愛してくれて ありがとう

そう微笑うと、シャツを羽織って。覚束ない足取りで。
アルは台所へ消えた。
それをぽ〜と見送ってから。
ハッとしてエドは自分の腕を見、もう一度寝室のドアを見た。
マッあぁっ」
幾分儚げな笑顔に見とれ、腕の中の愛しい者を引き留め損ねたとエドは頭を抱えた。
『そうだ!俺もっ。アル、俺も。』
              愛してくれて ありがとう
「愛してくれて?」
そこでエドは口元を押さえた。


膝を抱えて丸くなっているエドに、コーヒー片手に戻ってきたアルは少し立ち止まって。
カップをテーブルに置くと、そっとエドの肩に触れた。
「朝までにはまだ時間があるよ。」
「‥アル‥‥」
見上げたエドの視線の先には、やっぱりどこか寂しげな笑顔がある。
「ア‥」
アルへと伸ばされたエドの手を恭しく握ると、アルはその甲に口付け、エドをベッドに横たえた。
「お休み、兄さん‥」




「で、何かね。いったいどーしたいと言うのかね
こめかみに怒印を浮かべて、ロイはだらしなく机に突っ伏すエドに笑った。
「‥俺も、言いたい。愛してくれて ありがとう≠チて‥」
「「「‥‥‥、は?」」」
俗称マスタング部隊が詰める業務室の男達は総立ちになる。
「いや、、、対象、そ〜ゆ〜趣味があったのか!?」
「そーゆー趣味?」
物の挟まった言い方に、エドは虚ろな顔を上げる。
「む、それは少し難しいな。キンブリーでもいれば喜んで応じそうなのだが」
ハボックの言葉を受けたロイは書類を机の端に片すと、机に肘を突いた。
「え?キンブリー中佐って、、、そ〜ゆ〜趣味だったんですかい!?」
驚くブレダにロイは抑揚に頷いた。
「いや、そんな感じがするから。」
「感じって、、、、少将、それは偏見ってもんじゃ‥」
国を裏で操っていたホムンクルス達との戦いに終止符を打った事が認められ2階級特進したロイだったが、内情は、軍の中枢部にメスを入れた結果の人員不足で、仕事は今までのノルマに加えての雑務までこなさなくてはならなかった。
職務室も今までどおり。
ひとつ違うのは、銀時計に縛られる事なく自らの意思で、エドがここに席を設けたという事。勿論常勤ではなかったが
「しかし、アルフォンス君なら言えばやってくれるんじゃないのかな?」
ファルマンの言葉に真っ赤になって、エドは起き上がった。
「そんな事!言えるわけないだろっ」
「「「抱いて下さい。」」」
「は?」
「う〜ん、微妙だな。」
「い〜んじゃね〜の。そう望んでんだろ!?大将。」
ハボックの確認に、エドはやっとロイ達が誤解している事に気が付いた。
「違ーうっ、俺は抱いて欲しいんじゃねーっっ」
「え?愛してくれって‥」
「俺はっ、、、俺はアルに‥」
ダンっとロイが机を叩いた。
「貴様っ、あの可愛いアルに奉仕をさせたいと言うのかっ」
ロイの怒りに反し、エドはどこか魂の抜けた様子で呟いた。
「奉仕‥なのかな‥‥‥・」
「「「火に油を注ぐなーっ」」」
ロイの様子に身を寄せながらハボック達は叫んだ。
「アルは‥、俺が望めば決して拒まないんだ‥終わると決まって礼を言うし、具合が良かったかって聞くけど‥あれって、奉仕なのかな‥‥?」
エドの顔に、寂しさを飾り付けた悲しみが広がる。
「俺はただ、アルに愛してるって、言って欲しいだけなんだ‥‥‥」
膝の上で両手の握り締めるエドの姿に、一触即発状態だったロイは大きく息をついた。
「バカか、貴様‥」
「なんだとーっ俺にとっちゃすんげぇ大事な事なんだぞっ」
顔を上げたエドの目じりが濡れているのにも気付かず、それまで話題についていけず口をパクパクさせていたフュリーが爆弾を投下する。
「それって、相手の気持ちを確かめずにコトに及んだって事ですか?」
呆れ椅子に踏ん反り返っていたロイも、ガバッを身を起こした。
「そう言えばそうだ。貴様、なんて卑劣な!」
「別にゴーカンしたわけじゃねーっあー、くそっここなら失恋専科だと思って相談に来たのに、、」
「「「大きなお世話だ!」」」
なるほどホークアイ准佐が留守の時に来たわけだ、などとフュリーが納得しているところへ、ブレダがエドに聞き返す。
「んじゃ、具体的にアルはどうなわけ?ずっとされるがままなのか?」
再び酸欠状態に突入したフュリーに気付かずハボックもファルマンも耳ダンボで身を乗り出す。
「されるがままっていうか、、、キスしてくれる。」
キス‥」
きす?」
「鱚!?」
ハボックは右手で顔を拭った。
「お前、セックスしてんのに<キス>の話しかよ、、、」
「うっさい!キスだって大事だ!アルに関してはみんな大事なんだ!!」
『『『ごちそーさま』』』
明後日を見るブレダ達にめげず、エドは行為を思い返した。
「アルは‥服を脱いでる俺の胸にキス‥するな。それから‥俺の両手にも‥」
「胸って乳く」
全部言い終わる前に銃弾が飛んできて、ブレダは首を竦めた。
「「「ホークアイ准佐!!!」」」
「仕事もせず不健康そうな話を、真昼間からされているようですが?」
『『『『こ・恐っ』』』』
「不健康じゃない!大事な話なんだ‥。」
思わぬエドの反撃に、ホークアイは持っていた書類を ドン とロイの前に置くと、椅子を引いて書類を見つめるロイを伺った。
「そ・そーですよ。あのアルが胸の飾りを吸ってる」
今度は銃弾では無く火炎放射が頭上を掠め、ハボックは慌てて髪が燃えるのを消した。
ロイは怒りで真っ赤な顔をハボックからエドに移すと立ち上がり、ずかずかと近付いてエドの胸倉を掴んだ。
「貴様、そんな事をアルにさせてるのかっ!?」
「しかし、夫婦なら仕方ないのでは?」
ファルマンが取り成す(墓穴を掘るともいう)のに
「結婚など許可しとらん!」
ロイは鼻息荒く言い放った。
「あんたの許可なんか必要ねぇ‥ってそーじゃなくて。アルはキスするだけ。そっと。決まって左胸に。」
「左胸?いつも!?」
「?、ああ‥‥?」
珍しくホークアイが顎に手を当て考え込む。
「さっき両手にもキスするって聞こえたけど‥?」
『『『『どっから聞いてたんだ?』』』』
大人どもが青ざめる中、エドは両手を差し出した。生身となった手は、いまだ日焼けの蓄積が違うのか、右と左で色合いが違っている。
「掌だよ。両手で、俺の手を取って‥交互に‥‥」
思い出して、エドが嬉しそうに微笑った。
ロイもホークアイの言いたい事に気付き、肩を竦ませると自分の席に戻る。
「おい、誰かフュリーに水をかけてやれ。ショック死されても困る。」
ハボック達は顔を見合わせると
「へ〜い。」
バラバラに散っていった。
「何だよっ、俺は真面目に!」
「そ〜ゆ〜話は犬も喰わないんだよ、大将。ほら、邪魔邪魔。」
「どーゆー意味‥」
「エドワード君。」
静かなホークアイの呼びかけに、エドは才色兼備のロイの部下を見上げた。
「こういう話があるの。手の甲は敬愛のキス。掌は求愛のキス=B」
「え?‥、あっ!!」
「左胸は心臓ね。アルフォンス君は言葉にしなくても、十分あなたを愛してるって言ってるんじゃないのかしら。」
「心臓‥‥」
「あなたが生きている証・左胸に感謝し、掌に恭しく求愛する‥」
「ありがと、准佐っ」
叫ぶなりエドは走り去る。
「まったく、あーゆー手合いは甘やかしてはいかん。」
「そうですね。昼間からこんな話に花を咲かせているようでは、冗談でも済みませんし。」
『『『准将のバカッ』』』
墓穴を掘ったロイに同情しつつも逃げ出そうとするブレダ達に、女神は立ちふさがった。
「わが部署は全員今日のスケジュールを速やかに取り戻し、その後精神鍛錬の為街頭清掃に出かける事とします。」
判決は下った。




