「アルフォンス、見てくれ。これが弟のアルだ。」
冬のヨーロッパの空は重く。墓前の花の色を僅かにくすませているようだった。
「平行世界って言ってたっけ、アルフォンスは此方の世界のアルで、アルのヤツ、夢でお前を通して俺を見たって言うんだ。一緒に勉強して、一緒に暮らして‥」
エドが振り返ると、アルは笑って頷いた。
「だからかな。アルとお前は同じ。おせっかいで、諦めが悪くて‥」
ヒド〜い、とアルが笑うのに、エドも笑った。
「自分のした事の責任から逃げたりしない、自慢の弟で、自慢の友達だ。」
エドは持ってきた花束を、他の花束の横に置いた。
「アルは俺を戻したかっただけ。それはアルフォンスや親父と同じで‥」
俯くアルの気配に、エドは振り返らず口元を綻ばせる。
「アルは強い。俺より、ずっと‥。今ある現実を捨ててまで、俺に付いて来てくれた。」
「兄さん‥」
エドはゆっくりと墓地を見回した。戦争があったせいか、新しい墓石が墓地に並んでいる。
「アルフォンスの言うとおり‥ここは夢じゃない。どこででも生きていけると、アルもアルフォンスも教えてくれた。」
小さい手が自分の手を包むように握るのに、エドは弾かれたように俯いていた顔を上げると、弟を見た。
鬱金の瞳が力強く、エドを見上げている。生きていける、生きていこうと。

エドは微笑うと、会いたかった弟の手を強く握り返した。
そこがどんな世界でも、エドがいるなら付いて行くと言う、一緒に生きていくという温もりを。
『お前の教えてくれた事、忘れない。ありがとな、アルフォンス。』
「じゃあな。」
深い感謝と、ともに過ごした時への感慨の気持ちとは裏腹の、そっけない言葉をかけると、エドはアルを連れて墓地を後にした。



「ア‥ル?」
ばっさり髪を切った弟に起こされて、エドは瞬きを繰り返した。
「もう、必要ないから‥」
「必要?」
『兄さんに見つけてもらうのに、真似する必要、無いから』
アルは笑うだけで答えず、エドの仕度を急がせた。

ふたりはまた、旅に出る。再び戦火に身を投じようとしている世界へと。

君を想う

映画版エドside

7月竜

思った以上にイイきゃらでした、ハイデリヒ君。彼のエピソードももう少し掘り下げて欲しかったです。でも、なにが書かせてるかって言えば、エドのアルに対する愛の叫びが7月竜には少なかったからです(爆)2005/07/31