「‥‥‥、大佐、本当の事を言い過ぎたのなら謝りますから、いい加減立ち直ってください。」
「本当の事‥‥」
ノックスの運転する車内の前席で、ロイは更にガクッと肩を落とした。
連れ込んだグラトニーに逆襲され、逃げ出す事になった夜。
「切り替えの早さがお前さんの持ち味だろ。異例の出世はその才覚にもあるんだ。」
「‥‥‥」
ノックスの言葉に、ロイは窓の外を見た。夜の道は暗く、たまにすれ違う対向車ヘッドライトでモノトーンカラーの景色に色が付く。
「へん。あんな小憎らしいガキ共は、そうそう死なんよ。」
半ば自分に言い聞かせるように唸るノックスに、ロイはため息をついた。
「それもあるが‥な‥‥」
「アルフォンス君に何か言われたんですか?」
後席のホークアイが目敏く言う。エドではなく、アルと言うところが彼女の上司への理解力を物語っていた。
「<付いて来ないでよ!!あいつが狙ってんのは大佐だよ!!>って言われた‥」
三十路となった大の男が両手で顔を覆う。そんなロイの姿が彼のショックの度合いを物語っている。
「‥‥アルフォンス?」
ノックスが眉を顰めるのに
「一字一句間違いなく、彼の言葉を覚えている程度には大佐は気に入ってます。アルフォンス君を。」
「そういう感情込みで入れ込んでるのかよ!?」ノックスはハンドルから手を離して頭を抱えた。
「先生、運転してください。危険操作で逮捕しますよ。」
冷静に軍務をこなすホークアイに、ノックスはロイの環境に男として少し同情した。
「冗談じゃねぇ。俺は一般人だ。こんな訳わかんねー交友に巻き込まれて死んでたまるか!」
「それ以前に参加したら、ノックス先生でも覚悟してもらおう。」
開き直ったロイに、今度はノックスが肩を落とした。
「それで、先ほどの話しですが‥」
ホークアイの言葉に、ロイは言われた事を思い出し窓縁に口を覆うように頬杖を付いた。
「<帰って!!>なんて、邪魔にされるとは思わなかったよ。」
「そうでしょうか?」
「?」
「アルフォンス君は生を放棄したわたしを、体を張って守ってくれました。」
「しかし、私には付いて来ないでって‥」
「いちいち落ち込まないで下さい。大佐は、アルフォンス君を信じてないんですか?」
「‥え?」
「付いてくるな。それは即ち大佐なら一人でも大丈夫だと、大佐を信じてるからじゃないんですか?」
「信じる‥?」
ロイの頭上ら、ようやく暗雲が消える。
「大佐の実力を知っているから。大佐ならホムンクルス相手でも死にはしない、生きる事を諦めないと信じてるから!そう言ったんじゃないでしょうか。」
「‥‥そうかな。」
「帰ってって事は、帰って体調を整え、改めて一緒に戦って欲しいという事ではないんでしょうか。」
「ホークアイ中尉‥しかしそれはずいぶんと都合のいい解釈な気が‥」
「わたしは彼と一緒にホムンクルスと対峙しました。大佐もお聞きになったでしょう、彼の決意を。」
ホークアイはランファンの髪を撫でながら呟いた。
「子供でも彼は、そしてエドワード君達も。そういう覚悟をしてるんです。」
「アルフォンス‥」
「そういう覚悟のを支えているのは、大佐達への信頼です。」
「けっ、たく。ヤな世の中だぜ。」
イシュバールの戦い、いや虐殺からこちら、滅多に見れなかった優しい顔にノックスも優しく毒づいた。

原作第49話ロイside

君を想う

7月竜

arcanaにしようか迷いましたが、ロイに対するアルのフォローなので、「君を想う」バージョンに含めてみました。ええ、妄想です(笑)。2005/0801