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第14話 映画「バガー・ヴァンスの伝説」

 

 監督デビュー作「普通の人々」でアカデミー賞に輝いて以来、質の高い秀作を作り続けているロバート・レッドフォードの新作は、ファンタスティックでドラマティックな人生の物語。早くも2001年のアカデミー賞最有力と目されている、愉快で感動的で、そっと心に残る名作である。

 すべては1928年、南部ジョージア州のサヴァンナで始まった。天才ゴルファーと謳われながら、戦場での悲痛な体験がもとで、ゴルフも恋人アデール(シャーリズ・セロン)も捨てて隠遁生活を送っていたジュナ(マット・デイモン)。大恐慌で自殺した父の後を継いでアメリカ最高のゴルフ・リゾートを完成させ、エキジビション・マッチを企画したアデール。ジュナは二人のスター・ゴルファーに対抗する地元の挑戦者としてこの試合に引きずり出される。そして、人々の過大な期待に怖気づいていたジュナの前に現れたのが、バガー・ヴァンスと名乗る不思議な男(ウィル・スミス)。彼はジュナに”失っていたスイング”を取り戻させる。

 ゴルフを題材にした映画はあまり好きではない。見よう見真似で、ゴルフをやっていたが、全然上達せず、結局やめてしまった経験があるからである。ゴルフは個人競技で、競技中は、己一人で戦わなくてはならない。誰も助けてくれない。スコアーも自己申告制である。自分で自分にペナルティーを課す。そのあたりが、この年にしていまだに精神的に自立していない私には無理だったと思われる。しかし、この映画は、ただのゴルフ映画ではない。ゴルフを通じて人生を描いているところに見ごたえがある。そして、場面場面のいたるところに「人生の名言」がちりばめられている。例えば、「学ぶことのできないものがある。それは記憶として心に刻むべきもの」、「ゲームに勝つ事はできない。ただプレーするだけだ。」、「魂でグリーンを見ろ。自然のリズムに合わせれば本物のスイングができる。」、「ゴルフのコースは、人間と同じように呼吸している。」、「どんな人間にも、一つだけ正真正銘のスイングがある。それは、生まれつきのものであり、その人だけが持っている独特のものだ。それは、習えるものでなく、どうしても覚えなくてはならないものだ。」等々。人生に迷ったとき、己を見失いそうになったとき、見なおしたい映画である。(2001/3/5)