7月竜

青い、暖かそうな海が広がる入江で、その人は私の手を取った。
「懲りないお人ですねェ。先生ぇ。」
私に右手首に御札を貼ると、その人は珍しくにっこりと笑ってくれた。
「また、会いましょうや。先生ぇ。」
海へと旅立っていく背を、私はこんなにも満ち足りた想いで見送った。
約束。
私の右手になされた目に見えるカタチ。口唇を寄せると私の体温と相俟って生暖かく‥
成すべき事を忘れ、あれからずっと私はここで待っている。
御行為奉
頼りの御札に今日も口唇を寄せると、甘い薫りが広がった。
「?」
反対の手首も嗅いでみる。
「!」
舐めてみる。
「‥‥あまい‥」
齧ってみる。
「あまい。」
私の体は砂糖菓子でできていた。
海を見つめながら、する事も無く。私は体を食べた。
あまい匂いが口に広がり、その一時は寂しくなく。
甘い薫りの右手首だけを残し、私の体は無くなった。
あの人は私を見つけてくれるだろうか。私と分ってくれるだろうか。
あまさは甘さを凌ぐ事無く、私は今日も待っている。


「先生ぇ、これって‥」
「百一個目の話にしようかと思いまして。」
にっこり微笑まれて又市は、顔を片手で拭った。
朝も早くから訪ねて来て、いきなり読まされた一筆。
『物書きってヤツぁ、まったく』
又市は百介に文を返すと、半眼になりながら大きく鼻から息を吹いた。

それを遠めで眺めながら
「恋文かい?あれってさぁ。」
「怪しい話じゃない事は確かだなぁ。妖しくはあるが。」
お銀と長耳は又市、百介のどちらも不憫に思いながら忍び笑った。
長閑な初夏のひとこまである。

鋼キャラで見た夢ですが、性格違いすぎるので、こちらに当てはめてみました(笑)2005/06/03