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第27話 映画「アバウト・シュミット」

     

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 ウォーレン・シュミット、66歳。一流保険会社で計理士として働き、良き同僚を持ち、それなりのキャリアを積んだ。妻と愛する一人娘、家庭も安泰だ。誰もが幼い頃に抱く大それた夢からは遠いけれど、男として誇るべきそれなりの人生を築いてきた。そう思っていた、退職するあの日までは。定年退職、妻との永遠の別れ、娘の結婚― 一気に人生の三大転機を迎えるシュミット。今まで築いてきた人とのつながりは何だったのか?自分の人生はなんだったんだ?人生の終盤近くで、生涯をかけて築いてきたものを失いかけた男の、おかしくも、もの哀しい心の旅が始まった。人間はちっぽけでさみしい存在で、愚かだけれど愛しい。生きることは過酷で虚しいけれど、確かな喜びに溢れている。深い海の底に生きるような孤独を実感する瞬間もあるけれど、全てを一瞬で癒してくれる出会いもあるのだ。そんな人生の真実を、隙なく練り上げられた脚本と繊細な演出で描き出す。奥行きのある幸福感に包まれるラストは、見る者に静かな余韻をもたらすだろう。

 いい映画と思っても、他の人に是非見てほしいと思う映画はなかなかないが、この映画はその数少ない映画の一つだ。私は今回ひとりで見に行ったが、妻と、もう一人、最近夫に先立たれた妹に見てもらいたいと思った。
 仕事も退職してなくなり、妻にも先立たれ、子供も結婚し自分の手を離れた。残りの人生に何のよりどころ、希望もなくなったら、自分はどうするだろう。その期間に長い短いはあるかもしれないが、誰にでも訪れる将来の姿を見せ付けられ、漫然と見れる人はいないだろう。誰でも身につまされ、考え込んでしまう。自分には何があるだろうかと。その答えを出す手がかりを少しでも残していけるように生きていきたいものだ。

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<スタッフ>
監督/アレクサンダー・ペイン
製作/ハリー・ギテス、マイケル・ベスマン
脚本/アレクサンダー・ペイン
&ジム・テイラー
    音楽/ロルフ・ケント
<キャスト>
シュミット/ジャック・ニコルソン
ロバータ/キャシー・ベイツ
ランドール/ダーモット・マルロニー
ジーニー/ホープ・デイヴィス
    ラリー/ハワード・ヘッセマン
    レイ/レン・キャリオー