「愛してくれて、ありがとう。」
ベッドから降りようとする体に、エドは腕を回す。
「兄さん?」
「‥すっげぇ、幸せ‥」
アルを背中から抱き込むと、エドはベッドへと連れ戻す。スプリングの浮遊感が優しく二人を受け止めた。
「アルっ」
「な、なに?」
真摯なエドの声に、アルは動く首だけエドへと向けた。
真剣なエドの瞳が、アルを捉える。
「兄さ、、、」
「幸せです。いてくれて、ありがとな。」
瞬きもせずエドを見つめるアルの顔が理解とともにだんだんと赤く染まり、慌てて顔を戻したアルの曝されたうなじに、エドは額を付けた。
体温より少し低い、けれど温かい滴がアルの首筋から背中へと流れ落ちるのに、アルも両手で顔を覆った。
「僕も‥好きです。ごめんなさい。」
エドはアルをひっくり返すと、顔を覆う両手をそっとはがし、自分の胸に置いた。
「アルを愛してるから、動いてる。」
アルが濡れた瞳を開く。
それにエドはニカっと笑うと、アルの左胸に頬を寄せた。
「僕、脈が遅い方なんだけど‥兄さんといると人並み、ううん、人より早くなる。」
でも、心地いい
アルは呟くとエドの頭を抱いた。
「俺は‥どうかな?お前に触ってると、すんげぇ安心するけど‥」
エドは名残惜しげにアルの胸から、腕から頭を離すと、ベッドの上に正座する。エドの様子に、アルも兄を見習った。

            貴方の存在が わたしの幸せ 生きる全て
         ありがとう ありがとう ありがとう ‥‥

ベッドで互いにお辞儀をした。
エドも、アルも
いつまでも これからも 
どれほど身を重ねようと お互いへの感謝は、愛は、尽きる事がないのだ。



「って、いつまでも新婚でいるんじゃねぇよ、ガキは困っちゃうね〜」
言葉と裏腹にハボックは寂しそうに、茶菓子の塩昆布をつまんだ。
「なんとも礼儀正しい事ですな。」
「常に感謝の念を持つ事は大変良い。勿論私にもな。」
豪腕と焔がお茶をすするのに
「見習って下さい。」
ホークアイが笑って、書類を ドン と置いた。

愛叫

あい  きょう

7月竜

裏と表の区別がつきません(笑)。メインがHだと裏、ギャグだと表ってぐらいでしょうか(他人に聞くな#)。
なんだか らぶらぶ してる話が書きたかったんです。ええ、らぶ なんです
これでも(爆)。2005/08/17