顕花

7月竜

「アル、死にたいか?」
「‥僕が、兄さんの枷になっているのなら。」
「……殺してやってもいいぞ」
エドは笑っていた。
「お前が本当にそう望むなら、殺してやる。」
「…… 」
「でも、勝手に死ぬ事は許さない!」
「……… 」
「死なせはしない。」
「……う、ん…」
「お前を殺してもいいのは、俺だけだ。お前の死も、俺だけのものだ!」
「…うん‥」
「同様に。」
エドの腕が伸びて冑を取った。
「お前の死は俺を殺すから」
アルの見ている前で、エドは冑に口唇を寄せた。
「俺を殺せるのはお前だけという事になる。」
「でも!」
「他の理由で死んでやる気は毛頭ない!」
冑に舌を這わせだしたエドを、アルは複雑そうに見つめた。あからさまにエドはこんな行為をした事はなかった。明かにアルに見せる為にやっているエドの口唇が赤く色付く。
「現実には‥そうはいかないよ、兄さん」
エドの望みが!?それとも死が……
「生身があるからか?」
唾液で濡れた口唇は赤い色もあいまって、艶かしいと言うより瑞々しい感じだとアルは思った。
「なら、お前が守ってくれればいい。肉体だけの死から。」
エドは冑を置くと立ちあがった。
「結果、俺に死を与えられるのは表面的も、本質的もお前だけと言うわけだ。」
胡座をかいているアルには逆光でエドの表情はよくわからない。
「アル、死にたいか?」
エドが鎧の首回りに手をかける。
「アル。まだ、死にたいか!?」
鎧の内側へと顔を寄せるエドが何をするつもりか気付いてアルは両手でエドの腕を掴んだ。
「兄さん。明日くちびるが腫れちゃうよ!?もう薄く切れてるところもあるみたいだし‥」
「死にたいか?」
「わかった!もう分ったから。」
「俺を止めたかったら、俺を抱締めていろ。」
嬉しげなエドの声。
「うん…」
アルの腕がそのままエドを抱締める。優しく。
「一生だぞ!?」
「それはちょっと‥」
アルの軽口にエドは内心苦笑した。
「瞬間でも積み重なれば永遠になる」
「兄さん?何か言った?」
首を振るとエドは力を抜いてアルに凭れ掛かった。

喧嘩、ケンカ、に続く顕花です。献花の前に出来てしまいました。顕花とは種子植物の事ですが、あからさまと解釈させてもらいました。
本来色艶を感じるところを生命の輝きと捉えてしまうところが、アルフォンス君の手強さであり、7月竜の技量不足の現れですね(汗)。
兄弟の春はまだまだ青いってことで(笑)2004/04/16