現実を嘆き、夢見るのを止める
『仕方が無い』その一言で全てを片付けるのが『大人』なら
私は今の、我侭で世間知らずで融通の聞かない子供で構わない
貴方を、諦める事など出来ないのだから
大
人
と
子
供
卑之斗 御伽
ゆっくりと
百介は重い瞼を開いて其処にある景色を眼に映す。
其処には、自分と、又市が居る。
もう一人の自分は、判らない事を大人に尋ねる子供のような表情で又市の話に聞き入っていた。が、百介には二人の声が聞こえない。只、自分も、又市も、とても幸せそうな顔をしている。
だから気がつく
コレが虚しい『夢』で有る事を
百介は思い瞼をもう一度開いた。
其処に移るのは、又市でも、己でもなく、古い天井の木目・・・現実である。
百介は目を細め、昨夜、又市に言われた事を思い起こした。
昨夜は、雨が降っていた。
風が強くて、寒い夜だったので・・・と言うのはいい訳であるが・・・。
百介は帰ろうとする又市を引きとめ、一晩此処に泊まる事を勧めた。
それでも又市は、帰ろうとする。そういう男なのだ。だが百介は、又市の帷子をしっかり握り締めて、もう一度、泊まることを勧めた。
『奴なんざ泊めちまったら、この部屋に魔物が来やすぜ?』
又市はそういって、にやりと笑って見せた。
それが
その一言が無性に腹立たしくって
帷子を強く引っ張って
押し倒して、そのまま・・・
犯した。
又市は抵抗しなかった。だが決して受け入れたわけではない。声を上げず、只揺さぶられていた又市の眼が百介の脳裏に焼きついて離れない。
諦めたような
哀れなものを見るような
冷たく、冷め切った眼
事が終わった後。又市は気だるい身体を起こし上げ、剥ぎ取られた帷子をその身に纏い始めた。身支度が全て整うと、又市は自責の念に押し潰されそうな百介のほうへと振り向いて、低い声でこういったのである。
『今夜のことは忘れなせぇ』
『奴と先生とじゃ住んでいる世界が違ぇやす』
『今夜の事は魔が刺した・・・只それだけだ』
(・・・違う)
自分は愛しているのだ。あの細い腕を、首を、脚を、又市という男を。それなのに・・・
『先生、早く目ぇ覚ましてくだせぇよ』
『奴みてぇなモンと関わること自体が間違いなんでやすよ』
『早く・・・』
現実を見ろ
立場が違う 住む世界が違う
だから一緒には成れない
百介は
その言葉を否定できなかった。
それが・・・紛れもない事実であるから・・・
如何して
夢の中の二人は何時だって
幸せそうに笑っているのに
現実に生きる二人は
事実に駆られて、暗い未来を予想してしまうのだろう
(もしも・・・)
もしも自分たちが、まだ幼い子供であったらどうなっていたのだろう。
現実の辛さや、虚しさを知らず、自分の世界の中に、自分の王国を持っていた子供時代。
その時代に生きていたら、きっと・・・
百介は目を閉じた。
瞼の裏側に、幼い自分が居る。幼い自分が、笑っている。自分の将来を夢見て
大人になって解かる事なんて
精々自分の非力さぐらいな物なのに・・・
『早く・・・』
又市は、低く呟いた。
『大人になってくだせぇよ』・・・と
終
2005/03/22
大人の可愛さ滲む又市さん‥羨ましいかぎりッスよ、センセ〜 by7月竜