hug

7月竜

朝から熱があった。調子がでないのはそのせいだ。休みたかったけど、今あの馬鹿達から目を離すと文化祭が滅茶苦茶になる。
「う〜」
「何唸ってるの?」
あぁ馬鹿がひとり。
「唸ってません」
「あ、でも守山さん」
「話なら資料と計画書を揃えて生徒会まで提出してからにして」
「話じゃなくて、守山さん、足元!」
浮遊感。
足を踏み外したのか、熱のせいか…
倒れる。でも体は動かない。
『痛かなぁ。尻餅はみっともないかも。でも、今はどうでもいいや』
目を瞑る。何も聞こえない。熱い。頭がボォっとしてる。
「?」
あれ?私って後ろに倒れてるんじゃなかった?前だっけ?
「守山さん。大丈夫?」
『なんだ、まだ居たの』
音に引っ張られて現実が急に戻ってくる。クラクションとともに私の直ぐ後ろを低いエンジン音が遠ざかっていく。見るとトラックの後姿が小さくなっていった。
私といえば歩道に座り込んでいて、村田始が私の頭を抱えていた。
車道に倒れる私を歩道に引っ張り上げたのだろう。その勢いのまま、痛いくらいの強さで私を…いや頭を抱締めている。その腕に手をかけるとお人好しは我に返ったようで、やっと力を緩めた。
「守山さん!?怪我無い?」
「何とも無いわよ。それより何してるのよ」
私の言う事も聞かず、馬鹿は態勢をかえなかった。
「無事で良かったぁ」
溜息をつくように言われて、恥ずかしいから手を離してっという言葉は口の中で消えてしまった。
『歩道に膝ついて、頭を抱締めてるなんて。子供じゃないんだし』
「馬鹿みたい」
「え?何か言った?」
離れる気配がして、手を伸ばしてみる。
ゆっくりと。
指先が肩甲骨に触れた。鈍い(本当〜に鈍い)コイツも気付いたんだろう、ちょっと強張って、でも離れていく動きは止めた。
自分より少し広い背を昇って指が肩に届いたら、力を入れて引き寄せてみた。
簡単に私の方へ倒れ込んできた。それは調子の悪い私を気遣ってるのがみえみえで。
みえみえだけど、でも。
腕に感じる体温が懐かしくて。腕の中にあるものが、私の腕の中にあるという事が全てのようで。指をを開いて村田始の肩を包んでみる。
『抱締めるって…こう言う事なんだろうか』
【大正解!】
頭の中に御節介な女が出てきたから、目を瞑る。
膝をついた前屈みの態勢に村田始がギブするまで。取敢えずはこのままで…

翌日〃歩道で大胆v〃という号外が校門でまかれて、更なる熱が那由多を襲った。

7月竜

ひみつナユタちゃん

今日最後にあなたの瞳に映った女の子は、私ですか?

「ギャーッ。何書いてるのよ、瞬!」
「いや〜、ちょっと那由多の気持ちをポエムに」
正義の鉄拳を落とし(トウゼン)、手紙を奪い取る。宛名は無いものの、私の名前が最後に書いてあるし〜(怒)
「お、那由多?顔が赤いぞ」
入ってくるなりボケ無いでよね。八葉さんも!
捏造偽造、ポエムどころか日本語でも無い羅列を千切り捨て、
「じゃ、お先」
冷たく挨拶して帰る。
登校して勉強して生徒会活動して帰宅するいつもの、日常。他の子と違って、見回りしながら歩く真守の日常。
それなのにアイツは
「また、明日」
呑気に言うから腹が立つ。
当たり前に言うから……、頑張れる。
人知れない責務。この宿業は私達まででいい。闇に隠されたチカラの、使い方の継承など
だから負けられない。だから、投げ出さない。
誇りと重責と。自信と拘束の中、ここにいる私へ、明日の約束をする。
あなたに私はどう映ってるんだろう。

使命に隠された晴美ちゃんの可愛さが明るみに出た体育祭。私の素が出た悪夢の体育祭。
「守山さんは守山さんでしょ」
おんぶされて帰る道、泣きたいほど力が抜けた。