11/1のも~めんと 「危ない アネキ #1 意気だけイイ娘が大暴走

資源衛星ヘリオポリスに突然轟いた警報。
「コロニーに侵入?なにが?」
「とにかくキラ。避難勧告が発令されたから、早く準備をした方がいいわ。隔壁に取り残されたら厄介よ。」
避難勧告とはいえ、従わねば理由釈明が通るまで拘束される。最悪、そのまま逮捕される可能性もある。ただ避難には小一時間ではあるが身の回りを整理する猶予があるので、ミリアリアに促されキラはひとまず自室へと戻った。
暗証番号を入力すると、ドアはスライドしてキラを迎える。
「キラっ」
キラが部屋へ入る前に部屋から飛び出てくる固まり
「カ、カガリ?」
抱き付かれた勢いで尻餅をついたキラは、自分の首にしがみ付く金の髪を驚いて伺った。
「なんでここに?」
「なんだよ~、弟の顔見に来ちゃいけないのか?」
頬を膨らませる仕草は
『カワイィ、、、、いや、騙されちゃダメだ。』
キラはぶんぶんと首を振った。
「カガリ。」
「なんだよ、私が姉だと決まってるぞ。」
「ああ、、それも訂正したいけど、それは置いておいて。何しに来たの?僕とカガリが兄弟って事は、公然ではあるけど秘密なんだから。アスハの人達に怒られるよ‥」
聞きながらだんだんとキラの顔が引きつる。
「ちょっとカガリっ、まさか今回の避難勧告って‥」
「避難勧告?なんだ、それ?」
「ヘリオポリスに侵入があって‥」
「あ、私だ!それ。」
「カガリ~」
ガクッと首を垂れたキラの背を撫でながら、カガリはキラを部屋へと引っ張った。
「細かい事は気にするな。それより。」
カガリはキラの顔を両手で固定した。
「元気だったか?キラ」
いつもは好奇に輝く瞳に今はキラひとりが映っていて、キラの表情も緩む。
「うん。カガリも元気そうだね、良かった、、」
片や遺伝子操作で人工子宮から生まれたスーパーコーディネイター、片やナチュラルでオーブ首長国代表の愛娘。政治的にも経済的にも、人道的にも。2人の出生と現在の親元に辿り着くまでの過程は秘密裏に処理された。
だからふたりは、兄弟ではない。
これからもふたりは、出会ったりしない。
「会いに来てくれて嬉しいよ。でも、、、」
「気にするな、キラ。もう1コ用事があったし。」
「え?僕に会いに来てくれたんじゃないの?」
「それも目的。」
「もう1コって?」
明らかに不機嫌になったキラに構わず、カガリはくるりと背を向けた。
「キラ、端末借りるな。」
「え、端末って、、、どうする」
「ハッキングするんだ。」
「ハ!?、、、どこに?」
恐る恐る聞くキラを見ずに、カガリは軽く答える。
「政府の秘密機関。」
カチャコチョ構っていたカガリは、だがすぐに音を上げた。
「あ~、さすがに無理か‥」
「当たり前だろ!?政府の、ましてや秘密の場所なんて。」
「じゃ、別の方向から」
「わーっ、待った、待った!」
キラは自分のデータを省みず、強制終了した。
「お前、データ壊れたかも」
「‥いいよ、なんとか、、、」
壊れてない可能性に一縷の望みを託し、キラはカガリの向きを自分の方へと向けた。
「とにかく!危ないからダメだよ。バレたら、バレるに決まってるけど、罰則はとっても重いよ。」
「バレるかなぁ」
「カガリ!」
キラはイスに座るカガリの前に膝をつくと、厳しい顔で下から真っ直ぐ見つめた。
「バレたら、もう二度と会えない、、、」
一瞬視線が絡むと、キラは目を伏せた。
「じゃ、止めだ!」
「うん。」
ほっとしたキラが笑おうとした時
「地道に自分の足で探る。しばらく泊めてくれ。」
「~~~。」
カガリのこの行動を止められるなら、姉と弟を甘受してもいいと胸の内で泣くキラだった。



11/6のも~めんと 「危ない アネキ #2 意気だけイイ娘が大借金!

「さてっと、、、困った、かな?」
昨日の避難勧告は訓練と取り繕われ、キラは部屋にカガリをひとり置いておくのは心許無かったが、かといって休む適当な理由も無く
【サボりはダメだぞ、キラ。ヤマトのご両親に申し訳ないだろ!?】
【言ってる事とやってる事が違うよ、カガリ、、】
朝からの押し問答。だが結局カガリには勝てず、キラは遅刻確定の時間にもかかわらず部屋から追い出された。
ヤマトの両親に申し訳ない。
「私がキラの部屋に居候するだけなら問題ないけど、仕送りに便乗しては絶対ダメだよな。」
それ以前の問題だよ
キラが聞いたら言い返すところだが、あいにくその合いの手は入らない。
「生活費か~、私の自由になる金だと、足がつくだろうし、、、」
カガリは指を顎に当て、部屋の中を行ったり来たり
「う~ん、浮かばん!外出しよっと。」
【僕が帰るまで外に出ちゃダメだよ、カガリ。】
「偵察に行くだけだぞ!?」
とって付けた言い訳を残し、カガリは街へと繰り出した。

「それで?どうしてこうなってるわけ?」
「だからだな。バイト捜すにも身分証明が必要だし、困ってたら、、、」
「わたくしがぶつかってしまったのですわ。」

如何わしそうな店というものですら、オーブ管轄下にあるヘリオポリスでは不当労働を排除する為の条例が厳しく、身分・身元あるいは後見人の提示が必要で。そしてカガリは、、、、偽装工作には向かない性格だった。

「そんな危ない場所に行ってたの!?」
驚きより半分以上が咎める声に、カガリは首を竦める。
「危ないって、、、接客のお店だろ!?情報とか、、色々聞けるし」
「そんなふうに思ってるカガリがイチバン危ないの!だいたい聞きたい情報なんて、軽々しく話してなんかもらえないよ。」
「なんだよ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。これでも私は自分の身ぐらい守れる教育は受けて、、」
「カガリ!」
間近でキラに睨まれ、流石にカガリも口籠る。
「あの、お話はお済になりまして?」
かけられた声に、ふたりはもう一人の人物を忘れていた事を思い出した。
「あ~、彼女はラクス。その、キラの言う危ない通りで私が頭を抱えてたら」
「ぶつかってしまったのです。本当にお怪我はありませんの?」
「無いよ。それにラクスが悪いわけじゃない。あんな狭い通りの真ん中でぼ~としていた私が悪いんだから。」
他人の交通の妨げをしたとまたキラに怒られるか、カガリが伺うようにキラを見れば、キラは呆然とラクスを見ていた。
「キラ?」
カガリの呼びかけにキラはひとつ瞬きをすると
「ラクス・クライン~?」
大声で指差す。
「キラ、指差しちゃいけないんだぞ。」
キラの指を押さえながら、カガリは上目使いにキラを見た。
「なんだ。知り合いか?」
「知り合いかって、、」
キラはぶんぶんと首を振ると
「ラクス・クラインって、プラントの歌姫だよ。ザフトのアイドルって有名だよ!?」
キラの説明にもラクスは笑ったまま
「そうなんだ。ごめん!私、プラントととか、疎くて。」
「いいえ。確かにわたくしは、歌で皆様をお慰めしておりますが、わたくしは、わたくし。ラクス・クラインでしかありませんから。」
「へぇ~、すごいな。」
きらきらと目を輝かせるカガリに、ラクスは嬉しそうに口元を緩めた。
「全然凄くありませんわ。わたくしに出来る事といったら、、」
「できる事があるんだから凄いよ!私も聞きたいな、、あ、それなら音楽チップを買えばいいのか」
「わたくしの歌でよければ、音はありませんがここで歌っても」
「ちょっとちょっとちょっと!なに和んで、、いや、それより。こんなところに居て良いんですか?ラクスさん。」
「ラクスで結構ですわ。あなたは、、、?」
「あ、僕はキラ・ヤマト。こっちは妹の」
「姉!」
「ご兄弟ですのよね。お聞きしましたわ。カガリさん。カガリ・ヤマトさん?」
カガリ・ヤマト
他人の口から響く音に、キラはちょっとドキっとする。が
「あ~、違う。私はカガリ。その、ただのカガリなんだ。」
ラクスはちょっと首を傾げたがすぐに
「そうですの。カガリさんですね。よろしく。」
右手を差し出した。
「こちらこそ。」
握手を交わす2人に、キラは我に返る。
「あの、、、?」
嫌な予感に、キラはふたりを交互に見た。
「カガリさん、仕事を捜してみえるとお伺いしましたので、それならわたくしのマネージャーをして頂きたいとお願いしたんです。」
  キラ、俺、プラントに戻って、性転換したんだ………ああ、青紫のワンピがアスランの顔には映えてるけど………お前も一緒
  に
………申し訳ないけどアスラン、僕は男のままがいいんだ。
‥‥って、違う違う。現実逃避してる場合じゃない
実際、キラの親友で国際環境の悪化の為プラントに帰ったアスランが、性転換してキラの前に現れたぐらい、ラクスの発言はインパクトがあった。
「そんなの、出来るわけないじゃないか、アスラン。」
「アスラン?」
「あ、違っ、そうじゃなくて。カガリにマネージャーなんて、、それもザフトのアイドルの」
キラは誤魔化すようにカガリの肩を掴むと、君は中立国代表の姫なんだよ、と唇だけで戒めた。
現状、コーディネイター率いるプラントと、ナチュラル率いる地球連合はHOT WARに突入しており、中立国オーブの代表を養父に持つカガリが、プラントの元で働くのは対面上非常に不味いのだ。
ところが
「あなた、アスラン・ザラのお友達ですの?」
「え?アスランを知ってるんですか?」
「アスランはわたくしのフィアンセですもの。」
「なんだ。キラの友達のフィアンセのマネージャーなら問題ないじゃないか。」
「そうですわよね。」
大問題です!
「え~」
ぶうぶう言うカガリの腕に手を絡ませて、ラクスも悲しそうな顔をする。
「困りましたわねぇ。わたくし、ぜひ、カガリさんにお願いしたいですわ。」
「あなたは黙っていてください。」
「こら、キラ。冷たいだろ、そんな言い方。」
「いいんですのよ、カガリさん。わたくし、黙っておりますわ。」
ラクスが腕時計を確認して呟くのにキラの眉が寄る。
「あの?」
ラクスは顔を上げると、無音で”しゃべっても良いですの?”と尋ねた。
『分ってるくせに。あ~、もうッ。カガリだけならいざとなれば泣き落とせるけど、このヒトは!』
くえないラクスに、キラはしぶしぶと頷いた。
「わたくし、お会いしてすぐにカガリさんに惹かれてしまって。ここに来る前に既にカガリさんのマネージャーの件をお父様にお伺いしてましたの。」
「断ってください!今すぐにっ」
「ああ、、でも、今、了承の連絡が届きましたわ。」
通信カードをキラに見せながら、ラクスはおっとり笑った。
Ohマイが
「キラ?」
頭を抱え込むキラに、心配そうにカガリが寄り添う。
「大丈夫か?」
『ああ、そうだ。こんな事で挫けていてはいけない。僕はカガリを護るんだから。』
キラはカードを返すと改めてラクスと向き合った。
「あなたはいったい、どんな目的でヘリオポリスに?だいたい、プラントがナチュラルのカガリを受け入れるわけ、、」
「父の了解は本当ですわ。わたくし、プラントへ帰るつもりでちょっと船を間違えてしまって、、、連絡したら無事わたくしが戻るのなら、どんな事もきいてくださるとお父様はおっしゃって下さったのです。」
どこをどう間違えたらプラントがヘリオポリスに?
『いや、それより!』
「カガリをプラントへ連れて行かせるわけには」
「それは大丈夫ですわ。わたくし、しばらくここで休養した後、地球で慰安と、連合との和解の架け橋となるべく活動する予定ですもの。」
「そっか。じゃ、さっそく仕事の内容、教えてくれ。」
「ヘリオポリスは中立衛星ですから、わたくしでもお部屋を用意できましたわ。そちらで。さ、参りましょう。」
用意周到
止める間もなく、遮る隙もなく。カガリはラクスに連れられて行く。
新たな強敵が一人。
本日のキラの日記は簡潔だった。



11/14のも~めんと 「危ない アネキ #3 意気だけイイ娘が大突破!

