愚者の貴石

7月竜

もう、僕にできる事は‥無いのかもしれない…

「もういいって言ってんだろっ!」
返ってきた言葉は‥拒絶は、飛んできたコーヒーカップより遥かに痛かった。

どちらかが間違った時は、残った一人が止めるしかない

そう思ったけど。そう、思ってるけど…
実際の僕は兄さんの傷を突付くだけで。
スパッと切って綺麗に縫合してくれたのはロス少尉だった。


【子供ね。】
僕には言えない言葉。僕にも‥当てはまる言葉…。

「やるぞ!アル。」
「うん!兄さん。」

うん。兄さん。

後を付いて行く僕は、せめて貴方の背を護りたかったけど
僕は、もう見ているしかないだけのモノになってしまったのかな

俺達、一生このままかな
自嘲気味に呟かれた兄さんの言葉に、僕は呼びかけるしかできなかったけど。でも、それを肯定したら‥。常識を受け入れてしまったら
それはつまり、"僕はモノ"って認める事になる。
だって兄さんが思ってくれるから、僕は人間でいられるのであって。
だから本当は。
僕が人間でいられる世界は、ここに無いのだから。

昔、ウィンリィが可愛がっていた人形。
人形なのに、落したりすると"ごめんね"って謝ってた。"痛かった?"って撫でていたっけ。だけど‥
いつのまにか人形遊びをしなくなったウィンリィ。人形は棚に置かれ‥。目に留った時々にだけ、懐かしまれる存在に。友達から人形へ、還った。

冑に当って砕けたカップ
兄さんは、僕を見て何を思ってただろうか
何を考えただろうか

生気を取り戻し、走る兄さんの髪に反射した月光が煌く。

兄さんがいつか足を止めてしまったら、諦めたら…
僕はどこへ還るのだろうかと、かつては僕も持っていた金色の向う、現れた第5研究所を見て思った。

アルside

「真実の奥の奥」 1週遅れのなのですが、これがなんだか痛くて。ふっふっふ(自棄)書いてしまいました。第19話が基なのでTVバージョン・アルside。エドsideもあったり(笑)。
分りにくくて申し訳無いのですが(汗)、この時点でアルは自分を人間だと思ってます。それを知っているのはエドだけで、それでいいと思ってます。この後、人間である自信が揺らぐ事件が起こってしまうのでした(あ、知ってますよね!?くちチャック、くちチャック!;笑) 2004/02/23