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第13話 映画「キャスト・アウェイ」

   

 「グリーン・マイル」から待ちに待ったトム・ハンクス主演作である。期待を持って見にいきました。

 典型的な現代人(トム・ハンクス)が、キャスト・アウェイ(漂流)し、孤島にひとり、取り残される。そこには追いかけてくる時間も、文明もない。あるのは生き残るための孤独との、そして自分との闘いだけ。そして4年が過ぎ、サバイバルに成功した主人公は、今度は自分を追い越していった時間と対峙しなければならなくなる。

 
「キャスト・アウェイ」は最近流行りの特撮などのこけおどしとは無縁の、驚くほどシンプルな映画。ゼメキス監督がこれの合間に撮った「ホワット・ライズ・ビニース」とは対照的だ。まず、事故原因もわからない中で機内から描かれた事故描写の迫力はすごいが、孤島の描写にはほとんどせりふがなく、音楽さえ流れない。波の音だけ。これだけで観客を釘付けにできるんだから、ゼメキス、そしてハンクスはやっぱりうまいなあ、と唸る。無駄をそぎ落とし、観客の想像力に多くをゆだねる構成は、自信の証だろう。

 
主人公の失ったもの、そして得たもの、生きる意味。抑制が効いているからこそ、伝わるものがある。と同時にシンプルすぎて足りない部分(恋人との関係、主人公のキャラなど。ハンクスに頼りすぎか)も。しかし、最後の恋人との2度目の別れの場面では、グッと胸に込み上げてくるものがある。主人公の文明社会への復帰、恋人との再会を経て、この作品の主題"生きることとは何か?をじっくりと考えさせられる映画である。

 2000年のクリスマスシーズンに全米公開され、わずか4日間で4000万ドルを稼いだこの作品で、主演トム・ハンクス、監督ロバート・ゼメキスという『フォレスト・ガンプ/一期一会』のコンビが、再びアカデミー賞の本命に躍り出た。すでにトム・ハンクスはニューヨーク批評家協会賞主演男優賞とゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞している。

   

 恋人ケリー役に扮するのは、『恋愛小説家』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したヘレン・ハント。出演場面は少ないが、主人公の命を支える重要な役柄で、その存在を映画全体に感じさせる。チャックの同僚スタンは、『フライド・グリーン・トマト』で暴力亭主を印象的に演じたニック・サーシー。ケリーの歯科医の夫を演じたクリス・ノスは、NBCの連続ドラマ「ロー&オーダー」のマイク・ローガン刑事役で知られている。

 監督兼製作のロバート・ゼメキスは、『ロジャー・ラビット』から『ホワット・ライズ・ビニース』まで、常に何かに挑戦を続けてきたが、本作ではこれまで以上に大きな勝負を挑んだ。ドラマチックなプロットの中で、見せるものと見せないものを巧みに使い分け、その両方に抑制をきかせた演出が秀逸だ。製作陣には、主演のトム・ハンクスが名を連ね、その他、ゼメキスと『フォレスト・ガンプ/一期一会』でも組んだスティーブ・スターキーとエージェントのジャック・ラプケが担当した。製作総指揮は『ディープ・インパクト』のジョアン・ブラッドショー。脚本は『アポロ13』のウイリアム・ブロイルス・ジュニアが執筆。事前調査では実際に無人島での生活を試みたという。

 余談ですが、チャックとともに漂着した貨物機の荷物だったバレーボールに、チャックはそのメーカー名から「ウィルソン」という名前をつけ、友人とし、毎日語りかけるようになるのですが、トム・ハンクスの実際の奥さんは、「プリティーブライド」「ストーリー・オブ・ラブ」「めぐり逢えたら」に出演した女優リタ・ウィルソンなのですが、これはただの偶然の一致なのでしょうか。トムに一度聞いてみたいものです。(2001/2/26)