「兄さん、飾り付け済んだ〜?」
リビングを覗いたアルは、大きなもみの木の下で睨みあげるエドを見つけた。
「兄さんにしては真っ当に飾ってくれたねぇ」
「お前がうるさいからだろ!?」
「せっかくウィンリィ来るんだもん。ロマンチックにしなきゃ!」
「ロマンチックって柄かよ、アイツが!」
アルが淹れたカフェオレに息を吹きかけ、エドはごくりと一口飲んだ。
「‥‥‥割合は?」
「聞かずに飲みなよ。ホットミルクにしないだけ良しでしょ!?」
エドはセピア色の液体をしばらく睨んでいたが、思い出したようにツリーを見上げた。
「そういやアル、お前小さい時の願い覚えてるか?」
「サンタの?」
頷くエドにアルはガシャンと音を立てて顎に手を当てた。
「なんだっけ?」
「大きくなりたい。」
「‥あ‥ぁ」
「何だよ、その気の抜けた返事」
「あ、、うん、、、いや別に」
「大きくなったな。」
エドが右手で殴ると金属音が響いた。
「悪かったね、邪魔なガタイで」
でも兄さんが造形してないからカッコイイでしょ、と付け加えた。
気に障らない気遣い。
そのさりげなさにエドも嬉しさを隠してアルを見上げた。
「なんで大きくなりたかったんだ?」
「大きくっていうのは大人にって事だったんだ。小さい頃のサンタは母さんで、、、途中から兄さんになって‥だからさ‥」

父親のいない家庭。働く母の姿。その母を助けたくて一生懸命な兄。だから

「兄さんは?」
落ちてきた青白い沈黙を断ち切るように、アルはエドに聞き返した。
「俺か?俺は、、、忘れた」
ずるいと非難しようとして、アルは止まった。
『サンタになった兄さんははもう願い事なんてしなかったんだ、、、ううん、そうじゃない。照れ屋だからなぁ、、、仕方ない、聞かないでおくよ、だからさ』
「背を伸ばして下さいはサンタでも無理だったんだねぇ。」
「してねぇよ、そんな願い!」

再び訪れた沈黙は穏やかで、薪の爆ぜる音が暖かい。

「今は?しねぇのか?」
「そうだね、、、、するよ、勿論!」
「お、なんだ?」
「兄さんが幸せになるように、だよ。」
「なんだ、それっ」
「プレゼントだよ、僕への。」
「それが、なんで」
「はっきり言ったから、サンタに。」
エドを見つめてアルはきっぱりと言い切った
エドは顔に手をやり、アルの視線から逃れる。
『でも、耳は真っ赤だよ。』
「自分の事願えよ。」
「僕の事は良いよ、願いなら自分で叶えるから。」
「‥おまえ、、、ヘン!可笑しいだろ!?それじゃあさ、、、っ」
「照れないでよ、兄さん!言ってる僕の方が恥ずかしいんだから、、、、でもさ‥でも、口にしなきゃ伝わらないもん。サンタに願いが届かないもん!」
「なんだよ、それ、、、」
「良いんだよ、これで。」
ピンポ〜ン
「メリークリスマス、アルフォンス。君のサンタクロースが来たよ。」
ドアを開けると真っ赤なバラの花束に埋もれたロイがにっと笑って、エドに手を塞ぐ花束を渡してアルの腰に手を回した。
「メリークリスマス、大佐。」
「今夜はサンタと呼んでくれ、欲しいものは何かね?」
アルの手を取ったロイに、エドは蹴りを入れる。
「あんたは呼んでねーよっ。それに」
エドは息を吸うと、顔を真っ赤に染めた。
「アルの願いは俺が叶えてやるんだからな!」
「兄さん‥」
「俺の幸せ、で、良いんだろ?」
『願いじゃなくてプレゼントだけど‥』
エドの迫力にアルは言葉にできずコクコク頷いた。
「だったらっ、お前、、、、ずっと俺の傍で幸せな俺を見てろ!」
「‥‥それって僕に幸せを見せびらかすって事!?」
「そうじゃないけど、、、、あ〜もう、だからっお前も俺の横で幸せになれ!」
「胸焼け発表会はそこまでにしておけ。聞くに堪えん。」
「ちっ、復活しやがったか。このっ、無意味にデカイくそ大佐が!胸焼けするならとっとと出てけ。」
両手で二人の間を離し、割って入ってきたロイにエドは届かないケリを繰り出した。
「鋼は無駄に小さいがね。それに、出て行くわけには行かない。私はアルフォンスにプレゼントを」
「だからアルの願いは俺が」
「鋼は何か勘違いしてないかね?サンタクロースはプレゼントをするのだよ!?」
そういうと、ロイはバラの花束の間から子猫を取り出した。
「どうぞ。」
「わぁ、大佐有難う〜、可愛い〜」
アルは鎧姿を本来の姿と見間違うほど、嬉しそうな声をあげた。
「、、、、けっそんな飼えないもん‥」
「飼えなくても良いよ、今だけでも。嬉しいv素敵なプレゼントだ。」
その言葉に、ロイは大人の笑みでエドを見下ろした。

恋人はサンタクロ〜スではなく七夕という話。




願い事は七夕に笹に吊るすんだよね。プレゼントはクリスマスに靴下に‥って気付いたのは書き終わる寸前で‥ごめんエド(笑)2007/12/12
恋人は七夕