中立国オーブの資源惑星ヘリオポリスで地球連合の新型モビルスーツが開発されている。
政治的に問い質す事は難しく、かといって手を拱いているには危険過ぎる情報の真偽を確かめるべく、ザフトは新鋭隊をヘリオポリスへと送り込んだ。対地球連合との情勢的にベテランを送り込む余裕は無く、選出されたのは無名に近い、そして名を上げたいと志している者達だった。
【情報が本当であり余裕があれば、新型MSを奪取する。】
情報の確認だけなら腕前を認められる可能性は少ないが、奪取できた・それも無傷で、となれば一躍出世も出来る。
野心を秘めた若者の中にアスランは居た。
【プラント評議会議長の息子である事に恥じぬようにな。】
父の厳命が脳裏を過ぎり、アスランは小さく首を振った。拍子に視界を過ぎった丸いピンク。
『‥‥‥ハロ?』
ピンクハロ持っているのは覚えの無い金髪の女性。
『ハロじゃないのか?』
今日の諜報活動は終了している。アスランは仲間のミゲルに手を振って合図すると、自分が作ったハロか、別物か確認するべくヒトの流れへと歩き出した。
特に知りたいわけでもない。だが、何の収穫も無く焦りが隊を包み、険悪なムードに居た堪れなかった。
『あるいは何か見つかるかも、、、って、何を考えてるんだ俺は、そんなわけないだろ。それに、ハロなわけけないじゃないか。ここはヘリオポリス。ラクスは、、』
「あら、アスランじゃありませんか。」
確かめるよう追いつき並んだアスランを、ピンクボールの持つ少女の横で馴染んだ声がいとも簡単に呼んだ。
「ラクス?ホントに?何故、ここに、、、」
アスランは視線をずらして、ピンクハロを持つ見知らぬ少女を見る。
視線が合う。
「お前がアスランか。初めまして。私はカガリだ。」
差し出された右手。
「え、、あ、初めまして、、」
育ちがいいアスランは条件反射でその手を握った。
交わされる握手。
「、、じゃない!ラクス、君はここで何を」
アスランは首を振ると、慌てて手を引っ込める。弾みではじかれた手。
「なんだよ。ナチュラルとは握手もしないのか?ザフトは。」
怒ってはいないが、口を尖らせたカガリ。
「あ、いやその、、済まない、、あ、だからそんな事より」
「落ち着いて下さいな、アスラン。ここでは目立ちますわ。わたくしのホテルに場所を移動しません事?」
「あ、ああ」
隠密行動の自分。アイドルの婚約者。アスランはまわりに視線を流すと、人だかりが出来ていない事に一安心し、頷いた。

「‥‥‥、ホテル?」
アスランが指差した先には、豪華な庭付きの一戸建がででんと構えている。
「あら、ホテルは人の出入りが多くて何かと不便ですもの。運良く公開住宅があったので、お借りしたのですわ。」
「公開住宅って、、、ホテルより人の出入りが」
アスランの顔色が青ざめていく中
「ですが、ホテルよりは断然人の出入りは少ないですわよ!?」
「ラクスっ、君は他人の恐さを知らないから、、ホテルは確かに人が多いがその分、警備もしてくれてる。でも、ここにはどういう人間が来るか分らないんだぞ!?」
「どういうって、、、家を新築する人間とか、リフォームする人間が来るんじゃないのか?」
カガリが首を傾げるのに、ラクスも「そうそう」と、頷く。
「暇つぶしにも来る!それに、家を見るのが好きな奴もいる。」
「無害だと思うが?現に、公開住宅の方法取る人もいるし」
「泥棒とか、最近の住宅事情を探ろうとする人種もいる。あぁ、君は黙っていてくれ。これは俺とラクスの」
「あ、すまん。」
謝るカガリの前にラクスが立ち塞がる。
「これはアスランとわたくしの話ではありませんわ。ここに住むのはわたくしとカガリさんですもの。アスランには関係ありません。」
「しかし!君が危険‥」
「ラクス。アスランの言う事も一理あるよ。私は今日は帰るから、、」
「でも、カガリさん、、、」
「、、、明日‥‥明日、またな。」
カガリは明るく告げると手を振って、来た道を駆けて行った。
ガッ
「痛ッ」
ラクスのヒールが足から退くと同時に、アスランがしゃがみ込む。
「ラクス、、?何を、、」
「アスランの正直さは好きですが、鈍感さんには困りますわ。」
「?」
涙目のアスランを置き去りにラクスは屋敷へと入って行く。
「ラクス、、待て」
足を引き摺りながら、アスランもラクスに続いて入って行った。

「カガリ!?帰ってきてくれたんだ。」
心配しながら待っていた様子のキラに、申し訳なくてカガリは少し身を縮めた。
「ごめん。その、ラクスのトコにお客さんが来てさ。ほら、お前の親友の」
「アスラン?」
驚いたキラに、カガリは笑って頷くと冷めた料理の並ぶテーブルについた。
「性転換、、、、してるわけないか」
呟いてキラはカガリを見たが、カガリはスプーンを取ってスープをかきまわしているだけだった。
「カガリ?」
「、、、キラ。お前は私を待ってなくていいんだぞ!?ラクスの付き人じゃなくても、帰ってこれない事もあると思うから‥」
「カガリ、、いったい何を調べたいの?」
冷たいだけのスープを口に運ぶと、カガリは美味しいと呟いた。
「、、、、、、、ふぅ。じゃ、今日は何があったの?ラクスさん?それともアスラン?」
キラもカガリの前に座ると、カガリが口に運ぼうとしたスプーンを自分の口に運んだ。
「なにが?」
「君を悲しませた犯人。」
「私は別に、、、」
「カガリは強いけど、強いから傷付かないって事じゃない。そして、カガリを傷つけられるヒトは、カガリが心を許したヒトだけだ。」
もっとも君は誰にでも打ち解けられるけどね。
キラは肩を竦めると、スープを鍋に戻して温めなおす。
「、、、、キラ」
「ん?」
「ありがと」
ありがとう、慰めてくれて   ありがとう、傍にいてくれて
吹っ切れたのか、ニコニコ笑うカガリの前にキラは改めてスープを置く。
「だったら何しに来たか、教えてくれる?」
「‥キラ、困るぞ?」
「後で知ったら困らないものなの?」
「‥‥‥」
カガリの悩む様子に、キラは片手で顔を抑えた。
「カガリの事は、何でも知りたい。」
「キラ、、、」
キラの真面目な視線に縛られて、カガリは身動きかなわない。
「キ、、」
「でないと、後でどうなる事やら」
両手を挙げたキラに、カガリの力が抜ける。
「わーるかったな」
カガリはべぇと舌を出すとバスルームへ消えてきった。
『ホント、兄でも弟でも、、、』
兄弟は辛いです
キラはクスンと鼻を鳴らすと、夕食の後片付けにシンクに立った。
勿論キラはこっそりと後を付けられましたがカガリの自由を尊重して(たとえバレなくてもカガリを信じてない行動が自分に許せなくて)、ドキドキソワソワイライラ・心配やら悲しみやら寂しさやらで胃を痛めながらも大人しく待っていたのでした。このあたりが弟(不器用)!?(笑)



