「コイツ、どこまでの事が分ってるんだ?」
「全て。」
タッカーの答えに、ラストはうざったそうに髪をかき上げた。
「当てにならないわ。その証拠に、あなたの愛娘は瞬きすら出来ない。」
「人体錬成とキメラの合成は違う。キメラ合成は私の得意分野だ。妻のケースとニーナのケースの記憶の違い、それを錬成過程で比べて活かしたんだ。今まで学んだ言葉の記憶は残っているよ。」
感情の読めない面持ちでスロウスは訊ねた。
「エドワードの事は?」
「”エドワード”という意味は残っているよ。でも、兄というそれだけだ。エドワードが誰なのかは分からない。」
「つまり、俺がエドワードでも構わないわけだ。」
エンヴィーは面白そうにアルフォンスの頭を撫でた。
「さぁ起きろよ、アルフォンス。パーティーを始めようぜ。」
開いた鬱金の瞳は一度瞬きすると、エンヴィーの姿を捉えた。
「あの子はどうやって賢者の石を取り出すのかしら?楽しみだわ。」
アルフォンスの顎を持ち上げて、ダンテはうっとりと笑った。
リオールの内乱でアルは賢者の石となった。最初に手にしたのはエドと一戦交えた後、大総統の密命でその場に残っていたスロウスで、アルが目覚める前にダンテは賢者の石と化した鎧を砕くと、いずれ賢者の石を取り返しにくるだろうエド達に、面白い余興を見せる事にした。
アルの複製を作り、アルを砕いてその中に隠す事。
賢者の石となったアルに、もはや血印は奥深く隠れ。砕かれてもその魂は消えない。
砕かれた最後の一欠けらが消費された時、アルフォンスの魂がどこに行くのか‥。そんな事は彼らには関係なかった。
具合の良い事に、リオールでの死者行方不明者数は、指揮官のアーチャーが負傷した事もあり改めて調べられる事は無かった。たくさんの献体を手に、鎧の一欠けらと交換でタッカーは忠実にアル’を作り上げた。
リオールでの軍事侵攻を喰い止められず、やるせなさを噛み締めていたエドに届いたアルフォンス行方不明の一報は、エドから思考を奪った。
崩壊したリオールの街を駆けずり回り、日が暮れて迎えに来たロイ達に、エドは殴りかかった。
ロイを庇ってエドの一撃の前に身を乗り出したのは、ホークアイで、彼女を受け止め吹っ飛んだロイは、すぐにリザを抱き起こし彼女の無事を確認する。当たる直前でエドも気付いて勢いを削いだ為、殴られた痕は酷いが骨まで損傷はしていないようで、ロイは息をついた。
不本意にも女性を殴ってしまった事で一瞬力の抜けたエドだが、激情は収まらなかった。
「あんたをっ‥信じ‥」
ガクッと膝をついたエドは、上手く息継ぎが出来ないようで笛のように喉を鳴らした。
「大佐は‥でもアルフォンス君は、貴方が心配で‥」
痛みに唇を戦慄かせながら、ホークアイは必死で言った。
ホークアイの真摯な声にもエドは答えない。答えられない。
擦るように息を吸ったあと、咳き込んだエドはそのまま吐いた。食事をしていないので出るのは胃液ばかり。激しい咳は気道を傷つけ、黄色い胃液に赤い筋が混じる。
「エドっ」
リオールの終日を瞳に刻んで、戻ってきたロゼが慌ててエドの肩を抱き、背を叩いた。
「しっかり!息をして。エドっ。」
言葉を取り戻したロゼの叫びも、大切なものを見失ったエドには届かなかった。
「俺の手に、何が残ったんだろう‥」
連れ戻されたセントラルシティ。半狂乱から一転して、首を振るハボック達の、アルフォンスは見つからなかったという無言の報告にも、エドは反応しなかった。
母さんを生き返らせたくて、アルを巻き込んでホムンクルスを作ってしまった。その責任はとらなくてはいけない。そして錬金術師だから、スカーがやろうとしていることを止めたいと、そう思った。
だから、アルを置いていった。
だけど、ヒトとして大切なその思いは、俺にとってアルより大切なモノだったんだろうか‥
どうして俺は、アルと離れても大丈夫なんて思ったんだろう
「大丈夫だろうが。」
見透かしたように言い置くと、ロイは膝を抱えたエドの脇に立ち
「貴様がいなくても、鎧を壊しさえしなければアルは生き続けられる。そういう意味では貴様は不用だ。」
エドの胸倉を掴むと引っ張り上げた。
「それで、貴様はどうするツモリだ。このまま、うだうだと嘆くのか?」
まぁ、それもいいだろう とロイは手を放す。
「私は先へ‥ヒューズの真相を、この国をヒトの手に戻す先へと行く。ではな。」
力なく崩れた格好のまま、エドは呟いた。
「先なんて‥」
「エド‥」
慰めようとしたロゼの声より後方から、鋭い応え。
「あんた、やる事があったんじゃないの?」
「ウィンリィさん、、、あの」
止めようとするシェスカを振り切り、ウィンリィはエドをバッグで殴った。
「やる事があったから、アルを置いていったんじゃないの?それでっ‥今更、それを止めるの?」
ウィンリィは膝をつくとエドの襟首を掴んだ。
「あたしはっ‥‥、先なんて知らない。先なんて、今はどうでも良い。だから‥」
ウィンリィは息継ぎをすると、立ち上がって涙を拭いた。
「あたしは今を生きる。アルがいないのなら、アルを探す!諦めたりなんて、、絶対してやらないっ」
「‥‥‥前にさ、バリー・ザ・チョッパーに追っかけられただろ!?あの時、俺はニーナで頭がいっぱいで、何もさせてくれない軍が腹立たしくて、突っ張って‥でも本当は、何もできないガキだったんだ。そんな俺を、アル‥捜しに来てくれた。無力な俺を、僕が付いてるからって‥、俺はなんで、アルより優先しちまったんだろう‥?今度も‥アルは、まだ俺を捜しに来てくれるだろうか?」
「バカッ」
ウィンリィは立ち上がると、バッグをエドに投げつけた。
「捜しに来てくれないなら、探しに行きなさいよ!」
「どこへ?リオールをイシュバールの二の舞いにはさせないって‥アルにそう言ったのに、俺は、それすらできなかった。そのリオールに、アルは‥」
リオールを半壊させたのが、スカーの行った賢者の石錬成だと分っている。その中心にアルがキンブリーといたと、かろうじて逃げ延びた軍人が証言しているのだ。
「どこまででもよっ。地の果てだろうが地獄の底だろうが、見つかるまでどこまでもよ。」
「待って下さい。エドはホムンクルスや軍からアタシ達を助けてくれました。少し休ませてあげて‥」
割って入ったロゼに、ウィンリィは視線を向けなかった。
「それなら、胸を張れば良い。」
「え?」
「自分の行いが正しいと思うのなら、ちゃんと立って、そう言えばいいのよ。だったら、あたしもアルも、納得できる。」
「あの‥?」
ウィンリィはロゼに一瞬視線をくれると、またエドを睨んだ。
「リオールの内乱は、貴方達が起こした。それが正しいかどうかなんて、蚊帳の外の人間が言う事じゃない。アルがリオールにいたのなら、それはアルの意志でやった事。誰かがどうか、なんて事じゃないの。そしてあたしがアルを捜すのは、あたしの意志。だから、誰にも何も言わせない。」
誰が死んだと言おうと諦めるつもりはない。
冷たく言い切るウィンリィは、けれどとても美しかった。
「バリー・ザ・チョッパーの時、アルはあんたの暴走を止めたのよね。今度はどう?アルは止めたの!?止めなかったんでしょ!なのにあんたがその行動を悔いてるなら、ホント、アルは、報われないわ。」
やっと、エドは視線を上げてウィンリィを見た。
「あんたがアルを連れてリゼンブールを出る時、あたしに言ったわよね。必ずお互いの体を取り戻すって。それはあたしとの約束じゃなかったの?アルとの約束が錬金術師としての、けじめを付ける事だったら、付けなさいよ。俺は約束を守ったって、威張ってアルを迎えに行ってよ。アタシの約束、アルとの約束‥どっちを優先してもいいからっ」
「‥‥ウィンリィ」
ウィンリィは鼻をすすると、バッグを拾った。
「アルは‥待ってる‥あたし‥も‥あんたが‥約束守るのを‥信じてる‥から‥」
気が抜けてしゃくり上げるウィンリィはシェスカに背を撫でられながら、身を翻した。
「約束‥」
のろのろと立ち上がると、エドは三つ編みを結び直した。
「アル‥‥ 」
翌日、軍部へホークアイの詫びに訪れたエドは、ロイに北方遠征の指令が下ったのを知った。
「じゃあ、やっぱり‥」
大総統がホムンクルスである。エドとフュリーは目で頷きあう。
「大丈夫なのか?」
「北方はハボック少尉が纏めてるよ。大佐は‥」
計画を実行に出かけたと、フュリーはモールス信号を絵文字にしてエドに見せた。
「そうか‥」
「エドワード君は‥どうするの?」
「アルがさ‥」
目を伏せると笑ったエドに、フュリーは瞬きした。
「帰ってきたら怒るから、やりかけの事、終わらせとかないとな。」
「アルフォンス君は‥」
「ウィンリィが捜してる。俺も、ちゃっちゃと終わらせて、そんで俺が、迎えに行く。ウィンリィにだけ良いカッコはさせねぇ。」
でも、彼は‥
「そんな顔しなくても、大丈夫だから。」
「え、そ、そんな顔って‥」
正直だなぁ、出世できないよ。と、エドは笑った。
「‥、引き摺ってく。」
「え?」
「ふっ切ったりしねぇ。ずっと、けじめを付けるまで‥けじめが付いても、アルを見つけるまで、ずっと‥」
「エドワード君‥」
たくさんの言葉を言葉を飲み込んでフュリーは頷いた。
些細な事で躓くと言うけれど、些細な事じゃなかった。
人を助けたいと思った。
だけど強大な力の前に飲み込まれ、止める事が出来なかった。
もう誰も、死んでほしくないのに。
そう願って、ほんの瞬間手を離した隙に、大切なものが消えた。
『なのに彼は、探すよりアルフォンス君との約束を守る方を選ぶんだ。後悔を引き摺る覚悟で。』
フュリーは自分達の連絡先をエドに渡すと、ふと、先ほど耳に入った騒ぎを思い出した。
