7月竜
2004/6/6 イカレた3本立て
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「待て!」
軍部のデビルスネスト突入で混乱した酒場内。キンブリーの裏切りでグリード達はアルを担ぐと逃げに出た。
「また今度な。」
敬礼を真似て手を振るグリードの背に、エドは叫んだ。
「状況的に連れてくのはしょうがねェが、アルの中に入るな!」
「‥は?」
言われた意味が掴めず、グリード達は足を止めた。
「だからッ!アルの中に入るなって言ってんだ。」
びしっとエドは指をさした。
「アルの中に入っていーのは俺だけだッ!」
壁に開いた横穴に、鼻息荒く威張ったエドの声が木霊する。
「済みません。誰か兄を矯正してもらえます?」
アルの呟きにグリードは、気の毒そうに肩を叩いて首を振った。
(基本です;笑)
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「お前等ホムンクルスが俺達錬金術師の生み出した過ちならば、その過ちは俺達錬金術師が正さなきゃいけねぇんだ!」
「そう‥。だったら!母さんも過ちを正して良いかしら!?」
突然現れた母。トリシャに一同の動きが止る。
「か、母さん?死んだはずじゃ」
「あんた達を見ていたら、いてもたってもいられなくてね。エド?あなたアルとどういう関係なの?」
「関係って、兄弟だろ!?」
グリードの発言は無視された。
「恋人同士です。」
「え?いつから?」
アルの発言も無視された。
「母さんはそんな子に育てた覚えはありません!」
「う‥泣くなよ母さん。」
「おふくろさんを泣かせるのは感心しねぇなぁ。」
「うるせー、てめぇは黙ってろ。」
発言が採用されたのは、グリードではなくドルチェットだった。
「母さんに泣かれても、別れる事なんてできない。俺達、本気なんだ。」
「感動する場面なんだけど、当事者としてはどう対応すれば良いんでしょう?」
「兄貴の頭を冷やすにも、貞操守る為にも当座はアタシ達と来た方が良いんじゃない?」
アルとマーテルは密談モードに逃避した。
「だから俺とお前のタイマンだったんじゃ‥聞いてねーし」
グリードを無視して母子の対面は進む。
「じゃ、すっぱりアルと別れるのね!?」
「死んでもできません!」
「私があなた達をこの世に生み出したのよ。母さんのいう事が聴けないって言うの!?」
「たとえ母さんの願いでも、それだけは聴けないんだッ!」
「過ちは正すって言ったでしょ。エドワード!?」
「アルと結婚するのは過ちじゃないーッ!」
「そろそろエンヴィーをとめた方が良いんじゃない?あれじゃグリードも可哀想だし、なんか不毛。」
「そうねぇ。エンヴィーは鋼君や軍部をからかうのが好きだから‥。にしても本物のトリシャはどんな教育をしたのかしら?」
屋根の上ではスロウスとラースが胸焼けおこしながら、事の成り行きを眺めていた。
(創造主的発言にゲンナリ。でもアルに対する暴言じゃないと頭にこない事判明;笑)
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またまた誘拐されたアル。
「グラトニーさん。」
「なぁに?食べても良いの?」
「いえそーじゃなくて。あの、例えばラストさんはスカーさんのお兄さんに関係あるみたいじゃない!?」
小首を傾げるグラトニー。
「エンヴィーは父さんと関係あるみたいだし、ラースは師匠だし、グリードさんはダンテさんっぽいし、スロウスは僕達でしょ!?」
今度は反対側にグラトニーは小首を傾げた。
「グラトニーさんは誰なの?」
グラトニーは指をくわえた。そのまま沈黙が続いて‥
「わ〜〜〜んラストぉ〜〜〜」
