必ず元に戻れるとずっと、ずっと信じて。ひとりと一体は旅をしていたのです。
ふたりきりの兄弟でした。


「戦争?なんで?」

兄は、小柄な体に強い決意を漲らせ、希望を叶える為の後ろ盾、国家錬金術師という首輪を自らつけていました。弟は空虚な鎧いっぱいに兄への深い愛情を携え、ともすれば無茶をしかねない兄を半歩後ろで見守っていました。そんなふたりの元へ届けられた、兄への召集令状。
ふたりの住むアメストリス国は大陸の中央付近にあり、周辺の国々とj国境付近で小競り合いが絶えない情勢にあったのです。


「いったい、どこと?」
「理由も相手も貴様が知る必要は無い。国家錬金術師となった時から、軍の命令は絶対だ。お前のなすべき事は考える事ではなく、命令に従い実行する事だ。」

最年少で国家錬金術師と成ったエドワードは天才と謳われ地位は少佐でしたが、わざわざ国令を持って出向いてきたのは准将の肩書きを持った上官でありました。
鉄血の国家錬金術師でもある准将の命令に、止む無く連れられて行くエドを助ける為、アルは本来エドの直属の上官であるマスタング大佐の元を訪れたのでした。

「マスタング大佐は現在北方へドラクマ牽制の遠征に出ておられるが、用件は何だ?」
鎧の格好を不審に見やって尋ねたのは、マスタング大佐の留守を預かるアーチャー中佐でした。
エドが連れられて行ったのと同じ汽車でセントラルに着いた今しか、エドを助ける機会はありません。アルは迷わずアーチャー中佐に頼みました。

「兄さんの代わりに僕が戦争に行きます。僕が戦います。だから兄さんを連れて行かないで下さい‥」
戦争に行けば命を落とすかもしれない。無理をして体を悪くするかもしれない。
「リゼンブールで兄さんを待ってくれている人が居るんです。」
「そんな特例が認められるわけ無いだろう。マスタング大佐は君達を随分甘やかしていたようだが、そうはいかん!命令は絶対だ。」

アーチャー中佐がアルを追い出そうと立ち上がると、入ってきたのはエドを連れて行ったグラン准将でした。
「話は聞かせてもらった。アルフォンス・エルリック。兄の代わりに戦場へ行くというのだな?」
「はい。」
「しかし!民間人の戦争参戦は、大義名分に隠された人殺し‥」
癪に障るらしいアーチャー中佐の文句を視線で殺すと、グラン准将は髭を撫でました。
「人を殺すのだ。できるのかね?」
「兄にさせるよりマシです!」
「死ぬかもしれんぞ?」
「僕は、、、鎧を持ってますから」
「確かに、、、鎧だがな。」
含みを持ってグラン准将は、笑いました。

鎧のからだ。禁忌を行ったツケ。
アルが実は鎧のみで生身が無い事は、マスタング大佐のもと、機密事項になっていました。しかし、度々の破天荒な旅の行程に、疑いを持つものも居たのです。


「いいだろう。エドワード・エルリックの第一期出兵は見送ろう。君の働き如何では、その後の召集からも外し、セントラルからリゼンブールへ返してやっても良い。」
「ありがとうございます。」

書類にサインを終えるや否や、戦場へと追われるアルフォンスを見送って、アーチャー中佐は不本意そうにグラン准将に尋ねました。
「いいのですか?鋼の錬金術師はマスタングの懐刀。やつの居ないうちに潰しておけば‥」
「アーチャー中佐、戦略はもっと未来を見据えるものなのだ。君は余計な事を考えずに、いかに長く鋼の錬金術師を拘束しておくか、考えたまえ。」
「は。」
「エドワード・エルリック、貴様はもはや袋の鼠だ。マスタングよ、タッカーの借りはきっちり払ってもらうぞ。」

グラン准将は自分の推薦した錬金術師・タッカーが、錬金術師の禁忌に触れたのを知っていました。タッカーが提出した最初の人語を話すキメラを見聞したのが、グラン准将だったからです。ですがなにも知らない審査員のタッカーへの評価はよろしく、ひいては推薦しているグランの見る目も評価される為、黙っていたのでした。

【所詮、お前を元に戻す事はできん。なら、タッカーの手柄にしろ。そうすれば娘も何不自由無く暮らせる。娘の為にお前は何も話すな。】
【‥‥‥‥。】
キメラは涙と共にただ一言答えました。
【死にたい‥】

