7月竜

「又ぁ、ちょっと聞きてぇ事があんだけどよ!?お前、お銀の事、どう思う?」
愛用の煙管のように吹かされた言葉の真意を探るように、又市は顔を上げ長耳に視線を向けた。
「お銀の奴はよ、又の事ぉ頼ってると思ってたんだが、先生ぇに会ってからよ!?女っつぅより小娘に戻るって言うかなぁ。」
なんだ、そんな事かと言わんばかりに又市は欠伸をすると、横たわっている布団に顔を埋めた。
「気色の悪い事言ってんじゃねーよ。アイツだってこっち側の住人だ。腹のひとつも括ってるさ。嵌るも嵌らぬも己次第。自分で尻拭かぁ。」
敷布団を通してくぐもった声に、長耳は口の端を上げた。
「そりゃそうだけどよ。なんて言うか‥ま、お銀も女だったんだなぁ」
「何を今更、アイツの男好きは今に始った事じゃねーぜ。」
億劫そうに締めくくると、又市は長耳の方へ顔を向けた。
「くだんねぇ話でニヤついてんのなら、俺はひとりで船出するぜ!?」
長耳はやれやれと言うように頭を掻くと、煙管の煙草を落した。

こちら側の”生きる”という長い時間の、どうしようもなく落ちてくる暇。ひとりでは扱いきれず、手を伸ばす。
空が白み始めあちら側の”生き物”が目覚める頃、汗臭い寝屋に沈黙は訪れる。

又市さんの情事、というと何故か殺伐とした百さん以外の相手と、になってしまいます(笑)2004/06/26