11/16のも~めんと 「危ない アネキ #4 意気だけイイ娘の勘違い

「カガリ、今日の予定は?」
登校の支度を済ませたキラが、まだ眠そうなカガリを振り向く。
「う~ん、そうだなぁ、、、」
「ラクスさんところへ行くの?」
「う~ん、、、それもなぁ、、」
「僕、行くけど。今予定が立ってないなら、出かけてもいいけど今日は帰ってくること。いいね!」
カガリの返事を待たずにキラが外へ出ると
ぎょぎょっ
ドアの横に座り込む影。
「ラクス、、さん?」
「お早うございます。キラさん。わたくしの事はラクスで結構ですわ。」
「こんなところで何してるんです!?ラクスさん。」
「、、、(にこ)ラクスと呼ばないと大声を上げますわよ。」
「呼び方なんてどうでもいいじゃないですか、、」
「どうでも良くないですわ。だって貴方はカガリさんのご兄弟ですもの。」
「あ~、コホン
笑いながら寒い挨拶を交わす2人の間を咳払いが遮る。
「アスラン?」
アスランは素早くあたりを確認すると、キラを促し部屋の中へと入った。物音でカガリが顔を覗かせる。
「キラ、忘れも、、、あれ?ラクスとアスラン?」
「お早うございます、カガリさん。お迎えにあがりましたわ。」
「カガリは今日の予定は無いって言ってますよ。」
キラはテーブルに荷物をドンと置くと、イスに座った。
「そんな言い方は無いだろう。ラクスは迷惑をかけないよう日が昇る前からここで、君達を起こす事無く待っていたん、、」
アスランの言葉が終わる前に、カガリは上着を脱ぐとラクスに被せて抱きついた。
「風邪、引いてない?寒いのに、無茶しちゃダメだろ!?皆を元気付ける大切な仕事してるんだから。」
キラ、コーヒー!いや、ココアだ!
カガリに命令され、しぶしぶとキラはカップにお湯を注いだ。
「ほら、暖まって。」
毛布いるか?シャワー浴びるか?とあれこれ世話を焼くカガリを横に、キラはアスランに向き直った。
「来るなら、連絡くれればポートまで会いに行ったのに」
「すまん、、、」
アスランの様子にキラは眉を顰めた。
「内緒、、だったんだ?」
「‥‥」
正直者だな~、と思いつつキラに嫌な予感が広がる。
「まさか、君、ザフトに?」
「‥ああ、ザフトに入隊した。」
「ヘリオポリスには‥」
地球連合がここで、モビルスーツを造っているんだ!放って置けるかっ」
ダンッ とアスランがテーブルに手を着く。
「まさか!?ウズミ代表がそんな事するはず無いよ。」
侵略もしないし従属も受けない。オーブについて語ったカガリの父である首長国代表・ウズミ・ナラ・アスハの信念をキラは自分なりに確信している。
「まぁ、そうですの?」
ラクスはおっとり返したが、急に消えた温もりに視線を横へとずらした。
「カガリさん?」
「、、、やっぱり、やっぱり本当の事なのか‥」
「カガリ?、、、まさか、君の目的って‥」
カガリは暗い表情で、キラに頷いた。
そんな事、絶対無い!ウズミ代表はそんな事、許したりしないよっ。
「どうしてそう言い切れる、キラ。現にナチュラルはユニウスセブンに核兵器を落とした。民間人がいるあのプラントになんの躊躇いも無く、だ。」
「それは一部の」
「なら、ウズミという人間がその一部で無いとどうして言い切れる!?」
「それは、、、それは僕がウズミ代表と話した事があるからだ!だから‥」
「お前が?オーブの代表と?」
どうして国家元首と会談できたのか、そう問うアスランにキラは答えられない。
「だから、それは‥‥‥っ、ともかく!ウズミ代表はそんなヒトじゃ無いんだ!カガリだって、、、それはカガリが一番よく知ってるはずだろ!?」
だからだ。
カガリはすっくと顔を上げた。揺ぎ無い決意を漲らせて。
「私はっ、お父様の」
「お父様?」
アスランが聞き返すより早く、キラはカガリの口を押さえた。
あ~~~、カガリのお父さんに嫌疑が掛けられててさ」
「お父様って、、、お前達兄弟じゃないのか?」
「きょ、兄弟だけど、その、一緒に育ってないって言うか、うん、そう。カガリは養子に出てて、そのお父さんが」
「まぁ、、そうでしたの‥」
ラクスはそっと、カガリの手を取った。その思いやりに、カガリはひっそり微笑んだ。
「済まない、ラクス。私はやはり事の真相を確かめなければならない。ラクスの付き人をする事は」
「では、わたくしがカガリさんの付き人をいたしますわ。」
「「は?」」
キラとアスランの視線を受けても、ラクスは怯む事無く笑った。
「わたくしなら、ザフトの方々からなにか教えて頂けるかもしれませんわ。それをカガリさんに教えて差し上げます。」
「何を言い出すんだ、ラクス!?」
「アスランもカガリさんに協力してあげてくださいな。目的も同じなのだから構わないでしょう?」
「だからなんで俺が!?」
「そうだよ、そんな危ない事、カガリにさせられない」
「私は確かめるぞ!止めても無駄だからな、キラ。」
カガリ!
「お前には迷惑を掛けない。大丈夫だ。」
「そんな事言ってるんじゃない!カガリ、もしこれが本当で、それが公になれば」
「オーブは他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、他国の争いに介入しない。これを破ったら、それはオーブの代表じゃない!」
「それは、、、でも君がスパイの真似事なんてしたと知れたら、君も、お父さんも、、、そしてもう二度と、僕達は‥」
「心配無い、キラ。」
カガリは、それはキレイにきれいに笑った。
「なにがあっても、どんなに遠くになっても。私はお前が呼べば会いに行くよ、どんな事をしても、絶対に!
「カガリ‥」
いい雰囲気の中、キラがカガリに手を伸ばすのを、アスランが掴む。
「よく分らんが、お前達の話しを聞いていると、お父様とやらはアスハ代表に聞こえるんだが、、」
ギッとキラに睨まれ、アスランは取敢えず掴んだキラの手を離した。開放された手でキラはカガリを抱え込むと、来訪者2人を睨んだ。
「とにかく、カガリはっ」
、そうか!お前、いい奴だな。」
言い募ろうとしたキラの横で、カガリはポンと手を打った。
「カガリ?」
「お前、キラに会わなかったのは、キラに迷惑をかけるといけないと思ったからだろ!?」
カガリに言い当てられ、アスランは顔を赤くする。
「お、俺は、別に‥」
「ありがとな。」
にこにこ笑うカガリにアスランは言葉につまり、やがて額を押さえると大きく息をついた。
「分った。連れてってやる。市民と一緒の方が何かと疑われずに探れるからな。」
でも、足を引っ張るなよ。
アスランの言葉に、カガリはやった~と飛び上がる。
「何言うんだ、アスラン!?」
「足手纏いにはならないぞ。うん。」
「カガリ、だから」
「わたくしもお手伝いいたしますわ。」
「あんたは黙ってて!」
「キラ、そんな言い方は良くないぞ。安心しろ。ラクスには危ない事も迷惑もかけないから。」
「だから危ないのはラクスじゃなくて、カガリ」
「まあ。やっとラクスと呼んでくださいましたのね。」
うふふと笑うラクスに、キラは失神しそうになる。
「大丈夫だ、キラ。お前にも迷惑かけないから。」
「そうですわね。キラに迷惑掛けないように活動拠点はやはりわたくしの家にしましょう。」
「そうだな。あの公開住宅はともかく、ザフトの施設にいればラクスの安全は保障される。その付き人である君がいても可笑しくはない。俺との連絡もとり易いしな。」
ガンガンガン
まとまり掛けていた3人が突然の不協和音に振り向くと、キラがフライパンと杓子を両手に暗く立っていた。
「分った、、、もう止めないから、、うちを拠点にして下さい。僕の目の届かないところで行動しないで下さい‥」
ガン
「分った、キラ。フライパンを叩くな。」
耳を塞いでアスランが叫ぶ。
「、、カガリは?分ってくれた?」
「ここを拠点にしてもいいが、お前は学校サボっちゃダメだぞ。」
カガリは壁掛け時計を指差した。
「学校、、行ってこい。」
誰のせいで今日受講をサボる事になったのか
キラは心の中で涙を流した。



11/20のも~めんと 「危ない アネキ #5 未来の報道カメラマンがやって来た

「では、早速行くぞ。ラクスはあの借家を処分しておくんだ。いいね。」
「おお!」
頷くラクスの横で構えるカガリ。
「ちょっと待ってよ、2人とも。今からって、、どこへ?」
キラは今から学校へ行くんだぞ!と言うカガリの前に立つとアスランは、キラの端末へと手を伸ばした。
モビルスーツを造れる設備となれば、場所には限りがある。それに条件としてカモフラージュ要素を加える。そしてそれらはポートから運び出されるわけだから、あまり遠いと極秘に出来ない。となれば‥」
「確かに。その条件だと随分絞り込まれるけど‥」
「キラ?」
歯切れの悪さにアスランがキラを見れば
「アスラン、君、ラクスとカガリに態度の差があり過ぎない?」
「‥‥‥、キラ」
アスランは手で目を覆うと、指の間からキラをちらりと見る。
「どーでもいいと思うが?そんな事」
「男として君に関心を持ってもらうよりはいいけど、兄弟としては腹が立つ。」
「言っている意味が分らん‥」
疲れたようなアスランの肩をカガリが揺する。
「おい、早く行こう。目途はついたんだろ!?」
「お前はもう少し落ち着け。失敗すれば俺達がヤバいだけでなく、ザフトとオーブの仲を拗らせる事になるんだからな。」
「分ってるよ。」
「本当に分ってるのか?事の重大性が。お遊びじゃないんだぞ。」
「分ってるってば!」
カガリは怒鳴るとくるりとアスランに背を向ける。伏せた顔に隠れた瞳には、強くて悲しい決意が宿っている。
『大好きな父親を信じたい。でも、もし裏切っていたら、その時は‥』
大切な父親だからこそ自分がその罪を暴きたいのだろう
真っ直ぐなカガリの気性は歯がゆくもあり、羨ましくもある。
『こんなふうに考えるカガリを受け入れられるのは、僕ぐらいだろうけど』
独占している満足感に浸りながらキラが目を上げると、笑うラクスと視線が合った。
「取敢えずベッドはわたくしとカガリさんが使ってよろしいのかしら?」
「は?、、、ええ?まさか、ここで3人暮らすの~?」
キラが見回す部屋の中はこじんまりしていて、2人暮らすのも窮屈だった。
「ラクス、、、さすがにそれは無理じゃ、、」
アスランも困った顔になる。
「でも、ここを拠点とするなら、わたくし達が出入りする方が目立ってしまいますわ。」
「それならどこかで落ち合えばいいだろ!?ここは僕達が住むだけで」
「拠点の意味が無くなってしまいますわよ!?」
「カガリがちゃんと帰ってきて、僕に話してくれればそれでいいよ。アスランとは端末でやり取りすればいい。」
「やり取りが盗まれないか?」
「そんなヘマはしないよ。君と僕だし。」
キラにとって、カガリが自分の目の届くところに居る・カガリのしている事が分っているのが大事なのだ。
一方
「なら、私の方も電話で連絡すればいいだろ?暗号とか使ってさ。」
カガリにとっては、キラを巻き込むこと事態が一番に避けたい事なのだ。
転がり込む事が迷惑をかけると思わないところがカガリの破天荒で、キラには甘えているところなのだが本人には自覚が無い。
「ダメ!絶対ダメ!!」
「なんでだよ~。アスランと一緒なら大丈夫だって。」
「どッから来るの?その自信。」
「キラから。」
「は?」
「キラの友達だろ!?これ以上安心なヒトなんて居ないよ。」
カガリの自信にキラが赤くなる。
「それに、話を聞いててなんとなく、な。ちゃんと考えて行動する。それに責任も取るって、そう思うぞ、アスランなら。」
カガリの言葉に今度はアスランが赤くなる。
ピンポ~ン
「ああ、ダメダメ~っ。危うく誤魔化されるトコだった。」
「?、誤魔化すって!?」
ピンポ~ン
とにかく!ダメなのはダメ。」
ピンポンピンポン
「お客さんのようですわ。」
そんなのいいから!カガリ、ちょっと!聞いてる!?
「わたくし、出てきましょうか!?」
「ああ、そうし、、、わ~~~っ、僕が出るから!
やっと現状に気付いたキラが、ドアを開けようとするラクスを押し退け、インターホンで来客を確認する。
≪キラ?今日休んでたから、レポート持ってきたけど?≫
ミリアリアの顔がスクリーンに映り、キラの顔が引き攣る。
<隠れて!早く!!>
小声で叫び視線で3人に合図を送る。
<隠れるって、、、どこに?>
狭い部屋。隠れられる場所など知れている。
<ラクスはバスに、アスランはトイレの蓋の上に乗ってろ。>
こういう時のカガリの判断は早い。二人に指示するとカガリはキラの横からドアを開けた。
<カガリ!?>
キラが飛び上がるのを構わず、カガリはレポートを抱えるミリアリアに笑いかけた。
「こんにちは。私はキラの姉だ。済まない。私が突然来たのでキラは今日、学校を休んでしまった。」
「あ、そうだったんですか。病気じゃなくて良かったわ、キラ。えっと、わたしはミリアリア・ハウ。キラのクラスメートです。初めまして、キラにはいつもお世話になってます。」
握手を交わす2人に、キラは汗ダラダラである。
『あああ、カガリがカガリってバレたら、、、』
キラ達が学ぶ工業カレッジはオーブのモルゲンレーテ社が出資している。国営であるモルゲンレーテには、国家元首の肖像画も掲げられている。それはカレッジも同じで。決して目立つわけではないが、キラ達は毎日それを見ずとも目にはするのだ。オーブは情報公開もしているから、プライバシーに掛かり過ぎない程度に首長の使うお金の出先は記されている。即ち、娘の学費等生活費もおおよそ分るから、その年齢も押して図れるのだ。
<そんな事を金額だけで算出できるのは、コーディネーターでも限られていると思う‥>
心を許した親友。パニクるキラが考えて居る事が推測され、隙間から眺めていたアスランはため息をついた。
「へぇ~、キラにお姉さんが居たなんて知らなかったわ。こちらには長くみえるんですか?よければ皆にも紹介したいわ。」
「キラの同級生?」
「ええ。トールにサイにカズイ。それとフレイとでわたし達、仲良しなんです。」
「フレイ?」
ひとり、区切りが違うようでカガリが首を傾げると、ミリアリアは口を押さえて笑いながらささやいた。
「フレイはカレッジが違うんですけど、サイの仲良しで」
ミリアリアは意味ありげにキラを見た。
「キラが思いを寄せてる子です。」
「ミリアリアっ」
キラの悲鳴もなんのその
「どうです?食事でも一緒に。フレイも連れてきますから。」
ミリアリアの申し出に、カガリは大きく頷いた。
「会ってみたい。いいのか?私も」
「大歓迎です。ええ~と、お名前聞いてませんでしたね?」
「私は」
キラはカガリの口を手で塞いだ。
「い~んだよ、、、っ(ちくしょ、上でも下でも、もーどうでもいいや)姉さんは!」
心で泣きながらキラはカガリを姉と紹介した。
「あら、せっかくじゃない。トール達も喜ぶと思うけど。」
「姉は見世物じゃない!」
「そんな事言ってないじゃない。」
カガリは手招きする気配に言い争う二人を残し、室内へ戻る。
<どうかしたのか?>
<食事に誘われたんだが、キラが渋ってるんだ>
<当たり前だろ!?俺達は隠密行動を‥>
<でも、キラの友達だぞ!?しかも想いを寄せてる子も居るらしいし、姉としては会っとかないと>
<まぁ、カガリさん。弟想いですわ!>
果たしてそうなるだろうか‥
アスランは必死に断るキラに、ほろりと涙を隠した。



11/25のも~めんと 「危ない アネキ #6 史上最悪の密着24時間!!