アルはその場に取り残された。
「アル!?無事で良かったぁ〜」
アルに抱きつくエドの後でウィンリィが不思議そうに訪ねた。
「どうやって逃げ出したの?」
「う‥ん。聞いちゃいけない事聞いたみたい。どうも疑問が湧くと答えを探したくなっちゃって。へへ」
聞いていい事と悪い事がある。ひとつ大人になったアルフォンス・14歳だった。
(いえ、ちょっと疑問だったので:爆)
2004/6/4
「相変わらずチビだな、エドワード。」
脊髄反射で繰り出されたアッパーカットに、ラッセルは天高く舞上った。
ドサッ
落ちてきた物体を確認して、エドは頭を掻いた。
「あれ?ラッセル!?どうしてここに?」
「変らず危険な奴だぜ。機械鎧の方で拳を振るいやがって。」
「お前が悪い!」
「‥‥、まぁいい。今日は大事な用で来たんだからな。」
「そういえば、どうしてここが?」
「マスタングって人が教えてくれたぞ。」
『大佐の野郎、なんで俺達の居場所を把握してんだ。』
エドの中で要注意に赤丸が足される。
「おい。久しぶりだって言うのに、挨拶も無しか!・」
「あぁ、悪りぃ。えっと、お前も元気そうだな、ラッセル。相変わらず老けてるぜ。じゃあな。」
エドがドアを閉めようとするのをに、ラッセルは慌てて足を挟んで防いだ。
「お前なぁ〜〜っ。今日が大事な日じゃなかったらただじゃおかないところなんだが、だが、今はいい。」
「お前は良くても俺は良く無ぇんだけど。」
「俺の背が高くて首が痛いからか!?」
今度は左足から繰り出された蹴りを避け、ラッセルは腕を組んでふふんと嗤った。
「陰険な奴だぜ。」
「お前こそ態と機械鎧の方で攻撃してるだろう!」
「当然だ!お前や大佐といったヤツラには一襲渾身だ!!それより用ってなんだよ。聞いてやるぞ。」
「偉そうに‥、まぁいいが。聞いてくれ、エド。赤い石ができあがったんだ。」
「!お前、まだ!?」
「違う!町の緑化の傍らで安全第一に研究したんだ。見ろ。」
ラッセルの右手には小振りながら赤い石が輝いている。
「そうか。」
エドは優しい顔で石を見つめ、きっぱりした顔でラッセルを見た。
「やったな!おめでとう。」
「ありがとう!兄さん。」
「‥兄さん?確かに年下らしいが、お前に兄さんと呼ばれる筋合いは」
「アルフォンス、気に入ってくれるかな?」
左手で頬をおさえてデロデロするラッセル。
「‥おい、アルって」
「世界に1個の結婚指輪、俺の想いの有りっ丈を込めてアルフォンスに‥」
「許さ〜ん!!!!」
エドの機械鎧によるトリプルコンボが炸裂する。
「ふふふっ愛の前に武力など無意味‥」
血まみれではいつくばりながらも、顔を上げるラッセル。
「悔しかったらお前も賢者の石を造ってアルフォンスに求愛してみれば良い。。アルフォンスがどちらを選択するかは明白だがな。」
ニヒルな笑顔で前髪をかきあげるラッセル。金髪に血が映えて‥いるかどうかは不明である。
「ぶっ殺す〜ッ」
「こんにちは、フレッチャー。久しぶり、元気そうだね。良かった。」
「こんにちは、アルフォンス。アルフォンス達も元気‥そうで良かったよ。」
鎧に元気も無く、言い淀んだフレッチャーにアルは気付かないフリをした。
「楽しそうだね、あのふたり。石、できたんだ!?頑張ったね。」
「うん。兄さんがどうしてもって。」
「兄さんからかうのは楽しいからなぁ。」
「それだけとも言えないけど」
フレッチャーは苦笑すると、アルを見上げた。
「ねぇ、アルって呼んでも良い?」
「大歓迎だよ。」
今日も長閑な錬成世界である。
(からかい半分、ラッセル君の明日はどこへ?笑)
2004/6/2
「ちょっと聞きたいんだけど。」
カウロイ湖・ヨック島に張り詰めた空気が震える中、ずずずぃとウィンリィに迫られ、エドは仰け反った。
