ブルーコスモス、、、いや、ロゴスの隠れ蓑と言った方が正しいかもしれない。彼らが行った一方的な破壊は、プラントの最高評議会議長・デュランダルによって白日の下に曝された。
映し出される証拠。
スクリーンを見ながら 「酷い!」 と、拳を握り締めるカガリのこぶしを、キラの手が包んだ。
「こんな事が許されていいのかっ」
「許しちゃいけないよ、カガリ。抵抗できないような人を盾にしたり、騙まし討ちをしたり、、、だけどそれを止める気持ちは憎しみであってはいけない。」
「キラ?」
キラの手に込もった力に、カガリは自分を見つめるキラを振り返った。
「怒りが抑えられなくても、憎しみであってはいけないんだ。」
キラは悲しそうにスクリーンを見た。
スクリーンではわずかな武器を手に立ち向かおうとする人が叫んでいる。「あいつらも皆殺しにしてやる!」と、、、。
「地球連合を攻撃しても、ブルーコスモス討っても!次は討たれたその家族が、恋人が、友人が。憎しみや悲しみを抱くだけだ。」
「そりゃ!、、そーだけど、でも!、、、じゃ、このまま、、、、」
「落ち着いて、カガリ。」
スクリーンはザフトによる救済の様子に移っていた。「敵を討って!」と泣く少女に、力強く約束するザフト兵。
カガリの脳裏に、火にくべたガーネットのような瞳が甦る。
【あんた達はっ、理想を唱えるだけで!それでどうなるかなんて考えもしないんだ!!】
「カガリ?」
急に辛そうな表情を浮かべたカガリにキラも眉を寄せた。
「、、、私、バカだからさ、、すぐ怒ったり、目先の事に囚われたり、、、」
カガリの自虐的な言葉にキラは一瞬目を伏せ、静かに微笑んだ。
「、、、何が正しいか間違っているかなんて、きっと誰にも分からないよ。勝者が正義になる戦争だって、何世紀も経てば見方が変わる事だってある。」
キラは、包んでいた手を緩め、カガリのこぶしを優しく撫でた。
「怒ったり悲しんだり喜んだり、カガリの感情はストレートで見てて気持ちがいいくらいだよ。」
「キラ‥?」
「ただね。人間らしい感情も政治に関われば、誤った方に行く事もある。政治だけじゃない。経営もそうだよね。自分だけならともかく、従業員を雇えばその人に給金を払わなければいけない。赤字出しちゃいました、ごめんなさいじゃ、済まないからね。」
「お前、、、比喩に差があり過ぎ」
ようやく笑ったカガリに、キラも笑う。
「僕はさ、小さい頃他人の顔色を見て喋ってた。アスランに臆病だってよく叱られたけど、、、でもさ、相手の気持ちを察する事は悪くない。自分の行動で相手がどう思うのか、考えるのはむしろ大切だと思う。相手の顔色に流されてしまうのは日和見だけど、相手の気持ちも考えて、その上で自分がどうするか考える事は人間にしかできないから。」
「、、、、そうできたら、、ううん、そうしなくちゃな。」
「カガリにならできるよ。頑張って!」
もう片方の手も添えられ、キラに両手で包まれたこぶしから、カガリは力を抜いた。
「ありがと、キラ。」
穏やかな空気に包まれて、見交わす笑顔。
ふと、スクリーンの映像がザフトの政治的訴えに変わっているのに気付いたカガリは、のんびりしてる場合じゃないと動こうとして、キラの手ががっちり自分の手を掴まえているのに気付いた。
「キラ?」
「で、カガリ?さっきは誰の事考えてたの?」
「さっきって‥‥‥、ああ」
思い出したカガリの様子に、キラは更に問いかける。
「アスラン?じゃないよね。アスランなら自分の感情をコントロールしようとするだろうし」
外した事して悲しませる事はあっても、カガリに先ほどのような辛そうな顔をさせはしない筈。
「さすがに親友だけあってよく解ってるよな、お前達。」
感心したカガリの様子に、キラは首を振った。
「そーじゃなくて!誰?」
「ザフトのパイロット。」
「!、カガリに食ってかかった子!?」
「私の浅慮に怒った奴だよ。シン・アスカって、、、、」
「カガリが最初そう僕に教えたんだよ。食ってかかられたってさ。」
「そーだった、、、け、、、かな?」
浮かべた苦笑いをすぐに改めると、カガリは静かでそれでいてどこか辛そうな面持ちで呟いた。
「アイツにも謝らないとな。私の話を聞いてもらえるように筋の通った行動をして、アイツのどんな罵声もちゃんと聞いて、話さなきゃいけない。このままじゃ、お父様の想いが無駄になってしまう‥」
悲しげに笑うカガリにキラも頷いた。
だけど
『オーブの信念を怒りにまかせて否定するだけ。あまつさえその感情のままカガリをMSで攻撃するなんて、、、』
憎しみはいけないとカガリを諭しながらも、シンに対して憤りを禁じえず、キラは内心苦笑する。
「キラ?」
黙ったキラを、今度はカガリが伺う。
「ううん、なんでもないよ。」
気持ちを切り替える為首を振ると、キラは立ち上がってカガリの手をとった。
「行こう!君が間違えそうな時は僕が居るから。僕が間違えそうな時は君が引っ叩いてくれれば良い。ただそれだけで。きっと‥」
「うん、そうだな。そうだよな‥。」

助け合う仲間がいれば、間違いも正せる。一緒なら、歩いていける。
きっと

   
     和  2005/10/11