城が大きくなるという事
志を同じくする者、108の宿星が集い始め、僕等は部屋を分けた。
延性で城を空けることも多くなり、会議だとか、リーダーの責務とかにおされ、だんだん会話が少なくなって
一緒に食べたりとか
おはようやおやすみとか、交さなくなって
城に居る時、シュウの目をかいくぐって僕はこっそり窓の外を見ていたんだ。
僕が居ない間、あの姉は何をしているのだろう、と
姿を、声を。空気の中から探して‥
御節介で、過保護な姉は、でも嫌われる事は無かった。鬱陶しがられても、僕の知らないところで人は苦笑と供に受け入れていった。
部屋を分けてからは、夜、僕の寝室にはいつも花や果物と一緒に手紙が置かれた。
どうだった? とか、食べてるの? とか。そっと今は別の姉の寝室を覗きに行きたくなるような言葉を添えて
マクドールさんと釣りをしたとか、ルックに馬鹿にされたとか、騎士団やサスケ達と訓練したとか。思わず問いただしたくなるような言葉を記されて

ごめんね、ナナミ。
だからあの日、ゴルドーが放った矢が、君を貫いた時。僕は、僕はね。
もうこれで誰にも君を渡さずに済むと思ったんだ。
トランの英雄にも、天才風使いにも。騎士の人達や放蕩息子やサスケやフッチや、ジョウイにさえも!
だから
「お姉ちゃんって、呼んで?」
幾らでも呼ぶよ。貴女がそう望むなら。僕だけが許されたその呼称で。
だけど
「安心するよ。」
安心なんかしないで。僕を見てよ。僕はひとりの男なんだよ!?貴女を愛する、憐れで、幸福な、ひとりの

ひとり占めの恍惚感と、永遠の孤独に。僕は今日も生きていく。

神が僕にご褒美をくれるその日まで。



                        主xナナ強化期間。2004/07/05

主人公はホナミ(本当は○ナミなんですが;笑)でお願いします

「ねぇねぇホナミぃ、これは?」
「‥‥‥ハァ、まだ続けるの?ナナミ‥もういい加減に」
「だってなかなか上手くいかないんだもん。」
夜半も過ぎた同盟軍の本拠地。城の厨房、調理台の上には色々な形の焦茶な物体がいくつも転がっている。
明日は、いやもう本日なのだが2月14日。世に言う想いを伝える日となっている。それもチョコレートで。
「でもさぁ、ナナミ。こんなイベントはここら辺りだけで、知らない人の方が多いよ、きっと。」
「う〜〜〜」
ナナミが呻っているのは進言のせいではなく、絞り袋から流れ落ちた生地のせい。どうやら緩過ぎたようだ。
「‥‥‥あのさ、ナナミにしちゃ味は良くなったんだから、形なんてどうでもいいんじゃないの!?味がまともなだけでも凄いと思うけど‥?」
「なによ〜、その言い方。いつもは酷いみたいじゃない。」
みたいじゃなく酷いんだけど、と思いはしたものの口にしない。そのかわり苦いコーヒーをすすった。
味見の数は50を超える。匂いだけでもしばらく勘弁して欲しい気分。
手作りチョコ。とはいえ溶かして固めて、甘く、あるいは苦く、薫り高く、コク深く。ちょっとアレンジして作るだけ‥のはずがナナミの手にかかると、どうしてこう表現しがたいものになるのか
「何言ってるの。このナナミちゃんが作るのよ。あっと言わせる組み合わせでなきゃ。それに日ごろ頑張ってるお礼も込めたいから健康に良いものであってほしいし。」
「確かにうっとくる組み合わせもあったね。」
愛する姉の為、仲間の為、数ある組み合わせから殺人にならない程度のものをこんな時間まで付き合って選んでいる。
そんな健気さも知らぬげにナナミはヘラを振り上げて、厨房内にチョコを降らせた。
「掃除がタイヘンだよ、もう」
「ホナミが悪いんじゃない。」
いつもなら続く掛け合いも、ナナミはすぐに退き再びチョコのデコレーションに励みだす。
「‥‥‥もうそろそろにしようよ。別に本命でもないんでしょ!?渡す人達」
それとも本命を誤魔化す為に城の人数分作っているのか
その考えにすぅっと寒さが寄ってくる。
「たまには、さ‥僕にだって味見用じゃなく贈呈用の、くれても良いんじゃないの?」
「どうして?」
「どうしてって、ヒド‥」
顔も上げずに言われ、口を尖らせてみせる。そうでもしなきゃ、本当に暗くなりそうだ。
「ホナミにカッコつける必要、ないでしょ。」
すねモードからマジモードになりそうな頭が、ゆっくりとナナミの言葉を拾い上げる。
「‥‥‥‥、カッコつけ‥?」
顔を上げたところにチョコの付いた指が伸びてくる。口を開けば舌の上にチョコを塗りつけられた。
遠のいていく指を眼で追っていくと、ナナミの瞳が笑っている。
「みんなには飾ったチョコをお披露目するけど、飾らないチョコを知ってるのはホナミだけなんだよ。他の誰にも、味見なんて頼めないもの。」
ナナミには深い意味など無いのかもしれない。だけど
「ホナミは味見より出来上がったのが良い?」
「ナナミが僕の為にみんなを激励してくれるんなら、僕はナナミやみんなの為に、ナナミの手料理による事故を防がないとね。味見役、謹んで承ります。」
「も〜、またそ〜言う。」
頬を膨らませるナナミの手を取る。甘い匂いを漂わせるその手は、棍を扱うけっして柔らかいものではないけど
『確かにこの指に付いたチョコを舐められるのは僕だけなんだろう』
その前に、脅威の味覚料理に皆そんな度胸を持ち合わせないかもしれないけど
湧き上がる優越感に浸りながら指を舐める僕の頭をナナミは叩くと
「早くしないと終わんない〜、ほら、ホナミも手伝って!」
机の上の茶色の物体はカビのようなパウダーシュガーがかかっている。それをラッピングしながら、僕は今日の予定を思う。
『眠い‥胸焼けがすると言えばシュウだって納得して今日、、、少なくとも午前中は寝かしておいてくれるだろう。午後はシュウ自身、いやシュウは絶対食べないだろうけど、他のメンバーはナナミの大いなる優しさに負けて胸焼けになるだろうから会議は中止だろうし‥』
ナナミの渡すチョコも、今日なら気持ち良く見守れる。それがどんな騒動になろうとも知った事じゃない。ありがたく受け取れ
くす
「なに笑ってるの?」
最後のラッピングが終わり、ナナミが覗き込んでくるのを首を振って誤魔化す。

今日もきっと騒がしい一日になるだろう。

チョコを作るなら彼氏より周りにあげる方を綺麗に仕上げる‥というような話を聞いたので、なるほどと‥。バレンタインのお返しを奥さんが選ぶってのもこの一理(?)。らぶらぶです(笑)。2006/02/14