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第7話 映画「エリン・ブロコビッチ」         

       

 全米史上最高額の和解金3億3千3百万ドルを勝ち取った一人の女性がいる。彼女の名はエリン・ブロコビッチ。映画「エリン・ブロコビッチ」は彼女の情熱と不屈の精神、そして他人を助けることによって結果的に自分自身が救われたという実話をもとにした感動のドラマだ。ヒーローがあまりいない世の中にあって、エリン・ブロコビッチの物語は我々にヒューマン・スピリットの持つパワーを思い出させてくれる。

 お金も職も未来への見通しもない女性、エリン・ブロコビッチは自動車事故に会うが、彼女の弁護士が和解金を取るのに失敗し、苦境に立つ。他に頼る者がいない彼女は、その弁護士エド・マスリーに彼の法律事務所で雇ってくれるよう頼み込む。そして彼女はそこで、ある医療記録を偶然見つける。不思議に思った彼女は、それについて調べ始め、エドを説得してこの件を調査する許可をもらう。そして住民たちの間に致命的な病気を引き起こしている、ある地域の水の汚染に関する隠蔽工作を発見するのだ。最初は関わり合いになることを嫌がっていた住民たちも、エリンの粘り強さと、彼らの問題に自分のことのように関心を持つ姿を見て、次第に彼女の言葉に耳を傾け始める。彼らと同じような社会的弱者である彼女は、彼らの信頼を得ることができる。彼女を手助けするのは彼女の隣人ジョージ。ハーレー・ダビッドソンを乗り回すこのバイク野郎の友情と支えによって、彼女は600人を超える原告を集めることができる。エリンは、これによって、自分自身を証明し、人生の再出発を誓う。

       

 この実話をもとにした感動的で可笑しな、これまでにないドラマは、1998年に最も高い評価を受けた作品の一つである「アウト・オブ・サイト」の監督、プロデューサーそしてスタジオが再びチームを組んで製作された。最初にこの企画をジャージー・フィルムスに持ち込んだ製作総指揮のカーラ・サントス・シャンバーグは、カイロプラクティックスで治療台に横たわっている時に、並はずれたストーリーを持つ患者のことを耳にする。2度の離婚を経験し、3人の子持ち。しかもお金もなくきちんとした教育も受けていない一人の女性が、資産300億ドルの大企業への訴訟をまとめあげたという話。カーラはすぐにエリン・ブロコビッチ本人に会い、彼女のストーリーが最高の映画になると確信し、その役にジュリア・ロバーツをイメージする。強く、賢く、直感的で、暖かくてパワフルな役、これらは皆女性が持っている資質なのに、映画で描かれることはこれまでほとんどなかった。ジュリア・ロバーツこそ、これらの資質を持つ、エリンを演ずるのに理想的な女優であるとカーラは考えたのだ。

 主演は勿論ジュリア・ロバーツ。彼女は脚本を読み、タイトル・キャラクターのエリンを演じる契約を即座に結んだ。共演は「ドレッサー」の名優アルバート・フィニー、「エニィ・ギブン・サンデー」のアーロン・エッカート、「スピーシーズ・種の起源」のマージ・ヘルゲンバーガー、「モンタナの風に抱かれて」のチェリー・ジョーンズ、「パッチ・アダムス」のピーター・コヨーテ
               

 監督は、「セックスと嘘とビデオテープ」でカンヌ映画祭でグランプリに輝き、「アウト・オブ・サイト」「KAFKA迷宮の悪夢」などを手掛けた才人スティーブン・ソダーバーグ。音楽は「グリーンマイル」「アメリカン・ビューティ」のトマス・ニューマン。脚本は「エバー・アフター」のスザンナ・グラント、製作は「ゲット・ショーティ」「アウト・オブ・サイト」「マン・オン・ザ・ムーン」のダニー・デ・ヴィート、マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シャーのジャージー・フィルムス。

 実話に基づいているためか、そんなにドラマチックな場面もなく、淡々と描かれている。ミスコンテスト優勝で人生が狂い、失敗続きの女性がやっと見つけた、自分に恥ずかしくない仕事が、手間のかかる公害の原因調査。子供を引き連れて派手な服装で調べ物をするエリンを丁寧に追うことで、スティーブン・ソダーバーグ監督は、彼女の誠実な人柄や聡明さを描き出す。しかし、そういう場面が、少し退屈に感じる人もいるかもしれません(一緒に見に行った妻は、途中少し居眠りをしていました)。私は、ストーリーもさることながら、ジュリア・ロバーツの衣装とスタイルにくぎ付けでした。下品は見かけだけ。気分も頭もよい女性を演じて、ジュリアはハリウッド女優最高額2000万ドルのギャラを取るだけのことはあると思わせてくれるのだ。(2000/6/16)