「そう言えば、偽エルリック兄弟が本屋で本を万引きしたそうだよ。」
「偽エルリック兄弟?‥、そっか、ありがと。フュリー曹長。あんたも気をつけて。」
慌しくかけていくエドに、
「君<達>もね。」
フュリーは祈った。
「懐かしい顔だな。相変わらずかよ。」
「違うっ、ちょっと、珍しい本が多いから、、、金が‥」
釈放されたトリンガム兄弟を、エドはホテルに招いた。
「金なら、肩代ってやってもいいぜ。」
「ホントか?」
「兄さん!」
咎めるフレッチャーに、心配するなとエドは笑うと、本題を切り出した。
「以前、赤い水の研究を親父さんがやっていたな。その情報がほしい。」
「<賢者の石>か?」
「いや、親父さんはゼノタイムを出てセントラルに居たんだろ?その時の研究‥」
「お前‥物騒な事に足を突っ込んでるな‥」
「物騒って分かるって事は、ビンゴかよ。」
「父さんの日記を見つけたんだ。それでここに来た。お前達に会えると思って‥、そういや、鎧の弟はどうした?」
「アルは‥」
言葉だけだとなんて空虚なんだろうと、エドは思う。
『アルがいて、はじめて名前の意味がある‥』
エドの様子に、ラッセルとフレッチャーは顔を見合わせた。
「エドワードさん、、、大丈夫ですか?」
「お前、顔色悪いっていうか、黒いぞ!?目は赤いし、、、老けたな?」
老け顔呼ばわりを根に持つラッセルのからかいに、エドは首を振って幻を散らした 。
「アルを迎えに行くのに、コイツが必要なんだ。」
誤魔化すようにエドは手早く日記をめくる。
「なんだ。三行半か~?」
まぜっかえしたラッセルに、
「だといいな。取り返せるから」
エドは薄く笑った。
辿り着いた教会は、無人なのに痛んだ様子は無かった。
べつに付いて来なくていいというエドに、ラッセルとフレッチャーは頑として付き添った。
『あんな顔で笑われて、放って置けるかって。』
トリンガム兄弟の監視に苦笑いしながら、エドは祭壇へと進む。
「あら~、随分やつれちゃってるねぇ、おチビさん。」
響いた声に、トリンガム兄弟は飛び上がった。
「ホムンクルス‥」
エドが睨むのに、中二階から祭壇へと降りたエンヴィーは鼻を鳴らした。
「おやおや、もう少し、人権を尊重した呼び方は出来ないものなのかねぇ。もう、俺達の正体、知ってるんだろ!?」
エドはラッセルに外へ出るよう目配せする。フレッチャーを抱き上げると、ラッセルはドアへと走り出した。
「兄さん!」
フレッチャーの非難にも、ラッセルは足を止めない。
「俺達がいても足手纏いにな‥る‥?」
「連れないなぁ。皆で賢者の石を造ってくれなきゃ、なぁアルフォンス?お前もそう思うだろ!?」
「アルフォンス‥だと?」
エンヴィーが動かした視線の先、エドが振り返るとラッセル達の退路を断つようにドアの前に佇むのは、記憶よりも少し大きくなった‥
「アル‥?」
「え?アルフォンスさん?」
「鎧から戻れたのか!?、良かったな。」
近寄ったフレッチャーとラッセルの足元が崩れ、ふたりは穴へと落ちた。
「ラッセル、フレッチャー」
駆け戻ったエドが見たのは床に開いた大きな穴から臨む地下都市。
「アル?」
「おいで、アルフォンス。」
エンヴィーの呼びかけに、アルはエドの脇を抜けていく。
「どういう事だ、そいつは‥」
「なんだ、弟も分らないわけ~?だったら、俺が貰っても文句は無いよなぁ。」
近寄ったアルフォンスの頬を撫でながら、エンヴィーはエドを横目で流し見た。
「アルに‥アルに触るな!」
「お前の<アル>なわけ?」
「ぅ‥ぁ‥、っ‥」
「アルフォンス、見ろ。」
エンヴィーの指にあわせて、アルフォンスがエドを見る。
「アレは、俺の命を狙う敵だ。」
「兄さん、の、敵‥」
「兄さんだと?」
目を見開くエドに、アルフォンスは向き直る。
「兄さんの、敵。」
「違っ、アルっ‥‥、アル?」
アルフォンスの手に、エンヴィーから銃が渡される。
「左足だよ、アルフォンス。」
笑うエンヴィーの声。躊躇い無く発射された銃弾は正確にエドの左足に当たり、撥ね返る。
「これはほんの挨拶代わり。オモテナシはこれからだよ、おチビちゃん。待ってるぜ。」
エンヴィーはアルフォンスの肩を抱くと、教会の床に開いた穴の中へ身を躍らせた。
大総統がホムンクルスであると知った時から、焔の錬金術師の肩書きを最大限発揮でき、邪魔の入らない場所を造るべく、ロイは外回りと称し外出すると、ちょこちょこ庭師を装って大総統邸に潜入していた。
『奴等の愚かなところは、力を過信するあまり身辺にたいした注意を払わない事だ。』
言い換えれば1対1で対峙すれば負けるという事を、ロイは皮肉に呟いた。
大総統が養子を迎えて1年。期せず大総統邸は子供の成長に合うよう増築していた。、対峙するに当たってこちらが有利となるような設計図のもと、作られた地下室。そして、今日の夕刻、大総統が帰宅する前に家人を他に移す
他への被害を抑えるように設計してあるとはいえ、相手はホムンクルス。
『大総統が帰ってくる前に家人を移さねばな。』
その手筈はホークアイがしているはず。
ロイは連絡先となっているカフェで、苦いコーヒーを口に含んだ。
「たい、、、じゃないヒラメ、、、ていうか、あああっ」
「落ち着け、ファ‥ふぁんふぁん、特種か?」
いい加減な偽名に職業だが、普段から女性問題と称し偽名を使っているロイには、その手の話とかが付けられる程度に目くらましになる。
「それが‥」
ふぁんふぁんこと、ファルマンはタイでもヒラメでもない大佐であるロイに耳打ちをした。
「!」
ロイの眦が上がる。
「フランソワーズには?」
「連絡しました。指示を待ってます。」
ロイは片肘を突いて、コーヒーに砂糖を山盛り入れスプーンでかき混ぜた。
「仕方ない。今日は見送ろう。」
ロイはコーヒーを一口啜ると、顔を顰めて苦い気持ちとともに大甘なコーヒーを水で押し流した。
エンヴィーの後を追って穴へと飛び込んだエドは、穴の下に広がった空間を見回した。
「この教会は、、、、いや、この辺りは人工的に作られた厚い地面の上に造られてたんだ‥」
今は頭上にある、人工的な地表面の下は巨大な磐が支える空間で、湿った土の匂いに満ちてる。
「!?」
一辺の磐の上がわずかに明るい。天井となっている岩盤と、磐の間に隙間があるらしい。
エドはその磐を手探りで何とか登ると、大人が四つ這いなら余裕で通れる隙間が続いている。
エドが明かりの方へと背を屈めながら進むと、突然視界が開け眼下に大きな街が広がっていた。
「これは!?」
大きな道路が街の中心から八方に伸び、崩れる以前ならばかなり整然と都市整備がされていたと伺われた。そしてその中心には、大きな鐘楼を備えた建物が存在を知らしめている。
『トリンガムさんが書き残していたのはこれか‥』
エドは自分が立つ磐の端へと目をむけた。そこには金網で囲われた階段が磐の中へと作られている。おそらく教会のどこかへと抜けるだろう。
エドは口元を引き締めると、磐を蹴って眼下に広がる都市へと飛び降りた。
当たり前だが地下都市に人影はない。建物だけがかつての繁栄を物語っている。
『アル‥』
失ったと思っていた者がここに居る。
『けど、あれはアルなんだろうか‥』
忘れる事なんてありえない、10才頃の懐かしい姿。
『アル‥っ』
だけど、そこに溢れる感情を隔てる何かがあって‥
「アルを見間違える事なんて無いと思ってたのに‥どうして‥‥?」
確信できない自分と、今、ここに居ないアルに、エドの指先が冷える。
「物思いかい?青春だねぇ~!?」
後方頭上から揶揄する気配を、エドは前転で交わしながら対峙できるよう向きを変えた。
「そんなに警戒する事、ないだろ?なぁ、アル。」
傷付いちゃうよなぁ、とわざとらしくアルの肩を抱いているエンヴィーに、エドは意識を向けられない。
エンヴィーが抱いているアルの姿だけを、食い入るように見つめる。
「穴開いちゃうぞ!?」
「‥‥‥」
エンヴィーは楽しそうに笑いながら手を叩くと、肩を竦めた。
「気になるなら、触ってみれば?」
「え‥?」
思いもよらない申し出に、エドは呆けた顔で視線をようやくエンヴィーに合わせた。
「なんだよ。べつに驚く事じゃないだろう?幻でもあるまいし」
エンヴィーはアルの手を取るとエドに向かって振ってみせた。
恐る恐るエドは歩を進め、そっと指先を伸ばす。その手が震えているのをエンヴィーはにやにやして見ている。
そっと、触れた瞬間。エドは拒否するように手を広げたしまった。
「?」
「?」
「‥‥‥」
自分の行動が、エドの反応が。信じられないようにエドとエンヴィーは顔を見合わせた。触られたアルだけが、何の反応も無く静かに佇んでいる。
「アル‥?」
【何やってるのよっ掴んだんなら離さず走れ!】
瞬間、幼馴染に叱咤が脳裏にフラッシュし、エドはアルを横抱きに抱えると、エンヴィーに背を向け一気に駆け出した。
「あ、このっ」
騙しやがったな
叫ぶエンヴィーの気配に、エドはエンヴィーの足止めを錬成しようとアルの様子を伺った。
「‥‥、アル?」
表情は無い、まるで人形のよう。生理的な瞬きだけが生きている事を示している。
「ア‥「アルフォンスっ」
エンヴィーの声に、アルの体がビクッと反応する。
「兄さ、ん‥」
「違う、アル!あいつは」
エドはアルを降ろすと、肩を掴んで顔を覗き込んだ。
「兄さん‥」
そこに表情は無い。ただ、兄を呼ぶだけ。
「アルっ」
エドは堪らなくなってアルを抱き締めた。
追いついたエンヴィーは、鼻で笑うと親指を逆さに振った。
「俺を騙した罰は重いぜ。」
抱き締める腕の中で、アルの手が振り上げれるのを感じながら、でもエドはアルを手離せなかった。
確かにアルなのだ。どんなに遠く感じても、人形のようでも!
