「それを認めちゃったのは、カガリでしょ!?」
素っ気無い口調で突き放すキラを見た記憶は余り無い。出会ってからずっと、キラには優しいイメージがあって、アークエンジェルのクルーは内心ぎょっとした。
ここはアークエンジェルの艦内。受信モニターからは中立国オーブが大西洋連邦同盟からの要請を受けて地球連合とともに出撃する状況を伝えている。
「こうなるとは思っていなかった?」
キラの口調が少し揶揄気味の調べに変わったのに、はたして言われた本人であるカガリは気付いただろうか
ラクスはカガリを見つめながらも、そっとキラを盗み見た。
双子だというキラとカガリは育った環境も性格も違う。双子だと言われてもピンとこない人の方が多いだろう。
『けれど』
ラクスは半ばキラに糾弾されているカガリに視線を戻した。
『キラが我が侭を言うのも、カガリさんが我を張らないのもお互いだけだと気付かれているのでしょうか』
「わたし達が無理やりカガリさんを連れてきてしまって‥」
キラとカガリの対峙が続く中、艦長マリューが困った顔で取りなすにも、キラは折れなかった。
「いえ!同じ事だったと思いますよ。”あの時”のカガリに、これが止められたとは思えない。」
”あの時”に込められたキラの想いを、正しく察せられたのはおそらく言われたカガリ以外だろうと、ラクスは少しだけキラに同情した。
『オーブ議会を説得できなかった自分を、キラは嘆いている』
責めるのでも軽蔑するのではない。優しいキラは私の不甲斐無さを嘆いてくれてるのだ。
それが申し訳無くて、情けなくて。カガリは泣く事も言い訳する事も出来ず、立ち尽くす。
そんなカガリの姿に、ラクスは複雑に笑った。
『”あの時”とはもちろん、ウェディングドレスに身を包んだカガリさんの事ですのに』
一歩離れて、人を、世界を、繋がりを見る方法を知っているラクスは、同世代の中で少しだけ大人だ。
『キラの言う”あの時”のカガリさんは、美しいと言うよりまるでお人形。思い出す度わたくしも貴女を失ってしまったのかと怖くなりますわ。』
唇を噛み締めるだけのカガリを、ラクスは瞳に焼き付ける。
『キラは自覚していますわ、自分の気持ちを。でも、負けたくはありません。キラにもアスランにも、そしてカガリ、貴女にさえも。』
ただでさえ同性と言うハンデを持っているのだ。
《まず決める。そしてやり通す。》
ラクスは口の中で呟くと、面を上げた。舞台に立っていた時のように。
「でも。今はきっと違いますでしょ。」
かつて、プラントで人々の心を魅了した心に響く声で、ラクスはキラとカガリの間に割って入った。
「今のカガリさんなら、あの時見えなかったものもお見えになってらっしゃると思いますわ。」
ラクスの笑みに、カガリもやっと表情を弛ませる。
反対にキラはラクスを見た。
一瞬の駆け引き。
『悔しいけれど、今は未だラクスには敵わない‥』
キラはカガリを伺った。
カガリに、先程までの悲壮感は無い。
『守る前に責めてしまう。助ける前に怒ってしまう。でもそれは全部、カガリが悪い‥』
自分よりもラクスを信じ、アスランを頼り、オーブを選ぶ。
『弟なんかじゃないよ、カガリ。だって苗字が違うでしょ。カガリがそう願えば、僕はラクスにだってアスランにだって負けないから。カガリが傍にいてくれるなら、なにからも僕がカガリを護るから。』
「キラ、出撃してくれ。」
ラクスの要請というカタチに勇気付けられたカガリの頼みを、キラはもはや断る事は出来なかった。
ストライク・ルージュに放たれた砲火。
「カガリ、もうだめだ。残念だけど、もうどうしようもないみたいだ。」
「キラ‥」
戦いをとめる事は出来ない。オーブを救う事が出来ない。
茫然自失のカガリを、キラは後に庇った。
『カガリはヒドイ。僕の能力には絶大の信頼を持っている。だけどそれは、造られたものだ。君と僕が兄弟であるように。』
「下がって!?あとは、できるだけ、やってみるから。」
『自分だけ責めて、僕を責めない。僕にくれるのは嗚咽だけ‥』
そんなに頼りないなら
どうか一緒に傷付かせてよ。
一緒に傷付いて、一緒に泣いて、歩いていこう
カガリ
「カガリとアークエンジェルを頼みます。」
出撃してきたアンドリューに大切なものを託すと、キラは戦場で主役となる。
『戦わせてゴメン、キラ。守れなくてごめんなさい、お父様。巻込んでごめんなさい、アークエンジェル。情けなくてゴメン、ごめんね‥』
キラの放つ閃光を、カガリは涙で抱締めた。
『自分の実力に気付けば、大いなる翼はカガリを縛る事無く包み込めるでしょうに。不器用ですのね、キラ。』
キラの輝きを目で追いながら、ラクスは心の中で舌を出した。
『だからと言って、わたくしは手を抜きませんわ。わたくしはわたくしの持てる全ての力を継ぎ込んで、このハンデを乗りきってみせますわ。』
キラに心を残しながら帰還するストライク・ルージュを、ラクスはモニターで迎えた。
人類も恋も。
戦いの終りは、いまだ見えない。
7月竜
DESTINYで孤軍奮闘(しているように見える)カガリが健気で、転んでしまいました(笑)。ええ、たぶん総受けです(汗)。
済みません・済みません・済みません‥‥ そして懲りずに同類・カガリ受け求む!!(爆) 2005/04/07