げっそりした顔で部屋に戻ってくると、キラはテーブルに突っ伏した。
ラクスがドアを見に行き、もう誰も居ない事を確認する。
「‥キラ?」
アスランはキラの肩に手を置き、大丈夫かと続けようとして
「何、飲む?」
下からキラを覗き込んだカガリが、そのタイミングを外す。
「おい、、、キラは疲れて‥」
「だからさ!‥何か飲むかと」
「はあ?」
「他にすぐ出来る事、思いつかないし」
はてな顔のアスランと反対に、ラクスは あぁ と納得したようだった。
「カガリさんはお疲れのキラが心配で何かしてあげたくて、、、でも今すぐ出来る事は限られているから、せめてお体を温めたり喉を潤して差し上げたいのですわ。」
ラクスの言葉にカガリが目をぱちぱちさせる。
「なんで‥?」
「何故分るか‥それはわたくしがカガリさんを好きだからですわ。」
「え、、っと?ありがと」
頭をかくカガリに、アスランは頭を振った。
「まず、キラの疲れを思いやったり、話を聞いて原因を取り除いたりするのが本当だろう!?」
それからケアをするべきだろう。
医者のように道理を説くアスランに、カガリはつまる。
「でも、だって‥」
カガリは大まかな人間では無い。相手を見て思いやり、そして受け止められる。その懐は広いと言っていいほどだが、ただその行動が走り過ぎたり、即決即行動で相手に理解されない事が往々にあるだけだ。
言葉に出来ないカガリをみかねてラクスが間に入ろうとした時
ガタン 
音を立ててキラが立ち上がる。
「あ、ごめん。五月蝿かったか?キラ‥」
「僕がやる。」
「へ?なにを?」
ゆっくりと顔を上げたキラの目が据わっていて、思わずアスランは一歩引いた。
「僕が、本当にここでMSを造っているのか、調べる!」
「え?、キラ!?それは‥」
「キラを巻き込んだら意味無いだろう。」
「僕がやる!君達は自分の立場を自重して大人しくしてるんだ。いいね!」
ビシッとキラに指を突きつけられ、アスランとカガリは思わず頷いた。

「キラ、後で手伝いに来るから」
「いいよ。何かあったらこっちから連絡するから。」
折れそうも無いキラに、アスランは仕方なく連絡手段をメモして渡し、ラクスを促して一先ずザフトの潜伏人が多い地区へと帰る事にした。
既にキラは意識ともども電子回路に潜行している。カガリはアスランのメモに自分の分も足して、2人について部屋を出た。
「ついて来るのか?」
「‥地球じゃザフトに苦しめられている人が居る。私は、ザフトは酷い奴等だと思ってた‥」
「それは違」
「うん、そうだ。ラクスやアスランと会ってそう思った。」
「‥‥、ああ、俺も‥」
「俺も?」
カガリに聞き返されて、アスランはハッと口を噤んだ。
『俺も‥?何を言おうとしていたんだ!?、俺は。』
「アスラン?」
「‥あぁ、いきなり話題を変えられたからな。なんというか、その‥」
「ふ~ん‥、ま、それはいいや。」
「え、いいのか?」
カガリの反応が残念で、そう思った事が少なからずショックで、アスランは立ち止まる。
「それでカガリさんはこれからどうなさるおつもりですの?」
カガリを真ん中に、ラクスは反対側から手を絡める。
「あ、うん。キラが手伝ってくれるのは嬉しいが、やはり私が確かめなければ、な。そうすれば事がバレた時でも私が責任とり易いだろ!?」
「確かにこのままでバレたら、キラが罪に裁かれるのは必至。しかし、仮にお前がどうこうしても、全て引っかぶれるほどの諜報能力を持っているのか?いい加減な事では返って嘘をつかせたと、キラの立場が悪くなるぞ!?俺が責任取れればいいが、俺は既に密入国の身だ。表に出るのは」
「暴きたいのは私だ!だから罪を問われるのは私一人で十分なんだが、私はキラと違ってバカだから‥目的が同じなら助けてほしい。ダメか?」
「‥まぁ、最初はそういう約束だったからな。それはいいが」
アスランはため息をつくと、再び歩き出した。
「だから私をお前達の拠点に連れてってくれ。」
「手伝うのがどうしてそうなる?」
「私に諜報能力が無くても、ザフトと関わったとなればそこから情報を入手したと説得できるだろう。」
真偽を確かめたいのは父親の為。無茶を通すのはキラの為。
「仮にMSの件が誤解で、早とちりしたお前がザフトと通じてるとバレたらオーブにいる父親の立場が悪くなるんじゃないのか?」
「それは大丈夫ですわ。わたくしのマネージャーさんですもの。」
なるほど、その手があったか と思って慌ててアスランは首を振った。
『ダメだ。イザークがいる。あいつがなんて因縁つけてくるか‥』
「おい。」
『ああ、せめてニコルが居れば音楽でラクスとも話を持っていきやすいのに‥ディアッカは‥ミーハーだったか?いやまて、あいつはイザークと‥』
「おい、アスラン。」
「アスラン?お友達がおみえのようですわよ!?」」
『ここはミゲルに‥くぅ~やっぱ、不味い。不味いぞ~』
「アスラン!」
肩に置かれた手に、アスランは切れて振り返った。
「五月蝿い、今考えて‥、イザーク?」
白い顔を赤黒くさせている同胞の姿にやっと、アスランは何時の間にか潜伏先まで来ていたのを知った。
「あれ~、これはこれは、ラクス・クライン嬢。どうしてこちらに?あ、アスランと逢引でも」
「婚約者ですもの。こんなところで逢引する理由はありませんわ。」
イザークの横からからかったディアッカも、ラクスに笑顔でぴしゃりと言われ口籠る。
「こちらで友人ができましたの。こちら、カガリさん。これからわたくしのマネージャーをしていただくのですわ。」
「あ、初めまして。」
手を差し出したカガリを、ジロジロと眺め、への字に口を結んだイザークのかわりにディアッカが復活する。
「ナチュラルじゃないのか?」
「ナチュラルじゃいけないのか?」
金の瞳に言い返され、ディアッカは再び口籠る。
「ナチュラルどうこうじゃない。俺達は遊びでここに居るわけじゃない。それとも、任務は名目で、祖国の臨戦の目を盗んでデートをする」
イザークは皮肉げに笑ってアスランを見た。
「ザラ評議会議長はこのたびの戦いをその程度と見做されているのかな?」
「それくらいユーモアがおありでしたら、小父様とも会食できて嬉しいのですけど。」
ムッとするアスランの代わりににラクスがさらりと返す。
「アスランとは偶然お会いしました。皆様こそヘリオポリスへは観光ですの?」
「ふざけるな!俺が観光でこんなとこへ‥」
「では、どうしてこちらに?わたくしの公演を観にいらっしゃったのではないのでしょう。」
「それは連合の」
「イザーク!」
ディアッカが止めるように肩を掴み、イザークもはっと唇を閉じた。
「軍事機密だ。」
さすがにディアッカも真面目な顔でラクスを見据えた。
「ザフト絡みって事なんだろ。」
軍事機密なんて、言ってるも同じじゃん。
ラクスの目配せに頷いて、カガリが口を開く。
「おい、お前‥」
目を細めるイザークに、カガリは不敵な笑みを返す。
「丁度いい。私もここの秘密を知りたいと思ってたんだ。混ぜてくれ。」
率直な頼み
「‥‥‥、アスラン、この女バカなのか?」
「それは俺にもわからん。」
「なんだよ、そりゃバカかもしれないけど、そこそこ使えるぞ。」
「「「‥‥‥何に?」」」
アスランまで口をそろえて聞き返すのに、カガリはえっへんと腰に手を当てた。
「運動神経はある方だし、なにより今帰れば、ここでの話をばら撒く‥」
ディアッカはカガリの口を押さえ、イザークは銃を抜こうとして、アスランに阻まれる。
睨みあうイザークとアスラン。
しばらくして
「ふん。いいだろう。お前、使ってやるよ。」
「「え?」」
ディアッカとアスランが驚き、ラクスが眉をひそめ
「やったー。」
カガリが飛び上がる。
「お前、いい奴だな。」
イザークの手を両手で握ると、カガリは嬉しそうにぶんぶん振った。その反応に驚いて、そして少し後ろめたくて、イザークは自分の手をカガリから取り返すと、そんなんじゃない と目元を染めてそっぽを向いた。
「イザーク?」
アスランの呼びかけに、イザークははっとして難しい顔をつくると、カガリに指を突きつけた。
「そのかわり、お前は俺と行動を共にするんだ。いいな!」
「いいよ。」
アスランとラクスが異議を唱える前に、イザークとカガリは握手を交わす。
「そうと決まれば早速だ。出かけるぞ。」
「おい、イザーク!それは無茶‥」
「どうして?お前とラクスの知り合いなんだろうが。それともスパイなのかな!?」
明らかにアスランを疑ってかかっているイザークに、アスランも拳を握る。その手を包んでラクスは囁いた。
<この場はこのままで。へたに動けばカガリさんが拘束されかねませんわ。それよりキラに連絡を。>
話は聞こえないもののアスランとラクスの神妙なやり取りをイザークは皮肉げに見て、ディアッカへ顎をしゃくった。
「お前は上で俺の連絡を待て。退路確保、頼むぞ。」
「一人じゃ無茶だ、イザーク。」
「なら、上から一人降ろせばいい。人選は任せる。あとミゲルもな。落ち合うポイントはユーエスオーはちまるまるだ。」
イザークはカガリの手を引っ張ると、そのまま自動車に乗せる。
走り去る車にディアッカは両手を広げ
「イザークの言うとおり俺は退路を確保する為上に戻るが」
「退路って‥確証取れたのか?」
「お前らがデートしている間にな。イザークの執念はすげ~から。」
最高評議会議員の母を持つイザークは、母の期待からもアスランに負けるわけにはいかないのだ。
「あいつ、ホントにプラント、大事に思ってるから‥」
気難しいイザークだが、心根は真っ直ぐにプラントの将来を思っている。
「そうか‥」
イザークの純真さはアスランには少し羨ましかった。
『俺は、純粋にプラントを思ってるわけじゃない。俺は‥母さんの仇を取りたいだけ‥父さんの期待に副いたいだけなのかもしれない‥』
「アスラン、急ぎませんと!」
ラクスに促され、アスランは物思いから引き上げられる。
ディアッカの姿はもうなく、隠れ家に入るとミゲルの姿も無かった。
『地球連合は母さんの仇だ。だけど、ナチュラルが仇なわけじゃない‥』
少女の姿が脳裏をよぎる。側に居ると煩いと思っていた存在の、今いない事の喪失感をこれからの現実とするわけにはいかない。
『守る!集合地点はユーエスオーはちまるまるだったな。』
「ラクス、悪いが連絡は君がしてくれ。俺は後を追う!」
「嫌です!」
「ラクス?」
「絶対怒るに決まっている人に連絡したくありません。アスランが追うのを止めませんから、追いながら連絡なさればよろしいでしょう。わたくしはわたくしの方法でカガリさんをお助けしますわ。」
「‥‥‥ 」
事態が大きく動いているのに、アスランはセキュリティと格闘している友人を思った。
『キラ‥ごめん。ちゃんと守るから‥』
普段大人しいキラの怒りは恐ろしい。
連絡する事を諦めると、アスランは心の中で謝った。