曖昧でもアルの気配がわずかに感じられるその体を、エドは放す事ができなかった。
「馬鹿者、何をやっている!」
轟く叱咤。
「大佐‥?どうして‥」
「逃げ出したラッセル君達が知らせてくれたのよ。」
ロイの横でライフルを構えながら、ホークアイが答える。
トリンガム兄弟をとり逃がすなど、ホムンクルス達には考えられない。わざと逃がした。ここへ、ロイ達を呼び込む為に。それを承知でロイは来たのだ。
「勿論、勝算あっての事だ。私はそんなに甘くない。」
「よく言いますね。大総統を倒す為に積み重ねてきた今日の計画全てを壊して駆けつけたのに。」
「ふ、大総統を倒すのは私が頂点へ昇る為の一過程に過ぎん。まぁ私の余裕披露はこのぐらいにして、エド、呆けるな!アルごととっととこっちへ来い。」
エドははっとしてアルの振り上げられた手を掴むと、そのまま引っ張ってロイの元へと走り出した。
「アルフォンス。」
エンヴィーの呼びかけは余裕に満ちて
「掴まれてる手を捨てろ。そうだな、そいつみたいに肩からだ。」
呼びかけのままアルは握っていたナイフを反対の手で持つと、エドに掴まれている手を切り捨てた。
エドの目が大きく開かれ、唇がわななく。
声にならない悲鳴。
エドはアルと自分の手に残った腕とに、どうしていいか何が起きたか分らなくて、理解したくなくて視線を彷徨わせる。
そんなエドに一瞥の視線もくれる事無く、アルは肩から血を滴らせながら、エンヴィーの元へと走っていく。
その右足を、ホークアイは撃った。
「アルっ」
手に残ったアルフォンスの左手を抱えて、その切り口から流れる黒みがかった血を掬っていたエドの瞳から涙が流れる。
「中尉?」
流石にロイも眉を寄せる。
「取り返さなければ、元も子もありません。何をおいても、アルフォンス君を救出すべきです。」
「‥確かにな。おい、エド。アルフォンスを追え。奴に渡すな。」
「何言って‥中尉、どうして‥どうして‥‥」
「バッ‥」
ロイが怒鳴ろうとするとのホークアイが手で遮る。丁度アルがエンヴィーの手の中に戻ったのだ。
「分ったかい?アルは俺の元に戻る為なら何も恐れない。アルから俺を奪うという事は、アルを傷付けるってことなんだよ。」
エンヴィーは甲高く笑うと、アルを連れて建物の中に消えていった。
「‥‥‥‥ふん」
ロイは目を細めると、いまだ腕を抱いたまま座り込んでいるエドの元へ行き、胸倉を掴んで立たせると拳で殴った。
反動で転がったエドは、手から離れたアルの腕を手探りで探すと、再び抱きこんで蹲る。
「貴様の覚悟はそんなものか!?それじゃアルとて逃げ出しても仕方あるまい。」
「‥‥‥‥」
「必要なものの為なら、他は切り捨てろ。」
「‥‥‥‥」
「エドワード君。」
側に来たホークアイにも、エドは視線を向けなかった。
「エドワード君も、目が悪くなったら眼鏡をかけるでしょう?右手を失くしたから機械鎧だって付けた。」
「‥‥‥」
エドは虚ろな視線を上げた。
「アルフォンス君の左手が無いのなら、その代わりを貴方がしてあげればいい。足をなくすなら足の代わりを。アルフォンス君が生きていく手伝いをしてあげる事はできるはずよ。手伝えないのは、アルフォンス君である事。アルフォンス君の意志を取り返す事が、アルフォンス君を取り戻す事になるんじゃないかしら‥」
「‥‥」
「なんだ。アルの生きる手伝いはできないのか?」
「できるさ!拒否されたってする。」
「それじゃあ、いまだ座ったまま動かない手を抱えてるのは、アルの全てが揃わないと、アルじゃないと言う事なのかね!?」
「手足を失ったってっ‥目を歯を、顔を潰されたって、アルはアルだ。」
ようやっと、エドは立ち上がった。
「アルがアルである証。それはあの子の意思を受け継ぐ事だ。アルの望みは何だ?決してホムンクルスに組する事ではあるまい。」
エドの瞳に意志の光が戻る。
「無くしたものは私達が補ってやればいい。いまは、取り返すことが最優先だ。」
エドは力強く頷いた。
血の痕を辿って街を進めば、中央の建物に辿り着いた。
辺りを窺うロイとホークアイに首を振ると、エドは正面の扉を開いた。
中で、ライラの姿をしたダンテが3人を出迎えた。
「まったく‥ホーエンハイムが絡むと、役に立たなくなるんだから。」
溜息をひとつつくと、ダンテは面白そうに笑った。
「ようこそ。有望な錬金術師さん。賢者の石を造りに着てくれたのかしら?」
ピストルを構えたホークアイを、ダンテは軽やかな錬金術で吹き飛ばした。
「貴方は招かれざる客よ。大人しくしていなさいな。」
「中尉!」
駆け寄ろうとするロイと、倒れるホークアイの間を地中から出てきた柱が遮る。
「焔の錬金術師。あなたはアタシとお話をしましょう。ね、エドワード。」
同意を求めるようにエドに笑いかけるダンテに、エドはアルの左手を突きつけた。
「アルはどこだ?」
ダンテは馬鹿にしたように笑うと、指差した。
「ねぇ、その手。何か分る?」
「え?」
「分らない?じゃ、質問を変えてあげるわ。その手、何人の人間から造られてると思う?」
凍り付いていたエドは、弾かれたように自分の持つ手を見た。
「あ‥‥‥?」
「良く出来てるでしょ?キメラに弟の格好を植えつけてあげたのよ。」
「‥、な‥んだ‥て?」
「貴方は賢者の石を見つけられるかしら?」
「賢者の石なんてどうでもいい!アルは‥」
「バカね。まだ分らないの?」
ダンテは鼻で笑うと、錬金術で炎を操りエドの持つアルの腕を焼いた。
「!?」
慌てて火を消そうとして。エドはその腕の中から見覚えのある、赤い石を見つけた。石は床に落ちると元の赤い水に戻り、惹かれるままダンテの下へと流れていった。
「まさか‥?」
「そうよ。貴方の弟はリオールで死に、スカーによって賢者の石として蘇ったの。」
「スカー!?」
多くの命をその右手に宿し、リオールでスカーが賢者の石錬成の術を使ったのは、その発する光で知っていた。
「なんで‥アル?死んだって、そんな‥」
膝を折ったエドを、満足げにダンテは見下ろした。
「アタシは貴方の弟を哀れと思って、最期に貴方に会わせてあげたのよ。感謝して欲しいわ。」
「最期だと‥?賢者の石になったんなら、アルはっ」
「バカね。賢者の石はアタシが描くシナリオの基に作られた。あの子を生かす為にあるじゃない。そう。この後は、アタシが新しい体を手に入れる為にあの子を消費うだけ。」
自分が生き延びる為に魂を移し変える。その罪深き禁忌の為に何度も賢者の石は造られてきたのだと、ダンテは笑った。
「貴様っ、そんな事の為にこの国を、ヒューズをっ」
ダンテの妨害を炎で溶かし、ホークアイを助け起こしていたロイが、ダンテを睨みつける。
「ちっぽけね。そんな事。」
「アルは‥アルはどこだっ」
ダンテは笑ってドレスの裾を翻すと、四方にある扉のひとつへと向かった。
「どこもなにも、貴方が見たとおり、あのアルフォンスキメラの中にあるわよ。でも、アタシが使うより早く。仕込んだ赤い水ではなく、本物の赤い石を貴方は見つけられるかしらね。」
賢者の石であるアルは、キメラのどこかに埋め込まれていると、ダンテは歌うように告げ扉を開けた。
エントランスホールにたくさんの怯えた人々が雪崩れ込んで来る。手首に付けられたナンバーリングは彼らが囚人である事を意味している。
「そうそう、助ける方法はあるわ。アタシが貴方の弟を使わなくて済むよう、貴方が代わりの賢者の石を造ってくれればいいのよ。彼らだけでは足りないから、上の人達も使うのね。」
