「元に戻れなくてもいいや」
告げられた口調は軽く、重い意味を内包したままタブリスの空に吸い込まれていった。
「何ヘタレた事言ってんだよ。」
言いたい事の半分も口には出さない弟の言葉の意味をエドワードは慎重に考える。
あっさり怒れば良いのか、慎重に悩みを聞き出すべきなのか
怒鳴れば良いのか、心配を露にすべきなのか
「ウロボロスの人達、人間になりたいんだよね。だから賢者の石で錬金できる人を探して‥」
「‥ああ、んな事言ってたな。」
カラッとした青天の、屋根の上は当たり前だが他に誰にもいず、静かでのんびりとした二人の空間が広がる。
「元に戻れなくてもさ、僕、幸せだと思うんだ。」
「どこが?」
空かさず突っ込まれ、アルから笑う気配が零れる。
あの人達を見てたら気が付いた。僕はたくさんの幸せを持ってる。
ホムンクルス達は人になる事だけを求めて。他に大切なものを持たずに。
それで人になった後、あの人達は幸せなのかな?
「兄さんがいて、ウィンリィが笑って。心配してくれる皆がいて。」
「………… 」
「たとえこの先独りで生きていかなきゃならなくても。」
人の器があっても、それで人といえるのだろうか?
「そんな事は!‥」
膝を抱えていたアルは、隣りで膝を抱えているエドを見つめた。
「いっぱい貰ったから、大丈夫!独りでも、生きていけるよ!?だって、生きてるって思えるようになったもん。ありがと、兄さん。」
どうして俺の弟は、こう、素直なんだよ。恥ずかしいだろ!?
顔が赤い自覚があって、エドはそっぽを向いた。
「生きてるって、当たり前だろ!?俺が育ててんだし」
「はは、そうだね。」
エドは立てていた膝を軽く伸ばすと、腕を組んで顎をのせた。前屈みになった為、アルからはエドの表情が分らない。
「お前を、独りにはしないから。そん時は‥連れていくから。」
「兄さん‥‥」
それは、兄さんの重石にはならない?
不安そうなアルの声にエドは体を起こすとニカッと笑った。だけど、すぐ切なそうな顔で下を向いた。
「兄さん?」
エドは四つん這いでアルに寄るとガシッと抱きつく。
「兄さん‥」
腕がまわらないエドの不安定な体勢に、アルがその背へと手をまわす。
たぶんそういう事だと思う。もちろん、諦めたりはしないけど!
背に感じる大きい手。この手があれば、他人が何と言おうと
アルがいれば、そこが楽園。
元に戻ると言う目標が、元に戻らなければと言う義務に変るぐらいなら
「このままでも、確かに不自由は無いかな。」
アルが小首を傾げる。
「何が?」
「欲求不満の時は手伝えよ。」
「欲求って‥‥、ええ!?」
寄せた頬が冷たくても、抱いた体が硬くても。
「他に抱くヤツは居ねぇから。」
俺が誰かを
お前が誰かに
『同じ怪物として祈ります。貴方達も幸せを見つけられますよう』
青い空を、アルは仰いだ。
待受ける闇の触手が足元で渦巻いていても、今はどうかこのままで
7月竜結構、アニメ第30話応えていたみたいです(笑)。7月竜なりのアル解釈(^^;)。同じ人外として、幸せを見つけようよ‥って大きな御世話ばなし(笑)。
しかしなんですな。エドの失言には腹が立つのに、アルの失言には気落ちするという‥。エドには理想があるからとしておきましょう(爆)。も1本ヤバい話も考えたんですが、こっちがアニメの7月竜アルによる解釈ならも1個はアニメ版アルの7月竜的曲解。あぁ、こんなに翻弄されるとは‥。っていうかイズミさんはもっと素晴らしい人だ!それは壊さんでぇなぁ、って感じ(爆)。2004/05/09
か な し い 人 の 記 憶
7月竜