7月竜

献花
one peace =Alphonse=

【お前の為なら、全てを引き換えても‥】
そんな言葉なら、ひとつも望んでなかった。
〔このままではお前の為に、エドは死ぬ。〕
〔エドワードの貴重な時間を、彼のものであるはずの時間をお前が費やしてしまう。〕
そんな事はよく解ってる!どうすればいいのかも‥。
居場所はもう、見えない。未来を待つには時間が無い。
兄さんの刻は止る事無く費やされているのだから。

 
僕は構築式を再確認すると、扉の外を伺った。
軍より割り当てられた僕達の借家はひっそりと静まり返っていて、兄さんが気付いている気配は無かった。絶え間無く元に戻る研究と、このところ軍の依頼による多忙もあって、兄さんはは疲弊していた。なのに、研究をやめはしない。1日くらい休んでも、と何度言っても曖昧に笑うだけだ。
「夕飯に混ぜた薬、体内消失時間が短いから蓄積や人体への害は少ないって言ってたけど、半覚醒を起こすって事は脳に影響しないかな?」
強制的に睡眠を取らせる為使った薬の作用を見直してみる。
「半覚醒すると危ないからヤバイと認定されてるだけで、ほんと3時間足らずで体から消えちゃうんだ。良かった。」
人体錬成の研究で僕達はずいぶんと医学的知識を持ったけど、やっぱり大切な人に使うのは勇気が要る。失うのは本当に怖いから。
「急がなくちゃ。3時間なんてあっという間だ」
休ませたかった。兄さんを。
解放したかった。肉体的疲労からも。精神的呪縛からも。
用意した材料を振りかえり、僕は錬成陣に手をついた。

奇跡だと言ったら兄さんは笑った。
出会えた事は奇跡かもしれないが、俺がお前を愛する事は奇跡じゃない。俺の意思だ。お前が俺を愛してくれるのも奇跡じゃない。俺の努力だ、と。
僕でいいの?弟だし女の人じゃないし、まして…。
兄さんは唇に指をあて黙るようにウィンクした。
お前こそいいのか?俺は兄貴だし、乱暴だし、豆だし!?
半分は顔を引きつらせてながらそれでも兄さんは言いきった。そして
元に戻ったら、ヤロー同士でも気持ちイイか分るぞ!
兄さん‥母さんが聞いたら嘆くよ。
健全な男の気持ちだ!でも、師匠には内緒な。
想いを確かめ合ったのは、いつだっただろうか
愛しい気持ちを、今、願いにする

人を作る為の構築式。器だけをつくる材料に、僕の魂の情報は無い。
だから
その人体に僕の魂を繋いでいる血印を合成する。
『ホムンクルスでキメラなわけだ』
できる体はリバウンドで2時間と持たないだろうけど。

貴方がもう来れ以上、人体錬成の罪を見なくてすむのなら
僕は何にでもなろう


「兄さん‥」
幻覚をみせる香を炊いた部屋。僕には見えないけど、毎夜兄さんはここで何を見てるんだろう。
「兄さん」
青白い顔で眠る兄さんの肩にそっと触れてみる。
『兄さんの体温は感じる。でも、人の体になっても、僕には体温は無いね。フル稼働する心臓が僕に人並の体温を与える前に僕は…』
「どうした、アル?泣きそうな顔、してる」
目を覚ました兄さんが僕の顔に手を伸ばす。
「ううん、何でも無いよ」
その手に僕の手を重ね、僕は笑った。
「アル?」
半覚醒で夢現な兄さんは、僕の姿を驚かない。それとも夜毎、人の姿の僕の幻をおっているのだろうか。

他になにも見えなくなるまで 貴方の夢を見せて 貴方に夢を届けさせて
還る場所ならもうどこでもいい 結ぶ手が映す景色が全て

僕は兄さんを愛せただろうか
兄さんは僕を愛せただろうか

貴方の笑顔が絶え間無くあるように、僕にできること
どうか最後の錬成が失敗しませんように
兄さんの額に唇を落すと、噛み切った指で血印を描く
兄さんの中の僕の記憶、僕の情報を持って、僕は行くよ。

いつの日か 巡り逢える運命があるのならその日まで



one prayer =Sigu=

翌,、明け方。未だ夜の帳が色濃く残るエド達の家を、律儀にシグは訪れた。
相談を受けたのはもう昨日と呼べる日。
息子のようなアルフォンスの願いは、到底聞き届けられるものではなかった、が
【兄さん、弱み見せるの嫌いだから。もし記憶が残ってしまったら、怒りを受け止められるのはシグさんしか思い付かないんです。師匠やばっちゃん、ウィンリィは女の人だから、兄さん、見栄張っちゃうだろうし。反対に軍の人達にも本音は漏らせないだろうから】
ゴン 鈍い音を立てた鉄拳は、鎧を多少へこませ、シグの手をジンジン痺れさせただけだった。
【済みません。大丈夫ですか?シグさん‥。えっと、あともし成功してても時間的に後始末できる自信ないから、それも確認して欲しいんです。】
ガン 肉切り包丁の柄で殴ったら、アルフォンスの冑が飛んで血印が見え、シグは溜息をついた。
【どんな姿でもお前が俺の息子である事に変わり無い!】
落ちた冑をはめ直して、アルは頭を下げた。
【親不孝でごめんなさい】