上の人。即ち、地下都市の上、セントラルシティとその周辺を。あるいは国ごと巻き込んで賢者の石を造れとダンテは言うと、扉の向こうへ姿を消した。
「助けてくれ。ここはどこだ?俺は何もしていない。」
縋りつく人々にエドは返答できない。
ドォンと言う爆音で入り口を吹き飛ばしたロイが、集められていた人々に逃げるよう指示を出した。ホークアイが彼らを出口へと率いる。
「殺すつもりだったか?」
我先にと逃げる姿を横目に、ロイは呟いた。
「‥‥もし、アルを奪い返せなかったその時は‥」
エドの力の抜けた手から、アルと思っていた焼け焦げた腕の残骸が滑り落ちる。
「どうするか分んねぇ‥」
「なに、お前はアルを裏切らんさ。」
それはエドならアルを助け出せるという事か、あるいはアルが望まない殺戮をしはしないという意味か
『どちらでもいい』
エドはロイに頷くと、再び床に残された血の痕を追った。
「なんだ、弟の為に賢者の石を造らないわけ?」
エドを待っていたようで、突き当りのテラスにエンヴィーとアルはいた。
「そういうお前は、あの女に賢者の石をくれてやりはしなかったんだな。」
怒りと悲しみ。欲と理性の中で静かになったエドに代わって、皮肉ったのはロイだった。
「そりゃ~な。だってさ、人間苦しめる為にダンテに協力してるけど、それはいつでもできるわけよ。けどさ、ホーエンハイムの息子を苦しめられるのは今しかないじゃん。」
「良い心掛けだ。」
ロイのエンヴィーに対する攻撃を、アルが身をもって防ぐ。
「酷いなぁ、アル。攻撃に容赦ないぜ。」
エンヴィーはリラックスした様子で手すりに座り足を組んだ。その前で、アルの体のあちこちから、タンパク質の焼ける、嫌なにおいが立ち昇る。
その様子を、エドは見つめていた。
「おいおい、その軍人さんに弟、始末させちゃうわけ?ま、ホントに殺るならもっと火力を強めないと生殺しだけどな。」
ちっとロイが舌打ちする前に、エドは歩み出た。
「そうでもないさ。」
「?」
静かな面持ちが一転、エドの顔に生気が戻り、瞳がギラギラとエンヴィーを睨んだ。
「アルっ」
「は?」
「アルフォンスっ」
「なんだよ、呼びかけ?」
隠してあった闘志が一気に飛び出たような様子にもかかわらず、ただ呼びかけるだけのエドに最初は身構えたエンヴィーも、呆れたように頬杖を付いた。
「アルフォンスっ」
「だからさ‥」
「アルっ」
「‥‥‥」
「アルフォンスっ」
「‥‥つまんねぇな。」
ロイも黙って見守るだけになり、エンヴィーは目を眇めると、アルに顎をしゃくった。
「撃ち殺せ。」
アルは銃を取り出すと、構える。
「アルフォンスっ」
「そだな、マスタング大佐からかな?」
「アルっ」
エンヴィーはバンと手すりを叩いた。
「いい加減、うっせーんだよっ。アル、撃て!」
「アルフォンスっ」
しかし、発射された弾丸は、以前と違って大きく逸れた。足と足が絡まり、アルフォンスが体勢を崩したのだ。
「なにやって‥」
眉を顰めるエンヴィーに、しかしアルはなおバランスを崩し、倒れた。
「おい?」
「アルっ」
右足が、痙攣するように跳ね、筋肉を収縮させる。
「まさか‥?」
「アルフォンスっ」
エドに呼ばれるたびに、応えるがごとく動く右足とエドを交互に見てエンヴィーは手すりから飛び降りた。エドも床を蹴りダッシュする。エンヴィーはアルの頭部を引き千切ってエドに投げつける。だが、エドの勢いは止まらない。投げつけられたアルの頭を避けると、ただ一点、アルの右足を目指す。
エンヴィーの合図で続々とキメラが現れ、エドの前に立ち塞がった。
「こいつらは任せろ。行け!」
キメラの壁を、ロイが炎で穴を開ける。
「くそっ」
エドが届く寸前で、エンヴィーは急いでアルの右足を捻り切った。
溢れる赤い水、その中で。赤い石は歓喜に輝いていた。
「何で分った?」
「ホークアイ中尉のおかげさ。撃たれた右足から少しずつアルの気配を邪魔していた赤い水が流れ出した。今じゃ目を瞑っていても、アルがどこにいるか分るぜ。」
「どこにあるか特定できるまで黙ってたって訳か、だがこれは渡さないぜ。これは俺のものだ!」
「待て!」
エドが錬成するよりわずかに早く、石を握ってテラスから飛んだエンヴィーを赤い光が包む。
「何?」
<僕はいつだって、兄さんを選ぶ。>
赤い石に血色の印が浮かぶ。
だが、エンヴィーは動かない。
「俺より、エドを選ぶだと?」
驚愕がすぐに鋭い刃に変わりエンヴィーのプライドを傷付け、エンヴィーは動く事ができなかったのだ。
そしてエドも、石の輝きに近付く事ができない。
「アル!?」
<兄さん、見つけてくれてありがとう。>
「アルっ」
赤い光は黒い闇となり、エンヴィーを包むと収縮して消えた。
「アルフォンスっ」
絶叫が地底都市に木霊した。
‥冷たい‥‥
「冷たい?」
アルは感じるはずのない感触に、恐る恐る目を開けた。
薄暗いがそこは室内のようで、視点があってくると自分が錬成陣の中央に横たわっている事にアルは気付いた。
冷たいと思ったのは、天井にある管から水滴が零れていたからだった。
「ここ、は‥?」
「気付いたか?」
闇からの応え。
はっと身構えるアルの前に、エンヴィーは姿を見せた。
「君は‥‥、僕?」
アルは自分がエンヴィーを道連れにしようとした事を思い出し、自分の体を触った。
「石じゃないぜ?」
薄暗闇の中、確かに人の体をしていると、アルは知る。
「戻った‥?」
「戻る?何に戻るって言うんだ?」
エンヴィーはアルの髪を掴むと、部屋の隅に引き摺った。そこには大きな鏡があって。
エンヴィーがロウソクからランプへと明かりを移すと、そこにアルフォンスが映し出された。
「あ‥‥‥」
アルフォンスだけど、アルフォンスではない。
「黒い、髪?」
自分の髪を摘んで、その通りに映る鏡を、アルは食い入るように見つめる。
「黒い‥目‥‥」
「ようこそ、アルフォンス。俺達の仲間へ。」
エンヴィーの後ろに、ラースとスロウスが、ラストが、グラトニーが現れる。
「まさか‥あ‥」
アルは自分の体を見下ろした。しかしどこにもウロボロスの印はない。
ほっと息をついたアルに、エンヴィーは顔を近づけニヤニヤ笑った。
「安心した?でも、残念。」
エンヴィーはアルの肩を掴んでひっくり返すと、鏡にアルの背を映し出した。
かつて、エドが鎧に描いた血印と同じ場所に、ウロボロスが巣くっている。
「ああっ」
アルは鏡から身を隠すようにしゃがみ込んだ。
「どうしてっ、どうやって‥」
「どうして?あん時はお前にしてやられたなぁ、その礼がしてないか。」
エンヴィーはアルの髪を掴んで顔を仰向けさせると、口に赤い石を押し込んだ。
「?」
甘い、それ
『あ‥まい、、、、』
誘われるように飲み干そうとした瞬間
【アルっ】
記憶の中のエドの叫びに、アルは気付いたように首を振ってエンヴィーの戒めから自由になると、吐き出した。
「食べないわね。お兄ちゃんが許さないからかしら。」
からかうラストに、エンヴィーは石を口に含むと噛み砕き、アルに口付けた。アルが拒めないよう喉の奥まで舌を使い、流し込む。舌と歯による蹂躙は、アルの喉が上下に動くまで続いた。
やっと解放されたアルの唇は、石の赤を写したように鬱血していた。
「はぁ‥‥、ぁ‥」
酸欠でしゃがみ込んだアルの、床に付いた拳に涙が落ちる。
「賢者の石って言うのは便利だよな。ラースが簡単にホムンクルスを作ってくれたぜ。」
もっとも、エドの手を持つラースだから、才能はあるんだろうがな。
