錬金術師なんて(ブレダ編)


「な・なんじゃこりゃ〜っ」
ブレダの雄叫びにファルマンが覗き
めば、ブレダの机の下にはダンボール箱に入った子犬が1匹。
「趣旨変えですか?」
「ンなわけあるかいっ!誰だぁっ、ここに犬を置いたのは〜っ?」
ブレダの怒鳴り声にフュリーがひょういと顔を覗かせた。
「お〜ま〜え〜か〜〜〜!?」
ブレダのアップに迫られて、フュリーが扉に懐く。
「ち・ち・ち・違います〜」
「んじゃ誰だ!?」
知ってると決めつけた口調にフュリーの目から涙が滝を作る。
「それはエドワード君が…」
「えどわーどだぁ!?」
こくこく頷くフュリーにブレダの目が猫のように細まる。
「鋼の錬金術師がなぁぜ、俺の机の下にわざわざ犬を置いておくのかなぁ〜?」
「それはアルフォンス君が…」
「鎧の弟がどうしたってェ?」
「川に落ちているのを見過ごせなくて」
「拾ってきちゃったのかなぁ〜!?」
再びコクコク頷くフュリーの襟首を引き上げる。
「それをどうして俺の机にわざわざ?」
「さ・さぁ…それは僕にも…」
ブレダがぱっと手を離したので、フュリーは鈍い音とともに床に尻もちをついた。
「これは、挑戦とみた」
「え?」
事の成り行きを傍観していたファルマンが不穏な声色に聞き返す。
「これは軍への挑戦だ!このまま見過ごすわけにはいかーん」
「少尉への挑戦状なだけでは?」
「あまーい!今までのヤツの迷惑を考えろ!今晴らさでどうする」
「大佐に似てきましたね」
「何とでも言え。俺には勝算がある」
「お前、豆相手に勇気あんなぁ。俺ならご免だが」
ソファからハボックが湧いて出た。どうやら寝転がってさぼっていたらしい。
「ふっふっふっ、コレだ!」
ブレダが掲げた右手の中に光を弾いて輝く小瓶があった。

「なんか用っすかぁ?俺、暇じゃねぇんだけど」
「俺の机の下に犬を置いたな」
「はぁ?犬って…あぁ、あの机、少尉のだったのか。書類が散乱してたから大佐のだと思った。」
「マスタング大佐の机はもっと汚い。少しでも振動を与えようものならバサッと隠してある手紙が」
「手紙!?」
「君達、軍司令部内で何をしている。」
不機嫌な声が頭上からかかり、エドとブレダは上を見上げた。ここは軍の屋内訓練場の1つ。水中訓練を行う施設の、ここは潜水目的の深いプールだが今は水が張られていなかった。その底に二人は対峙していた。
ポケットに手を突っ込んだロイにプールサイドから見下ろされ、エドは不機嫌に問い直した。
「あんたの机になんの手紙がごっそりあるわけ?」
「…ブレダ少尉、あとで私のところへ来るように」
うげぇとブレダがうめくのに対し、エドは面白そうに質問を繰り返した。
「なぁなぁ、手紙って!?」
「お前さんの弟とのやり取りもあるぜ。ペンフレンドとやららしい」
物見遊山でついてきたハボックが口を挟む。
ぶちっ
切れたエドが壁に手をやると大きく亀裂が走り側面が崩れ落ちる。
「後片付けがたいへんになるではないか、鋼の」
余裕で着地したロイがシニカルな笑みを口元にたたえる。
「まったくだ。おいブレダ、さっさと始めろや」
ハボックはというと、ちゃっかり攻撃を避け安全地帯に避難していた。
「おう、任しとけっと言いたいところだが、大佐は何しにここへ?」
今日の決闘をしっているのは、ハボック、ファルマンとフュリーだけ。疑問は当然だった。
「アルフォンス君がこちらに来ていると聞いたのだが!?」
ロイが懐から手紙を出すと、その差出し人を見てさらにエドの青筋が増え、ブレダは小さく舌打ちした
「てめぇ、この無能野郎が!アルにヘンな事吹き込むんじゃねェ」
「失敬な。アルフォンス君と私は話の合うペンフレンドなのだよ。」
胸に手を当て歌うように告げるロイ
ぶちっぶちっぶちっ
怒髪天ってこういう髪型なんだろうなぁ、などと呑気な感想を持ちながらも、後片付けが増えるのはご免とハボックが手の内を明かす。
「お前さんの素行不良や賢者の石をエサに、ファンシーレターで報告書を送らせてるだけさ、今は未だな」
ファンシーレターがポイントらしい、とハボックが付け加えると、エドの顔が引きつった。
「あんたさぁ……もしかして、不憫?」
プツッ
今度はロイの額に青筋が現れる。
「俺なんか手紙どころか、あの可愛い声で毎朝起こしてもらえんだぜ!?」
「……、そういいながらも貴様は手紙を貰った事などないだろう!?」
プツッ
ぶちっ
「こりゃ駄目だ。おい、ブレダこっちに避難しろ。お二人とも、限度を超えるとホークアイ中尉の御叱りを受けますよ」
ハボックの叫びにエドとロイは錬成態勢を解除する。国家錬金術師といえども、ホークアイの怒りは怖いらしかった。
一方、もはや常人では手をつけられない状況にブレダがプールの縁へ手を伸ばすと、それを掴んだのはアルフォンスだった。
「遅れて済みません、ブレダ少尉。僕、迷っちゃって…。フュリー曹長に連れて来てもらいました。」
ブレダを引っ張り上げながら謝るアルの肩をハボックがポンと叩いた。
「あれ、止めて」
みやれば国家錬金術師が二人、プールの底で不毛な言い合いと体術戦を繰り返していた。
「どうしたんです?あのふたり」
振りかえるアルをがしっと捕まえ、ブレダはにやっと笑った。
「災い転じて福となる!おい、錬金術師ども、コレを見ろ」
「「そんな口が利ける立場か、貴様!そもそもお前がアルフォンスを…」」
異口同音で発された言葉は振り返ると同時に消えていった。二人が振り向いた先、そこにはブレダがアルを捕まえその頭上に瓶を掲げていた。
「ケンカを止める為だ。大人しくしててくれ」
小声でアルに呟くと、ブレダは二人を見下ろし声高々に言い放った。
「手をついて控えるがいい。この瓶には酢が入っている。これをアルフォンスにかけられたくなければ俺の前に平伏し謝るのだー」
芝居気たっぷりでのたまったブレダにエドとロイはぽかんと口を開けた。
「す?」
「酢!?」
「「”酢”だってぇ!?」」
錆びる〜っっっ
状況を把握したふたりは直ちにブレダの足元に平伏した。
「エドワード・エルリック、俺の机の下に犬を置いたな」
「すいませんでした〜」
「マスタング大佐、出頭命令は?」
「出頭はせんで良し」
かっかっかっというブレダの高笑いとともに、この話はすぐさま軍部内を駆け巡った。その後エドもロイもブレダに何もしなかった事から、ブレダ最強説がしばらく軍部を賑わした。


二人が文句をつけなかった理由
「兄さん、あの仔の貰い手見つけたって嘘だったんだね」
「すまんっアルフォンス」
「大佐、ペンフレンドって何の事です!?」
「いや、それはだね、あの…」
ホークアイがたまには別の方法で二人を懲らしめることにした結果だった。
   2004/01/07

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