2006/8/30のも~めんと 「危ない アネキ #7 名家坊ちゃんとのヤバ~イ同盟!!(進行上、戦闘場面の詳細は想像してお読み下さい;笑)

「あれ?カガリさん!?こんな時間にどこへ?」
カガリの横を歩いていたイザークは、駆け寄ってきた茶髪の少女にぎょっとする。
<心配ない。彼女は弟の友達だ。>
イザークに頷くと、カガリはミリアリアに手を振った。
「ちょっとな。それよりミリアリアこそ、こんな時間にどこへ?」
「学校に忘れ物してさ~、取りに来たトコ。ほら、あそこ。あたし達の学校なの。」
「なるほど。情報以上に隠れ蓑にはピッタリだな。」
イザークの呟きに、カガリとミリアリアが首を傾げる。
「行くぞ!」
「え?おい、待ち合わせってそこなのか?イザーク!?」
走り出したイザークの後をカガリが追っていく。
「カガリさ~ん?‥‥、大丈夫かしら‥。」
ミリアリアはおせっかいとも思ったが、キラにコンタクトを取った。

「まったく上手いところに造ったものだ」
イザークは呟くと、通信をONにする。
≪降りてきたのは誰か?≫
≪シン・アスカであります。≫
≪よし、シン。乗ってきたのは≫
≪インパルスであります。≫
≪では、出せ。≫
≪は?≫
≪耳が遠いのか?お前は。≫
≪いえ、、、、出せって、、極秘任務なのでは?≫
≪もはや極秘どころではない!目の前に連合のモビルスーツがある。これを奪取するんだ!≫
≪了解しました!≫
イザークは通信を終えると、横で座り込む少女を見下ろした。
「おい」
「‥‥っ」
「おい!泣く為に来たんじゃないだろう!」
「‥ぅ‥」
「泣こうが喚こうが、オーブが地球連合にモビルスーツを提供する心積もりなのは事実だ。」
先ほどまでの勢いが嘘のように泣き崩れるカガリに、”だから女は”とイザークは舌打ちしてふと、思い直した。
『他に考え付かなくて泣いてるんじゃない。コイツはバカ正直で、なんにでも全力投球なんだ。だから”今は”力いっぱい泣いている‥』
アスランなら慰めるだろう、ディアッカならそれ以前に泣かせたりせず上手くあしらうだろう女性の涙を、イザークは今まで打ち捨ててきた。
『今までの女とは違うが、、、しかし』
だからってどう対処していいか分らない。
「‥す‥済まな‥」
カガリは目を擦ると顔を上げた。
「ザフトは‥これを‥どうするつもりなん‥」
嗚咽に阻まれながら、カガリは問いかける。
なんとか立ち上がったカガリだが、まだ涙を止める事はできなかった。
「ザフトに貰う。」
「戦争に‥使うのか?」
「‥‥‥。」
「戦闘になれば、多くの民が傷付く。」
「誰が仕掛けた戦争だ!ナチュラルが‥」
「話せば分かり合える。」
「なにを甘い事言っている!理想論が通るなら、そもそも戦争など‥!?お前っ」
カガリに手を握られ、イザークは口籠る。
「だけど私達は助け合えた。」
強く力を込められ、イザークは口をへの字に曲げると、その手を振り払った。
「ならば‥止めてみせるんだな。」
イザークは身を翻すと眼下に横たわるモビルスーツの元へと飛び降りた。
≪ディアッカ、予想以上の収穫だ。MSは全部で5機‥?≫
奪取するパイロットの増援を頼むべく通信しながら、イザークがコントロールパネルを操作しMSを起動できるようにセットしていると、視界の隅を金色の物体がMSに落ちた。
「!?」
「どうやって動かすんだ?これ。」
「カガっ、、降りろ!お前は帰‥」
コクピットからひょっこり顔を出したカガリに、イザークは青ざめる。
「お前が止めてみせろって言っただろ!?」
「それは和平会議で会おうって意味で、そもそもそんな事できる分けない‥」
「あ、動いた。」
「あ、バカ‥」
≪イザーク?どうした!?≫
≪ディアッカっ、あのバカを何とかしろ!≫
≪イザーク、状況が見えないが?≫
あのバカってどのバカだ?と聞こえてくる通信装置を放り投げると、イザークはカガリの乗るMS・デュエルガンダムへと走った。
「あ~もう、やっぱり女は~っ」
イザークがシステムを破った事とシンがMSでヘリオポリスに侵入した事で、激しく警報が鳴り響いている。もはや、一刻の猶予も無い。
「おい、隅に寄れ!」
「イザーク?」
操縦席から退いたカガリを背後に庇うと
「掴まってろ!」
イザークはデュエルを起動させた。

アスランはカレッジの一角から姿を現した新型MSに走る足を速めた。
『イザーク、カガリっ』
幸い、先に動いたシンの操縦するインパルスの現れた空港の方へ、ヘリオポリスの警備の大半が向かったようで、まだ此方は手薄だった。
『妨害が発生しているのか?』
工場を警備している人間すら見当たらない。おそらくどこかガセ情報の場所へと向かっているんだろう。アスランが地下に隠された工場へ足を踏み入れると、デュエルが足を止める。デュエルが壊した屋根から覗く空に、オーブ軍から拝借したらしい戦闘機でディアッカが現れる。
ディアッカがバスターガンダムに乗り移る間に、アスランは辺りを探した。
「イザーク、カガリは!?」
≪ここに居る。お前も早くMSの乗れ。≫
「ここにって、、、連れて行くるもりか!?降ろせ!」
ディアッカも驚いたらしい。理由を問い質しているようでアスランへの通信が途絶える。
「イザーク!今はまだ手薄だがこのままだと戦闘に巻き込んでしまう。早く降ろすんだ。」
≪それはこのバカ女に言え!≫
アスランの叫びにイザークが怒鳴り返す。ディアッカとアスランの抑止に切れたらしく、イザークは口を閉ざすと、空へとデュエルを発進させた。
「イザークっ」
続いて飛び立ったディアッカに、アスランもMS・イージスに飛び乗る。
2機を追おうとしたアスランは、格納庫に見知った、しかし無茶おっかない形相の幼馴染が飛び込んで来るのに、動きを止めた。
「キラ‥‥‥‥‥、恐過ぎ」
アスランの呟きに目もくれず、キラは残るMSの1機・ストライクに乗り込むとわずかの沈黙の後、初心者とは思えない動きでMSを起動させる。
≪あ!。キラ、お前が妨害を!?≫
この工場の警備体制の不備の原因がキラと考えれば、すでに新機種の情報も入手したのだろう、扱いの手際よさには納得がいく。
アスランの驚愕を他所に、キラは冷たくく呟いた。
≪君達が何をしたかは後で詳しく聞くよ。で、カガリはどこ?≫
辺りを探す事無く真っ直ぐにストライクに乗り込んだことから、アスランはキラが既に工場内及び周辺は、PCでチェック済みと知る。
『ならば今の質問の答えはどの機に乗っているかって事‥』
≪青いヤツだ。≫
上空でアスランが来るのを待っているデュエルを指差す。
≪カガリを拉致するなんて‥≫
≪いや、、、それは違うとおも‥≫
≪君はどっちに付いてるんだ?≫
≪え?≫
空へと飛び立ったガンダム達は互いの権勢、やっと来たヘイオポリス軍の障害を退けながら空港へと向かう。
≪全くだ、アスラン。貴様はどういうつもりだ!?≫
イザークが割って入る。
≪イザーク‥俺は‥‥≫
≪キラ、済まない。私はオーブの人間として、責任持ってこのMSを処理する。≫
突然響いたカガリの声に、キラの動きが止まる。
≪わ、お前、勝手に触るな!大人しく、、、痛てっ≫
コクピット内の騒動が目に浮かぶようで、同情するアスランを他所にキラは叫んだ。
≪カガリ、今助けるから!≫
止まっていたストライクが鋭く、デュエルへと迫る。
≪フザケルな、貴様っ。俺を止められると思っているのか!?それに、俺は拉致などしておらん。≫
バスターの牽制を避けながらも、デュエルに食らい付くキラの操縦に、ディアッカは口笛を短く吹いた。
≪キラ、心配するな。必ず帰るから、お前のトコに≫
≪カガリ‥≫
≪貴様、だから大人しくし‥あ、こら、俺の膝に乗るな!≫
キラの感極まった言葉は、イザークの怒声で途切れた。
『ひざ?』
≪ヒザ!?≫
膝~!!!?
イザークの膝に、カガリが乗ってる!????
パリ~ン
種が弾けたキラの攻撃は、カガリが乗っている機への躊躇いと、空港に到着した為加わった合流したシン。更に止めようと間に入ったアスランによってわずかにそれ、空を切る。
『コイツ、強い!?』
イザークが反撃しようとするのに、カガリが抱きつく。
「止めてくれ!キラはただの学生なんだ。」
「ただの学生がこんな、、、」
キラの攻撃をかわしつつイザークは宇宙へと抜ける出口に照準を合わせるが、ヘイオポリス軍もあい交じってストライクを振り切る事が出来ない。同様にキラも、ヘイオポリス軍の邪魔と経験の差で、イザークを捕えきれなかった。ディアッカとシンは、新型MSを壊さないよう仕掛けているとはいえ、多勢のヘリオポリス軍に活路が見出せず、見かねたヴェサリウスがヘイオポリスの外から援護を放った。ついに逃げ口が開く。
≪待て!≫
≪落ちろ!≫
≪キラ!≫
「あ‥えっと‥?」
アスランが追おうとするキラを羽交い絞めにしている間に、イザーク達を乗せヴェサリウスは遠ざかっていく。
「ちょ、、、俺は?」
置いてきぼりを食らったアスランは、追う事の出来なかったキラの怒りを一身に受けることとなった。



