「兄さんっ兄さ〜ん!、、そんな、、、僕は、兄さんに逢う為に、、、僕はッ、僕は諦めない!放して下さい!兄さんを連れ戻せないなら、僕がッ」
振り切ろうとしたロイの手が、強い力でアルの胸倉を引っ張った。
「!?」
頭の後ろを押さえた左手や顎を掬う右手の荒々しさと対照的に、一瞬で遠ざかった唇は優しかった。
「行きなさい。」
ロイはアルから手を放すとその背を押した。
ロイの少し淋しげな微笑を、起こった事が分らなくて唇を押さえて見つめていたアルの、止まった時間が背を押され動き出す。
「マスタングさん、、、?」
「後始末代は頂いた。‥君は若い、、私は‥」
「マスタングさん?」
「穴が閉じてしまうぞ。」
アルは弾かれたように手近の鎧に潜り込むと、穴へとダイブする。
穴を潜った瞬間振り返った先のロイは何か言っていたが、その声を聞くことも唇の動きを読み取る事もアルには出来なかった。
閉じていく穴は切ない。
「マスタングさんっ」
ロイにはアルの声が届いたのか、ロイは片手を上げ笑って頷いた。
アルも力強く頷き返し、そして二度と振り返らなかった。


ミュンヘン
この世界へ来る前のエドには、アルへの情熱だけが全てだった。
アルさえいてくれるなら、何を犠牲にしても構わない不遜で、圧倒的な想いがエドを動かしていた。
だが
一人ぼっちの身に降る雨は熱を奪い、帰り道を阻む異世界は力を殺いでいった。
”帰るんだ”と口では言い、”ここは夢の世界だ、俺の場所じゃない”と自分を誤魔化すだけ。
そんなエドに青い目のアルフォンスは、現実を見ろ と言った。
その意味を、エドはアメストリスに戻って知る事になった。
【知らないものは恐い!】
アメストリスの上空で、そう言ったエッカルト。彼女はセントラルシティを破壊しながら何を思っていたのだろう。

あの女はシャンバラを信じていたのか シャンバラを否定したかったのか
あるいは
シャンバラを肯定しなければいけない状況に追い込まれていたのだろうか


『俺のように、現実から逃げ、ただ夢の先にだけ光を求めていたのかもしれない』
今を否定し、夢に縋る弱さ。現実から逃げ続ける狡さ。
     だが現実は、俺ひとりで生きていて良いわけじゃない
『親父は現実を受け入れながら、でも最後まで錬金術師の、俺をアルの元へ帰そうなんて、独りよがりな夢を持ち続けた。‥自己満足の中で死んでいったアイツは、幸せだ。俺は‥』
好きだから だけじゃなく。他の要素も考慮し天秤に掛ける分別を大人というなら
「その大人とやらに、、、なってしまったんだな」
「兄さん、、、?」
     なのに こんな俺のところへ アルは来てくれた
     時空を超えて帰れないと割り切った、こんな俺の元へ

「ごめん、兄さん。でも、僕は兄さんとっ、、、」
付いて来て、迷惑掛けてごめんと謝るアル。
たった一つだけを選び取る勇気、それを大人は向こう見ずというけれど
【君は若い。寂しい事に私には君を奪い取れるほどの若さがもう無い】
その場にいなくても、今のエドはロイの嘆きを正確に理解できた。
『大人になれとあんたは言ってたけど、ホントはあんただって、今も‥』
「兄さん?」
アルの手が頬にふれ、エドは自分が泣いているのに気がついた。
「ごめんな、アル。」
     お前に行動させて
エドはアルを抱きすくめる。
     こんなに好きなのに 好きなのはアルだけなのに
抱き締める腕の強さが息苦しくて、見動こうとしたアルはエドが身を震わせているのに気付いた。緩めてもらおうとエドの腕をつかんでいたアルは手をエドの背に回し、そっと大きくて震える背を撫でる。

好きなもの以外に、どうでもいい事まで考えて行動するようになるなんて
そんな行動を自然としてしまう日が来るとは思ってもいなった、懐かしい子供の‥


「大人は‥」

     涙しか出ない

「兄さ」
だから、エドはアルの言葉を唇で塞ぐ。
「好きなんだ、アル。本当にそれだけなんだ」
息継ぎの合間にささやきながら、戦争前の冷たい冬の空気の中、エドはアルに口付け続けた。








 最初に書いたものが不正終了でお釈迦に‥ビル○ーの大ばかヤローッ!前の方がマシな文章だったんですがねぇ(涙)2005/11/3


















ファルフォンスの言葉、父の思い、ロイの餞別
胸を張って生きていこう。
情熱は強い。その力には何者も勝てないが、強すぎる力は護りたい者までときに傷つけてしまう
それにもう手が届かないなら
その分広がった視界で、アルを傷つけるもの全てからアルを護ろう。
好きという想いは変わらないのだから

大人の恋愛で、アルを‥

Don't Let Me Go of my Passion

the gate has been opened

7月竜