エンヴィーの高笑いが篭った部屋の空気を振るわせた。
アルがエドを守る為使った力は、しかし力の循環である両手を合わせたり錬成陣を用いたりしていない為を門を開いて異次元にエンヴィーを送る事はできなかった。ただアルの希望通りエドから遠くへと、二人を飛ばしただけだったのだ。
臭いを追ってグラトニーに発見されたエンヴィーは、ダンテを裏切ると賢者の石を使ってホムンクルスを作ったのだった。
既にダンテを見限っていたラストと、彼女についてきたグラトニー。さらにエドの体を与える条件でラースと、黙ったままのスロウスが仲間になった。
そのスロウスが、感情を見せない顔でアルに服を着せる。
「さて」
服を着せられたアルを、エンヴィーは片手で吊り上げると、冷たく見据えた。
「”いつでも兄さんを選ぶ”って言ったな?」
アルは、涙を拭うとエンヴィーを見つめ返した。
「僕はいつでも兄さんを選ぶ。」
「あいつの敵の”ホムンクルス”なのに?」
アルの顔が歪む。
「だったら僕はっ」
「死ぬ?」
げらげらとエンヴィーは笑った。
「死ぬんだとよ。ラスト、教えてやれよ。」
「わたし達の弱点は、錬成の元となった体。貴方にはそれがないわね、坊や。」
「あ‥」
「そうだなぁ、ここはひとつ。エドワードに頼み込むんだな。”僕を殺してくれ”って。」
「!」
「でも、手酷い裏切りだな、それは。お前を生き返らせたくて鎧に定着させ、さらに体を取り戻してやる為に軍の狗に甘んじ苦労をしてきたエドに、殺してくれはなぁ。」
アルの小刻みの震えがエンヴィーの腕に伝わってきて、エンヴィーは満足そうに目を細めるとアルを床に降ろした。
「俺を選べ。そうしたらエドを助けてやってもいいぜ?」
「約束が違う!」
飛びついてきたラースを、冷たくエンヴィーは蹴飛ばした。咳き込むラースの背を擦りながらスロウスははじめて、視線をエンヴィーに合わせた。
「貴方はホーエンハイムを憎んでいた。」
「憎んでいる、だ。」
「その憎しみは、エドワードにも向けられていた。」
「父親の業も知らずさらに罪を重ねる、ホーエンハイムの面差しを写した愚かなガキだからな
」
「でも、今の貴方はエドワードを憎んでいるの?」
「は?」
意味が分らないエンヴィーから、スロウスはゆっくりと視線を外した。
「今の貴方は、アルフォンスの歓心を買いたいだけのように見えるわ。」
言葉にならないエンヴィーの怒りは、スロウスを護ろうとしたラースごと部屋の東側を吹き飛ばした。
エンヴィーを見つめたラストは何の感情も表さず、背を向けると崩壊した東面から伸びるひび割れで辛うじて付いている北面のドアを開け出て行った。グラトニーはおろおろとエンヴィーと扉を見比べ、しょぼんとラストの後に続く。
「ふざけるなっ、俺は‥」
「僕は君を選ばない。兄さんだって君に負けたりしない。」
怒りに全身を振るわせるエンヴィーと、涙を流している事にも気付かないアル。
【アルフォンスの歓心を買いたい】
寂しい事にお互い気付かず、二人はただ睨み合うだけだった。
「人殺しおおいに結構。国の為己の為、アメストリスを堕落させる愚か者の血で覆い我らの国を魂なる赤で飾るのだ。」
ダンテ操るプライドは表でブラッドレイとして軍と欲旺盛な民衆をあおり、裏でキメラを配備して強大な軍を構成した。軍人達は国の名の下、他国を攻め捕虜を中央へ送り公開処刑とし、国内は軍に逆らう者を秘かにセントラルに連行し、殺してその亡骸を他国に殺されたと偽って故郷に送り返した。
「アメストリス以外は人で無し。」
アメストリスは殺伐とした空気に包まれた。
一方、ロイ部隊とエドは反逆者として指名手配された。その家族にも嫌疑はおよんだが、同じくエドの師匠として嫌疑をかけられたカーティスとロックベル両家によって軍の手が伸びる前に盲点だったイシュバールを通し国外に脱出していた。
軍にはロイの指示の元、忍の一文字でアームストロングが残り、ロスやブロッシュ、シェスカのフォローをしながら軍の情報をロイ達に伝えていた。
「どうなっちまったんだ、この国は‥」
ハボックは咥えていた煙草をぎりっと噛んでしまい、慌ててペッと吐き出す。
「煙草は禁止します。煙を見られなくても臭いが残るわ。」
ホークアイが拾おうとするのに、焦ったハボックが足を滑らせ下水の中に落ちた。
今のロイ達は下水道を使ってセントラルを走り回っている。下水道は現在使われているものの他に初期の物や工事補助の横穴がけっこうあって潜伏には丁度良く、また行動は地上で派手に行うので地下にまで捜索の手が回る事は無かった。
「にしても、見つけられないなんて怠慢だな。給料泥棒だぜ。」
「それで我々は助かっているんですから。」
ブレダの厳しい指導に、ファルマンが苦笑する。
「それは違うな。」
「大佐?」
コーヒーの香りを損なわないようキャップを被せた紙コップを渡しながら、フュリーはロイをうかがった。
「あいつ等は我々が追い詰められ、賢者の石を作り出すのを待っているのさ。」
「わかってんなら、とっとと作ってよ。」
ひょこっと現れたラースに身構える部下達を手で去るよう合図すると、ロイは腕を組んでラースと向き合った。
「エドワードはどこだよ。」
「捜せないのかね?」
「水はテリトリーだから、移動していて偶然貴方達を見つけただけ。捜していたわけではないの。」
口籠ったラースに代わり、下水からスロウスは立ち上がった。
「エドに何の用だ?門を開いてアルを連れ戻してくれるのかな?」
皮肉るロイの太腿を、ラースが蹴った。辛うじて呻き声を飲み込んだロイだが、額に汗が浮かぶ。
「アイツならエンヴィーと一緒にいるよ。」
「何?しかしアルは闇の中へ‥」
「あんなの門じゃないよ。そんな事も分からないなんて、コイツに石なんて作れないんじゃないの?」
スロウスは抱きついて来たラースの頭を悲しげに撫でただけだった。
「‥‥エドはリゼンブールにいる。」
「リゼンブールぅ?」
「この事態だからか、ホーエンハイムが現れた。」
「何で教えてくれるの?」
疑うラースに、さあなとロイは笑った。行くのか行かないのか、背を向けたホムンクルスをロイは呼び止める。
「エンヴィーと一緒というのは、どういう事だ?またキメラにでもしたのか!?」
「キメラじゃないよ。アイツはホムンクルスになったんだ。」
「何だって?」
はじめてロイの表情が崩れ、ラースは面白そうに笑った。
「そんでエンヴィーはダンテに造反して、今は何してるんだろうね。」
それ以上問い質す間もなく消えたふたりに、ロイは拳を壁に叩き付けた。
「ホムンクルスだと?そんなバカな‥」
ロイは情報収集を部下に言い渡すと、リゼンブールへ向かった。
その頃エドはリゼンブールから中央へ抜けるけもの道の渓谷で、座り込んでいた。ホーエンハイムはしばらく澄んだ空気を楽しんだ後、エドの横に座った。
「いつまでそうしているつもりだ?」
「‥俺、動いたら‥あいつら、皆殺しに‥」
「‥お前の気が済むのなら、それも良いだろう。」
「‥‥ヒデぇ‥」
「そうか?」
膝に顔を伏せたエドをちらっと見て、ホーエンハイムは背を伸ばして空を見上げた。
「やれないって‥思ってるのか?」
「やれないとは思わないが、やらないとは思ってるな。」
「馬鹿にしてるのか?」
顔を上げたエドの目尻を、ホーエンハイムは親指で擦った。
「怒る事は大事だよ。悲しむ事も。何も感じなくなったら、生きる意欲まで失ってしまう‥」
ホーエンハイムは眼鏡をかけ直した。
「だが、アルは」
本当に死んだのかね?
