差し出された白い封筒には、オーブでは使われていない文字が書かれていた。
「えっと‥お年玉?」
カガリがポチ袋を読めた事に、差し出した方が目を見開く。
「‥‥読めたのか!?」
些か残念そうな響きに、カガリは苦笑した。
「なんだよ。」
何が可笑しいんだよ! むっとして続けようとした少年は、後ろに控えていた人達の咳払いで口を噤んだ。
「ああ、いや‥ありがとう。嬉しいよ、その、お年玉。」
カガリはにっこりと、むくれた相手・シンに笑った。だが、目敏くシンは、その視線が一瞬自分の後ろで交わされたのを知っている。
頬を少し上気させて自分を睨め付けたシンに、キラは薄く笑った。
どこにお年玉を渡すからとの理由で一国の首長に面会できる人間が居るだろう。
『それだけカガリの特別に入っているんだけど‥』
勿論キラは兄弟で、会おうと思えばカガリは喜んで迎えてくれるけど。
『カガリはナチュラルで、大半がナチュラルで占められる首長国の代表で‥。僕はコーディネーターだ。しかも最高という形容動詞まで付けられた‥』
確かにカガリはオーブを愛し、オーブの為なら自分も、自分の愛する人も二の次にするだろう。
だけど
人種分けがオーブに必要なんて思ってもいないので、国家議員にはコーディネーターもちゃんといる。
【キラが遠慮する事なんてない!】
『だけどカガリ‥君は太陽で、まわりを照らし出してしまう。僕を、引っ張り出す。外へと‥。雲に隠された時は、その雲を打ち払ってみせるけど、傍らで眠るには眩し過ぎる‥』
同じように代表となっているプラントの歌姫といえば
『ラクスは金星‥かな。側にいる僕を隠す。彼女は儚そうな印象の後ろに、誰よりも強いオーラを放っていて、彼女を見る誰もがまわりに注意を払わない。眠るには丁度いいんだ』
根暗、、かな?
キラはそこで、自分を見つめているカガリに気付いた。
心配ないというように手を振って笑う。
「お年玉は僕の家でもあったから、カガリには母さんがあげてた。それで知ってるんだ。」
ちっ と小さい舌打ち。
『それは僕がしたい方だ。』
「でもお年玉って、、大人が子供にあげるものだろ?カガリはお前より年上‥」
あぁ、アスランも母さんからお年玉を貰った事があるっけ‥などと訂正するよりぼんやりキラが思っていると、得意げに子供は振り返った。
「あんた、知らないんだな。お年玉の本当の意味。」
視線がアスランからキラに移り、その挑戦的な光にキラは苦笑した。
「アスランにも母さんは上げてたけど、いちいち本当の由来なんて説明しないさ。そんなのは野暮だろう!?」
「由来って?」
素直にカガリが聞いてきて、キラの機嫌は上昇する。
「ヤマトは日本国出身でさ。そこでは‥そうだな、簡単に言うと年の初めに神様から新しい魂を授かるんだ。それを分けるのがお年玉。そうして年を重ねて祝っていくのが年賀で」
「「??」」
眉を寄せるカガリとアスランに、キラも困り顔で思案する。
「端折り過ぎで余計わかんないよ、それじゃあ。」
口の端をあげるシンに、キラがむっとして口を開きかけた時
「つまり、幸せのお裾分けなんだろ!?新しい魂ってことは心根を正し改めて自分を振り返れって分けだな。うん。」
カガリは頷くと、腕を伸ばしシンの襟を掴んだ。
「え?」
瞬く間に離れた温もり。
「カ、カガ‥」
慌てるキラの頬にもカガリの口唇が触れる。
「カガリ?」
最後にキスを貰ったアスランが、離れていくカガリの手を取った。
「勉強不足にも私はお年玉を用意していないからな。申し訳ないがでもお礼したいから、キスで‥」
そこまで言って、カガリは青ざめた
「はっ、私のキスじゃダメどころか嫌だったか!?その、ごめ」
嫌どころかすっごく嬉しいです!!!
言い募ろうとした3人は突然、そして当然現れた人影に阻まれる。
「まぁ!わたくしでしたらすっごく嬉しいですわ。じゃ、わたくしが頂いても宜しいかしら‥」
どっから沸いて出たラクス・クライン〜
カガリを見つめて小首を傾げるラクスに、後ろで野郎どもがぶんぶんと首を振る。
「貰っても、いいです?お年玉。」
カガリの両手を取ってラクスは、後ろが見えないよう更にカガリに近付いておねだりをする。
「新年明けましておめでとう、ラクス。」
「おめでとうございます、カガリさん。本年もよろしくお願いしますわ。」
止める間もなくラクスはカガリに口付けた。
『『『く・くちびるにですか〜!!?』』』
「プラントの挨拶は親しい間柄なら同性でも口だったっけ‥、じゃ、私も」
『それは違〜う!!!』
『騙されてるぞ!』
『いつの間にそんな‥』
止める間もなく繰り広げられる展開
「コイツ は ハル から エンギ いい てやんでぇ〜」
犬の着ぐるみを着たハロが脱色した3人の周りを跳ね回った。

『『『来年こそは!!!』』』
鬼に笑われそうな事を誓う3人をのせて、オーブの新年は始まった。

春は夢見る季節ですよね;笑 20060107