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メサイヤの崩落で和平へと歩みだした地球連合とプラント。
ようよう復興の目星もつき、連合、独立諸国、そしてプラントは政策の駆け引きはあるものの、一丸となって水の惑星の復活と新しいプラントの建設に取り組んでいた。

「救助隊‥‥?」
「そう。交渉は合意に達したし、復興計画は実務段階に入ってる。だからさ。」
町外れで見かけたカガリを、その服装を不審に思いキラが呼び止めた結果がこの回答。
「首長代表が今やる事なの?それ。」
「今だからさ。再建に忙しくて各国とも対外政策は急を要してない。内政は私より適任がいるからな。」
キラはアスランの姿が見えないことに、納得した。
「それにしても、救助って‥」
「アスランからも聞いただろ?ディスティニーのパイロット。シンは先の戦争被害者だ。お父様の判断が正しいと言っても、死んだ人は還らない。そして今度もきっと、そんな人達がいる‥」
「犠牲はつきものだって言い方、嫌だけど、でも!」
「うん。もう一度、あの場面に戻っても‥国民に犠牲を強いても、同じ判断を下すと思う。だからさ」
俯いていた顔を上げたカガリは、かつての少女の引力を漲らせて笑った。
ヤキン・ドゥーエが陥落し、一度は交わされたプラントと連合の和平。その不確かな握手の時期にオーブの首長代表に就いたカガリから、以前の無鉄砲さは影を潜め、何かに苛立ち、怒り、思いつめた表情しか見られなかった。
「少しでも助けたいんだ!償えない罪を選択しかできない、愚かな私だから。」
正義は何処かと怒り、他人の為に泣いて、国を出奔し自分のできる事を探し続けていたカガリ。アークエンジェルの甲板で、キラの背を抱いて宥めてくれた16歳の頃の彼女がそこにはいて、キラはまぶしそうに目を細めた。
「わかった。手伝うよ。」
「‥‥‥え?」
「なに、その反応!?」
「あ、いや。てっきりお前は」
「反対しても行くんでしょ!?アスランに仕事を押付けてさ。」
「そんな事、、、無いぞ!?プラントの代表がイザークでさ。アスランの友達らしいし、連合の方は当分ジブリールの件で煩く言ってこないから、、、」
「押付けは押付け!」
「じゃ、じゃあさ、キラが手伝ってやってくれよ。私は大丈夫だから。」
「却下。アスランはいざとなればくそ度胸がつくし、ラクスやカガリの周りにいた良識人がフォローしてくれるよ。反対に君ときたら」
「なんだよ」
軽くでこピンを決められ、カガリが前髪をわしゃわしゃまぜた。
「フリーダムで花嫁の君を攫った時、僕言ったよね。これからは力になるって。」
「キラ‥‥」
「自分達の事で手一杯だった‥、君が議会から孤立していたのにも気付かなかった。」
「代表に就いた私の責任とお前は言った。その通りだ。背伸びだけで実が伴っていなかったから」
だからシンもあんなに怒ったのだ。
噛み締めるカガリに、キラは手を差し伸べた。
「うん。でも、それは僕も同じだ。情勢が不安定だからって、君を置いてプランとへ行こうと思ってた。不安定だからって国を捨てたら、それはどこにいても故郷を持てないのと同じ。不安定だったら、安定化する為に、国に何が必要か、逃げないで考えなければいけないんだ。」
「キラ‥」
「一緒に行くよ、今度は。ここは君と僕の国だから。」
「キラぁ」
抱きついたカガリの背を撫でながら、痩せて小さくなった彼女にキラは改めてその重責を見た。
「僕もさ、、、カガリの為なら頑張りたいんだ。」
カガリの為だから頑張りたいんだ
背を包んで慰めてくれた手を、今度は僕が護るから。
『おっつけラクスもやってくるだろうし、アスランなら抜け目なく、カガリの居場所を把握してるだろうから』
「で、どこ行く?」
「あ〜、そだな。まずはシンが無事か確認したいな。」
「シン!?‥‥‥でもほら、一般の人を助けた方が」
「復興が後回しになる地域、各国の巨大都市から離れた、権勢の届きにくい場所。そこにシンもいるらしいんだ。プラントを離れて」
「‥‥‥い〜けどね、べつに。」
「そりゃ、お前を撃墜したから、私だって‥でもな、いーやつなんだぞ、アスランが言ってた。」
「はいはい。」
後々合流するだろうメンバーが見えるようで、キラは複雑に笑った。            2005/11/28