10/9のも~めんと 「危ない アネキ #8 やるべき事が見つかった

ヘリオポリスの一件は武器輸出という点でオーブにも、中立衛星への攻撃でプラントにも非難が浴びせられ苦々しく不問とする事で落ち着いた。外交的には痛み訳で済んだが、しかしオーブが地球連合のMSを製造していたという事実は、オーブ首長陣に波紋を投じた。
そしてキラは
『何で僕がこんな事を‥』
オノゴロ島アスハ邸で、カガリを演じている。
カガリがプラントに行った となれば地球軍との外交に。カガリがザフトに攫われた と偽ればプラントの和平交渉に差し障りが出る。
ウズミは責任を取る心積りはあったが、一部の役員が地球連合のMSを含む戦闘艦を密造していた事実を放っては置けず、結果カガリの代役が必要となったのだ。
「何で俺がこんな事をっ」
量の多い黒髪に手を当て、アスランが叫ぶ。彼もまた、ヘリオポリス急襲の際行方不明になったとされ、アレックスとして新たにカガリの護衛として迎えられていた。
「それは僕のセリフ!」
避けた為扉に当たって転がった、キラが投げつけたローヒールを、アスランは拾うとキラの前に置いた。
「女装が辛いのも分るが、俺だって」
「女装?ハん、女装なんて、君が性転換した夢ほど酷くはないさ。」
つまらなそうにローヒールを床に落すと、キラは行儀悪くそれを履いた。
「は?性転換??‥俺!???」
「ど~でもいいだろ、そんな事」
良くない!
机に手をついたアスランの襟を、キラは引っ張った。
僕がやり切れないのは!ここにこーして座っていて、カガリを助けに行けない事だ!
間近に睨み合う顔と顔。そこへ、ノックも無く扉が開かれる。
「カガリ~。」
能天気な声で入ってきたユウナが見たのは、キラとアスランが睨み合いから一転、カガリとアレックスの寄り添う姿だった。
「カガリ~、君には僕という婚約者がいるんだよ。軽率な行動は慎んでもらいたいね。」
ふたりを引き剥がしたユウナに、内心もっと早く引き剥がせよと悪態つきつつキラは冷静に切り替えした。
「先日も話したが、私はお前と結婚する気は全然全く微塵も死んでもないから。」
「なに我がまま言ってるんだい。これは政治的行事なんだよ。君の気持ちなんて問題じゃない。だいたい、家柄を除けば君は危険こそあれ娶る価値なんて無いんだ。大人しく嫁いで僕の家で教育を受けたまえ。」
ユウナはバカにした目でキラとアスランを交互に見た。
「政治的?あなたからそんな言葉を聞けるとは思わなかった。代表に内緒で、地球連合、いやブルーコスモスと通じているくせに。」
「「なっ!?」」
アスランは驚愕の、ユウナは悲壮な声を上げた。
「知らないとでも思ってたのか?君には真似できないだろうけど、ネットから君の、いやセイラン家のやってる事なんてまるわかりさ。実証拠だってあるんだ。」
「ななな、何を言うんだカガリ、いくら君でも許さな「「許さないのはこっちの方だ。お前のせいではこんな事になってるんだっ」」
ふたりに詰め寄られ、ユウナは尻餅をつく。
「カガリ?落ち着いて。今は内輪もめしてる時じゃないんだ。プラントが分裂した「「何だって!?どういう意味だ、それは!」」
がぶり寄りに、ユウナは尻で後ずさる。
「プ、プラントの、が、学者がっ、新進化論を唱えて、それで」
つまり、DNAにより個体の能力は決まっているわけだから、無理する事無く適材適所で、みんな平和に暮らしましょう、というものだった。
「それで、父さんは?」
「父さん?君の父親なんて」
アスランを殴り飛ばすと、眉を顰めるユウナにキラは作り笑いで聞いた。
「ザラ評議会議長は?」
「もちろん激怒さ。それで分裂したんだ。」
「「じゃあカガリイザークは?」」
「ええ?」
今度はアスランがキラの口を塞ぎ、なんでもないと、そして何も言うなとユウナを追っ払った。


ユウナの言う新進化論は、プラント評議会から離脱したギルバート・デュランダル率いる運命賛同体が放送を乗っ取って発表したもので、その、戦争の無い世界という声明は、プラントで戦に疲れていた一般市民に強い期待をもらたした。
「種は蒔かれた。次の布石は‥」
デュランダルは目的のスケジールを確認すると、オペレーターに回線をつなぐよう指示を出した。
≪クライン議員は予てから講和を考えてみえました。そこで提案なのですが、お嬢さんのラクス嬢はプラントの象徴。彼女から我々の目指す平和な世界を支持してもらえないでしょうか!?≫
相手はアプリリウス市で穏やかにだが根強く平和活動を提示しているクライン前プラント最高評議会議長。デュランダルからの秘かな連絡にシーゲル・クラインは複雑な笑みで答えた。
≪申し訳ないが、あの子の居所は把握してないのでね。連絡が取れたら、伝えてみますよ。≫
連絡する気は無い、という返事に、デュランダルは愛想よく、お願いしますとだけ言い、通信を切った。モニターから視線を移せば、秘蔵子のレイ・ザ・バレルが控えている。
「父親の方は我々と通じていると密告すればザラ評議会議長が始末してくれるだろうから問題ないが、娘は我々につかないと、やっかいかな?」
戦いに疲れた民衆に平和という言葉が魅力的なように、戦争で疲れた兵士やそれを支える市民には、アイドル・ラクスの影響力は強かった。
「民衆は黙らせる事はできるが、兵士相手では戦闘を免れん。戦闘は平和のイメージを砕き、民衆の支持すら失う事になる。レイ、行ってくれるか?」
「ギルの望みどうりに。」

「戦争の起こりえない世界かぁ‥」
呟いてもじもじするカガリに、イザークは鼻を鳴らす。
ガンダムを奪取したイザーク達は今、灯台下暗しに準じプラント・アプリウス市にいた。
「くだらん。未来を定められれば戦争は起こらんかもしれんが、志の無い世界など死んでるも同じだ。」
「かといって、ザラ議長の方針じゃナチュラルとコーディネイターは一生友達になれないじゃないか。そんなのは嫌だ。」
「友達って、、、、あんた、なんでそんなに俺達と友達になりたいんだ?」
カガリは不思議そうにシンを見返した。
「ナチュラル同士だって気の合わない奴はいる。だったら、コーディネイターとだって友達になれるだろ?一生なんてさ、短いから。たくさんの人と出会って、話して、いろんな事を知った方が良いじゃないか。」
知らないよりずっといい、と言うカガリに、シンは口籠る。
「おい。」
カガリを匿っている為、まわりに注意し情報を収集していたディアッカは、受信機から耳を離すと緊迫した面持ちでイザークを見た。
「クライン議員が捕まった。ナチュラルに傾倒する反政府組織員として。」
「?クライン議員って?」
「ラクスの父親だ。確かにクライン議員は穏健派だったが、反政府組織とは‥。アスランとラクスを婚約までさせておいて、その父親を逮捕するなんてよほどの事実が無い限り‥」
「ラクスのお父さん?」
カガリは立ち上がった。
「おい、どこへ行く。」
さっとディアッカがドアの前に立ち塞がる。
「だってラクスが!きっと心細い思いをしているよ。」
「馬鹿!お前が出て行ったら俺達まで‥第一、ラクスがどこにいるのか知っているのか?」
「お前達の事はしゃべらない。」
「お前がしゃべらなくても、お前の素性がバレればここへ来た方法も察しがつくさ。」
「だからって‥そんなの、、、友達なんだ!放っとけないっ」
激情に潤む瞳で睨みつけてくるカガリ。
「友達ねぇ‥ザラ議長が聞いたら憤死しそうだな。」
「じゃあお前は、デュランダルに賛成なんだな。」
「違う違うっ」
カガリは激しく首を振った。涙が飛び散ってキラキラ光るのに、シンは見入った。
「選択が3つしかないなんておかしい!コーディネイターが滅びていいはずもナチュラルが滅びていいはずも、まして人形のように決められたレールの上に生きるしか平和が無いなんて、あり得ない。和平の道は必ずある。諦める事が終わりなんだ。」
あぁ、確かに獅子の娘だと、イザークが思う横からおずおずとシンが口を開いた。
「俺はもともとオーブの人間です。オーブで差別は受けなかったけど、でも地球の上だから、言いたい放題の連合の言い分に頭きて、プラントに渡りました。だから俺が連れて来たって言えば納得されるでしょう。」
「シン?」
「俺がこの人を、ラクス嬢のところへ連れて行きます。」
「だからそのラクスがどこにいるか分らない‥っておい、人の話を聞け!」
シンは手早くロックを外すとカガリの手を引いた。
「世話になった、イザーク、ディアッカ。ありがとう。」
ドアが閉まると机を叩いて、イザークは怒鳴った。
「馬鹿じゃないのかアイツ等は!考えるほど現実は甘くない。」
「じゃあ、止めればよかったじゃないか。」
止められたのに、止めなかっただろう。
ニヤつくディアッカに、イザークは持ち込んでいた非常食を投げつける。
「いずれ、俺達にも出番が来るさ。将来の岐路という、な」
非常食を受け止めるとディアッカはそれを口にくわえ、グッドラックとモニターを眺めた。



 「危ない アネキ #9 世界最悪の姉弟ゲンカ!

一般市民を味方につける運命賛同体の運動を拘束や逮捕で抑える事は難しく、足元を掬われる形となったザラ議長率いるザフトと、デュランダル同盟軍はモビルスーツを用いた内紛状態となっていた。
漁夫の利を狙えば戦況は変えれるだろうに、ブルーコスモスの支配下にある地球連合は頑なにコーディネイターの排除を唱え、オーブは中立を護っている。
右を向いても左を向いても戦争、戦争、戦争。そんな中、タイムリーにデュランダル同盟軍はコーディネイター同士でも戦いが起こる事、地球連合が同じナチュラルを差別している様子、更に戦争の悲惨さを世界に放送した。
≪戦争の無い世界。それこそが我々の求める世界ではないでしょうか。良く考えていただきたい。≫
この放送より早く、ユウナによってデュランダルの存在を知っていたキラとアスランだったが、目の当たりにするデュランダルの迫力に、二人は心を揺さぶられた。
『もし、もしも彼が世界を統一したら‥僕はカガリと暮らせるんだろうか?』
アスランと電話して、トール達と遊びに行って、カガリとテレビ見て、肩身の狭い思いをする事無く父さん母さんと暮らせるんだろうか‥
「戦争の無い世界。これが実現されればお前とも‥何笑ってるんだ、キラ?」
呟いたアスランは、隣でキラの肩が震えているのに気付いた。
「おんなじ事考えてるって、、、思ってさ‥」
子供の頃共有したものと同じ空気を感じて、アスランもソファに深く座り直した。
「なんとか父さを説得できれると良いんだが‥同じコーディネイター同士なんだし」
「コーディネイターか‥小父さんはどう思ってるんだろう‥」
ナチュラルであるウズミ代表は
「オーブは中立国だからな。あるいは‥」
アスランの言葉が終わらないうちに、画面が一転、華やかな色に染まる。
「ラクス?」
≪わたくしはラクス・クライン。プラントでは歌を通じて皆さんと交流しております。ほとんどの方とわたくしは直接お会いした事はありませんが、見てください。≫
露出の高い衣装でラクスは両手を差し出した。
≪わたくしの手は、皆さんと同じ。コーディネイターもナチュラルも同じ。ともに手を取っていけます。≫
ラクスが手を下ろすと、画面は彼女の憂いた顔をアップで映し出した。
≪わたくしはデュランダル博士のお考えに賛同し、運命賛同体を全面的に応援しますわ。≫
画面から心地よい歌声が流れ始める。時に強く響く歌は、コーデインアイター、ナチュラルを問わず耳に響いた。
しかしアスランは眉を寄せる。
『ラクス?』
そんなアスランの様子に気付かないようで、キラは食い入るように画面を見つめた。
『カガリは?カガリはどこに‥?一緒じゃないのか?‥‥あぁこのままじゃダメだ。ここに居続けるだけではっ』
キラは直通の回線でなかなか会えないウズミに連絡を取った。