「なんだよ、改まって‥、いや!それより状況分ってんのか?お前っ」
ウィンの勢いにラースと拳を交えているアルもそしてラースも、ピタッと動きを止めてこちらを見ていた。
「あの子、あんたの手と足を持ってるって言うんでしょ!?」
指をさされてラースはいっとした顔で詰り、アルは思わずコクコク頷いた。
「あんたの手と足があれば錬成できるって事よねェ。だったら‥」
ウィンはエドの鼻先に右人差し指をつきつけた。
「エドの頭は錬成に必要無いの?」
「‥‥、はい?」
「錬金術って〃理解・分解・再構築〃だと聞いたけど、そんなの関係無く錬成してるのよね、君。」
アルとラースは顔を見合わせる。
「どうなの?」
「はい!理解してません!」
「確かに、錬成してる意識も無いから困った事になってたし」
直立不動でラースが答えれば、アルもラースの行動を思い返す。
「それだったら、頭って言うか知識より遺伝って事よね。エドが錬金術できるのは、お父さんが錬金術師だったからって、お父さんに似たっておばさんも言ってたし。」
「アイツは関係無ぇッ!」
「でもあの子、錬成してるじゃない。あんたの手足で。」
「そ、それは‥」
「わたしもエドの手足があれば錬成できるのかな?」
顎に指を当てウィンは小首を傾げた。可愛い姿だが要っている事は恐ろしい。
「お前‥、わっ。寄るな!」
ずざざざっと後に下がるエドを尻目にウィンはアルへと向き直った。
「アルはどうして錬成できるの?」
「え?」
「アルは今、遺伝子(体)を持ってないわよね。魂で錬成してるの?それは〃理解・分解・再構築〃になるわよねぇ!?」
「え〜っと、その」
「お前、なに考えてんだよ。」
開き直ったエドに、ウィンは手を腰に当てた。
「だって、矛盾してるじゃない。あ、分った!あの子、手足だけじゃなくあんたの頭の一部も」
「ぎゃぁ〜ッ。そんな怖い事言うなぁ〜!」
半泣きのエドにアルとラースも青ざめる。
「それともあんた、エドの偽者なんじゃない!?」
「何を言い出すッ」
「え?そうなの?兄さん。騙してたの?}
「ちが〜う!アルーーーーッ、落ちつけーーーッ」
『‥‥、破門だな。』
繰広げられる漫才を見ながら、イズミは一人呟いた。
(調べても錬金術はやはり理解・分解・再構築からなると思うのですが:笑)
2004/5/30 第32話(釘宮voiceでお願いします)
「アル、ダメッ。」
カウロイ湖、ヨック島の森に震えるウィンの声が響いても、今のアルには届かなかった。
「兄さん、ホムンクルスは錬金術が使えないって言ってたよね。でも、コイツは違う。その秘密が分ったよ。コイツの右手と左足が輪を作ると体の表面を別の物質に錬成する事ができる。体が変化するのはホムンクルスだから‥でも、錬金術ができるのは‥」
アルの言葉に、イズミが顔を伏せる。
「そこだけはエドの手足だからか。」
エドの右手左足を持つラース。決してラースがエドから奪ったわけではなく。たまたま真理の門で落ちてきたソレを手に入れただけだ。手に入れたかっただけだ、光の世界を。戻りたかっただけだ、閉じていく門の向うで自分に手を差し出していた人の元へ。
だが、願いは不要になった。人の命の味を知ったから。願うより奪えばいいと分ったから。光の世界には怒りしか持てないと気付いたから。
そしてアルも決意していた。目の前の子供の手足が、兄のものと分ったときに。
「返せよ!それは兄さんのだ。兄さんの腕と足だ!返せッ!!」
打ちこまれた拳に迷いは無かった。そして、ラースの気持ちも、もう戻りはしなかった。
「みっともない機械を取り除いて、僕にちょうだい。体を!」
「こンのぉーっ」
「兄さんは手を出さないで!」
珍しいアルの絶対的な叫びに、エドの動きが止る。