そのまま頭を上げないアルフォンスに、シグはもはや覆らない決心を知った。
わかる というには浅はかな判断で深い心情だとシグは思う。
貰った合鍵で家に入ると、エドが見た事も無い幸せな表情で、シーツに包まっていた。
だが、自分だったらどうだろうか。子供の死を嘆くイズミを支えられたのは人としても、夫婦と言う世間的にも対等であったからだ。兄弟でも同性でもなく、まして鋼など持ってもおらず。
否定できない愛し方に。そして、もうひとりの息子を思って、イズミに悟られぬようここへ来たのだ。
確認の為、シグがエドのシーツを剥しても、よほど深く落ちているらしく、目を覚まさなかった。
目を落せばベッドの横の床に僅かな残骸が残っていた。燃え尽きた炭のような欠片は炭素やリンやそういった物なのだろう。
『これがお前なのか?』
エドの体やシーツには一欠けらもついてなかった。シグはそのままエドにシーツをかけ直し、欠片を拾って予め教えられていた、アルの研究部屋に向かった。
『最期の、最後までっ』
部屋には錬成陣の跡さえもなく、壁に鎧が立てかけられているだけだった。
目を拭うとシグは鎧を担いで扉を開けた。そこにエドが立っていた。シーツを巻き付けただけの格好で。
「シグ‥さん?」
「‥‥、久しぶりだな、エド。」
「どうしたんです?こんな早く。師匠も?」
「いや。イズミに頼まれてな。コイツを引き取りに来た。」
担いだ鎧を揺すって見せても、エドは顔色を変えなかった。
「でもそれ‥俺ン家にあった鎧だと思うけど。確かアイツの書斎にあった‥」
顎に手を当てるエドをしばらく見た後、シグは溜息をついた。
「風邪、ひくぞ。服、着て来い。」
「あ、うん。」
部屋に戻るエドを見送り、シグは鎧を廊下に下した。
『成功したぞ、アルフォンス‥』
涙もろくなったのは歳のせいだ。
シグは持ってたタオルで鼻をかむと扉越しにエドに叫んだ。
「俺が風邪引いたみたいだから、今日は帰る。鎧は置いていく。必要なら、改めてイズミが来るだろう。」
扉から顔だけ覗かせると、エドは鎧を見、シグを見た。
「師匠にヨロシク。風邪、お大事に。」



one piece =Edward=

エルリック兄弟を知るものは事の経緯を尋ねたりせず、自分の目で真相を確かめ、自分の胸に仕舞いこんだ。


その後、2年連続で査定をすっぽかし、エドは国家錬金術師の名を解かれた。
鎧はロックベルの家に置かれ、エドは錬成の研究といってイズミの元やあっちこっち飛びまわっては機械鎧が壊れたと帰ってウィンリィにどつかれている。

「からっぽだね、エド‥」
一生懸命頑張って走ってる。生きているのに、どうしても埋まらない隙間があるね、エド。あんたの心の中
「手土産詰めるには丁度いいだろ。」

その言葉に、ウィンリィは安心した。
『ねぇ、アル。夜、一人でエド、鎧見て泣いてたんだ。口は動くけど言葉は出なくて‥。それは悲しい事も分らない哀しみか、それとも…!?
本当の事はエドにしかわからない。
あたし達は全てを消したあんたの墓は作れない。全てを忘れたエドはあんたの墓を作らない。だけど、だけどね。墓がないって事は、きっと‥。
ねぇ、そう願っても、いいでしょ!?アル。錬金術の成功よりも、エドがあんたの願いを聞き入れて前向いて生きてる方が!』

涙が出そうになって、ウィンリィは慌てて上を向いた。
「ねぇ‥あたしも、手土産持ってったら混ぜてくれる?」
どれだけ頑張ったか、どんなふうに生きたか、笑いあおう。自慢しよう。そして、抱締めよう。

エドはウィンリィを見ると、ゆっくり、泣きそうな笑顔を浮かべた。
「そん時が来たら、な。」


淋しくて淋しくて、見えない君を想う。
夢の中、降り注ぐ薄い記憶の欠片、俺を抱締めるアクロニムの手だけが君のいた証。
夜毎拾いながら、今はこの体を抱いて歩いていく 

だけどいつか、この体を脱ぎ捨て逢いに行ったら、
エドは高い空を見上げた。


その時は本物のお前で、抱締めてくれ

喧嘩・ケンカ・献花・顕花。本来3番目に来るはずのコイツは、ホントは違う話だったんですが、献花が上手く纏らなくて、運悪く出来た死にネタのコレを献花にしてラストの仕上がりとなりました。なんで書いてる途中でちゃう話に移るんだよ(涙)。いい加減己を知れよ、自分ってヤツですね(遠い目)。
あ、知りたい人なんていないと思いますが、エドとアルは交わっておりません。直接的な表現で申し訳ありませんが、他に上手く説明できないもので(汗)。
エドは相手がアルであるなら姿カタチは問わないでしょうが、アルは錬成した自分をホムンクルスでキメラの死体のようなものだと思っているので、死姦・獣姦の類を兄にさせる事は兄を汚す事になると思い、エドがどんなに望んでも、交わりはしなかったのです。勿論、手なり口なりご奉仕はしたでしょうけど(あ〜他に表現無いのか!!).。だからHの部分を文字にするとエド受けにみえるので載っけません(笑)
ところでこの話、何曲・どんな曲捩ってるか分るでしょうか?あ、見え見えですね(汗)2004/04/17

なほ様からご助言を頂いたので書き足してみました。ありがとうございました。2004/04/24