大人なんて(ロイ編)
「ついに決着の時が来たぜ」
「しつこいな、君も。勝負なら以前既に着いただろう。」
いつの間に作られたのか。簡易コロシアムが司令部演習場の一角に設けられていた。
「あれは、無効だ!だまし討ちやアルを巻込んだ卑きょーな手段に調子が狂っただけだ!今度はそうはいかないぜ」
ビシッと指をつきつけたエドの羽織る灰色マントが風にはためいた。
エドワードの何時もとは違う服装に、眉を顰めながらロイは受けて立った。
「何れも兵法の1つ。いかなる手段を用いようとも勝てば良いのだ。どんな綺麗事を並べても、死んだり大切な者を失ってしまえば、意味が無い。ところで、そのマントは何だね?なにか匂うぞ。」
「あぁ”、肉運ぶ時とかに使ってるからな。って、ンな事はどうでもいい。あんたこそ、その衝立の後に何があんだよ?」
「ああ、これか。無論、君へのプレゼントだよ、鋼の」
赤い布でロイのすぐ後に設えた衝立をチラッと見て、ロイは笑った。
「ふん。まぁいいさ。今回は今までと違うぜっ」
エドがマントを脱ぎ捨てると、その両腕にはアルフォンス抱っこチャンがしがみ付いていた。
「!」
「火を使えば燃えちまうぜ」
ある抱っこを見下ろして、エドはニヤッと笑った。
「貴様っ、それこそ本当に卑怯だぞ!」
「卑怯にレベルがあるかっ」
「くそっ、良心は痛まんのか!?」
頭に手をやり真剣に思案する焔のロイ。
「辛いさ、当たり前だろ!でもな、俺には本物がいるから良いんだよ。」
かたや涙を浮かべながら、それでも勝ち誇る鋼のエドワード。どっちもどっちである。
「君は本当に錬金馬鹿で、常識が欠如しているな。まず絶対にアルフォンス君は君のものではない。」
司令部のここかしこで、”そうだー”との歓声が上がる。軍部は暇な人が多いようだ。
「そのアル抱っこチャンにも作り手の気持ちが込められているのではないのかね!?作ってくれたのはロックベル嬢かミセス・カーティスか…」
”アル抱っこチャン”の部分に羨望で力が篭っているのをエドは鼻で笑った。
「こもってねェよ。ってか、こもってたらきもいぜ、作ったのメイスンさんだし…。だいたいウィンリィや師匠は不器用だからな。俺が作った方がまだマシ…」
そこでエドはロイが笑っている事に気が付いた。
「なんだよ。」
「語りで負けたな、鋼の」
そういうとロイは衝立の布を勢い良く引っ張った。そこに隠されていたのは…
「「誰があんた(お前)より不器用だって〜!?」」
スパナで手を打つウィンリィと指をバキボキ鳴らすイズミが仁王立ちしていた。
「!!!〜〜〜」
「鋼の。事前に情報を収集するのは基本だ。もっと勉強するのだな」
「バカヤローッ……あ、いや、すんません〜〜〜っ」
かくて、2体のアル抱っこチャンはウィンリィとイズミのものになった。
一方、ダブリスでは
「いやぁ、人形作りは本職じゃないんですがね〜」
頭を掻くメイスンの元に連日軍よりアル抱っこチャンの問い合わせが続いたという。 2004/01/16
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