Motherland

「引力とは2つの物体の間に働く互いを近付けようとする、引き合う力。斥力とは互いに遠ざけようとする反発し合う力。同じ極性同士には斥力が働き、異なる極性同士には引力が働く。」
セントラルシティの図書館。その区画には他に閲覧者の存在は無く、午後の木漏れ日が穏かに降り注ぐ窓辺に寄ると、ウィンリィは持ってきた本を静かに朗読した。元の姿を取り戻した、アルの側らで。
図書館での御喋りが禁止なのは暗黙の了解。ウィンリィが知らないわけが無く。
ウィンリィの意図をアルは視線だけで問い掛けた。

錬成は、理解・分解・再構築から成り立つ。元の姿を取り戻すには再構築の際、アルフォンスの姿を完璧に構築しなければならない。従って、成長した姿を想像できても、失敗しアルを失う事を恐れたエドは、あえて自分の覚えているアルの姿で錬成したのだ。
一方、エドの手足は左手・右足が残っている為、然程の危険もなく、年齢に相応しく戻す事ができた。

ひとつ違いだった幼馴染が、まだ幼さの残る目線で見上げてくるのにウィンリィは寂しそうに微笑んだ。
「それって、生き物にも言えてるよね。男と女は惹かれ合い、結婚して子孫を設ける‥」
エドの事を言いたいのかと、アルは視線を外へ馳せた。ウィンリィも窓の外へ視線を向ける。
図書館の中庭。そこにはエドとホークアイを従えたロイがなにか話している。いや、話しているというより揉めているように見え、アルの唇には自然と笑みが浮かんでいた。
顔だけ窓に向けたまま、横に流したウィンの瞳が、優しく笑うアルの長い睫毛や、兄と同じ色なのに随分と優しげに見える瞳、柔かな曲線を描く口元を捕える。
「‥‥‥」
影が落ち、気付いて顔を上げたアルの唇に柔らかく仄かに甘い匂いが触れて、遠のいていった。
「‥‥‥、ウ、ウ、ウウィンリ‥?!?!!!!」
口を抑えて真っ赤な顔で勢いよく立ち上がったアルに、ウィンはとびきり綺麗に微笑んだ。立ち上がった拍子に椅子が倒れ、大きな音が館内に響く。
「同極は反発し合うはずなのに、それでも!引き合うのは‥」
ウィンは後手に本を持つと、アルにクルリと背を向けた。
「誰にも引き離す事はできないって事かな。悔しいけど。」
    だったら
    わたしはあんた達の家族でいるわ。
    愚痴も、弱音も、涙も。すべて聞いて、そのあと背中を叩いてあげる。
    だから忘れないで。だから、幸せになろうね。

ウィンは振り向く事無く、本棚の奥へと歩いていった。
「ウィンリィ‥」
    なにがあっても、希望が消えかけても。
    足を止めないで。わたし達らしく生きていこうよ。
    わたしが今伝えられない言葉を後悔するぐらいに、
    今、わたしを引き止めなかった事を後悔させるぐらいに、
    幸せな場所をつくろう。


