ザフトを。デュランダル議長の理想卿を止める為、宇宙へ飛び立つ面々を前に、オーブ首長国代表カガリが行った挨拶。
自らを偽った結婚を思い直してからずっと、ずっと。
アスランが敵に回った時でも填まられたままだったカガリの指を守っていたアスランの指輪は、その指に無かった。

「いいんだ。焦らないって決めたから」
呟いたアスランは、瞬間、乾いた音と同時に頬に走った熱に起こった事が分らなくて、瞬きを繰り返した。
アスランの胸倉を掴もうとしていたキラも、驚いて固まる。
「‥‥‥ラクス?」
恐る恐る、キラが尋ねる。
「貴方って人は、、本当に!」
引っ叩かれたのはアスランなのだが、涙を滲ませて睨んでくるラクスに、アスランは覚えの無い罪悪感に取り囲まれた。
「何故カガリさんが指輪を外したのか、その気持ちが分りませんの?」
「それは!、、、だから、もう一度填め直せるように俺は、、、」
「そんな考えじゃ、カガリの近くには寄せられないな。」
「キラ?」
「まったく。君のどこが良くてカガリは‥」
キラは目を細めると、アスランの襟元から手を離した。
「とにかく!今のままじゃ、またカガリを泣かせるに決まってるから、交際禁止!」
「禁止って、、、お前っ」
「僕はカガリの兄弟だからね。不服を申し立てても可笑しくないだろ!?」
「そりゃ、、今はまだ全然カガリに相応しくないかもしれないが、この戦いを是正した後はっ」
「その時に君が”シン・アスカ”の心配をしていないと言い切れるの!?」
「シンはっ、、、だが、このままじゃアイツも‥‥。アイツだって、助けてやらなきゃ。」
「じゃ、彼女は?」
キラの言う彼女を眉を寄せて考えた後、アスランは慌てて首を振った。
「メイリンは関係ないだろう。」
「顔が赤いよ。」
「そんな事無い。言いがかりだぞ、キラ。ラクスもそう思う‥‥、ラクス?どこへ!?」
ラクスの姿は既に無く
「しまった!先を越されたっ」
叫びざま走っていくキラに、アスランは腕を組んで首を捻った。
「なんだ、いったい‥」


「カガリさん‥」
「ラクス?どうした。」
声をかけられ慌てて目を擦ると、カガリは笑って振り向いた。
「なにか問題でも?」
ラクスは近寄ってカガリの手を取ると、優しく微笑んだ。
「大有りですわ。」
「だったら、すぐに‥」
「カガリさん。」
「?、ラクス!?」
「この戦いが終わったら、ふたりで旅行でもいかがですか?」
「旅行?」
「鈍い男どもは置いて、ふたりで。」
「それは、、、そうできたら良いけど‥」
「約束ですわ。」
「あ、うん。」
差し出された小指に、カガリも指を出した。
「約束したから、ラクスも無事で帰って来いよ。」
「勿論ですわ。キラもアスランも、共に宇宙へ行く皆全てを無事に連れ帰りますわ。」
「不思議だな。ラクスが約束してくれると、すっごく安心する。でも、無理はするなよ!?」
「わたくしは約束に縛られはしませんわ。」
「ラクスっ‥」
ハッとしたカガリにラクスは力強く笑って小首を傾げた。
「わたくしは、わたくしの意志で約束を守りますし行動します。だからカガリさんは、笑って迎えてくだされば良いですわ。」
「ラクスっ、、私は‥」
「分ってますわ。」
全てを知っているかのような、静かなラクスの表情は、カガリが閉じ込めている想いをノックした。
「‥‥っ」
泣きそうな顔を隠そうと俯いたカガリの肩が、揺れる。
「アスラン‥自由に、なれたかな?指輪‥、私、もう、アスランを縛ってないかな‥?アスランはアイツらしく、これから歩いていけるかな?」
小さく小さく、零れた言葉。
ラクスはカガリの両手を包み込んだ。
『カガリさんの指に納まってる指輪はアスランを縛るどころか喜ばせるだけでしたが、それはわたくしが言う事ではありません。アスラン本人が示せなければ、それだけですもの。それに、カガリさんが指輪を填めているのを心苦しく思った贅沢者は、今頃気付いても、もっともっと頭を冷やせばよろしいんですわ。』
カガリの瞳から零れる涙を、ラクスは柔らかいハンカチで拭く。
「アスランはただのお間抜けさんですわ。」
「ラク、、、ス‥」
「貴方の決意の重さも深さも、わたくしは‥」
「カガリ、ラクス。」
キラの声に遮られて内心舌打ちしても、ラクスは笑みを崩しはしなかった。
「キラ?」
驚いたカガリが視線を後方へ向ける。
「えっと、、、、カガリ、大丈夫かと思って‥」
「私は平気だぞ?」
「アスランにとって、シンやメイリンは‥」
「あ?、、、ああ‥、あ、うん‥。」
「今更そんな事をカガリさんは気になさらないですわ、キラ。」
カガリにとってアスランのまわりは気がかりの種ではない。
アスランがアスランらしくあること。
シンやメイリンを大切にするのも含めて、アスランを想っているのだ。
「え?そう、、、なの?」
「そうですわ。シン・アスカを心配する前の、、いいえ、心配している時でもアスランの口癖は”キラ”でしたもの。」
ここぞとばかりに、邪魔された意趣返しをラクスは放った。
「え?、、それは、その、違うと‥」
「そう言えばそうだな。」
顎に手を当て頷くカガリに、キラは慌てる。
「違うよ、カガリ。僕はっ」
「キラじゃなくて、アスランの口癖だろ!?お前は‥フレイにラクスにアスランに‥」
「カガリ‥僕に対して偏見、無い?」
「そんな事、無いと思うが‥?」
不思議そうなカガリに、キラはため息をついた。
「さ、もう行きませんと。」
「なんだよ、ラクス。僕だって‥」
「キラもアスラン同様、誤解していらっしゃいますわ。」
「え?」
「そうか‥そうかもな‥‥、でも、いいや。ラクスが分ってるから‥」
「ええっ?」
微笑み会う二人に慌てるキラの背を、カガリが押し、ラクスが引っ張った。

アークエンジェルが飛び立つまで、あとわずか

カガリが指輪を外した。
カガリにとってそれは、アスランに彼らしくあって欲しいから。何者にも束縛されず自分の意志で生きて欲しいから‥という7月竜的解釈。それに気付けるのはラクスかなぁ、とか(爆)
カガリに指輪を外された。
そしてアスランは思うのです。もう一度、指輪を填めてもらえるよう努力すると。彼は諦めたりしないのです。
キラは‥‥‥、だって叫びすぎだよ、アスラン。(-W-)2005/10/3

The Lord of the Ring

7月竜