幕間−×月○日1240−舞台上手

                                                                                                 

「ねぇ…ちょっと聞いて良いかなぁ?」

「ん?なんだい?」

教室の窓から外を眺めていた、ように見えるが実態は不明の生徒会長は穏やかといえる表情で、メディア委員長を振り返った。

「最近、いい事あった?うーん、違うな。悩み事がある?」

「言ってる事が難しいね」

笑顔に変わりはないがそれなりの付き合い、共犯者の域まで達しつつある稲垣ひかるにはそれが苦笑である事がわかった。

「良い事だけど手を出し辛い、といったトコかな」

津守八葉は鋭いなぁと肩を竦めると再び窓の外へと視線を向けた。その先には

「いい味出してきたわねぇ、守山さん」

「やっぱりそう思うかい」

「メディア委員としては目が離せませんね」

「僕らにもいい傾向だと思うんだけど、条件がね」

いい味の調味料を揃える事が問題。

「生徒会の役は、簡単に増やせませんしね」

「クラスも違うから、きっかけも無くてね…」

「守口君のように屋上は拙いけど、果し合いを計画化するとか。スケジュールなら作成しますが」

「統原君はなかなか搦め手が聞かないからなぁ。せめて村田君だけでも」

「村田君かぁ…、文化祭がチャンスだけど確か彼はクラブ活動してないと思うし…。イベント性のある企画を作って随時進行報告してもらうとか」

普段からは想像もつかない速さで生徒会長は振り向いた。

「それ!いいね。ちょうどやりたい事があったんだ」

「でも、これだと守口君には効果ないでしょうね」

「いや、京一は統原君との1件以来闘争心煽られて、体育祭においても随分前進していると思うよ」

「おや、それは新たなめでたい情報と言う事で!?」

「新た、でもないんだけどね」

 

幕間−×月○日1241−舞台下手

 

「今回は決闘…ではないんですね」

「……、決闘より馬鹿らしいんじゃない?」

守口京一の声を感じ足を向けた先には、案の定憤る主君とどこ吹く風の転校生がいて、かなり虚しい一方通行的口論を繰り広げていた。その横に参戦していたのか傍観していたのかただの通り掛かりか、その全てに当てはまりそうな守山那由多が冷めた目で立っていたので、念の為峯尾晴美は確認を入れてみたのだ。更に傍らではわずか数日でもう慣れたのか、村田始が苦笑している。

那由多は晴美を見てから、視線を竜虎二人にずらし、冷めたように言い放つと足早に校舎へ入ってしまった。

『あ…』

気配には敏感な晴美は、那由多の様子に僅かな戸惑いを感じ、そっと村田始を伺い見た。

「まぁ、いろいろあるでしょ。大変だもんね」

何処まで解っているのか、村田始はさらりと流した。晴美は日常の中心に京一を置いているので、それが例え京一の不興を買ったとしても彼の益・不益で他人や状況を捉えてしまう傾向があり、村田始も統原無量へのストッパーとしての認識が強かった。

『会長達が彼に一目置いたのはこういうところだろうか』

おそらく天網の全てを解ってはいないだろうが、彼には不思議と安心感がある。知ろうが知るまいがそんな域では測れない、本質的な安定感が。

『だから那由多ちゃんは安心できるんでしょうね』

自分は京一にそんな安堵をもたらせないだろう。

「どうした、晴美?」

気付けば京一と無量が自分を見ている。

首を振ってお辞儀をし、那由多のように足早に立ち去った。その後姿を見つめるしかできない京一を残し、無量は始を促して帰途へつく。

「なんていうか…」

頭をかく始に無量はさらりと言い流した。

「不器用。更に手を貸しても馬に蹴られるケース、かな」

「だね。でも、あちこち大変で。あ、無量君もそうだね。まぁ僕はどうする事もできないからのんびり見物させて貰うけど」

「…だといいね」

始の言葉に無量は複雑に微笑った。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                 



「昔の映画じゃないけどさ、宇宙人の侵略ってもっと緊迫感がある気がするけど、なんかね」

「他の都市には緊迫感あると思うけど、村田君には関係なさそうだね」

「それ、鈍いって事!?」

「いえいえ、大物だという事で」

軽いジャブの応酬は、考えてみると会ったその日から成り立ってたようで。

『無量君が家に来るのも当たり前な感じになったよな』

「でもさ」

無量君は注意の引き方を心得ていると思う。いったん切られた言葉の続きが気になって、双葉が“無量さんには双葉が選んだ取って置きのケーキを味わってもらうの”とまずは粗茶ですと出したジュース(どこが粗茶だよ)に口をつけたまま視線だけ彼を追えば、何時に無く真剣な顔をしていた。

「もし村田君がピンチの時は、必ず助けに行くから」

そしていつものように、にっこりと笑う。

どこまでが本気でどこからが冗談なのか。

『宇宙人来襲の時に僕一人にかまけてられないだろうし、ピンチも色々あるからなぁ』

ここはひとまず

「そりゃ、どうも…。ヨロシクお願いしマス」

こんなやり取りも平和なればこそ、と言う事で。

 

しかし扉一枚隔てた廊下は平和ではなかった。

『お兄ちゃんがライバル…』

手にしたお盆に並ぶ3種類のケーキの1つ、天使のババロアがフルフル震える。

村田始本人と違って、村田双葉は的確に意味を把握していた。

『あぁーっ。いくら無量さんでもお兄ちゃんを誘惑するなんて駄目だよ〜』

無量のする事なら何でも許してあげたいが、兄も双葉には大切な人なのだ。無量を想えば兄に宣戦布告したくなるし、兄を見れば無量に駄目だししたくなる。

『ようはあたしが無量さんとくっついちゃえばいいのよね〜ン』

瞳に星を輝かせ、村田双葉は戦場に突入していった。


らざる