タッカーは国家錬金術師となり、綴命のふたつ名を戴いたのです。その非道を暴いたのがエドであり、結果上司のマスタングの名が上がり、グラン准将は叱責を受けたのです。

「軍の第五研究所で垣間見た魂の移殖。不完全なそれを天才と言われるガキがやってのけたとしたら、」
グラン准将はニタリと笑いました。
「行為は罪に問われ、鎧は没収。マスタングは失脚。その証拠を掴み、更に今度は弟を人質に錬成の研究をさせれば良い。わしの為にな。」

アルが送られたのはアエルゴが接する南方の砂漠地帯でした。
「国境は我々軍が守るから、きさまはその囚人の手伝いをしろ。」
指揮官に言われ、アルは囚人と二人きり砂漠に置き去りにされました。
「あの、、?」
「素晴らしい。」
「はい?」
「素晴らしい仕事だと想いませんか?」
「僕、何をすれば?」
「!。ああ、べつに手伝いは要りませんよ。そのへんでのんびりしていたらどうです!?」
忘れていたとばかりに、囚人は手を打った。
「え、でも、、そういうわけには‥」
「い〜じゃないですか。ここは戦場じゃないんだから。」
「それは、、、そういえば、どうしてここに?」
アルは改めて砂漠を見回し、首を捻りました。
「砂漠越えの国境以外からの侵入防止が建前ですよ。これの、ね。」
囚人の差し出したものは小さな石ころで、アルの困惑は深まります。
「あの、、それ、、、、?」
囚人が投げると、それは爆発しました。小さな石ころでもたいした威力でした。
「わたしの名はキンブリー。牢獄に入る前は紅蓮の錬金術師としてイシュバール戦争で活躍したんですよ、これでもね。ちょっと命令違反したからって、牢に入れるのは酷いと思いませんか、頑張ったのに。」
「ええ、、っと、その、命令違反って、、、?」
キンブリーはニヤッと笑っただけでした。
それから次の日も。また次の日も。キンブリーは地雷を錬成し続けます。
「これを埋めておけば、上を歩いたらパァッ、、、とね。さ、埋めに行きましょう。こういうのは置き所がポイントなんです。より美しく咲かすにはどうするのか、ね。」
たしかに。地雷に引っかかったとしても違法進入する方が悪い。
そうアルフォンスも考え、キンブリーの後についていきました。
「あれ?あの穴‥」
「ああ、昨日仕掛けといたやつに引っかかったんでしょう。美しく、、は咲けなかったようだ。人間じゃない。」
舌打ちするキンブリーの後姿を、アルは呆然と見ました。
「人間以外にも‥掛かる?」
「地雷は相手を選びませんからね。仕方ない。」
「そんなっ、それじゃ無差別‥」
キンブリーはアルの動揺を愉快そうに振り返りました。
「軍はね。好きなだけ作ってくれとわたしを解放したんですよ。戦争の為にね。それとも君は、直接人を殺す方がよかったのかな?」
「僕はっ、、、こんな‥酷い‥‥」
「でも、君は引き返せない。違いますか?」
『‥その通りだ。兄さんを守れるなら、僕が人殺しになる方が良い‥』
こうしてキンブリーは地雷を作り、アルはその上を誰も何も歩かないよう、見張る日々が続きました。

「アエルゴ軍どころか、密入国者ひとり来ない‥そうだよね。砂漠側にも当然有刺鉄線の壁がある。国境警備隊に悟られず砂漠から進行するには、迂回して砂漠に出てから更に砂漠を越えてアメストリスに入る事になる。相当の準備が必要だ。それならその分兵力に厚みを増して現在アエルゴ軍が基地を設置している国境から攻め入る方が勝算が大きい。だから僕らの指揮官の人もそちらで指揮をしてる‥だったら、ここで地雷を埋め続ける意味は?」
アルは毎日毎日飽きもせず、色々なものを使って様々な地雷を創り続けるキンブリーを見ました。
「侵入を防ぐ目的なら広範囲じゃなくてもいいんじゃないですか?進入を知らせるだけで。僕達がここに居るんだから‥」
「君はわたしの楽しみを邪魔する気ですか?」
「いえ、そういうわけじゃ、、、創られる楽しみは止めませんが、それを使うのは、、、、」
「花咲かせるのが楽しいんですよ?血の花をね。それに、戦争が終わったからといって国がこの地雷を撤去するとでも思ってるんですか?第一変でしょう、こんな何も起こらない所に地雷なんて。国に余裕がある時ならともかく、今は北も西も南も緊張状態。あえて確率の低いこんなところに地雷を設置しているより、戦場で使うべきでしょう。」
「、、、キンブリーさんは軍が何を考えているか、、、、知っているんですか?」
「いいえ。」
「キンブリーさん!知ってるなら、、」
「知りませんよ。考えない事にしているんです。仕方の無い事はね。君も、諦めたでしょ!?引き返せないって。」
苦しそうに頷こうとして、しかしアルは首を振りました。
「いいえ。諦めたわけじゃありません。自分で決めたんです。」
「へぇ?」
「僕は‥兄さんが幸せで、笑っていられるならそれ以上望む事なんて無い。国は、、、違うのかな‥。戦争してまで、何をそんなに欲しいんだろう」
「‥‥‥」
「守りたいだけ‥それだけで良いのに」
「諦めないなら、、進めばいいでしょう。」
キンブリーはアルに背を向け作業を再開しました。
「あの、、キンブリーさん?」
「国がどうなろうと君が何をしようと、わたしの知ったこっちゃ無い。でしょ?」
暗に、好きにしろと。目を瞑ると言われ
「!。ありがとうございます!」
アルはキンブリーの背に深く頭を垂れたのでした。

