「一緒に寝てる!?」
「?」
繰り返された言葉に、アルは大きな瞳をロイに向けた。
ダンテとの最終決戦の後、ロックベル家は個人宅というより共同の別荘状態で、エドが戻ってきた今でもそれは続いている。
洗濯物を干す裏庭には白いテーブルが置かれ、生活臭の漂うリゾート気分が味わえた。
「兄さんが帰ってきてくれた時、嬉しくて‥僕、ずっと兄さんがいるんだって確かめたくて、それで‥」
白いシーツやタオルに混じって、エドのパンツが風にはためく。
「それから、ずっと‥!?」
ロイの口元が引きつったのを、恥ずかしげに俯いたアルは見逃した。
「アルフォンス。」
ロイはテーブルの上に乗せられたアルの手に自分の手を添え、アルの注意を引いた。
「それは少々問題だな。」
「そう、、ですね。兄さんと寝るのが当たり前に馴染んじゃってたみたい。恥ずかしいです。」
「いや、誰かと寝るのは恥じゃない。」
ロイはアルのまだ滑らかな手を自分の口元に持っていった。
「そう、例えば君と私ならね。」
「マスタングさん?」
ロイの口唇が自分の甲に触れるのを、アルは不思議そうに眺める。
「エドはもう年頃だ。大人の付き合いもあるだろう。」
ロイは口唇を当てたまま、視線だけアルに向ける。アルの瞳に映るロイが、アルの心の機微に揺れる。
「アル‥」
「あの、、、ごめんなさい。僕、よく分らない‥。教えてくれませんか?」
ロイは瞬きすると、アルの甲から口唇を離した。
「なるほど。今まではウィンリィやロゼが、ソーユー話題から君を遠ざけていたんだな。エドは‥」
『気恥ずかしくて口にもできまい。』
ロイはにんまり笑うと、アルの手を引いた。近付く距離。
「ご両親の寝室を覚えているかね?」
「え‥‥‥僕がもの心付く頃には父さんはもう居なくて‥、ああ、なんか分りました。自分達の遺伝子を残すんですよね。種の保存でしたっけ。」
ストレートな物言いに、ロイがたじろぐ。
「それは、、、誰から?」
「本です。」
明るく答えられ、ロイは目を覆った。
『手強い。』
しかし、だからこそ!教え甲斐があるというもの。
ロイは顔を上げると、にこやかなアルの顔に流し目を送った。
「人間にはもっと奥行きがある。交わるという事でも。これについては喜んで教えてあげるよ、今夜にもベッドの上でね。」
ロイはアルの肩を抱くと、顔を寄せた。
「今はエドだ。エドの交友を邪魔しちゃいけないからなぁ。」
「俺が何だって?」
頭上に轟く声。
よほど急いだのだろう、避け損ねたシーツを引っ掛けたエドが顔を引き攣らせていた。
「何の企みをしてる!?」
肝心なところは聞こえなかったようで、ロイは一息つくと口元だけで笑った。
「なに、ちょっとしたおせっかいを、な。」
アルの肩をひとつ叩くと、ロイは目配せして身を離す。アルははっとして、口を閉ざすとロイを見つめた。
「おせっかいだと!?」
「一緒に寝ているそうだな。」
エドはアルを見、顔を赤らめると誤魔化すように怒鳴った。
「それがどうしたっ」
「我慢は大事だが度を過ぎると体に悪いぞ。」
「「!」」
ロイの言葉に、アルは目を見開いてロイからエドへと顔を向ける。
一方、一瞬硬直したエドの顔が、赤面から怒りの赤へと変わるのを、同じ赤でも分るもんだなぁ と、ロイはしみじみ頷いた。
そしてエドは、怒鳴ろうとして、ハッとアルを伺った。
大きな瞳とかち合う。
「ア‥」
アルの顔が俯いていくのを、エドは見ているしか出来ない。
パシッ
「え?」
アルが両手で自分の頬を叩く。
「「アル?」」
これにはロイも驚いて、エドと一緒にアルを覗き込んだ。
「前向き前向き。うん。」
アルは自分に言い聞かせるように呟くと、顔を上げた。
「ごめん、兄さん。邪魔しないように気をつけるね。マスタングさんも、色々教えてくれてありがとう。」
『邪魔?邪魔って何だ?それは、もう兄ちゃんと寝てくれないって事かーっ』
『色々って、コレからが肝心な勉強だったのだが‥』
にこにこアルの笑顔に、男二人は頭を抱えた。
ロイの教室
おおよそ(笑)TV設定に、劇場版のスパイスが少々ふりかかってます。
子供のアルは記憶を取り戻してませんし、エドとアル、ホーエンハイムやイズミ、ロイ達面々の
協力によりエド達はアメストリスに戻ってきてたりします。
ここはそんな、似非世界(爆)