ホーエンハイムの直球に、エドは息を呑む。
「逃げるな、エド!アルの最期を思い出せ。」
「そんなのっ」
「門を見たのか?お前は。」
「門は見てねぇいけど、、、」
「つまり、何が起きたのか確かめなかった。」
「俺はっ、、、、俺‥」
流れから一瞬音が消え、ついでざざっと波が立つとスロウスが川の中に現れた。
「トリシャ‥」
立ち上がったホーエンハイムの袖を、エドが引っ張る。
「馬鹿、あれはホムンクルスだ。俺とアルが作ってしまった‥」
しかしホーエンハイムの視線は、スロウスから離れない。
人体錬成。ホムンクルスを作り出してしまうだけでなく、故人を愛する人にも悲しみを与えてしまう、罪。エドは改めてその業に唇を噛んだ。
「なんだ、思ったより元気じゃん。」
川の対岸に着地したラースが、エドを見て言った。
「なんだよ、お前ら。」
エドはホーエンハイムの前に立ち、ラースとスロウスを交互に睨む。
「スロウス、やっぱコイツに教えてやる事ないよ。」
頬を膨らませるラースに、スロウスは悲しげな視線を向けた。
「ちぇっ、スロウスの頼みだから教えてやるよ。アルフォンスは生きてる。」
「‥‥‥、え?」
「って言っても僕達と同じホムンクルスだけどね。」
「‥ぁ‥‥‥?」
呆けたようなエドに業を煮やし、ラースはエドの目前に飛ぶと胸に指を突きつけた。
「だから、アルフォンスはホムンクルスになってエンヴィーと一緒にいるんだよ。」
「ふざけるな!なんでアルが‥」
「君が人体錬成したのかね?」
聞かれるとは思ってなかったラースは、驚いたようにホーエンハイムを見上げた。
「うん。賢者の石に血印があったから、そこから情報をね。そもそも賢者の石自体がアイツだったから簡単だったよ。」
「賢者の石を使ったのなら、どうして成功しなかったんだ?」
「成功?成功したよ。だってホムンクルスを錬成したんだもん。ちょうどグリードの場所が空いてたし、第一人間なんか錬成したって仕方ないでしょ。」
悪気無く言うラースの頬に、エドの拳が飛ぶ。
「仕方ないって‥なんて事しやがるっ」
血の滲むような声。それをラースは鼻で嗤った。
「ハン、そう言うお前はどうなんだよ。ホムンクルスが生まれる事も知らず人体錬成して、ホムンクルスがどんな気持ちかも考えずに罪だナンだと葬ろうとしている、お前に偉そうな事が言えるのか!?」
かつてのエドなら己を省みて、勢いを削がれていたかもしれない。だが、今のエドは止まらない。
「うっせーっ、そうだ。俺は災いの源を作り出した無知な錬金術師だ。だから無茶するさ!お前らから賢者の石の欠片を引きずり出して、アルを取り戻す!」
「はあ?頭オカシくなったのか?お前。僕達が吐き出す石ぐらいで人体錬成できるわけない‥」
頬を押さえて対岸へと戻ったラースが眉を顰める様子も、エドは認識しない。
「始まらねぇ‥アルが返ってきて、そっからだ。それから、俺の償いが始まる‥」
「ホントに錬金術師は傲慢だ!行こう、ママ。」
ホーエンハイムと見詰め合っていたスロウスは、ラースに押されるまま水の中に消えた。
「馬鹿か、お前は。売り言葉に買い言葉でどうする。情報を聞き出さんか!」
様子を見に来たロイと合流し、エドとホーエンハイムはセントラルへ向かった。街に近付く手前で下水出口から下水道へ潜り込んだ。
「蹲ってるよりマシかな」
返事を返さないエドに、ホーエンハイムは笑みを浮かべる。
「そうですね。」
ロイはエドに聞こえないよう頷くと、表情を改めてホーエンハイムに問いかけた。
「で、貴方のご意見を伺いたいのですが。光のホーエンハイム?」
「わたしの知識などたかが知れてるよ。ああ、そうだね。今言えるのは、彼らに纏まりが無いって事かな。」
「纏まりが無い?」
「ラースという子はスロウスに付いているだけだし、ダンテは‥わたしがなんとか話してみよう。」
「背負ってるんじゃねぇよ。足手纏いだ。」
「なんだ、聞いてたのか。」
石を蹴飛ばしたエドの背に、ホーエンハイムの表情が和らぐ。
「心配は要らんさ。」
「誰が心配してる!」
ホーエンハイムは、笑って足を止めた。
「先ほどの話だが、エンヴィーがアルと一緒にいるなら、それはダンテから離れたと見ていいだろう。」
「何故?」
「ダンテは賢者の石を欲している。その石を使ってまでホムンクルスを作ったりはしない。つまり、賢者の石だったアルをホムンクルスにはしないという事だ。合理主義だからな、復讐するより石を取るだろう。」
ホーエンハイムは苦笑して断言すると登り梯子に手をかけた。立ち止まったのは手ごろな場所に出る梯子を見つけたからだった。
「ラストとグラトニーについては分らないが、軍の影にキメラ以外は感じられない。彼らはどっちつかずで様子を見ているのだろう。」
「どちらへ?」
「わたしはわたしの尻拭いをしなければな。息子に負けるわけいにはいかんよ、トリシャに怒られてしまう。」
エドはハッとして振り返った。
「スロウスは‥」
「スロウスはお前が送ってやれ。アルの事は分かるが、あれにも母さんの記憶がある。悲しませるな。それから」
「親父‥」
「アルも送ってやるんだぞ。」
エドの肩がピクッ揺れる。
ホムンクルスは錬金術師が一掃せねばならない罪の証。錬金術師なら例外を許してはならない。
ホーエンハイムがマンホールの外へ消えると、エドは踵を返した。
「おい、エド?」
「ごめん、俺は‥たぶん裏切る。」
駆けていくエドをロイは止める事ができなかった。
「お前もそうとう頑固だな。」
エンヴィーは背を伸ばすとそのまま草むらに倒れ込んだ。
なんとかアルにホムンクルスとしての絶望をわからせようと、災いの種を招いてはアルにそれを邪魔されるの繰り返し。
「プライド達は派手にやってるってのに‥」
アルは黙ってエンヴィーの横に座って顔を伏せている。
「死にたいんじゃなかったのかよ!?そんな良い子をしてると、誰もお前を殺してくれないぜ?」
「‥‥‥エンヴィーは、どうしたいの?」
「あ?」
「人を苦しめたいの?」
「分ってんなら、聞くな。」
「だったら‥なんでダンテと一緒にいないの?」
「あの女の目的は賢者の石だ。俺と違って趣味じゃないのさ。」
「目的が違っても、人間を苦しめれば良いんじゃないの?」
「‥‥‥っ、うっせーぇ」
エンヴィーがダンテの元へ返らない理由を、アルはやっと分り始めていた。
『役に立たないホムンクルスはいらない。ダンテは僕から赤い石を取り出したがってる。それに、僕が死ねば兄さんが賢者の石を錬成すると考えてるだろう』
アルは少し顔を横に向けると、エンヴィーを眺めた。
ホーエンハイムがダンテとの子供を人体錬成する時、生まれたホムンクルス。
『元は僕らの異母兄さんなんだ‥』
そんな実感など湧くわけも無く、だけど凍えるような寂しさをアルは感じていた。
『ダンテは彼も、元になる父さんとの子供さえも、道具としか見ていなかった。そして父さんは、エンヴィーという罪から逃げたんだ‥』
目を閉じているエンヴィーは少年の姿をしている事もあって、とても殺戮者には見えない。
『愛して欲しかったの?』
「なんだ?何見てんだよ。」
目を瞑ったまま訊ねるエンヴィーに、見られてないのにアルは慌てて首を振った。
『そんなわけない。そんなわけ‥‥、でも‥もしそうだとしても、こんなやり方じゃ愛なんて得られない。』
エンヴィーは起き上がると歩き出す。アルも急いでその後を付いてく。
「お兄ちゃんに泣き付けば?」
付いて来ずに帰ってみろと言うエンヴィーを、アルは睨んだ。
「目を離すと、何をするか分らないからね。今の僕なら、君を止めるもの。」
「自惚れるなっ」
振り向きざま殴られて、痛みは感じるけど死なない自分をアルは冷笑する。エンヴィーもそれ以上は手を上げず、アルはまたエンヴィーの後を付いていく。
『だけど』
ふと気付けば考えているのはエンヴィーの気持ちで
『腹が立ったよね、父さんと母さんの記憶がわずかでもある僕達に‥』
生きる事も存在する意義も奪われたアルに今あるのは怒りではなく‥
『ラストもそうだ、スロウスも。ラースもエンヴィーだって』
「寂しい」
「あ?寂しいか?そう来なくちゃな。だけどお前を慰めてやれるのはエドじゃない。エドにはもう出来ない。お前が選べるのは俺だけだ。」
アルは首を振った。それにつまらなそうに口を尖らせると、エンヴィーはまた歩き出す。
『ホムンクルスがこんなに寂しいなんて‥』
伏せたアルの目から涙が零れる。
「いつまでメソメソと‥、エドのがマシだぜ。」
涙の意味が違うのに、エンヴィーはもとよりアルもまだ気付かない。
ただエンヴィーの寂しさがうつっただけだと、アルは前を歩くエンヴィーの手を掴んだ。
「笑うようになったのね。」
ラストとグラトニーは気付けばそばにいて、捜すともういない距離でアル達の側にいる。
「エンヴィーが?」
「貴方もよ。」
『僕が?』
エンヴィーが笑うというのも驚きだけど、僕も笑ってる?