「アル?」
声も出せないエドのかわりに、問い掛けたのはウィンで。
「僕が、取り戻すから‥」
「取り返すって‥止めて、アル。ダメよ。その子は、イズミさんの」
『違うウィンリィ、アルは!‥アルは分って、それでも!俺のっ為に‥』
恐慌でエドの体がガタガタ震え出す。
「止めろ!ふたりとも。手を出すな!これは私の‥私の罪だ。」
「それは聞けません!」
キッパリと返され、イズミは気付いたようにアルを見た。
「アル、お前‥」
再び、ラースに向かおうとするアルの前に、エドが立ち塞がった。
「どいて!兄さん。」
「いいんだ、アル。お前がこんな事しなくたって、俺が‥」
「兄さんは駄目だ!師匠も‥。僕が取り返すから!」
「取り返して、お前はどうなる?」
エドはゆっくりとアルに近寄ると、両手を鎧に回した。
「お前が人を傷付けると分ってて、放っとけるかっ!」
「何言ってるんだ。アイツはホムンクルスなんだ!」
「そうさ!ホムンクルスだ。ホムンクルスなのにッ。お前はッ!」
「どういう事?」
よく事情の見えないウィンに、イズミは悲しげに笑った。
「この馬鹿は自分で傷付ける事に罪悪感を持っているから、他の人間にやらせたくないんだ。ホムンクルスだって生きてると、生きていて良いと思ってるから。エドの手足を持っていなかったら、私がこの子を殺そうとしても止めただろう。」
「それは‥」
アルは小さくなる声に一度首を振った。
「それは仮定に過ぎません!」
成り行きを見ていたラースは身を翻すと森の中へ消えていく。
「取敢えず、追おう。手がかりが分るかもしれない。」
エドはアルから手を離すと、むせ返る緑の中へ走り出す。
『ごめん。ごめん、アル!お前にそんな決意をさせるなんて、俺は‥っ』
後に続くアルの気配を感じる事に、まだ感じていられる事に、エドは安心する。
『よかった!アルに傷付けさせなくて‥。よかった。アルの心が未だ無事で』
傷付けていたら、アルは一緒に心も壊してしまうかもしれない。
この弟をも失ってしまったら、自分はどうなるんだろうか?そんな考えが過ぎって、エドはスピードを上げた。
『迷うな!弱気になるな!俺はもうなにも、無くすわけにはいかないんだ。』
森を抜けた砂浜にラースの姿は無かった。
『あの女の人‥』
いつのまにきたのか、砂浜に立つ大総統にお辞儀をしながらアルは思う。
『僕達が失敗した錬成は、どうなったんだろう?』
「師匠の事は内緒だ。」
イズミ達の元へ戻るエドの背を追いながら、後に付いて来る気配の無い事を確認し、アルはやっと息をついた。
『あの子、逃がしちゃった。』
拳を向けた自分の右手を、アルは握ったり開いたりしてみる。
『ごめんね、兄さん。僕、良かったと、心のどこかで思ってる。ごめんね』
願わくば、誰も傷付けずに元に戻れる方法を。
「薬を取りにいってくれ。」
イズミに教えられた場所で、迎えてくれた婦人。
「等価交換は錬金術の基本。」
そう言って、安心させてくれたダンテはふたりに微笑んだ。
「光のホーエンハイムも賢者の石を探していたわ。」
「アイツの事なんかどうでもいい!」
兄さんは席を立ってしまったけど、だけど。
『兄さんを元に戻せるなら、父さんに頭を下げたって‥』
あの子供を傷付けるより、ずっといい。
人を、それがホムンクルスでも。殺す決意を乗り越えたアルの決断は早かった。
「あの、ダンテさんは父さんの居場所をご存知なんでしょうか?だったら」
廊下に渡った悲鳴。
「アルフォンス・エルリック。悪いが我々と来てもらおう。」
新たな展開。見知らぬ人々。
思い通りにいかない道に、アルは立ち向かえる決意を今は持っていた。