キンブリーは時々送られてくる少ない物資で作業し生活していたので、日が暮れると燃料を惜しんでそうそうに眠りにつきます。アルはキンブリーが寝付くとこっそりテントを抜け出し、キンブリーが創った地雷を撤去するようにしました。
「楽しませてくれますねぇ、あの鎧クンは。」
目を瞑ると言ってやったのにキンブリーに遠慮して、夜地雷を処理していくアルにキンブリーは肩を竦めました。
「気にする事など無いのにねぇ。水瓶が空になれば水を足すのと同じで、あの子が撤去するおかげでわたしはずっと地雷を創り続けられるわけなのだから。」

微妙な連帯感で2人は砂漠に暮らしました。

その日は冬になろうというのにとても暑い日でした。
「?、キンブリーさん。」
ここに来て一度も邪魔をしたことの無いアルに強引に引っ張られ、しぶしぶとキングリーもアルの示す方を見ました。
セントラルの方角を覆う大きな雲。
「なんでしょうか?アレ、、、、今日はヘンに暑いし、天変地異じゃ」
「いいや。アレは」
キンブリーの瞳が輝くのを、アルは見ました。
「アレは大規模な爆発の煙ですよ。キノコ雲ですね。大きい!いったいどこで、どのくらいのものが爆発したんでしょう。」
「爆発って、、、砲撃とか?でも、あんな大きな雲が発生するだろうか?」
「敵襲じゃなく、、、誰かが地雷をふんだんでしょう。ああ、、見れなくて残念だ。」
「地雷って、、、まさかキンブリーさん‥」
キンブリーは雲からアルへと視線を移すと薄く笑いました。
「誰かが隠していた秘密という名の地雷ですよ。それを別の誰かが踏んで、禁忌の罰が下った‥」
「あの、、それって‥」
「もしセントラルだったら、距離と雲の大きさからして、セントラルどころかその周辺まで壊滅状態でしょうねぇ。」

キンブリーの言葉は、やがて途絶えた連絡で証明される形となりました。
キンブリーの話を聞いてすぐにでも兄の無事を確かめに飛んで帰りたかったアルですが、確証無くここを離れれば間違いだった時に約束反故で兄の立場を悪くする事になるかもと、思い留まっていました。

「キンブリーさん、僕、サウスシティに行って食料を調達してきます。このままじゃ、、、」

しかし今、食料が届かなくなって1ヶ月を経過し、アルが有機物から錬成した食事でしのんでいたキンブリーには、そろそろ限界でした。

「ああ、、君も随分痛んでしまいましたね。錆びついてざらざらだ。」
キンブリーはアルを繁々見ると、荷物をまとめ始めました。
「この地を離れるという意味を、君は理解していますか?」
「え?それは、、、命令違反かもしれないけど。でも緊急‥」
キンブリーは乾いた笑い声をもらしました。
「君はどんな命令か、知ってるんですか?」
「え‥、だからそれはアエルゴの」
チチチ とキンブリーは指を振りました。
「わたし達がここに置かれたのは”グラン准将”の命令で”君が人間ではなく世にも稀な錬成結果”だという事を証明する為ですよ。同じ条件で君とわたし。わたしが餓死しても君が生き残れば、大義名分で君を”取調べ”られるでしょ!?”何故死ななかったのか”。」
「キンブリーさ‥」
呆然としたアルを、キンブリーは叩きました。カンカンという金属音が返ったアルですが、今ではゴンゴンと鈍い音で響きます。
「わたしは死刑を待つ身だった。どうせ死ぬなら好きなだけ爆弾を錬成したかった。」
遠い目をまぶたの裏に隠すと、キンブリーは荷物を背負った。
「君はわたしを楽しませてくれた。だからここでお別れです。わたしは逃げた。君はそれを報告に戻る。」
「でも、それじゃキンブリーさんがっ」
「わたしは君を騙していたんですよ?気にする必要は無い。それに、わたしもせっかくだから、彼らに飛び切りのプレゼントをしたいんです。」
キンブリーが時限付きの爆弾を錬成するのに、アルは慌てます。
「駄目です!キンブリーさん。助けを、連絡しましょう。」
「‥‥、大丈夫ですよ。無駄に死ぬつもりはありません。それより、人の心配より君には大切な事があるはずです。」
キンブリーは少し歩いて、立ち止まりました。
「鋼の錬金術師を守るんでしょう?早く帰りなさい。セントラルは、血生臭い歴史と共にたくさんの爆弾を抱えている‥」
去っていくキンブリーに頭を下げるとアルは残った地雷を手早く処理し、セントラルに向けて走り出しました。


