「行くカイ?」
やめて!アルを連れて行かないで!
「僕達の責任もあるとしたら、、、ううん、僕達錬金術師はこの責任を見届け受け止めなくちゃいけないと思う。」
やめて。付いて行かないで!アルっ
「行くの?」
お願い、誰か、、、アルを止めて。
「うん。」
責任なんて、どうでもいいじゃない。体無くして、日常も失くして‥もう十分じゃない。
「‥帰ってきたら、何があったかきちんと話してね。」
それとも、あたしじゃ駄目なのかな‥エドだったら、、、あんたを引き留められる?
「うん。」
、、、違う、ね。エドなら一緒に行く。一緒に行って、一緒に戦うのね‥
「ちゃんと‥」
泣かない。泣かないよ、お姉さんだもん。
「帰ってくるよね」
あたしのところへ、、、ううん、エドのところでもいいの。帰ってきてね‥
「帰ってきてね、アル‥」
ホテルの窓から飛び降りた後姿に、そっと呟いた。


あたしがラッシュバレーで修行している間に、お世話になったヒューズ中佐が亡くなった。亡くなってしまっていた‥
エド達は新聞に載っていた犯人に心当たりがあるみたいだけど、あたしはどうでも良かった。
だって、、だってだよ?ついこの間、あたしを励ましてくれた人が、今はもうこの世にいないなんて‥
「父さん、母さん‥」

大事な人が、急にいなくなってしまう

『恐い、恐いよ、アル‥』
あたしの大事な人達が、ちょっと目を離したうちに、永久に手の届かないところへ逝ってしまう
『グレイシアさんに教えてもらったアップルパイ‥エドには食べてもらえたけど、あんたはまだ食べてないんだから』
部屋にじっとしていられなくて佇んでいたホテルの正面玄関も、夜が更けるにつれ出入りが少なくなった。
「エドがいれば‥」
そうよ、いつもお邪魔ミジンコのくせにこういう時に限って誘拐されてるなんて、、、、
『違うか‥』
エドの後にアルが付いて行ったのよね。エドが誘拐された理由がヒューズさんの死の原因で、それを探しにアルも出かけたわけだから、、、
『ムカつく。結局エドなんじゃない。』
玄関の階段に腰掛けて膝に頬杖付いても、元気どころか出るのは溜息ばかりなんて、、、らしくない。らしくないぞっあたし!
背を伸ばして両手をひとつ上の段に着く。足を組んで見上げた夜空は晴れていて、月と星が彩っている。
「星はエド、月はアル。街灯はあたし、、、かな‥」
恒星は自ら輝き、月は太陽に照らされて輝く。そして見上げてるのは、、、見上げるしかないのは‥
「エドが心配にならないのは、、、、才能よねぇ」
錬金術のでは無く、人を惹きつける才能。それは困った時にも誰かが力になってくれるという事。そして命の輝き。手足を失った時ですら、苦しむ姿を見るのは辛かったがエドが死ぬとは思わなかった。
「優しいのはエドもアルも一緒だから、、、無鉄砲な行動、生きる原動力、、、、よねぇ」
アルに言わせればあたしとエドは似てるらしいけど
「失礼しちゃうわね、、、、っていうか、ならあたしにも懐きなさいよ。」
『しまった、力が入っちゃった、、、良かった、誰にも当たらなくて。』
脱げた靴を拾うと、階段に座り直して履く。その靴に、涙が零れた。
「アルの体が戻るのに命が必要なら、あたしの使ってよ、、、、そしたら、あたしとアル‥ずっと一緒‥」
笑いがこみ上げてきて、止まらない
「っなわけ、、無いわよね‥ひとつになるどころか、あたしは無責任な満足のうちに死んで、、、ずっとアルの重荷になる」
苦しませたいわけじゃない、大事にしたい、、、けど
【俺はお前のようにアルを大事にはできない。見守るなんて、、我慢ならない!俺はアルを、たとえ傷つける結果になっても!】
「バカね、エド‥あたし、そんなに物分り言い訳じゃないのよ!?」
アルの前だからそう振舞っているだけ。エドに負けたくないから、そう言っているだけ。
「だからエド、早く帰ってきてよ、あたしを弱いままにしておかないで‥アルを、連れ戻して‥お願い、エド‥」
カラン とベルが鳴った。
慌てて目を擦ると膝に頬杖を付く。
「お客様‥。中に入ってお待ちになってはいかがですか?」
あぁ、もうそんな時間なんだ。
声が震えないように口をおさえて、呪文を唱える。呪文を‥
ガ‥ン
「!」
ガシャン ガシャン ガシャン
「あ」
どうしてよ
「えーと」
ボロボロなのに、なんで嬉しそうに見えるの?あたし、怒ってるのよ!?
「ただいま」
待ってるだけで、いいの?ねぇ!?あたしが待ってると、嬉しいかな!?
お辞儀をしたアルが、あたしをまたお姉さんに戻してくれる。
ばか!おかえり!
「いやぁ へへ‥」
アルから微かに焼却炉の匂いがして、涙が、、、止められない。
目の前で落ちた腕よりも、その匂いの方が恐くてあたしはアルに抱きついた。