「正確には”微笑んでる”ね。」
アルの驚きにラストこそ微笑むと、グラトニーをつれてまたどこかへ行ってしまった。
『微笑んでる?』
ラスト達の分も並べた皿を引き上げながら、アルは首を傾げた。
人間である事を忘れない為にアルは日に3度、食事を作り夜は寝れなくても横になる。人間の真似事と文句は言いつつ、エンヴィーはそんなアルの料理をたいらげ、一緒に寝転んだ。
『慣れたのかな‥?』
エンヴィーの顔をどんなに見つめても、エドの面影を見つけ出す事は出来ない。
『慣れたなんて、悠長な事言ってる場合じゃない!兄さん達はダンテ達と必死で戦ってるのに。』
アルは、珍しくシーツの上をごろごろしているエンヴィーを見た。
『エンヴィーは、そりゃ酷い事もするけど、ダンテのような大量殺戮をしたりはしない。僕は、エンヴィーではなくダンテの近くにいて、彼らの阻止をしなくちゃいけないんじゃないだろうか‥』
「そんなに恋しいのか?」
「え?」
エンヴィーを見ていたのに、エンヴィーがしゃべってやっと、アルは彼が目の前にいると気付いた。
「エドの事でも考えてたんだろ?お前顔に出過ぎ。恋しいなら会いに行けばさぁ‥」
いいのに、というエンヴィーの言葉は飲み込まれた。
「エンヴィー」
「‥‥は?」
「兄さんじゃないよ。」
「ああ、俺にエドに化けろって?」
自分が驚いている事を上手く言葉に出来なくて、アルはシーツを指差した。
「珍しいね、シーツにまとわり付くなんて。」
どこでも寝る。必要なら奪う。そんなエンヴィー達は物に執着しない。なのに、今エンヴィーは確かにシーツを気に入っていた。
懐くなんていうと否定するから、まとわり付くといったアルの言葉で、エンヴィーは身に巻きつけたシーツをまじまじ見ると
「なんか、匂う。」
「ぁあ、日向の匂いだよ、それ。」
「日向ぁ?日向に臭いなんてあるかぁ?」
「あるよ。」
アルは懐かしそうに笑った。
「デン、、あ、犬なんだけど、うん。犬でもね、日向ぼっこするとなんか気持ちいいっていうか、幸せな匂いがするんだ。こう、抱き締めたくなるような」
胸の前で空気を抱えるようなアルの格好にエンヴィーは、マジで呆れた顔をする。
「お前、バカ?」
「そういうエンヴィーだって、シーツ抱き締めてるじゃないか。」
ムッとしたようで、エンヴィーはシーツを投げつけた。軽いシーツはアルまで届かず、床に落ちる。
不味ったかな、と空気を変える意味で、アルがシーツを拾おうとする前に、エンヴィーはシーツを手繰り寄せるとまた抱き込んだ。
「‥‥、いい匂いでしょ!?」
「珍しいからだ!」
誰かに化けたり奪ったりして手に入れたホテルや宿舎のベッド。あるいはエンヴィー達に与えられた研究所のベッドは洗濯の清潔な香りがするけど、潜り込めばピシッと糊付けされたシーツはまるで拒むように冷たい。
『素直じゃないんだから』
思ってからアルの動きが止まる。
ホムンクルスは、人と変りなんて無いんだ
『誰かにシーツを干してもらった事がないだけ。誰かのシーツを干してあげる事を知らないだけ。』
鼻の奥がツンとして、アルは慌ててエンヴィーに背を向ける。
アルの様子に、エンヴィーはシーツを被ると丸まって背を向けた。
「‥‥ちっ、あ~もう分った!帰れよ、お前。鬱いぜ。」
「違うよっ、馬鹿エンヴィー!」
初めてアルが口げんかを返した、とか。エンヴィーが本気でアルを解放しようとした、とか。
大事な事に気付かずに、でもたぶん大切な、取っ組み合いにふたりは突入する。
「兄さんといた時は、泣くなんてなかったんだから。」
泣くよりも先にしなければならない事がたくさんあって
【兄ちゃん‥お腹空いた、、、寒いし、、、、帰ろ】
僕が落ちこんでる時は、兄さんが馬鹿やって‥だから母さんが死んだ時は!大事な大事な母さんが死んだ時は、兄さんまで体壊して死んじゃうんじゃないかって‥
『だから帰ろうって言ったけど、ずいぶん薄情な言い方だったね。ごめん、母さん‥』
「嘘付け、ただ泣けない体だったからだろ?エドはラッキーだったな。」
「そんなんじゃないや、兄さんは!兄さんは‥」
泣けるのに、泣かないんだ
アルは黙り込んだ。エンヴィーを掴む手からも力が抜ける。
『そうだ。今も、兄さんは頑張ってる。だから僕は消えなきゃいけない。ダンテやキングブラッドレイや‥』
アルの手を払うと、わざとらしく埃を払うエンヴィーをアルは見つめた。
『母さんも、エンヴィーも‥僕が連れて行かなきゃ‥』
「兄さん兄さんって、エドもウンザリしてたんじゃね~の?」
「かもね‥」
「だからさ、お前は‥‥‥、俺を選べよ。」
「‥‥‥だったら、一緒に死んでくれる?」
「はぁ?何で死ななきゃいけないんだよ。俺を選んだんならお前は俺の言うとおりにして、エドに嫌がらせを‥?何、笑ってる?」
「エンヴィーってさ、兄さんに似てるよ、そういう前向きなトコ。」
ものすごく嫌そうなエンヴィーの顔に、アルは笑いが止まらない。
エンヴィーは暴力を振るわなくなった
お互い死なないのだから振るう意味が無いかもしれないけど。今でも切れたように怒り出すけど‥。
「エンヴィーは同情、嫌い?」
エンヴィーがこういう言葉に関しては、酷く敏感な事を承知でアルは口にした。
「俺は物乞いじゃないね。」
案の定、エンヴィーの瞳に冷酷な色が宿り、手を打ちつけた机は、床ごと砕け散る。
「僕は嫌いじゃない。」
「それはお前が世間知らず、己の業の深さを見てないからさ。」
「でもエンヴィーも、、、、同情したんじゃないの?僕に。」
「体をなくし魂だけになったのは自業自得だ。同情なんてしないね。」
怒りが少し退き、かわりに馬鹿にした様子でエンヴィーは口の片端を上げた。
「違うよ、その事じゃない。」
それにアルは首を振る。
「同じ兄弟なのに、方や天才と称され愛され、もう一方は省みられる事なんて無い‥そう思った?」
「日陰って言うより、不要だろ?」
「でも必要だって言ってくれる人はいる。」
「あ~?」
「欲を言えば限は無い。言ってくれる人がいる、それが幸せなんだ。たとえ同情でも、情を遣ってもらってるんだ。」
「何が言いたい」
エンヴィーの手がアルの首を掴む。
「全てを拒んだら、何も生まれない。寂しくないかもしれない、傷付く事もないかもしれないけど、何も無いよ。矜持も大事だけど、矜持だけが大事じゃない。物乞いと言われても‥」
叩きつけられ、その勢いで土に埋まったアルの言葉は続かなかった。
痛みをやり過ごし、アルがやっと這い出てきた時、エンヴィーの姿は無かった。
エンヴィーを探して彷徨っていたアルのもとへ、エンヴィーが単独、アメストリス軍とロイ達の抗争にちょっかいだしたと、ラストはわざわざ教えに来た。
「随分と、難しい事を問いかけたわね、坊や。」
愛していると手を取った男を、賢者の石を作り出す為に死なせたラスト。
「今でもルジョンを助けるのかと聞かれたら、いいえと答えるわ。わたしは彼を、いえ誰も愛していない。」
「でも、同情したんでしょ。事実を知った最期まで貴女を思っていた人に。」
村が病に滅びるのを見つめながら、ラストは不可思議な気持ちを持ったのは確かで。
「あれを同情というのかしら?」
アルが力強く頷くと、ラストも そう と目を閉じた。
「それでエンヴィーは?」
ラストが自分の気持ちを消化するまで待って、アルは尋ねた。
「焔の錬金術師からホーエンハイムの名を聞いた途端、ダンテの居城に向かったわ。」
「父さん?父さんがダンテのところにいるの!?」
アルは慌てて駆け出そうとして、はっと立ち止まった。
「‥‥‥、あの、そこに‥」
兄さんはいた?
アルは小さく聞いた。
「いいえ。鋼のおちびさんはいなかったわよ。」
「ありがと。」
礼もそこそこで警鐘にじりじりと追い立てられ、アルは地下都市へと走った。
その姿を見送って、ラストは髪をかきあげた。
「莫迦ね。急いでるなら礼なんて言わなくてもいいのに。」
「ラストぉ?」
「人間は莫迦ね。わたしの気持ちより、自分の聞きたい事を優先すれば良いのに。」
「アル、人間じゃないよ?ホムンクルス。」
「そうね、グラトニー。そうしてしまったんだわ‥」
「ごめん、母さん。俺は‥‥でも俺はっ‥アルを‥」
頬を伝う涙を拭いもせず、エドは母の墓を掘り遺骨の一部を掘り出すと地下都市へと向かった。そこにまだダンテがいる確証はなかったが、仮にセントラルシティの軍施設内にいるとしたら、アームストロング達から何らかの情報があるはずで、エドは彼らを信じ迷う事無く地下都市を選んだのだ。
不思議なほど何の障害も無くセントラルの教会に辿り着いたエドは、隠されていた階段から地下とへと降りた。苦労した先回とは違って階段は楽に街の端までエドを導いた。中央の建物を目指して足を進めると、建物の前庭部分を飾る噴水に、スロウスが佇んでいた。
エドは目を細め唇を噛むと、左手でポケットの中の物を握り締める。
「持ってきたの?」
「お前は母さんじゃない。」
「そのとおりよ。」
スロウスの攻撃をかわして、エドは噴水へ近付く。
『ラースは?いないのか?』
「考え事していると、足を救われるわよ。」
水のロープが首に巻きつき引っ張り上げられたエドは、ポケットの中の物をその触手へと埋め込んだ。
スロウスの動きが止まる。
「なんで?持ってるの、知ってただろ‥」
「迷いは隙を生むと、さっき言ったでしょう、エド。あなたは何をしに来たの?」
「俺‥」
「後片付けはちゃんとしなさい、エドワード。」
エドは目をぎゅっと瞑ると、震える手を打ち合わせた。
よくできたわね
スロウスは微笑んだようだった。
「母さん‥」
アルコールに錬成され、蒸発していくスロウスにエドは小さく小さく呟いた。
「?」
爆発はいきなり起こった。それが爆弾によるものではなく、圧縮された力に反発した空気によるものだとエドが気付いた時には、目前にホーエンハイムとそれを踏みつけるエンヴィーがいた。
「親父っ」
エドの牽制を飛んで交わし、エンヴィーは優雅に崩れ落ちた壁に着地した。
「親父、しっかりしろ!」
「エドワードか‥安心しろ、ダンテの体は今のままなら拠代であるライラの寿命を待たずにやがてに腐敗するだろう。」
安心しろという割に自力で起き上がれないホーエンハイムを、抱き起こしたエドはエンヴィーを見ながらも、辺りの気配を探る。
「母さんを‥送ったか?」
「‥ああ。」
「そうか‥お前も大きくなったな。」
「何言ってやがる。それよりラースは?プライドも‥」
「プライドなら来れんよ。マスタング君達に時期滅ぼされるだろう。彼の執念は筋金入りだからな。スロウスに懐いていた子供は‥」
呻きながら割れた眼鏡を錬成すると、ホーエンハイムかけ直した。
「スロウスの願いでカーティス夫妻の元へ送ったよ。エド、スロウスと話していて、解った事がある。」
「師匠のところへ送ったって?ホムンクルスだぞ!?師匠の子供じゃない!危険な‥」
「聞きなさい、エド。ホムンクルスを作り出す事は我々錬金術師の愚行だが、ホムンクルスに罪があるわけでは‥」
ホーエンハイムの言葉が途切れ、エドもエンヴィーが何故攻撃してこないのか、その理由に気付いた。
「アル‥?」
抜け道から現れたアルは確かに黒髪で、黒い瞳で。でも柔らかな表情の懐かしい姿だった。
「兄さ‥ん」
零れる涙。
「アル?」
だけどアルは近付いてはこなかった。
「父さん?無事なの?」
心配そうな声を遠くからかけるだけ。
「ああ。ちょいと草臥れてるが、死んじゃいねぇ‥」
エドは袖を引っ張られ、何とか自分の力で座り直したホーエンハイムを見た。
「ラースが危険なら、あの子も危険ということになる。エド‥」
エドはホーエンハイムを睨むと、アルを振り向いた。
「来い、アル!」
アルはしかし、エドの声にエンヴィーを見た。エンヴィーは無表情に眺めている。
「兄さん。」
アルは首を振った。
「僕はホムンクルスなんだ。」
「そんなのっ」
「ほら」
アルはシャツを破ると背中を曝した。
「ね、ホムンクルスでしょう。」
身に覚えのある場所に居座るウロボロスの印を、エドは睨みつける。
「だからどうした。」
「兄さん?」
「来い!アルっ」
アルは苦しげに息を吸うと胸元を押さえた。
「兄さん、錬金術師の罪は?」
「そんなん、どーでもいい!」
「良くないよ!兄さん。大事な、事でしょ。ニーナの時に僕達は誓ったじゃない。錬金術は‥」
「お前より大事なもんなんてねぇっ」
アルは耳を塞いだ。崩れ落ちそうな膝に、何とか力を入れてアルは叫んだ。
「僕にはある。」
「え?」
「僕には、兄さんと兄さんの生きてるこの世界の方が大事だ!」
アルは縋るようにホーエンハイムを見た。それにエンヴィーも気付く。
「止めろっ、殺すな!そいつは俺のだーっ」
俺の?