(ウチのアルならこんな感じかなぁ。っていうか、こんなンしない事大前提だけど。スンマセン。人じゃないから殺すのではなく、人であっても兄さんの為なら殺すぐらいの気迫持ってたり(笑)。裏の怪物が後向きなら、5/30編は前向きに殺人なアルだね、これでは(爆)。セリフ云々は置いておいて、カッコ良かったですな、アルフォンス君。釘宮さんぶらぼv)
2004/5/26
ロックベル家の裏庭、薪割りをするアルにウィンは声をかけた。"見ていたいの"と。
薪割が終るまでずっと、じっと。ウィンはアルを見ていた。
「ねぇアル。」
「何?ウィンリィ」
「エドの事はわたしに任せて!」
突然の宣言にアルの手が止った。斧が腕から滑り落ちる。
「元に戻るまでずっと。一生でも!フォローするから。」
「‥うん」
ウィンの輝く瞳の強さが眩しくて、アルは瞳を細めた。鎧だから実際眩しいわけじゃなく、その強さに憧憬と尊敬と安堵と一抹の寂しさを感じて、アルフォンスは現実から目を閉じて深呼吸する。
覚えている風の匂い。温かい手。柔らかい髪。
懐かしい空気で鎧を満たすと、アルは現実に向かって微笑んだ。
「よろしく頼むよ、ウィンリィ。」
「まかせて!」
ウィンは胸を叩くと、そのまま胸元で拳を握った。
「ウィンリィ?」
ウィンの急に元気がなくなったようで、アルは心配になる。
その声にウィンは首を振った。握った拳を開き、アルを軽く押す。
ビクともしない体。自分の手を感じてもくれない体。
ウィンえは触れない、体。
泣きそうになって、ウィンは下を向いた。
「ウィンリィ、大丈‥」
「だからあんたは‥」
怒ったようなウィンの声にアルはビクッとする。
「あんたは一生、エドにフォローされなさい!」
「‥‥え?ええ〜〜?それってずっと戻れないって事!?」
アルの情けない声にウィンは吹き出した。
「ウィンリィ〜!?」
だって仕方ない。アルとは別の意味で、エドも好きだもの。大事な同士だもの。
大好きなアルと大事なエドなら、幸せになって欲しいもの。
「さ、エドが騒ぎ出す前に薪を片付けましょ。」
「え?あ、ちょっと。ぇえ!?」
くるくる変るウィンの表情に真意が掴めなくて、アルはウィンの手を取った。
「ウィンリィ。」
「ア‥ル‥」
そこへ屋内からエドの呼ぶ声が響き渡る。
手が、離れる。
「アル、競争よ!負けた方がトイレ掃除ね。」
「ああ、ちょ‥だって薪が。ウィンリィ〜!?」
エインは笑って、アルの元から駆け出した。
(ロイエドの友人がリザアルなら読めると言ったので思ってしまいました。あれ!?)
2004/5/23
「鋼の弟って、知覚無いんッスよね!?」
「‥そう、聞いているな。」
珍しく自主的に、ロイの執務室にやってきたハボックの開口一番に、ロイはサインしていたペンを一瞬止めたものの、顔すら上げず相槌を打った。
「性的欲求ってのは、あるんですかね」
ロイはやっと顔を上げ、不信そうな視線をハボックの顔に当てた。
「‥現状を照らし合わせれば無いだろうな。」
複雑な感情を自覚してない、自覚したく無いようにロイは少し不機嫌に答えた。
「セクシャルハラスメント、したらどうなるんでしょう!?」
「‥‥、は?」
「セクシャルハラスメント!略してセクハラ。」
ロイが半眼になるのも気に止めず、ハボックは一服灯した。
「実際。どーこーできるわけじゃ無し、減るモンでもない‥、大佐も気になりませんか?あの兄弟の性生活。」
「男の性生活に興味があるのか、お前」
「でもアルフォンス、現状男じゃないでしょ。」
「キャスリン・アームストロング嬢に何か言われたのか?確か彼女は筋肉質な男性が好みとか!?(春よ恋参照頂けるとありがたいです)」
眉をピクピクさせ唸るハボックを、ロイは楽しげに見た。
「まぁいいだろう。私にも考えがあるしな。」
「ご用って何ですか?大佐!?」
