泣くのは嫌い

それが人前だったなら尚更




だって泣いてしまったら

弱虫の私に戻ってしまう気がして


















ろくでなしの
















気が付けば、あなたの腕の中。

どうして私は、ここに居るのだろう。




向かい合わせた大きく広い胸。

押してみようとしても、私の背中にまわる両腕がそれを許してくれない。

押せば押すほど、貴方との距離は近くなってゆく。





「離してよ。」

「嫌だ。」





いくら問いかけても、貴方の答えはノー。

私を捕らえた腕は、緩むどころが締まってゆく。




「どうしてよ。」

「それはこっちの台詞。」




何故こんなにも、私を苦しめるの。

私が、どんな思いをしてるか知らないくせに。





「・・・なによ。」

「わかってるくせに。」






きつく締まっていた腕がやっと解かれたと思うと、すぐ目の前には貴方の視線。

駄目よ。

この瞳に呑み込まれてはいけない。





「何のことか、わからないわ。」

「嘘ついてんじゃねぇよ。」






あなたの強い瞳の奥がゆらりと揺らいだ。

大変。

頭の中で危険を知らせるサイレンが鳴り響く。







「嘘じゃないもん。」

ああ。

サイレンが鳴りやまない。






「なら聞く。どうし...」

両手で耳を塞いだ。





サイレンが。

渦巻く世の中が。

・・・真実を云う貴方の声が。


聞こえないように。

聞こえないように。































「・・・・どうして泣いてんだ。」





それでも、貴方の声が聞こえてしまった。

聞きたくなかったのに。

それを認めたくなかったのに。



「泣いてなんか、いないわ。」

「強がり言ってんな。」



泣くのは、嫌いって言ってるでしょう。

それが、人前だったなら。

・・・・・貴方の前だったなら、尚更。








「私、泣いてなんか、泣いてなんか・・・。」

「もういい。泣くのは悪い事でも何でもねぇ。」

「道明寺・・・・。」

「ほら。」





おいでおいで、と招かれた手につれられ、もう一度貴方の腕の中へ戻った。

貴方の腕の中は暖かくて。





「オメーの考えてることなんざ、お見通しだ。」

「・・・・そんなことないわよ。」

「なんたって俺は、エスパーだぜ。」

「・・・馬鹿。」

「うるせぇ。」

「ホント不器用ね。」

「・・・・・うるせぇ。」



鼻を啜りながらも、私の顔に少し笑顔が戻る。

貴方は私の頭を撫でながら言ってくれた。


「無理してまで笑顔でいる必要は無ェ。」

「ありがとう、道明寺。」

貴方の胸の中で小さく呟いた。












06/3/4


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いろいろ抱え込みすぎてしまったつくしちゃんを、司がヨシヨシという具合に。

彼の不器用な所が好きです。