「どうした?アル!?」
本棚の影に隠れていくウィンの背を見送るアルのもとへ、反対側からエドが駆けこんで来る。中庭にいてなおアルのいる区域の、椅子が倒れる音を聞き逃さなかったようだ。
「兄さ‥」
口を抑えたままのアルに、エドは無事を確かめようと走り寄り弟の肩を掴んだ。
「ア‥」
「うっさい!エド。図書館では静かに!でしょ!?」
後頭部に荘重な分厚い物理学書が突き刺さる。
痛恨の一撃。
『静か以前に本を大切にしろよ』
血文字で書き残すとエドは力尽きた。
「兄さんっ」
エドの側らにしゃがむとアルは本を拾った。
「貴重な本が」
「俺より本の心配かよ!?」
ウィンは復活したエドに寄ると、今はもう同じ目線のエドにそっと唇で触れた。
「な?な・な・な、なななっ」
アル同様に口を抑えどもるエドに、ウィンは意地悪く笑った。
「なんて事しやがる?」
こくこく頷くエド。
「あら?ただのお裾分けだけど?」
「は?」
エドの瞳が瞬く。金色に鋭い光が戻ってくると、上気していたエドの顔からさっと色が引いた。
「おまっ、まさか!?」
エドはウィンに側頭をつけると、睫毛も数えられる距離から眼つけた。
それに対しウィンはエドからいったん頭を離すと、正面から額をつけ、人差し指をエドの鼻頭に押しつけた。
「なぁに?まさかファーストとか?そんな事は無いわよね。あんたの事だし。だからわたしだって貰っても良いじゃない。」
「そんな勿体無ぇ事できるか!」
エドはウィンから離れると口を抑えた。
「なんだ、やっぱりキスしてんじゃない。」
けっと横を向くウィンにうろたえたのはアルの方で。
「あの、ウィンリィ。兄さんこれでも天才国家錬金術師だから、それなりにモテルんだよ。でもさ、顔を赤らめるなんてウィンリィにしかしないから‥」
『焦点はエドのファーストじゃなくて』
『お前の唇を奪ったかどうかが問題なんだ!』
声に出せずにふたりはアルを睨むと、身に覚えは無いがアルは思わず後ず去った。片や腰に手を当てて、片や腕組みして縮こまるアルを眺めていたが、不毛さに気付いて二人は会話が聞こえないようアルに背を向けた。
「あんた、アル以外にもキスした事あるの?」
「するか!俺の気持ちはアルの為にだけ存在してんだ!それよりお前、本気か?」
エドの声が不安げに揺れる。
「なによ、それ。あんたらしくない‥」
「アルに関してはウィンリィにだって譲らない!だけど」
エドは視線を足元に落した。
「お前だって、大事なわけだし‥」
ウィンはアルに気付かれないようエドの足を踏んだ。
「でっ、なにする‥」
エドをウィンは睨みつけた。
「わたしの気持ちなんてどうだっていいのよ!」
「ウィン‥リィ?」
エドと同じように、ウィンの瞳にも強い光が宿っている。
「わたしにとって大事なのはわたしの気持ちよりアルだもの。アルを困らせたくないもの!アルを大切にしたい気持ちはアルを好きだって気持ちよりずっと強い。強いのよ、困った事にね‥。アル!」
「はい!」
急に呼びかけられてアルはビクッと背を正した。しつけが良いのかアルは決して小声の会話に聞き耳を立てない。ふたりの内緒話の間、本を読んでいたらしかった。
「あんたにも言っとくけど、わたし、エドの事は大事な幼馴染としか思ってないから。好きな人は別にいるの。だからエドがモテようが、遊ばれようがどうって事無いの。」
「遊ばれるって、お前‥」
黒くなるエドに対し、ウィンの言葉にアルは青ざめた。
「そんな、ウィンリィ‥」
ウィンはそんなアルの肩に腕を乗せ、反対の手でアルから本を取り上げた。
「いいじゃない。大事である事に変わりは無いんだから。」
アルが心配そうにエドを見るのに、エドは片眉上げて見せた。
「大事にしてるようには聞こえんけどな。」
「そう?してるつもりよ!?また機械鎧つけてくれるかもしれないし!?」
ウィンは腕をそのまま伸ばすとアルの首に回し、頬を寄せた。エドの毛が逆立つ、が、何も口にはしなかった。ウィンがアルの憂いを取り払っていると分っているからだ。
「アルもわたしが特別?」
「当たり前じゃないか、そんなの。」
チュッと音を立てて頬にキスされ、アルは頬を赤らめた。
「何しやがる〜っ」
すかさずウィンの手の中からエドがアルを取り返す。
「なによ、了見狭いわねぇ。みんなに嫌われるわよ?」
「他の奴等にはこんな事しねェ。っていうより先ずさせてねぇ!そうじゃなくて、だから他の奴等からアルを奪い返す必要は無いさ、アルが無反応だからな。」
エドが鼻の頭を擦って言った、それは
アルにとってもウィンリィは特別
という事で
「アルッ、も1回、しよ!?」
「ぇえ?ウィンリィ〜!?」
「も1回?も1回ってなんだよ!?頬にチュの事か?頬にちゅうの事と思って良いのか!?」
半泣きのエドにウィンはふふんと鼻で笑うだけで
「やっぱ、お前ッアルにキスしたのかよ!?」
頭をかきむしるエドに、ウィンはにっこり全開で笑った。
    どうせあんた達は、ひとところに落ちつけやしない。そしてそれはわたしも、きっと。
    いつか、旅立つ日は「お土産ね。」とねだろう。
    次に合う日は「なんか面白い事無い?」と聞こう。
    ずっと一緒にいたように。いつも一緒にいるように。
    だから、ねぇ

7月竜

何故ウィンリィはアル贔屓なのか。それは7月竜がエドアルだからです!(笑)
エドウィンの場合、7月竜のアルは兄ちゃんの為に身を引いちゃうんで、×。
アルウィンの場合、エドはウィンを泣かせても諦めないので、○
そしてウィンアルだと、ウィン自体が強くあれるので(アルを保護下に置くので)女性には幸せでいて欲しい7月竜としてはついつい、選んじゃうんです(爆)。なによりウィンがいると兄弟素直になるなる(笑)。
しかし、最近arcanaで楽していたので結がつかない(汗)。リハが必要(あ、いつもですね)な今日この頃。   2004/06/11