エドを待って中庭にいたアルは、ハボックに呼ばれロイの執務室へやってきた。
表情こそ鎧のままだが、アルのにこやかな声にロイは些か気後れする。
『まったくこの人は!女と可愛いものに弱いんだから。』
ハボックは頭を掻くと鍵を閉め、アルの直後ろに寄った。
「エドワード"君"ってさぁ、朝起きるとやっぱアレなの?」
「あれ?」
「そう。アレ!」
そこへロイの机からペン立てが飛んできてハボックは強かに顎を打った。
「大丈夫ですか?ハボック少尉!?」
自分を助け起こそうとするアルに、いやなにより机の向うから叩き付けられる怒りの視線にハボックは質問を変えた。
「エドワードって自慰してるのか?」
今度は机の引出しが飛んできてハボックは這いつくばった。
アルも今回はハボックを助け起こさずじっと見下ろしている。
『ヤバかったかな(汗)?いやしかし健全な男子ならそーゆー話題もする年頃だろう!?』
ハボックが内心焦っている間に、ロイは清々しくアルに話しかける。
「済まないな、アルフォンス君。実は最近鋼の行動が過激なのでね。生態、じゃなかった。生活状況を極秘で検分する事になったんだよ。それで君に来てもらったんだ。」
光まで撒き散らしそうな笑顔でロイが言葉を紡ぐにもアルは黙ったままで引き出しの中身を戻すと、ロイのところへ持っていった。
「してると、思います。兄さんだって健康な15歳だし‥」
「あ、自慰は分るんだ。じゃ、朝‥」
逃げるヘボックめがけ飛んできた椅子はアルが受け止め、ロイのもとへ返した。
「知って、います。医学書は読んだ事があるので。」
「手伝えとか言われないんか?」
庇われた事で図に乗ったハボックがアルの肩に手を置くと
ジュワッチ
アルの戻した引出しが、机の上で消し炭になる。
「大佐?」
アルとハボックが伺うと、ロイは鋭い眼光を上げた。
「鋼のは君に手伝わせているのかね!?」
『ぎゃ〜〜っ恐い〜〜。』
ハボックはアルの後に隠れ、アルもはじめて見るロイの様子に途惑う。
「あのっ、僕にはそういう感覚が無いのでよく分らないけど、その、女の人に迷惑をかけると‥かしてるわけじゃないし、兄さんはよく我慢していると思います。自分でコントロールして‥えっと、性に関する面では。」
アルに自慰を手伝わせている事を問題にしているロイへ、自慰自体を咎められていると思ってるアルの返答は微妙にずれて。
ロイは大きく深呼吸すると平静さを取り戻した。つもりだった。
『大佐、手、震えてますって。』
ハボックは心中苦笑を浮かべながら、質問を続けた。
「しょっちゅう手伝ってんの?」
更に机も消し炭となる。
「しょっちゅうって、‥兄さんも見られたく無いようだし、だから」
「んじゃ、手伝わされてないのか?」
「それは‥‥、」
言葉を濁すアルに、ロイが我慢できず迫り寄ったその時、
「何をされてるんです?おふたりとも!」
消火用の斧で扉をぶち破り、ホークアイが登場する。
「いや俺達は!」
救世主というより死刑宣告人の登場に、ハボックがロイをみやればロイも先ほどまでの怒りはどこへやら
「うむ。少し鋼の行動に行き過ぎがあるのでアルフォンス君にだね‥」
にこやかに冷や汗を浮かべる。
「そうなの?」
斧を左手に持ち替え右手で銃を抜いたホークアイが、アルに尋ねる。
「あー、あの‥」
アルはチラッとロイとハボックを見て、ホークアイに頷いた。
「そうですか。おふたりがアルフォンス君を拉致したと聞いたものですから確かめに来たんですが。」
確かめるのに扉ぶち破るかい!?
悲しいかなそんな突っ込みが出来る者はここには一人もいなかった。
「済みません。ちょっと兄さんのプライベートな事だったんで、大佐が内密に聞いてくれたんです。」
いー方向に解釈してくれるアルフォンス君はまさしく天使だ!