「なるほど。君達は彼を支持するんだね。」
「お、、父様は賛同されないんですか?」
落胆の響きにキラは慌てて口を押さえた。それにウズミは微笑む。
「小父さんで構わんよ。キラ君は、、、そうだな、好きな子はいるかい?」
「ええ~っ?」
真っ先に浮かんだ顔に、キラは慌てて首を振った。その様子を後ろからアスランが訝しげに見る。
「私なんぞはずいぶんおませでね。君らの歳には好きな女の子と一緒にいる事ばかり考えてたよ。」
「問題ありません。キラなんか、好きな子以外はゴミ扱いですから。」
「そういうアスランはどうなんだよ。ラクスは?」
「ラクスは婚約者だ。考えるも何も、将来は」
「婚約する時、考えたろ。」
「婚約は物心つく前に子供が出来やすい組み合わせで決められたから、そんな事」
「!?。それって‥」
一瞬、キラに警鐘が過ぎる。だがそれを、キラは形になる前に押さえ込んだ。
「小父さん、今は談義してる時間が無い。こうしてる間にもカガリがっ、、、カガリが戦渦に巻き込まれたら‥」
ウズミはキラを見つめた後、優しい溜息をついた。
「カガリが自由奔放なのは周知の事。地球連合の動きも怪しい状況、”カガリ”がモルゲンレーテの地下倉庫にある自分の持ち物を使って家出しても仕方あるまい。」
「え?‥‥‥あっ、はい!」
「今はまだオーブは動けない。君の目で見極めてくると良い。だけど、無茶はしないように。悲しいが戦争中だ。十分気をつけて。」
「戦況は激しいんですか?」
「ザラ議長はクライン議員を拘束した。デュランダル博士と通じた嫌疑で。」
「父が小父さんを?」
アスランにとって婚約者の父であるシーゲル・クラインは、母の死後実父より話しやすい存在だった。
「どうしてそんな事に‥」
「デュランダル博士が公表したんだ。会談を持ったと。その後クライン議員が拘束された事に残念だとコメントしている。」
「それは、悪気があったわけじゃ‥?」
ウズミは曖昧に頷いた。
「年寄りはつまらんな。粗探し・言葉の裏をつい読んでしまう。」
「小父さん?」
「確かに遺伝子情報による伴侶の選別で種存続の確率は上がるだろう。また、プラントでは恋愛は自由のはずだ。子供が出来ない覚悟なら誰とでも結婚できる。だが、デュランダル博士の唱える世界ではどうだろう?」
「「え?」」
「アスラン君は将来好きな子が出来たらどうするのかな?」
「好きな子?」
その言葉にドキッとしてアスランは顔を赤らめた。
「好きな子なんて、俺は‥」
「将来の話だよ。だけど、デュランダル博士の言う世界観に将来の選択はあるんだろうか?本当に戦争の無い世界を探しているなら、なぜ中立国のオーブと会談を持たないのか。なぜ穏健派であるクライン議員に加勢しないのか‥キラ君。」
「はい?」
「自分のしでかした事をアレは分っているだろう。その責任の取り方も。カガリの事は忘れなさい。君は、君の為に行って来なさい。」
「‥‥‥僕は、僕はただカガリと‥‥カガリは?」
プラントにいるカガリがどうなったか、いや、カガリは本当にプラントにいるのか
キラの問いかけにウズミは首を振った。
キラは目を伏せウズミから鍵を受け取ると、モルゲンレーテに向かった。
キラの操縦する小型自家用機のエンジン音を聞きながらウズミは、時間を告げる携帯を確認するとようやくそこに突っ立っているアスランに気付いた。
「君は行かなくていいのかね?」
「僕をを入れて良いんですか?機密を奪ってプラントに帰るかもしれませんよ!?」
「君はキラ君の友達だけあって真っ直ぐだからな。構わんよ。それに、正面からプラントにはもう帰れまい。」
「確かに、、、僕がオーブに居る事を父は知っているでしょう。そして、、、クライン議員を拘束するような父が、どんな事情があれ僕を自由にさせてれるとは思えません。」
口調より青筋のたった拳が、アスランの心情を伝えていてウズミは微笑んだ。
「君は、どう思う?いや、どうでる?」
「僕は‥」
業を煮やして呼びにきた秘書に頷くと、ウズミはアスランを伴ってアスハ低を後にした。


”家出”と言うカタチで、キラは一番情勢に詳しいだろう運命賛同体・デュランダルの元を訪れた。
「ようこそ、”カガリ・ユラ・アスハ”嬢。」
特に難しい審議もなくデュランダルと会見できたキラは、相手の言葉が真意か虚偽か判別付かず曖昧に頷いた。促され、ソファに座る。
「貴女がいらしたと言う事は、オーブは我々を支援する、とみて良いのですね。」
「‥わたくしは家出の身です。わたくしがここに来たのはオーブの意志ではありません。」
「それは‥残念な事ですね。」
デュランダルは笑うと、キラの前に立った。
「では、スーパーコーディネイターと名高いキラ・ヤマトとしてお出でいただけたのかな?」
『やっぱり‥』
キラは笑うとソファから立ち上がった。
「確かに僕はキラ・ヤマトとして来ましたが、スーパーコーディネイターって、、、何です?」
とぼけるも何も無い。初めて聞く言葉に、キラは不安を隠し余裕を装いつつ尋ねた。
「君は、たいした訓練も受けていないのにいとも簡単に秘密裏で作られたオーブのガンダムを動かせた。それに疑問は持たなかったのかい?」。
「え‥ぇ‥」
カガリの事でいっぱいで、それどころじゃ無かった。
キラの様子にデュランダルは笑みを強くした。
「君は本当のご両親の事を知っているかい?君のお父さんはね、君を使って人体実験を試みたんだよ。」
「え‥?」
「コーディネイターの進化の為の実験だ。目をつけられナチュラルの攻撃を受ける中、君を守ってお母さんは秘かにオーブへと逃れたんだ。」
「そんなのっ」
嘘だと叫ぼうとしたキラの前に、書類が投げ出される。
「当時‥いや、今でも先端をいく興味深い実験だからね。その記録は世界に受け入れられるまで、大切に保管されているんだ。」
震える手で書類を読むキラに、デュランダルはPCに残されている研究施設等を映し追い討ちをかける。
「君の存在はコーディネイターとしても異色だ。人体実験はプラントでも認可されていないからね。まして、地球では君に人権は与えられないだろう。なにせ、ナチュラルが実験に反発し、君のご両親を殺したのだからね。君は、生まれたばかりの赤子を殺すという非情を背負っても、この世に誕生させたくなかった存在なんだ。」
否定するのは簡単だが、キラの、スーパーコーディネイターたる頭脳がそれを許さなかった。
震える手から記録書が落ちる。
「君が人として生きるには、能力でその人を受け入れる、私の持論しかない。」
崩れ落ちたキラの肩に手を置くと、デュランダルは優しく囁いた。
「カガリ嬢と生きる為に、一緒に闘ってくれるね。」


一方、キサカ一佐という”カガリ”の敏腕護衛とアスランがニコルと秘密裏に連絡を取り、アスランはプラント・マイウス市に降り立った。用意されていた戦艦に驚く。
「あぁ、それはラクスさんが用意したものです。クルーも‥」
苦笑いのニコルに、どんなやり取りがあったのかおおよその見当が付いて、アスランは溜息をついた。
「悪かったな。それでラクスは?」
いくら婚約者でも与り知らぬ事なのについ謝ってしまうアスランを”貧乏くじはアスランさんが引くんですね”という視線ではなく、純粋に労わりの笑顔をニコルは返した。
「それが‥」
アスランの問いかけにニコルは目を背けメモリを差し出した。眉を寄せたアスランがスイッチを入れると聞き馴染んだ声が切々と訴える。
≪わたくしはラクス・クラインです。現在わたくしのそっくりさんが、運命賛同体を支持していらっしゃるようですが、わたくしは支持いたしておりません。そして華やかなそっくりさんの舞台の裏で、わたくしはデュランダル博士によって追われ、秘かに葬られようとしています。このような放送を行えばわたくしの居場所はすぐに知れ、掴まるかもしれませんし、騒乱を招くでしょう、それでも!わたくしはわたくしを応援してくださる方々に伝えたいのです、考えていただきたいだけだのです!自分達の未来を。与えられるだけではない、自分で選択できる未来を≫
妨害電波が入り放送が途切れる。
「これは?」
「先日、運命賛同体が行った放送にジャミングして流れたラクスさんの声明です。」
妨害電波で途切れたのではなく、妨害して放映したものを強制的に切られたのだとわかり、アスランは項垂れた。
「ラクスさんの行方は不明ですが、プラントにも運命賛同体にも掴まったと言う報告はありません。」
さすがアイドル。影の協力者がたくさんいるようだった。
「キラはデュランダルの元へ行ってるから、連絡を待つか‥。ニコルは運命賛同体をどう思う?」
「戦争の無い世界は魅力的ですね。」
「そうだな。」
「でも‥」
「でも?」
ニコルが反対してるとは思わなくて、アスランは自分より低いニコルの顔を見直した。
「あ、、、たいした事じゃなくて、、、、」
「うん。」
聞き上手のアスランに促され、ニコルは口を開いた。
「適材適所って‥もし僕にピアノは向かないって言われたらどうしようかと思って‥」
「そんな事‥」
あるはずが無い、と言おうとしてアスランはウズミの言葉を思い出した。
「‥そうか、そう言う事か‥」
「アスラン?」
「不味い、キラが‥」
アスランは舌打ちすると、戦艦に乗り込んだ。

ラクスの用意した戦艦・クサナギは、デュランダルのいるメサイヤへ向かっていた。そこに飛び込んできた映像。
≪私は、、、カガリだ。苗字は無い。ただのカガリで、ナチュラルだ。≫
「な、、、、カガリ?バカっ、何やって‥?」
≪皆が見てる私は苗字が無くて国家や政治から見たらちっぽけな存在だけど、でも言いたい事はある!運命賛同体が言ってる戦争の無い世界って、、、すっごく憧れるけど‥そうしたいけど、その為に払う犠牲は何だろう?能力で分かれた世界って、何?今、私はラクスと友達だけど、能力分けされたら、、、ちっぽけな私はラクスの友達でいられるのかな?私には立派な父が居て、優秀な弟が居るけど、、、、デュランダル博士の言う世界になったら、馬鹿な私はまだお父様やキ、、、弟と、家族で居られるのかな?≫
そこへ割り込む映像。
デュランダルが、ラクスの偽者が。平和を訴える。
「放送モラルがなくなったのか‥」
やれやれとアスランが頭をかくと、知った声が響いた。
≪カガリ、デュランダル博士の言う世界なら僕等は一緒に暮らせる。だから、邪魔しないで。もし、邪魔するなら、僕がそれを阻む。≫
「キラ?‥えっ?それってお前、カガリと喧嘩するって事か?」
叫ぶアスランに、一方向の放送は当然だが何も応えなかった。


 「危ない アネキ #9 世界最悪の姉弟ゲンカ!

一般市民を味方につける運命賛同体の運動を拘束や逮捕で抑える事は難しく、足元を掬われる形となったザラ議長率いるザフトと、デュランダル同盟軍はモビルスーツを用いた内紛状態となっていた。
漁夫の利を狙えば戦況は変えれるだろうに、ブルーコスモスの支配下にある地球連合は頑なにコーディネイターの排除を唱え、オーブは中立を護っている。
右を向いても左を向いても戦争、戦争、戦争。そんな中、タイムリーにデュランダル同盟軍はコーディネイター同士でも戦いが起こる事、地球連合が同じナチュラルを差別している様子、更に戦争の悲惨さを世界に放送した。
≪戦争の無い世界。それこそが我々の求める世界ではないでしょうか。良く考えていただきたい。≫
この放送より早く、ユウナによってデュランダルの存在を知っていたキラとアスランだったが、目の当たりにするデュランダルの迫力に、二人は心を揺さぶられた。
『もし、もしも彼が世界を統一したら‥僕はカガリと暮らせるんだろうか?』
アスランと電話して、トール達と遊びに行って、カガリとテレビ見て、肩身の狭い思いをする事無く父さん母さんと暮らせるんだろうか‥
「戦争の無い世界。これが実現されればお前とも‥何笑ってるんだ、キラ?」
呟いたアスランは、隣でキラの肩が震えているのに気付いた。
「おんなじ事考えてるって、、、思ってさ‥」
子供の頃共有したものと同じ空気を感じて、アスランもソファに深く座り直した。
「なんとか父さを説得できれると良いんだが‥同じコーディネイター同士なんだし」
「コーディネイターか‥小父さんはどう思ってるんだろう‥」
ナチュラルであるウズミ代表は
「オーブは中立国だからな。あるいは‥」
アスランの言葉が終わらないうちに、画面が一転、華やかな色に染まる。
「ラクス?」
≪わたくしはラクス・クライン。プラントでは歌を通じて皆さんと交流しております。ほとんどの方とわたくしは直接お会いした事はありませんが、見てください。≫
露出の高い衣装でラクスは両手を差し出した。
≪わたくしの手は、皆さんと同じ。コーディネイターもナチュラルも同じ。ともに手を取っていけます。≫
ラクスが手を下ろすと、画面は彼女の憂いた顔をアップで映し出した。
≪わたくしはデュランダル博士のお考えに賛同し、運命賛同体を全面的に応援しますわ。≫
画面から心地よい歌声が流れ始める。時に強く響く歌は、コーディネイター、ナチュラルを問わず耳に響いた。
しかしアスランは眉を寄せる。
『ラクス?』
そんなアスランの様子に気付かないようで、キラは食い入るように画面を見つめた。
『カガリは?カガリはどこに‥?一緒じゃないのか?‥‥あぁこのままじゃダメだ。ここに居続けるだけではっ』
キラは直通の回線でなかなか会えないウズミに連絡を取った。

