【僕は還りたいんだ。だからここまで来たんだ。】
ホムンクルス同士の戦いを、その破壊力を、激しさを。
13歳のアルフォンス・エルリックは何もできずに呆然と、ただ見守っていた。



「どうした、アル?」
「あ、‥ううん。」
「アル?」
握られた手に、アルは兄の不安も感じ取った。
『二人きり‥』

ミュンヘン。見知らぬ世界。これが今の現実。
それでも。
わかっていても、それでも!
愛している人がいる。
忘れたくない思い出がある。
忘れてはいけない罪がある。

「僕‥ラースを‥」
アルはエドの肩に頭を寄せた。
「還りたかったんだろ!?アイツ‥」
荷車の中、空を見上げてエドはポツンと言った。
「でも、ラースがそれを望んでいても。僕も門を開けたかったのは事実だ。ラースの命を使ってまで‥」
「俺を探してくれたんだ。俺に会いに来てくれた。」
「生きていた‥ラース、生きて‥」
エドはアルへと視線を落とすと、アルの睫を拭った。
「大佐は待っていたと言った。俺が帰った事で、大佐も動き出すだろう。ウィンリィにも‥ありがとうって言えた。アル‥」
エドは、自分のコートの下にアルを抱き込んだ。冬の空気で冷えた頬をすくうと、唇を落とす。
「お前に会えた。お前が来てくれた。母さんを錬成した事が二人の罪なら、門を開けたかったのも二人だ。」
震える肩を、コートの上から抱き締める。
今、確かに隣にあって。これからも一緒に生きていく、温もりを。

君を想う

映画版 アルside

7月竜

主人公に影に霞んでしまったエピソードを竜的に解釈してみました。
裏うちの無い自信、何もできない無力さ、思いがけない事を引き起こしてしまった恐怖、逃げたい弱さ、それでも諦めなかった、付いていったアルに愛おしさを、言葉にできないので7月竜的フォローで送ってみました。済みません。
エドアル仕様で読みたい方は反転してみて下さい。2005/07/31