ふたりの男に天光が降り注ぐ。
「大佐、本日分の"溜まってしまっている"仕事です。」
ドサッと書類を置くとホークアイは踵を返した。
「おふたりとも!疑わしい行動は慎まれた方が良いと思います。失礼、します。」
部屋を出る瞬間、振りかえるとそう言い置いて、半壊した扉を閉めホークアイは去っていった。
「済みません。忙しいのに兄さんのことで仕事を増やしてしまって」
「なぁに、このぐらい軽いもんさ。君と有意義な時間を過ごせるのだからな。」
『今夜は残業かぁ。帰れそうも無いなぁ。フュリー辺りも巻込むか。は〜』
歯を光らせて笑うロイに溜息を付きつつ、フュリーに電話を入れておく。
「しかしここでは落ちつかんな。場所をかえるとしよう。」
ロイは顎を撫でながら場所を物色し、そして選んだその場所は
『大佐ッ、ここはちょっと不味いんじゃ‥』
仮眠室。部屋の隅にはソファベッドがしっかりくっきり置いてある。
「済まなかったね、アルフォンス君。続ける前にひとつ忠告をしておこう。鋼のが理不尽な事を言った場合は必ず全て却下する事だ!いいね。」
「えっと、ご忠告ありがとうございます。でもあの、そんなに兄さん、理不尽な事言わないですよ!?」
ロイはアルの言葉に自分の甘さを思い知った。
『おのれ!すり込んでいるなッ、鋼の!』
ロイは手を振りかざすとビシッと指差した。
「いいかね、アルフォンス君。鋼のヤツは言葉を取り繕って、君に拒否させないよう持ちかけているのだ。騙されてはいけない!でないと、何をされるかわからんぞ!」
身振り手振りの力説を黙って見守った後、アルはすっごく優しい声をロイにかけた。
「大佐は。兄さんの事、買ってくれてるんですよね。ありがとうございます!」
ロイは意表を突かれ動きを止めた。
「‥何故そうなるのかね?」
「だって。良く分って下さってるじゃないですか。」
嬉しそうな声で言われ、ロイは否定も出来なくなった。
『まいったな』
信頼してますと全身で表現されて、ロイは力を抜いた。
『まったく。子供には敵わない。』
爽やかな敗北感にロイが包まれるのを見て取ったハボックは、首を振って大げさに息を吐くとアルに向き直った。
そもそもの目的。それを遂行するべき時は満ちた。
エドワードの性生活などこの際問題ではない。
「アルフォンス‥」
ハボックは紙袋からポルノ雑誌を取り出すと、アルに渡す。ロイも自分の目的を思い出し、咳払いして体勢を立て直した。
「どう思う?」
不潔だと拒否するか、初々しく恥ずかしがるか あるいは 女体の神秘にのめり込むか
ロイとハボックは息を呑んで見守った。
アルがページを繰る音だけが室内を支配し、その独占は唐突に終わりを迎えた。
「えっと、どう答えれば‥?」
雑誌を返すアルの予想通りだが期待外れの反応に、ハボックが意気込む。
「だから!この娘が可愛いとか、この金髪がそそられるとか、好みはグラマーとか、あるだろ!?」
激しくページを捲りながらハボックが指差すのを、アルはぼ〜と見ていた。
「好みの人はいないです。」
「そーじゃなくて!コーフンとかしないのかよ!?」
何時もはほのぼの感じるアルの反応も、今は余裕をかまされているようでなんか悔しい。
頭をかきむしるハボックを除けて、ロイは雑誌を丸めた。
「不潔だとは思わないかね?鋼がこーゆー本を見ていたら!?」
「そーだぜ!エドのおかずはいったいなんだ?まさかお前にこーゆーポーズとか」
「そーなのか!?アルフォンス君!!!」
アルが言葉を挟む間も無く、想像が妄想を呼び、悲鳴をあげだす大人2名。
「あの、僕がこんな格好しても、ただの鎧ですよ!?」
オブジェと自分を指差すアルにハボックは手をかけた。
「やってみなきゃわかんねーだろーが!」
思い出したはずの目的はたくさんの枝葉をつけ、すっかり変わり果てたようだった。だが、それすらも自覚できず、ハボックはアルを大股開きに座らせると(他のポーズは鎧の構造上できなかった)、少しだけ前布を捲り上げた。
フラッシュが走る。
【止めて下さい!少尉‥】
