴ味。そりゃあどっち取るかなんて決まってるでしょ。

「面倒くさいから、こっちにする。」














「あ、ほんとイチゴ味。」
「(・・・リップクリーム使えばいいじゃないのよ)」





       ピンクストロベリーに口吻






07/4/26


間接チューならず、直接チュー。
香りつきのリップはよく見かけますが、実際味つきのリップって売ってるのでしょうか。
・・・・そのへんよく考えずに書きました。ちなみに管理人の現在の愛用リップはゆずの香り。笑