セントラルに近付くにつれ、土地は荒れ果て家を失ったり負傷した人々が少しでも安全な場所を求めてさ迷っていました。そして軍は。もはや機能していないようでした。
「兄さんはどこに?リゼンブールに戻っていてくれればいいけど」
だけどリゼンブールだって、どうなっているか分らない‥
途中立ち寄ったタブリスのカーティス肉店は、面影薄く傾き、見知らぬ人が入り込んでいました。
『兄さん!ウィンリィ、ばっちゃん。師匠っ‥』
逢いたい!
ただひとつの思いを空の胸に、螺子がはずれ長さの違った鎧の足でやっと踏み入れたセントラルシティには、建物ひとつ残っていませんでした。人の姿、いえ生き物も見えません。
大総統府があった場所は大きく深く抉れ、暗い穴が全てを飲み込もうというように、開いていました。

「兄さん、、どこ?」
泣きそうな声で手がかりを探した挙句、司令部全てを飲み込んだ穴のまわりにぐるっと、メッセージを書き残し、リゼンブールへと足を向けた。

リゼンブールも難民で荒れてはいたが、緑が残り人々はなんとか生活していた。

「アル?アル、、なの?」
気付いたのはウィンリィで、彼女は手荷物を放り出すと勢いよくアルに抱きつきました。
途端に崩れる鎧の右足。

「きゃあ、アル?ごめっ、あたし、、、」
「へへ、、、大丈夫だよ、ウィンリィ。君もげ、、無事でよかった。」
元気そうと言おうとして、幾分痩せて目の下に隈を作っているのに気付き、アルは言葉を改めました。
「兄さんは?ここに居る?他の皆も無事?」
とれた足を支えになんとか立ち上がると、アルは勢い込んで尋ねました。
「安心して。無事よ。エドはウチにいるわ。マスタングさんは無事だった軍の人達を率いてアメストリスの再建に奔走してる。イズミさんやトラッシュバレーで無事だった人達はそれぞれの場所で復興に手を貸してる。そうそう、ここにはラッセルだっけ?トリンガム兄弟もいるのよ。ここで色々物資を錬成してくれてるの。」
「そう。良かった‥」
安心したアルのため息に、ウィンリィは苦しげに眉を寄せた。
「ウィンリィ?どうか、、、した?」
ウィンリィは首を振ると、アルを支えながら家路につきました。
「よぉ、ウィンリィちゃん。その鎧はメッケもんだな。エドの機械鎧に使うんだろ?これで復興が捗るぜ。」
「違っ」
「いいっていいって。気にせずエドに使ってくれよ。あいつが直ればバシバシ錬成してもらうからよ。」
技師と思われる男を見送ると、アルはウィンリィの肩にそっと触れた。
「話して、くれる?」
見上げたウィンリィの瞳に、涙が盛り上がって零れ落ちました。
「セントラルで秘密裏に行われていた実験が失敗して、、、リバウンドで街が飲み込まれたって‥エド、錬金術でたくさんの人を救ったけど、、、機械鎧が壊れてっ、、ぅ、、、だけど、、、鋼、、、金属が、、ひっ、、く、、不足して、、て、、、直せなくて、、、、」
錬金術の暴走はアメストリスの心臓部に当たるセントラルシティを飲み込み、ギャクに多くの負傷者を生み出した。中央が壊滅した事により医療が滞り、治る人も治療が間に合わず、結果機械鎧の需要が増加。更に鉄道の崩壊による流通の寸断・鉱山の崩壊が救済の遅れに増加に拍車をかけていました。
「とにかく流通を再開させねば、助かる人を治療もできん。」
「食料も配れませんし、電気などが使えないと水の浄化が間に合わず最悪伝染病が蔓延する恐れもあります。」
優先は流通だ!を合図に多くの鉱物が投資されり、残骸から錬成されたりと使われていたのです。
結果、機械鎧は深刻な材料不足に陥っていました。

