「も〜、兄さんいい加減にしなよ。」
脱ぎ散らかされた服。濡れたままの髪。機械鎧だけは、水気を取って磨かれていたらしく、布が落ちている。
「風邪引くじゃないか。」
ベッドからのぞく頭にタオルを被せると、反対に投げつけられた。
「疲れてんだよ。」
溜息をついて頭を拭いてやる。力をかけないように、そっと。だけど、鋼の指からは水分が取れたのか判断はできない。
「髪濡れたままベッドに入る事じゃないよ。そりゃ、、、それも直した方がいいけど‥、そうじゃなくてさ。」
溜息をつく僕の鎧の中に、昼間言われた言葉が落ちてくる。
【猪突猛進。】
兄さんにはあまり合わない評価を、軍部では受ける。もっとも、大佐やウィンリィあたりに言うと
【どこがだね?】
【あれは作為的にやってるのよ、騙されちゃだめよ。】
という事になる。
「どうして無茶するんだよ。」
例えば、賢者の石の情報。例えば、ホムンクルスの事。
熟考し、慎重に情報を収集。更に熟考。時に大胆な行動もするけど、大事に対するそれは考えた結果だ。
『なのに、どうして‥?』
国家錬金術師の地位を確立してから、たまに兄さんは箍が外れたような暴走をする。
「困ってる人を助けるのは良い。そこまでは慎重だ。」
問題はその後、原因が解消するや否や過剰に煽ったり、騒ぎを広げたりで兄さんは生傷が絶えなくなった。
必要の無い傷
ひと段落着いたと気を抜くと、兄さんが血を流していて
『僕は空っぽになる‥』
どうしてわざわざ命を削るの?


物思いで指先が愚かになっていたらしい。
「も、いい‥」
気付けばタオルの下から兄さんが僕を見上げている。
兄さんの瞳に映っている僕の姿は木偶の坊
払われたタオルを丸めると、僕は部屋を後にした。

「考えない事‥」
兄さんは僕を責めてるの?それとも、邪魔‥?だから暴走するの?

タオルを籠に放ると、僕は廊下へ出た。ホテルだけあって階段に続く踊り場は廊下より照明が強く、ベンチまで用意してある。読書にはもってこいの場所、時間。

「学ぶ事。」
『理解する。理解して、分解する。もっと、先の、原子まで‥』
僕の中は空っぽで、詰めるものがいっぱいある。

『考える事』
考える‥兄さんの言葉、行動、その先に見てるものを
追いつかなくても、置いていかれないように

回転の速さの差は、持てる時間で埋める。
僕はちょっぴり、鎧である事に感謝する。









流石に疲れた。も、瞼も開けてらんねぇ。
「‥‥‥ちっ‥の凶暴女‥」
後が恐いので機械鎧は手入れして、それから肝心の自分の状態を確認する。
『大丈夫。怒らすトコまで行ってない』
安心して目を閉じる。あ、意識が‥ちくしょ、早く来い、アル。
猪突猛進大いに結構。
『走る俺の後を、アルが付いて来る。心配で怒りながら』
無能と腐れ縁は黙ってろ。
『計算高くて悪いか!アルが気に病む手前は、本気で怒る加減は承知してる。ヘマはしねぇ。』
アルが俺についてくるのは疑わねぇ。だけど、アイツには時間がある。俺の罪で作られた檻は、お前を閉じ込める代わりに雄大な時を与えてしまった。
その間に、お前は何を見るだろう。何を考えるだろう。そして
「何を手にするだろう‥」
俺にはお前の先が見えない。
お前の臨む未来は?そこに、俺の場所はあけてくれてるか?
空っぽなのは俺の方。お前を詰めたいのに、俺は子供で。指の間から零れ落ちていく。
俺は子供で。だから、気を引く。
「よく言うだろ!?好きだからいじめちゃうってさ‥」
でも、その分体張ってんだぜ。
【じゃ、いじめられっこなの?】
アルの笑う声が聞こえた気がして、俺は安心して枕を抱いた。
いじめっこ いじめられっこ

空っぽって言葉が気に入って、元ネタを変えたら書きたかった話が分らなくなっ‥(汗)。いつかリベンジしたいなぁ(涙)。ところでいじめっこはエドですが、いじめられっこもエドなのです。いじめてまで気を引いてるのに、構ってもらえないから(苦笑)。裏と表、紙一重(爆)。2006/07/16