バッカじゃないの?」
休憩室のインスタントコーヒーに怒ってみたところで、味が変るわけでもなく‥
「シンって、いっつも怒ってるのね。」
シンの隣に座り、ミルクを垂らしたコーヒーをやる気無さそうにかき混ぜながら、ルナマリアは呟いた。
「ザラ隊長の言う通り、オーブが好きだからだろ‥」
椅子ではなく机に腰掛けながら、珍しくレイが答えた。澄ました顔で紙コップを口に運ぶレイを、シンは睨みつける。
だが、反論は意外なところから上がった。
「そうかしら?」
ルナマリアは頬杖つきがら紙コップの縁を指で撫でている。
「シンが怒ってるのはオーブじゃなくて、オーブ元代表のカガリ・ユラ:アスハじゃないの?」
言われた意味が掴めず、シンはきょとんとしたが取敢えず肯定してみせた。
「当たり前だろ?アイツらのキレイ事のせいで俺達は‥」
「お子様ね。」
「なんだよっ。」
「意味分ってる?」
「意味って‥だから俺が怒ってるのは」
「貴方にしっかりしてもらわないと困るのよ。アスラン、、隊長がね‥」
「はぁ?なんでここにヤツが出てくんだよ。関係無いだろ。」
焦れたようにルナマリアはシンに向き直る。
「関係大有りよ!隊長が付けてるペンダントの相手」
「「ペンダント?」」
シンとレイがハモりながらルナマリアを見た。
「な、なんでもないわ。」
ルナマリアはまた紙コップに視線を戻すと、両手をコップの前で組んだ。
「‥‥‥、ふぅ」
黙ってルナマリアを見ていたシンだが、やってられないと立ちあがると、空になったコップをゴミ箱に放った。
「関係、ねーよ。俺は勝つんだ。敵にも、戦争にも!俺達の命なんて、露ほどにも思ってない奴らになんか、絶対負けない!」
「だから。そーゆー意味じゃないんだけど。」
休憩室を出ていこうとしていたシンは、足を止めた。降り返ると、やはりわけ分らないという表情のレイもルナマリアを伺っていた。
「シンは、オーブを憎んでるのよね!?」
「ああ‥」
「怒ってるんじゃなくて、憎んでるんでしょ!・」
「あ、、、ぁあ?それってどう違」
「でも、アスハ代表は憎んでない。ただ怒ってるだけ。アスハ代表が現実を知らずにキレイ事を言うから‥」
「‥‥ぅ」
考えても見なかった事にシンは、戸惑った。面白いほどうろたえるシンに、レイはルナマリアと彼を交互に見る。
『確かに‥』
言われてみれば、家族を奪ったオーブは憎かった。
『そうさ、憎いだけだ。好きなんて‥あり得ない。』
シンは心の中でアスランに毒づく。
そして、カガリ・ユラ:アスハ。
『こんな事態を招いて、まだキレイ事を夢見てる。口先だけで、何も出来ないくせに。』
腹が立つ 腹が立つ 腹が立つ
【私は‥】
カガリの声が甦って、シンは頭を振った。
「俺は、あの女を許さない!」
「無視できない、の間違いじゃないの?だってそうでしょ!?アスハ代表だけじゃない、キレイ事を言ってるのは。でも、シンの怒りは彼女だけに向くのよね。」
意味深げにルナマリアに見上げられ、シンは動けない。
「俺はっ、俺は、ただ‥」
言い募ろうとして言葉にならず、シンは休憩室から出ていった。
「なるほど。オーブは捨てられてもアスハ代表は忘れられないって事か‥」
顎に手を当て頷くレイに構わず、ルナマリアは決意を秘めて口元を組んだ手で隠した。
「早く自覚してもらわないと。」
「?」
「シンにアスハ代表を攫ってもらわなきゃ‥」
「ルナマリア?」
ルナマリアは音を立てて椅子を引くと、立ち上がった。
「アスランが迷う前に。」
小首を傾げながらレイは、肩を怒らせて出ていくルナマリアを見送った。
「なんだか、なぁ」
一人取り残されたレイは残ったコーヒーを捨てると、どうしようもないと笑った。

短し せよ 少年

7月竜

ええ、勘違いしてるのはシンじゃなくて7月竜ですとも(爆) 2005/4/10