「機械鎧は後から付けても問題ないから‥」
「分ったよ、ウィンリィ。僕で役立つ?」
「アルッ、それはっ」
鼻を赤らめて怒るウィンリィにアルは笑いかけました。
「僕を見て。僕はもう直せないでしょ」
アルが鎧を見せようと両手を広げると、バランスを失いひっくり返ってショルダーがゴロンと落ちました。
「ほらね。」
「アル、、、、」
「兄さんが直れば、復興の手助けにもなる。」
「アルぅ、、、」
抱きつくウィンリィの背を撫でながら、アルは冑を取りました。
「見て。外部は錆びてボロボロだけど、中は磨けば大丈夫でしょ?血印、壊したら兄さんに怒られると思って、中だけはずっと錆びたりしないよう気をつけてたんだ。」
自慢げなアルの口調に、ウィンリィはついに声を上げて泣き出しました。
「さあ、ウィンリィ。ラッセルを呼んで来て。彼は兄さんも認めた腕を持ってる。大丈夫、上手くいくよ。」
泣くウィンリィの背を押して,彼女の姿が丘の向こうへ消えると、アルは這いずって木の陰に移動しました。
「鎧の破片も集めて、、、これで全部かな。錆びてても大切な金属だ。兄さんなら、役立ててくれるはず。」
兄さん‥‥っ‥兄さん!兄さん!兄さんっ

最後に話したのは何だっただろう
最後に笑ってもらったのは?

帰るから。貴方にもらった命、貴方に必ず届けるから。

ウィンリィがラッセルではなく、エドを連れてきた時、血印にはありがとうという下書きを辿る傷が刻まれていました。



錬金術を育んできたアメストリスは、その術で破壊され、その術で恐ろしく早く復興し始めていました。

「エド〜、機械鎧整備するから来て〜。」
「ああ。」
病院の屋根から飛び降りると、エドはウィンリィのもと駆け寄ります。
「大事に扱ってくれよ。」
「それはあたしのセリフよ!」
ウィンリィはエドの右手を引っ張ると、打って変わって丁寧に機械鎧を外します。
消耗する機械鎧で唯一安全なエドと機械鎧を繋ぐ肩側のジョイント。
そこにうっすら見える紅い印を、エドはウィンリィが気を利かして用意した鏡を通して愛おしそうに眺めました。

「エドぉ〜、万博行ってきた?」
ウィンリィの問いかけに、エドとアルは顔を見合わせた。
「ああ、行ってきたぜ。万国ビックリ人間博覧会だろ?」
「じゃあさじゃあさ。」
ジャジャ〜ン とウィンリィが背から台本を取り出す。
「○☆館行った?」
「○☆館って、コモン1の奥にあったとこだろ!?100分待ちだぜ、行くかよ。」
「え〜、すっごくいいアニメ、上映ってたのにな〜。」
ひらひらさせる台本を引っ手繰ると、エドはぺらぺらと見た。
「ふ〜ん」
内容にはすごいと言いながらもピンと来ていない様子のエドに、ウィンリィはアルに聞こえないよう耳打ちする。
     エドアル
「どう?美味しいでしょ!?」
途端に頬に赤を散らしたエドは、だがすぐに首を振るとウィンリィに台本を返した。
「このチビが俺とでも言うのかよ。」
「なによ、違うとでも?」
珍しく乗ってこないエドにウィンリィは口を尖らせた。
 エド               アル                  エド
男の子と自然を守っていたロボットが、攫われた後もひたすら男の子の元へ戻り自然を取り戻す話。

「ひたすら、、、俺の為に生きるアルは、、、、、NGだな」
俺への愛に生きるあるなら全然OKだけど!?
おどけて笑ったエドの答えが、ウィンリィには珍しく納得できて、ウィンリィはアニメの台本を見直した。
「ウィンリィ、、、?その、良かったの?」
2人の内緒話が終わったと見て取ったアルが、台本を読み直すウィンリィを伺う。
「う〜ん、今回はエドの勝ちね。」
ウィンリィの外れた返答に、アルは小首を傾げた。

万博、行かれましたか?観ている時はそうは思わなかったのですが、後から考えるとエドアル!(爆)。どうしてもエドアル!(笑)。こんな話にしてしまってスミマセン(汗)。2005/10/10

世界の国から(EAinEXPO)

7月竜