可愛らしいアルフォンスの声が、心細く震え‥たりはしなかった。聞こえてきたのは
「俺のアルに何してやがる(怒###)」
ドカっ
アルの股座に屈んでいたハボックは自分の置かれた状況を一瞬で理解した。
『大佐ぁ』
視線で捜してもどこにもロイの姿は無かった。
『俺はピラニアのいる川を渡る為の捨てエサですかい(涙)』
かくしてハボックの、とある人物から言い渡された極秘任務。”恥らうアルフォンスに<困りますぅ>と言わせる”大作戦は無情に崩れ去った。
『昇級どころか俺、減給(爆涙)いやそれどころか降級かも(死)』
そんなハボックの身上に更生の(嫉妬とも呼ぶ)鉄槌が振り下ろされた。
一方
『勝利のポイントは引き際だ!』
以前からサボる為に仮眠室に秘密裏で作っていた抜け道に、カメラ片手のロイの高笑いが響く。
「待ち給え、マスタング大佐。」
「だ・大総統〜?どうしてここが」
「軍の全てを掌握してこその大総統なのだよ。そのカメラ、渡してもらおうか。」
「大総統のご命令でもそれだけは!」
「ホークアイ中尉に、君がたった今撮ったアルフォンス君のあられもない姿の写真が収められている事をばらされるより、大人しくカメラを渡してアルフォンス君のポスターを貰える道を選ばないかね?」
「お願いします。」
ロイは知らないがハボックに命令を下した元凶・ブラッドレイにカメラを差出ながら、ロイは詰めの甘さを噛み締めたのだった。
怪しい商売が軍部で横行したのは言うまでも無い。
(やはりノリで書くものは一気に書かないと勢いが減速する事判明←何を今更;笑)
2004/5/21
「お前等ってサぁ、ずっとふたりだったんだろ!?厭きないわけ?」
将棋の合間にそんな事を聞かれ、エドはきょとんとした。
「ンなわけ無ーだろ。」
「そうですよ、ブレダ少尉。こんなに仲良い兄弟なんですから。」
「そーゆーけどな、フュリー。事情が事情だから一緒にいるわけで、こんな状況じゃ無かったら、アルフォンスなんか今頃そこらの女の子と‥」
ガラガラガシャ〜ン
将棋盤が机から落ちて駒が床に散らばった。
「"アルフォンスなんか"とはなんだ!"アルフォンスなんか"とはっ!!」
胸倉を引き寄せ唾を飛ばすエドから顔を背け、ブレダは半眼流し目をエドに向けた。
「‥ソコに引っ掛かるか?普通〜。」
「エルリック兄弟ですから。」
「フュリー、それもヘンだぞ。あ〜ぁ、王手だったのに‥」
鼻息荒く休憩室を出たエドは後手でバンと扉を閉めた後、急速に項垂れた。
【お前等ずっと一緒だったんだろ!?厭きないわけ?】
そんな事、思いもしなかった。
ケンカするのか?と問われれば、当たり前だろーっって答えられる。
ケンカするほど仲が良い。
ケンカしたって仲が良い。
だけど
『アルは飽きてるんだろーか‥。俺に飽きる事があるとしたら?』
エドは口元に左手を当て眉を寄せる。
呆れる事は、多いよ、な。
でも、でもっ。呆れる事と飽きる事は違うよな!?
考え込みながら歩いていたエドは何時の間にか司令部の出入り口に辿り着いていた。
「あ、兄さん。用事は済んだの?」
待っていたアルはブrダの仮定のように囲まれていた。猫に。
『本当だったら囲んでいるのは猫だけじゃなくて‥』
キツイ突込みを言っても裏が無く、人当たりの良いアルは近所でも可愛がられていた。その人当たりのよさも‥
『鎧の姿では発揮しきれない』
外観に囚われずアルの優しさに触れてくるのは、動物だけになった。
『ゴメンな、アル。お前怒るけど、やっぱり我慢できない!本当だったら、お前、今頃‥』
ここはひとつ、兄としてアルフォンスの良さをピーアールせねば
エドは固く拳を握る。
「兄さん?どうかした?」
自分を見つめたまま拳を握るエドの様子をいぶかしんで、アルは小首を傾げた。
『やっぱ、動物だけでいーよな!アルの良さを分るのは。』
アルの仕草に、エドの固い決意はデレ〜ンと緩んだ頬の筋力と一緒に解けてしまったようで‥
後日、司令部の用事がブレダ達との賭け勝負とアルにバレて、思いっきりエドは呆れられたのだった。