7月竜

年末が近づいて、兄さんは少し気難しくなった。
それはたぶん
元に戻れないまま、新しい年を迎える事が、何の成果も無かったようで
気が逸るからだと思う。

成果は無かったわけじゃない。
自分達の事で手一杯といいながら、兄さんはずいぶん他人を助けた。
ただ、僕達の姿が元に戻らなかっただけだ。

時々、兄さんは思いつめた瞳で僕を見る。

僕を戻すと兄さんは言った。
だけど
それが、兄さんの足枷になってるんじゃないかと、兄さんに見つめられて僕は思う。
もちろん、兄さんはそんな事思っちゃいないだろう。

僕も兄さんを戻してあげたい!
だけど
それだけが幸せなんだろうか
僕は先ず、兄さんに幸せになってもらいたいんだ。
幸せだったら今の姿のままでだって構わない。
僕の為に軍の狗と罵られるのではなく
兄さんには、兄さんの為に生きて欲しいんだ。

兄さんは優しいから
本当に優しい人だから
他人の為に動いてしまうね。
でも、兄さんがそれで良いなら、そう生きて欲しい。
僕も他人のひとりで充分なんだよ!?

情報を求めて今年最後の今日まで、兄さんはハボック少尉の仕事に付合った。そしていま、司令部休憩室で密かに酒を囲んでいたりする。
あぁ、お酒なんてダメだよ、兄さん
成長にも悪いし、機械鎧にまで影響したら…

でも、僕は無理には止められない。
兄さんの焦りの象徴は僕の鎧だと思うから
それを言うと、もっと悲しませてしまいそうだから
だから、呆れたように忠告するだけ
お酒なんか飲むと、背伸びないよ

ハボック少尉の誘惑をかわし、宿まで兄さんを連れかえったけど
お酒のせいか、兄さんは僕を抱締めて泣いた
僕は冷たい指で涙を拭うしかできない
それとも
気付かない振りをしたほうが良いのか
それすらも僕にはわからないのだ

神様、ごめんなさい
無神論者だけど、今だけ祈らせて下さい
この、おろかな僕にできる事を教えて下さい
兄の為にできる事を
体温を奪うのを承知でなお、涙を流す兄さんの背に手をまわす事しかできない、この愚かな弟に

寒い中、兄さんは僕を抱締めたまま眠りについた。

そうしてやっと、僕は呟く
兄さん、僕は今、幸せだよ!?
いつか近い未来、兄さんはひとりで歩き出す
でも、今は
今この時は、兄さんと新しい年を二人で迎えられるんだから
僕はそれで良いんだ

兄さんは僕を幸せにしてくれてるんだから
どうぞ新しい明日は
自分の為に生きて下さい







御年賀その2です。そしてやはり暗いッす。
これだけ読むと解りにくいですね。独り善がりを反省ー。




0の夜・∞朝