ペットなんて

(フュリー編)

「アルフォンス君は猫が好きなのかい?」
言外に”犬より”というニュアンスを感じとって、アルは顎に指を当て上の方を向いた。
「動物は好きです。なんでも」
ただ、今は体が無く、犬は鎧についたエドの匂いを感じ取りエドを自分のリーダーだと捕える。
『それは、いい。リーダーは兄さんだし』
しかし犬はアルを生き物とは捕えない。例えば自動車のように、主人の所有する機械と思うだけだ。
勿論、猫だって機械と思うだろうが、犬は群れの縄張りよりも群れの中の位置関係を重視するのに対し、猫は群れよりも個の縄張りを重視する。即ち、アルを自分の縄張りとばかりに居付くのだ。
『でも、自分が人間はおろか生き物と思われない事を説明してもフュリー曹長は解らないだろうし、優しいから困るかもしれない』
偶然司令部の廊下で鉢合わせ、しかも部外者にも関らず、自分に声をかけてきたフュリーの優しい気遣いにアルは感謝し、そして彼への返答を思い遣って曖昧に言葉を濁したのだが。
「なんだよ、曹長。ケンカ売ってるわけ?」
間の悪い事に、横に居たエドワードは、弟の心の機微を見逃さなかった。
「ええ?」
どうしてそうなるのか、だがフュリーには判らない。エドに睨まれダラダラ汗を流すのみ。
「そんなわけ無いでしょ、兄さん。そんなふうに睨んで…フュリー曹長が困ってるじゃないか」
「なんだよ、アルは曹長のかたを持つのか!?」
今度はエドが半泣きでアルを見上げる。
「そうじゃなくて…。兄さんの気持ちは嬉しいけど、フュリー曹長がわかいそ…」
「まったくだ、鋼の。弱い者いじめは感心せんな」
どこから湧いて出たって、ここは軍内部だから可笑しくないのだが、気配が無かったので3人は一瞬固まった。
更に
「お、やるな、フュリー。ついにお前も決闘か」
ロイの後からブレダがにやにや顎を撫でている。
「違います!」と言いたいのだがフュリーの口からは言葉が出てこない。
「売られたケンカは買ってやるぜ。」
エドが胸を叩く後では、ハボックとファルマンが
「相手がフュリーじゃ舞台セットしても見物料で元とれねーか?」
「大穴と言えば大穴ですがね」
と、ぶつぶつ相談している。
どこを見回しても自分の味方は居ない
絶体絶命に滂沱しながら、フュリーが膝をついたところへ黒い弾丸が飛び込んできた。
いってぇーっ
ものの見事にエドのケツへ喰付いたのはブラックハヤテ号。
「あ、駄目だよ!?ブラックハヤテ号。」
「ごめんね。ブラックハヤテ号。兄さんは別にフュリー曹長を苛めていたわけじゃないんだ」
フュリーとアルに左右から宥められ、ブラックハヤテ号はしぶしぶエドを放した。エドはダッシュでアルの肩によじ登る。
”なんだ、決闘不発か”と面々が息をついた瞬間、ブラックハヤテ号は彼らに向かい低く唸った。
すでにブレアの姿は無い。
「さっ仕事仕事」
ハボックとファルマンはそそくさと立ち去る。
「あ、おい!?お前達」
取り残されたロイ。
ちらりと見ればブラックハヤテ号は飛びかかれるよう態勢を低くしているところだった。
ロイはキッとアルフォンスの肩口を睨むとハヤテ号の牙を逃れるべく、エドと同じように猛然とアルの肩に登った。
こらぁ〜っ大佐、アルに登るんじゃねェ」
「仕方ないだろうこの場合。緊急事態だ!すまんね、アルフォンス君
エドにはきっぱり、アルには優しく囁くロイにエドのパンチが炸裂する。
「登るのは構わないんですが…」
頭をはさんでぎゃーすぎゃーすと喚く2人にアルは溜息をついた。
『さすがに、いい加減にして欲しいかも』
下を見ればブラックハヤテ号は勝ち誇った顔をして尻尾を振っている。

犬。それは主人に、恩人に忠実な生き物。

ブラックハヤテ号を撫でるフュリーが笑顔で手招きして、アルも嬉しくなってしゃがみ込んだ。
結果、肩から落ちる2人。

「あら?大佐もエドワード君も…痔ですか?便秘はいけませんよ。野菜はたっぷり取って下さいね」
尻をおさえる2人を見て、ホークアイ中尉はしみじみ忠告した。

ブラックハヤテ号…これを書いてる時ほどこのネーミングに溜息をついた事は無かったです。たのんます、ホークアイ中尉〜(涙) 2004/01/25

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