エンヴィーの叫びをエドは嘲笑った。
「俺からアルを奪っておいて、なにがお前のだ!」
そう返してから、エドはエンヴィーが誰に言ったのか気づいた。
「親父?」
ホーエンハイムの手から溢れた光の錬成陣が、エドを包む。更にホーエンハイムはポケットから小さな赤い石を取り出した。
「これが最後だ。」
「こンのっ」
エンヴィーの攻撃も、錬成陣が跳ね返す。そして中からのエドの脱出も阻んだ。
「親父‥」
エドは錬成陣からの脱出を止め、とホーエンハイムに掴みかかった。
「俺はっ、母さんの墓を暴いてもアルをっ」
「父さんじゃない、兄さん!殴らなきゃいけないのは、殺さなきゃいけないのは僕だよっ」
アルの叫びに、エドは殴ろうとする手を止めた。
「殺してよ、兄さん。僕達は、エルリック兄弟だ。母さんの自慢だった‥。だから、後片付けはちゃんとしなきゃいけない!」
「酷い事を‥ お前の頼みでも、コレだけは聞けないっ」
「‥‥‥だったら」
アルはきゅっと口元を引き締めた。
「僕が兄さんを殺すよ!?」
「本望だ!」
エドの即答に、アルの目から涙が溢れる。
「兄さんだけじゃない。父さんやウィンリィやばっちゃんや‥師匠に大佐に少佐に中尉に‥」
息が続かずアルは、笛のように喉を震わせた。
「構わない。」
「兄さん!?」
「ずっとずっと、俺を支えてくれたのはお前だ。俺が何をやっても、お前は俺を見放さず怒って、正しい道へと引っ張ってくれた。姿かたちじゃない。ガキの頃も、鎧になっても!お前がお前である限り俺はお前を呼ぶ。賢者の石が何だ、ホムンクルスがどうだって言う?お前を取り戻せるなら世界が亡んだって俺は構わない!」
「兄さんっ」
悲壮な声は小さいけれど、激しい悲鳴でもあった。
アルがエドに<殺してくれ>と言うのがエドにとっての死の宣告なら、エドがアルの為に罪を犯す事は、アルにとって自分の存在を抹消する理由そのもの。
「お願いです。殺して下さい。お願いです‥」
アルはガクッと膝をつくと誰ともなしに土下座をした。
「エドっ」
まさかのホーエンハイムの反撃に、アルだけを見つめていたエドはよろめいた。見れば機械鎧の左足が変形している。
「何すんだよ、アルをっ」
「エド、人体錬成の副産物がホムンクルスなら、ホムンクルス錬成の副産物は何だと思う?」
ホーエンハイムは錬成陣を出ると、石を使って門を呼び出す。
開かれる扉
アルは門の前へ走ると開かれた扉に背を向けた。
『空は見えないけど』
アルは今まで育った世界を眺める。
「好きです。ありがとう。」
アルはそうしてエンヴィーへと顔を向けた。
「ひとりじゃない。」
君がそう望めば
「!」
門から伸びる黒い触手がアルを捕える。
瓦礫を蹴ると言葉も無くエンヴィーはアルへと跳んだ。門の中へ引き摺り込まれるアルの瞳にエンヴィーが映る。
伸ばされた、手
エンヴィーはアルに抱き付いた。その勢いでふたりとも門の中へと消える。
「アルーッ」
門へを四つ這うエドの前に、ホーエンハイムは立ち塞がった。
「お前はアルの自慢の兄で、アメストリスの自慢の錬金術師だ。お前なら、見つけられるよ。」
ホーエンハイムは自ら門を潜り
「私の考え通りなら、きっと私の命が役に立つ。」
そう言うと扉を閉じた。
「ア‥ル‥‥」
熱病のように震えながら手を伸ばすエドの目前で、門は姿を消した。
「ホムンクルスの錬成‥副産物‥人体錬成‥ホムンクルス」
机に頬を付けたエドの髪を風が揺らす。
ロイ達によって鎮静化された軍隊は、通常に返りアメストリスは平和を取り戻した。今、外からはウィンリィがラースを探す声が聞こえくる。
「勿体つけて言いやがって‥」
エドは人差し指を噛むと机にアルの血印を描いた。
鎧からアルは、その魂を血印に定着させたまま賢者の石となった。アルは賢者の石のごく一部なので、血印の含まれる部分さえあれば、他を消費しても消えはしない。そしてラースは、血印を除く賢者の石を使ってアルの魂をホムンクルスの体に定着させたのだ。
「ラース‥というより賢者の石が作り出した、と言うべきかな‥」
ホムンクルスと違って、魂の無い人の体は門から出ては来ない。門を抜けたホムンクルスの体は宿していたアルの魂を開放し‥
「出て来いよ、アル‥」
エドは起き上がると、タンスを開けた。
「エド~?」
階下からウィンリィが呼ぶ声に、エドは、おお、と答えてタンスから鞄を取り出すと階段を下りる。
「見つかったの?答え」
「いや、だから見つけに行く。」
「当て、あるの?」
エドはポケットから赤い石を取り出した。
「どうしたんだよ、それ。」
ウィンリィの後ろから覗き込んだラースが眉を寄せる。
「さぁな。起きたら、机の上にあった。」
「使うの?」
「いつか、な。希少な手立てだ。万全の準備が出来てから‥」
エドは石を握り締めると、またポケットに戻した。
「それに、いい加減に使ったら、くれた奴らに悪いだろ。命だし。」
「連れて帰ってね。」
「任せろ。」
親指を立てたエドの側にラースが寄る。
「僕も。」
「スロウスはいねぇぞ。」
ラースは首を振った。
プライドは滅び、見つかった隠し扉の向こうにライラの腐乱死体があったが、ダンテが本当に死んだのかは分らない。
ラストとグラトニーは行方不明だが、エドに届けられた赤い石がふたりの気持ちを伝えている。
「ヘンな友達増やしやがって‥」
「友達なの?」
「アルなら、そう言う。」
「エンヴィーも友達?アイツ、笑ったんでしょ?」
ラースは口を尖らせた。
アルと門を潜る時、アルの手がエンヴィーを抱き締めた時、確かに微笑むのをエドは見た。
「なんかムカつく。ママなんていないって言ってたくせに、自分だけ!」
「だよな。見つけたら、殴るだけじゃ済まないぜ。」
何かを見つけたエンヴィーへの羨望。消滅しなければ欲しい者を認められなかったエンヴィーへの憐れみ。
そんなものを抱いて、ラースとエドは汽車に乗る。
「もう一度‥」
ラースはエドの呟きにちらっと視線を流したが、すぐまたイズミとトリシャの写真が入っているロケットを握り目を閉じた。
車窓の外、高くエドは腕を伸ばす。
【危ないからそんな事しちゃダメだよ。】
遠くで待ってるだろう声に、エドは小さく笑った。
扉の向こうを目指す旅が、また始まる。
M様、ずいぶん違う話になって済みません(汗)。エドとアルが闘うパートとアルがホムンクルスになってしまうパート構成になってるはずですが‥えへ、闘い足りーん!(←自分で思うなら書けよ#)。お粗末さまです(涙)。2006/10/08