君を想う

TV版

7月竜

「何でお前、あの女の肩持つわけ?」
不機嫌そうな声で兄さんが聞いたので、僕も少し意地になる。
「だってクララさん、良い人じゃないか」
「怪盗してるのにかよ。」
「それは‥いろいろ理由があって」
「理由があれば人の物盗っても良いのか!?」
「盗むのは、悪いよ…だけど、困ってる人を助けたいって気持ちからで、盗ったからって誰かを苦しめたわけじゃないし」
「警官は?あいつら困ってなかったか!?しかもサイレーンは錬金術を盗みに使ってるんだぞ。お前はそれでいいのか?俺達の錬金術が人の役にたったって、リンター村でお前、喜んでたじゃないか。」
錬金術よ大衆の為にあれ。分ってるよ、兄さん。軍の狗と成り下がっても、この矜持が僕達を支えている。

黙り込んだ僕に、兄さんはふーと長く息をつくと、ガシガシ頭を掻いた。
「あーゆー女が好きなわけ?」
「?」
「お前、自分でも矛盾してるって判ってんだろ!?それでも、弁護するっていうのはっ‥その、す、好きだからじゃ、ないのか」
「好きか嫌いかなら、好きだよ。優しいとこが母さんに似てるもの」
「このっマザコン」
枕が飛んできて僕の冑にヒットした。
「マザコンは兄さんの方だと思うけど」
小声で言ったにもかかわらず、兄さんは僕を睨んできた。
見つめあった、それとも睨み合ったというのが正しいんだろうか。数秒で、兄さんはプイっと横を向くと僕に背を向けベッドに寝転んだ。
そんな兄さんに悟られないように僕は鏡に向かって移動した。
映る、鎧。
遣る瀬無さが寄せては返す。

良い人だと思った。力になりたいと。だけど、彼女は僕じゃなく、兄さんを語る相手に選んだ。
それはつまり、僕の気持ちが、あるいは僕が偽ものだという、クララさんの返答なんじゃないだろうか。
どうしてクララさんの肩を持つのか
優しくて、母さんみたいだから助けたかった と思った気持ちは嘘っぱちで

思い出したいから?人間の感覚を。
忘れたくないから!?人間である事を。

心の奥ではそんな気持ちが働いていたのだったとしたら?

すぐ近くに居て触る事もできるのに、兄さんの温かさを感じる事も思い出す事ももうできない。そんな僕は。
人のつもりでいて、あるいはもう…

ごめんね、兄さん。
兄さんは僕を人間だと言ってくれるけど
ごめんね、兄さん。
僕にできるのは、せめて人間のふりをする事。そして…

そして願わくば、僕にも本当の優しさが残っている事を、切に、どうか…

アニメ第10話がどうもよく分らなくて…、クララさん何者?クララさん、アルの信頼は重かったの?エドはサイレーンと対峙したから理解もしたと思うけど、アルはどうだったのだろうと思ったのでした。書いてるとだんだん話変わってくるし‥結局3部、、いや4部(クララの話、アルの気持ち、ロイとアルの話、ロイの心情)構成に…(滝汗)何が言いたかったのか、自分でも不明です(涙)
結着いてなくてごめんなさい 2004/01/31