「なるほど。君達は彼を支持するんだね。」
「お、、父様は賛同されないんですか?」
落胆の響きにキラは慌てて口を押さえた。それにウズミは微笑む。
「小父さんで構わんよ。キラ君は、、、そうだな、好きな子はいるかい?」
「ええ~っ?」
真っ先に浮かんだ顔に、キラは慌てて首を振った。その様子を後ろからアスランが訝しげに見る。
「私なんぞはずいぶんおませでね。君らの歳には好きな女の子と一緒にいる事ばかり考えてたよ。」
「問題ありません。キラなんか、好きな子以外はゴミ扱いですから。」
「そういうアスランはどうなんだよ。ラクスは?」
「ラクスは婚約者だ。考えるも何も、将来は」
「婚約する時、考えたろ。」
「婚約は物心つく前に子供が出来やすい組み合わせで決められたから、そんな事」
「!?。それって‥」
一瞬、キラに警鐘が過ぎる。だがそれを、キラは形になる前に押さえ込んだ。
「小父さん、今は談義してる時間が無い。こうしてる間にもカガリがっ、、、カガリが戦渦に巻き込まれたら‥」
ウズミはキラを見つめた後、優しい溜息をついた。
「カガリが自由奔放なのは周知の事。地球連合の動きも怪しい状況、”カガリ”がモルゲンレーテの地下倉庫にある自分の持ち物を使って家出しても仕方あるまい。」
「え?‥‥‥あっ、はい!」
「今はまだオーブは動けない。君の目で見極めてくると良い。だけど、無茶はしないように。悲しいが戦争中だ。十分気をつけて。」
「戦況は激しいんですか?」
「ザラ議長はクライン議員を拘束した。デュランダル博士と通じた嫌疑で。」
「父が小父さんを?」
アスランにとって婚約者の父であるシーゲル・クラインは、母の死後実父より話しやすい存在だった。
「どうしてそんな事に‥」
「デュランダル博士が公表したんだ。会談を持ったと。その後クライン議員が拘束された事に残念だとコメントしている。」
「それは、悪気があったわけじゃ‥?」
ウズミは曖昧に頷いた。
「年寄りはつまらんな。粗探し・言葉の裏をつい読んでしまう。」
「小父さん?」
「確かに遺伝子情報による伴侶の選別で種存続の確率は上がるだろう。また、プラントでは恋愛は自由のはずだ。子供が出来ない覚悟なら誰とでも結婚できる。だが、デュランダル博士の唱える世界ではどうだろう?」
「「え?」」
「アスラン君は将来好きな子が出来たらどうするのかな?」
「好きな子?」
その言葉にドキッとしてアスランは顔を赤らめた。
「好きな子なんて、俺は‥」
「将来の話だよ。だけど、デュランダル博士の言う世界観に将来の選択はあるんだろうか?本当に戦争の無い世界を探しているなら、なぜ中立国のオーブと会談を持たないのか。なぜ穏健派であるクライン議員に加勢しないのか‥キラ君。」
「はい?」
「自分のしでかした事をアレは分っているだろう。その責任の取り方も。カガリの事は忘れなさい。君は、君の為に行って来なさい。」
「‥‥‥僕は、僕はただカガリと‥‥カガリは?」
プラントにいるカガリがどうなったか、いや、カガリは本当にプラントにいるのか
キラの問いかけにウズミは首を振った。
キラは目を伏せウズミから鍵を受け取ると、モルゲンレーテに向かった。
キラの操縦する小型自家用機のエンジン音を聞きながらウズミは、時間を告げる携帯を確認するとようやくそこに突っ立っているアスランに気付いた。
「君は行かなくていいのかね?」
「僕を入れて良いんですか?機密を奪ってプラントに帰るかもしれませんよ!?」
「君はキラ君の友達だけあって真っ直ぐだからな。構わんよ。それに、正面からプラントにはもう帰れまい。」
「確かに、、、僕がオーブに居る事を父は知っているでしょう。そして、、、クライン議員を拘束するような父が、どんな事情があれ僕を自由にさせてれるとは思えません。」
口調より青筋のたった拳が、アスランの心情を伝えていてウズミは微笑んだ。
「君は、どう思う?いや、どうでる?」
「僕は‥」
業を煮やして呼びにきた秘書に頷くと、ウズミはアスランを伴ってアスハ低を後にした。


”家出”と言うカタチで、キラは一番情勢に詳しいだろう運命賛同体・デュランダルの元を訪れた。
「ようこそ、”カガリ・ユラ・アスハ”嬢。」
特に難しい審議もなくデュランダルと会見できたキラは、相手の言葉が真意か虚偽か判別付かず曖昧に頷いた。促され、ソファに座る。
「貴女がいらしたと言う事は、オーブは我々を支援する、とみて良いのですね。」
「‥わたくしは家出の身です。わたくしがここに来たのはオーブの意志ではありません。」
「それは‥残念な事ですね。」
デュランダルは笑うと、キラの前に立った。
「では、スーパーコーディネイターと名高いキラ・ヤマトとしてお出でいただけたのかな?」
『やっぱり‥』
キラは笑うとソファから立ち上がった。
「確かに僕はキラ・ヤマトとして来ましたが、スーパーコーディネイターって、、、何です?」
とぼけるも何も無い。初めて聞く言葉に、キラは不安を隠し余裕を装いつつ尋ねた。
「君は、たいした訓練も受けていないのにいとも簡単に秘密裏で作られたオーブのガンダムを動かせた。それに疑問は持たなかったのかい?」。
「え‥ぇ‥」
カガリの事でいっぱいで、それどころじゃ無かった。
キラの様子にデュランダルは笑みを強くした。
「君は本当のご両親の事を知っているかい?君のお父さんはね、君を使って人体実験を試みたんだよ。」
「え‥?」
「コーディネイターの進化の為の実験だ。目をつけられナチュラルの攻撃を受ける中、君を守ってお母さんは秘かにオーブへと逃れたんだ。」
「そんなのっ」
嘘だと叫ぼうとしたキラの前に、書類が投げ出される。
「当時‥いや、今でも先端をいく興味深い実験だからね。その記録は世界に受け入れられるまで、大切に保管されているんだ。」
震える手で書類を読むキラに、デュランダルはPCに残されている研究施設等を映し追い討ちをかける。
「君の存在はコーディネイターとしても異色だ。人体実験はプラントでも認可されていないからね。まして、地球では君に人権は与えられないだろう。なにせ、ナチュラルが実験に反発し、君のご両親を殺したのだからね。君は、生まれたばかりの赤子を殺すという非情を背負っても、この世に誕生させたくなかった存在なんだ。」
否定するのは簡単だが、キラの、スーパーコーディネイターたる頭脳がそれを許さなかった。
震える手から記録書が落ちる。
「君が人として生きるには、能力でその人を受け入れる、私の持論しかない。」
崩れ落ちたキラの肩に手を置くと、デュランダルは優しく囁いた。
「カガリ嬢と生きる為に、一緒に闘ってくれるね。」


一方、キサカ一佐という”カガリ”の敏腕護衛とアスランがニコルと秘密裏に連絡を取り、アスランはプラント・マイウス市に降り立った。用意されていた戦艦に驚く。
「あぁ、それはラクスさんが用意したものです。クルーも‥」
苦笑いのニコルに、どんなやり取りがあったのかおおよその見当が付いて、アスランは溜息をついた。
「悪かったな。それでラクスは?」
いくら婚約者でも与り知らぬ事なのについ謝ってしまうアスランを”貧乏くじはアスランさんが引くんですね”という視線ではなく、純粋に労わりの笑顔をニコルは返した。
「それが‥」
アスランの問いかけにニコルは目を背けメモリを差し出した。眉を寄せたアスランがスイッチを入れると聞き馴染んだ声が切々と訴える。
≪わたくしはラクス・クラインです。現在わたくしのそっくりさんが、運命賛同体を支持していらっしゃるようですが、わたくしは支持いたしておりません。そして華やかなそっくりさんの舞台の裏で、わたくしはデュランダル博士によって追われ、秘かに葬られようとしています。このような放送を行えばわたくしの居場所はすぐに知れ、掴まるかもしれませんし、騒乱を招くでしょう、それでも!わたくしはわたくしを応援してくださる方々に伝えたいのです、考えていただきたいだけだのです!自分達の未来を。与えられるだけではない、自分で選択できる未来を≫
妨害電波が入り放送が途切れる。
「これは?」
「先日、運命賛同体が行った放送にジャミングして流れたラクスさんの声明です。」
妨害電波で途切れたのではなく、妨害して放映したものを強制的に切られたのだとわかり、アスランは弱々しく息を吐いて項垂れた。
「ラクスさんの行方は不明ですが、プラントにも運命賛同体にも掴まったと言う報告はありません。」
さすがアイドル。影の協力者がたくさんいるようだった。
「キラはデュランダルの元へ行ってるから、連絡を待つか‥。ニコルは運命賛同体をどう思う?」
「戦争の無い世界は魅力的ですね。」
「そうだな。」
「でも‥」
「でも?」
ニコルが反対してるとは思わなくて、アスランは自分より低いニコルの顔を見直した。
「あ、、、たいした事じゃなくて、、、、」
「うん。」
聞き上手のアスランに促され、ニコルは口を開いた。
「適材適所って‥もし僕にピアノは向かないって言われたらどうしようかと思って‥」
「そんな事‥」
あるはずが無い、と言おうとしてアスランはウズミの言葉を思い出した。
「‥そうか、そう言う事か‥」
「アスラン?」
「不味い、キラが‥」
アスランは舌打ちすると、戦艦に乗り込んだ。

ラクスの用意した戦艦・クサナギは、デュランダルのいるメサイヤへ向かっていた。そこに飛び込んできた映像。
≪私は、、、カガリだ。苗字は無い。ただのカガリで、ナチュラルだ。≫
「な、、、、カガリ?バカっ、何やって‥?」
≪皆が見てる私は苗字が無くて国家や政治から見たらちっぽけな存在だけど、でも言いたい事はある!運命賛同体が言ってる戦争の無い世界って、、、すっごく憧れるけど‥そうしたいけど、その為に払う犠牲は何だろう?能力で分かれた世界って、何?今、私はラクスと友達だけど、能力分けされたら、、、ちっぽけな私はラクスの友達でいられるのかな?私には立派な父が居て、優秀な弟が居るけど、、、、デュランダル博士の言う世界になったら、馬鹿な私はまだお父様やキ、、、弟と、家族で居られるのかな?≫
そこへ割り込む映像。
デュランダルが、ラクスの偽者が。平和を訴える。
「放送モラルがなくなったのか‥」
やれやれとアスランが頭をかくと、知った声が響いた。
≪カガリ、デュランダル博士の言う世界なら僕等は一緒に暮らせる。だから、邪魔しないで。もし、邪魔するなら、僕がそれを阻む。≫
「キラ?‥えっ?それってお前、カガリと喧嘩するって事か?」
叫ぶアスランに、一方向の放送は当然だが何も応えなかった。


も~めんと別室 「