【あたしより背の低い男は、いや。】
子供の時、それは本当だった。それに、エドもアルも意地になっていて、あたしを好きなのか、相手に勝ちたいのか分らない状況で。あたしは意地悪く言い放ってやったのだ。
「だからね。ほら、俺のお嫁さんになれば将来皇后様ヨ?玉の輿ヨ?」
でも今、あたしより背の高い次期シン国皇帝候補が囁いても、アルは邪魔をしてくれない。鎧になってから、アルはすっかり物分りのいい大人に成ったようで、それで不安になるのかもしれない
『最近エドのオプションとか考えてて、お肌の手入れとかしてないからかなぁ、、、』
「ははは」
眉間にしわを寄せていたら、アルらしくない笑い声が
「不老不死どころか、まっとうな人並みの人生分もあやしいもんだ」
アル?どうし‥
「時限爆弾付きなんだよ、この体。拒絶反応という爆弾が、明日かあるいは十年後か、、、百年後か一分後か‥いつその時が来るか、それは僕にも分らない」
なに?なに言ってるの!?拒絶反応って、、、はは、そんな‥そんな‥‥
「いや、待ってくれヨ。その身体がやばくなったら魂を他のものに乗せ換えて、生き続ける事はできないカ?痛みを感じない食べ物もいらなイ、便利でいい‥」
ドクン
いい訳ないでしょ!!
心臓が、耳元にあるみたい。何コレ、息が苦しい
「なにも知らないくせにっ」
目が熱い。ここはどこ?あたしっ、あたし‥
巡らせた視線の先でアルがあたしを見ている。
急速に、手足が冷たくなるのを感じた。
「‥ごめん」
卑怯者のあたしは逃げ出すだけ。そう、あたしだって知らないんだ!アルの恐怖は。アルの気持ちは‥
「ウィンリィ‥?」
あたしでは代弁できない!だけど、だけどっ
「‥もー‥、兄さんやウィンリィが先に怒るから、僕は怒るタイミングを逃しっぱなしだ。はは」
優しいアル
「ねぇ、元の身体に戻れるよね?ねぇ!?
ガシャン
枕を抱き締めてるあたしに、近付く鎧の音。だけど‥
アルは伸ばした鎧手が触れる前に、動きを止めた。そして、抱き締めてもくれないまま、あたしの部屋を出て行く。
「バカね、あたし、、、、昔は抱き締めてあげたのに、抱き締めてくれるのを待つだけしかできないなんて‥」
ティッシュで思いっきり鼻をかむ。
「やばっ、力入れ過ぎ。鼻血、でちゃった」
あたしはティッシュを丸めると、ゴミ箱に放った。
「エド、、、、エド、エドエドエドっ」
ボスッと沈む体のまま、腕を伸ばした。


「おう、ウィンリィ。」
待ち人は唐突に帰ってきた。
ばかーっ
わーっ!!?機械鎧は壊してないぞ!!?
「そうじゃないの!!いいからさっさとアルのところに行きなさい!!」
「なんなんだよ!!」
あたしじゃ駄目なのよ!あたしだけじゃ、、駄目だったのよ‥
なんじゃこりゃーっ!!!なっ‥おまっ‥こんなにぶっ壊れて‥うおおお!!!
「あたしが壊れたあんたの機械鎧を見る気持ち、分った?」
エドはこくこくと頷いた。
「あーあー、派手に壊したな〜‥?、どうした?」
エドの前だとアルは無防備な子供になる。そして
「アル、思い出せ!手を伸ばした先を」
エドはアルを光へと導くのだ。
そうだ。エドは戻ってきた、希望を持って。罪悪感を解き放つ真実を携えて。
『‥こんなに、背中大きくなったんだ』
弱くなったあたし。大きくなったエド‥
『背は伸びてないけど』
呟いて、笑ってみる。
悔しいけど、今は‥
「愛してるわ、エド!」
叫んで振り上げたこぶしを、そっと引き戻す。
愛してる、アル‥
胸に手を当てて唱えてみる。
【いつまでもガキじゃねーんだから。】
ええ、そうよ。今は負けてるけど、この次は!
「見てなさいよ、エド。あたしも、進むから。」
ラッシュバレーに戻ろう。あたしの明日の為に。あいつらと並ぶ為に!

11巻を読み返してみたら、どんどん遡って、、、ウィンリィだけの話が他キャラまで(arcana参照:笑)、、、、。書きたい所だけだとあんまりなので、継ぎ足し書き足し‥こんな暗い話に、、、なして?2005/10/01

錯綜のせんとらる

7月竜