humour

7月竜

「牛乳は飲まん!」
踏ん反り返った俺に、ウィンリィがデコピンを入れる。
「あんたってなんだってそう、我が侭なの」
ぷんすか怒るウィンリィの横でアルはにこにこしてる。

「なんだよ、アル〜。お前が飲め」
ウィンリィが席を離れた隙に弟のコップと取替えると、アルが思い出したように言った。
「”牛乳好きじゃない”人は、冷たい牛乳は飲めるんだって」
「は?」
「だけどホットミルクやシチューのように温まって臭いが強くなったのは食べられないんだって」
「ふ〜ん」
「兄さん、似非牛乳嫌い?」
「なんだ、それは」
だいたい今の話は”牛乳好きじゃない”奴の話だろ!?牛乳嫌いはシチューが飲めるんだよ。
テーブルに懐きながら口を尖らせて弟を見上げると、アルは楽しそうに笑っていた。だから俺も気分がよくなる。


俺の弟は冷めたトコがある、と思う。
ピナコばっちゃんあたりに言わせると、俺が直情型な分、アルが引いているという事になるらしいが、じゃあ俺が静かにしていればアルは感情派になるんだろうか。
『どちらかというと…』
俺が黙れば、たぶんずっとアルも黙ったままで、そのまま一生…
俺はぶんぶん頭を振った。振り過ぎで目眩がする。
それは駄目だ。絶対駄目!
この先ずっと、アルと口をきかないなんて、考えたくも無い!

「兄さんはさぁ、ウィンリィに構って欲しいから我が侭言うんだよね!?」
「はぁ?」
「お母さんを楽しませたいから、いろんな事するんでしょ」
肘を突いて俺を見下ろすアルの瞳が優しく細められて、頬が熱くなるのを感じた。
「そんなんじゃねーよ」
「ふぅ〜ん!?」
図星だと思ったのだろう。アルまでテーブルに頭を付けたので、すぐ間近に笑う金の瞳がある。耐え切れず俺は上体を起こした。
「違うって言ってるだろ!?俺が構って欲しいのは、ア‥」
「あ?」
からかってるうちに、俺が本音をもらした事に気付いたアルの瞳がまんまるになる。
「兄さん?」
あの字に口を開いたまま、俺は凍り付いた。真っ赤になってる自覚は大有りで。
「アルのバカヤロ〜ッ」
涙を振りまきながら、俺はその場から走り去った。


俺はいつも前を向いて走ってるって言われるけど、いや、走ってんだけどさ。
習いもしてないのに錬金できる俺を、村の人は天才だと誉めた。だけどそれは勉強したからだ。違うのは錬金術の勉強を苦痛と思わなかっただけの事で。その努力を、アルだけは分ってくれる。
”凄いな、エドは”と村人の言う意味と
「凄いね、兄さん」
アルの言う意味は言葉の重さが違う。
だからアルに誉められると凄く嬉しい。

お前に構って欲しいから、俺は我が侭になる。
お前に誉めて欲しいから、錬金術だって極めてみせるさ。
お前が笑ってくれるなら、無茶だってしよう。

理屈じゃないんだ。
アルは俺の傍にいて、ずっと笑ってくれてなきゃ嫌なんだ。
だから今日も俺はバカを言う。バカをする(健気だよなぁ、俺って)。
慣れない早起きをしてまで(睡魔なんかく"そくらえ"だ)、寝てるアルの毛布を剥ぎ取る。
「こそぐりの刑だ〜」
さぁアルフォンス、話、しようぜ。

短編は短編で纏めた方が良いのでしょうかね。いえ、どれも短いんですけどね(汗)。平行して暗い話(まだ公開できない寄贈品;爆)を相変わらず(笑)作ってたので、ちょっと兄ちゃんに奮発してもらいました。意味なくらぶv
好きな人には笑って欲しいって事と、好きには理屈が通じない事もあるってコトです(滝汗)
 2004/02/08