1通の手紙が軍から、ゼノタイムに向かうアルフォンスに届けられた。
【サイレーンの件ではご苦労だったね。君がサイレーンを心配していると聞いたから伝えておくが、鋼が捕まえた後、警察はすぐ取り逃がしてしまったようだから、安心したまえ。女性は世の潤いだが、君の人生はもっと大切だ。それを忘れないように】
アルの手紙を横から覗きこみながら、エドは喚いた。
「どっから俺達の居所が‥第一、何故大佐からアルへ手紙が‥いや、それより何故大佐がアルの人生に口を挟むんだーっ」
手紙を持ってわなわな震えるエドにアルは溜息をつく。
『僕が空っぽの鎧だとばれたら大佐も困るから、心配してるんじゃないか。兄さん、過保護なんだから』
事兄に関しては自分も過保護なのだが、そんな事は露と思わずアルは列車の発車時間を確かめた後、手紙に入っていた、コインをみた。
『報告して欲しいって事かな?』
手紙を細切れにしているエドをおいて、アルは構内に設置された公衆電話を取った。
п`
《アルフォンス君かい?》
《そうですけど、どうして判ったんです?》
それはアルにしか教えていない直通電話がなったからだが、ロイはそ知らぬ顔で続けた。
《それは君を気にかけているからさ。コインを見たかい?鋼が国家錬金術師合格祝い返しに君に君の誕生年製造のコインを渡しただろう!?私もその手伝いをしたのでね。私の誕生年製造コインを今回君に送ってみたのだが、気に入ってもらえたかね》
アルの誕生年月日を知って以来、ロイは気紛れに、そして今や本気でその年製造のコインやらグッズやらを自分のと一緒に集めていたりした。
《済みません、気付かず今使っちゃいました》
ゴン
《大佐?今、なにか鈍い音が‥大丈夫ですか?》
《だ・大丈夫だ。ちょっと椅子から落ちてしまってね。それより、元気が無いようだが?どうかしたのかね?》
立ち直り早く、ロイは取り急ぎ話を繋いだ。
《!》
国家錬金術師資格試験のおり、ロイが口で言うほど冷たい、いやその逆で、優しい人間だと思っているアルフォンスはロイの洞察力に感嘆し、更に信頼を増して彼に自分の事をたずねてみる事にした。
僕は人間ですか? と。
一通りアルが話すと、電話からボキッという音に続き、ロイの力強い声が聞こえてきた。
《自分の気持ちを曲解してはいけない。》
《大佐、今ヘンな音が》
《気にするな。ちょっとペンが折れただけだ。それより君は真実、サイレーンを助けたいと思ったから彼女の肩を持った。それは私が保証する。》
《大佐…》
《私の保証では信用に足りないかね》
《いいえ!いいえ…》
《単に、彼女には君の良さが分らなかったのさ。怪盗だけあって少しひねているのだろう。万人が君の人柄を知っているが、それが信じられないなら私ひとりは君が人間だとよく解っているから、それで良しとしてくれないかね。》
胸が詰って、一瞬アルは言葉に詰る。
涙が出そうな気持ちって、こういう感じだっただろうか
《‥っ。ありがとうございます。大》
プツン。ツー。ツー。ツー。
みればエドの手が電話を抑えていた。
「に・兄さん?」
エドの額には青筋が所狭しと刻まれている。
「悩み事があるなら、俺に相談しろ。いいな!」
笑顔を貼りつけ親指を立てるエドに、アルは一歩下がった。
「兄さん、目が笑ってない」
「二度と大佐に連絡するな〜っ」
「で・でも大佐は良い人」
ガン
公衆電話が二つに折れる。
「兄さん、公共物の破壊は」
「後で直す。それよりだいじな事がある!」
「大事って…」
兄の真剣な様子に身構えたアルの頭をエドは掴み、額をくっつけた。
「あの女の事、好きだったわけじゃないんだな!?」
「だから、母さんに…」
アルの返答にエドはちょっと考えて
「じゃあ、あの女と俺とどっちが好きだ?」
「そんなの‥勿論兄さんだけど」
エドはやっとニカッと笑った。
「聞こえたか?大佐v」
「だから兄さん、電話壊したって…」
「いいって、いいって。」
「いや、良くないんじゃ‥」
エドはアルと手を繋ぐと足取り軽く列車へ向かった。
エドが嬉しそうなので、アルもごめんなさいと心の中で謝って、素直にエドについていった。
壊れた公衆電話の足元をコマ切りにされた手紙が風に舞う。

その頃、司令部では
「大佐、この器物破損というのは?」
「鋼が東方路線構内の公衆電話を破壊した、その始末書だ。奴が着たら書かせてくれ」
心ここにあらずの態で書類を渡す上司に、ホークアイは目を細めた。足元に転がった折れたペンを拾い、ゴミ箱に捨てる。上司の考え事を邪魔せず一連の動作をこなす彼女は、非常に優秀な補佐官だった。
「どうしてご存知なのかは、今は問わないでおきます」
礼をとるとホークアイはロイに背を向けた。
「思ったより随分と…だからこそ付入り易くもあるが……不本意だが、傷付く事を恐れず進のだろうな…」
思い当たった彼女は唇に優しい笑みを浮かべ、しかし呟かれた言葉に振り向かず、ロイの執務室を後にした。