※パラレル。類、つくし同じ学年クラス設定。
類くんは転校生。なのでF4は存在しません。類くんもつくしと同じ庶民派の学生です。

















ようやく私は気が付いた。
何もかも全て囚われてしまったということに。

よこがおよこがおよこがお。
そらそらそら。

ああ、頭から離れない。













よこがおトキドキそら












かりかり、と教師がチョークで黒板を書き鳴らす音と共に、またこちらも、かりかり、と同じことをノートに書き付ける。かと言って、内容を理解しているかといえば、実はそうでもなかったりするのだが。無意味ではないかと思う文字の羅列をぼんやりと眺めながら、ちらりと見てみる。


今日も寝ている彼。
つい最近この学校に転校してきた彼は、大の寝坊助だった。

大きな存在感を放つ黒板・・・に重なって映る前の席の彼は、必然的に私の目に入る訳で。机の上で組んだ両腕を枕代わりにし、すやすやと寝ているであろう彼のお陰で、黒板がよく見えるのは実に有り難いのだが・・・・こう毎時間も寝ている様子を見るとこっちも心配になってくるというもの。


昨日は久しぶりに彼が起きていると思ったら、教師無視、黒板無視、授業無視、の三点セットで窓の向こうを眺めるばかりだった。ほんといい度胸してると思う。悪い意味で。彼は、授業中はこうやって今のように寝ているか、窓から空を見ているかの大抵どっちか。(窓際の席なので外の様子がよく見えるのだろう)

先程も言った通り、彼は私の前の席。
彼の行動全てが誰よりもより自然に、且つよく見える訳である。


だから・・・あれは特別理由もない事だ。
ただ、前の席だからということに過ぎない。
だって、私が、そんなの、有り得る筈ない。

空を見る彼の横顔がとても綺麗で、授業そっちのけで見とれてしまったなんて。

不覚である。実に不覚である。それに見とれてしまっていたせいで、あの後教師に当てられていることも気付かずに、おおい牧野、だなんて大声で呼ばれてしまって、ああ恥ずかしいったら。

そんなことを片隅に思いながらも、今でもはっきりと思い出すことが出来る。



 空を見つめるビー玉のような瞳。
 心なしか、少し微笑んでいたかのように思える口元。




その全てが初めてだった。彼がそんな表情するなんて知らなかったから。

だって、私の中の彼の印象は、無口で無愛想、それでもってクラスの中では常に浮いてるし笑わないし人と関わりを持とうとしないし、ほんとに全くつかめない人。そのくせ顔だけはお人形さんのように整っているものだから、周囲が放っておくはずがない。廊下ですれ違う女の子にきゃあきゃあ騒がれて、教室でもクラス問わずにまたきゃあきゃあ騒がれて。きっと平和が訪れるのは授業中くらいなものなんだろう。噂では転校初日にしてファンクラブができたとかできないとか。まあ、私には関係のないことだけれど。



 空を見つめる優しい表情の彼。



まるで別人のようだった。
ほら、だって彼が笑うところなんて見たことなかったもの。
単なる珍しさで見ていただけだ。そうに決まっている。

しかしそう思えば思うほど記憶は鮮明に。
かあ、と頬があつくなる。
そんな自分が恥ずかしくて、思わず俯いた。



おかしい。
なんなのよ、これは。
ああ不愉快だわ。こんな意味不明な感情に悩まされるなんて。



また、ちらりと見てみる。机に伏せられた広い背中。なによ、たかが背中じゃない。けれど、いつもの席にいつものように座っているだけなのに、目の前の背中に緊張する。


訳の分からないこの感情に苛立ちを覚え、心の中で小さく舌打ちをする。

不可解だわ。
なんだっていうの。いつもの光景じゃない。
私が苛立つ原因も理由も何もないじゃない。

なのに。

どうして。







思い出したように黒板に目をやる。先程書き写した時点からさらに多く書き足されていた。教師の手は未だ働き続けている。しまった、とシャーペンを急いで握り、かりかり、とノートにこれまた暗号のようなものを書き殴る。

途中まで書き写したところで、ふと顔をあげた。
ふとした違和感とふとした鼓動の高鳴り。

いつの間にか遮られた、黒板の手前に映る姿。





黒板が。

教師の手が。

背中が。

さらさらの髪が。

横顔が。

ビー玉のような瞳が。





囚われてしまった視線と感情と思考回路と。
身動きが出来ない身体とは対照的に、口から勝手に言葉が零れ出す。

「・・・ねえ、空がすきなの。」

問い掛けとは思えないほどその声は掠れていた。もしかしたら、チョークのかりかりとした五月蠅い音で掻き消されてしまったかも知れない。



横顔が振り向く。
空に向けられていた視線が私へと移るのを感じる。
そしてあの時と同じように笑うのだ。

「ああ。」

初めて私だけに向けられた視線と言葉。
ビー玉のような瞳の中に私の姿が映っているのが見える。

「空がすきなんだ。」

そう一言だけ言うと、彼は視線を空へと戻した。
目の前の綺麗な横顔は、窓から射す光を浴びてますます輝く。
逸らせられない視線。私を捉えて放さない。

「・・・私もすきなの、空。」

横顔にそう伝えると、彼は私をちらりと見て、そう、とだけ言った。
その口元が昨日のように微笑んでいるように見えたのが、少し嬉しくて。
まるで彼との距離が少し縮んだかのように思えて。

思わず頬が緩んでしまうのを抑えながら横顔と空を見つめた後、こっそりと微笑んだ。





07/1/20


◇ ◇ ◇

ほとんど初対面だというのに優しい類くん。(原作じゃありえない)
相手がつくしちゃんだからネッ。ありえなくても許してネッ。

類くんとつくしちゃんは同じクラス設定。
いいねー、これシリーズ化しちゃおっかなぁ。

前後の席って、ちょっと特別なかんじ。