バラ売り

7月竜

「エドワード君、急いで!」
「なんだ、なんだ?」
銃を片手にしたホークアイに腕を取られ、エドは辺りを見まわした。その視界を塞ぐようにフュリーが立ちはだかる。
「荷物は僕が持ちますから」
「荷物って‥、あ〜、俺のカバン‥」
フュリーに気を取られている隙に、ハボックはエドを担ぎ上げた。
「スカー注意報が発令されたんでね。おたくは俺達と雲隠れなわけ。」
先頭をファルマン、荷物を抱えて横に並ぶフュリー、後方をホークアイに囲まれて、エドは探りを入れに来た中央司令部を不本意にも後にした。

一陣の風のような騒動。
机で黙々と珍しく勤勉に書類を片していたロイは、顔を上げもせず。アームストロングは寂しそうにハンケチを振ってエドを見送った。そしてアルフォンスは。
ブレダに腕を取られ、呆然と兄が連れ去られるのを見送ったのだった。

「あの、いったいこれは‥」
アルの声にロイが顔を上げる。邪魔してしまったかと、アルは急いで言い直した。
「あ、軍事機密なら‥あぁでもその‥兄さんは無事なんですよね!?スカーって言ってましたけど、安全だったら、これ以上は聞きません。それだけ教えてもらえませんか?」
ロイは書類を整えると、席を立ってアルの傍まで来た。
「大総統府令で通達が来た。本日11時より、私とその直轄部、アームストロング少佐及び鋼の錬金術師とその弟は2班に分れたチーム毎に個別に作戦を実行し目的を遂行すべし。11時ちょうど、この指令書によりチーム牛乳は出立した。」
『あれを出立というのだろうか』
問答無用で引っ立てられていった兄を思い出し、アルがぽよよ〜んと考えているとロイから声がかかった。
「アルフォンス君。君はここに残っている我々のチームに入り、手がかりを判読し事件の解決に臨む事になる。君は軍人ではないが、協力してくれないかね!?」
ドッキリカメラかとも思ったが、ロイの真剣な様子にアルも室内を見まわした。ロイの他、ブレダ、アームストロングも真剣な面持ちで腕を組んでいる。
「僕にできる事でしたら。兄さんのフォローもできると思いますし」
フォローどころかいざとなれば盾になるつもりでアルはこっくり頷いた。
「我々のチーム名はロイアルだ。よろしく頼む。」
『チーム名?そういえばさっき牛乳って‥』
「盗聴されても分りにくいように其々をチーム名で呼ぶ事になる。我輩はロイアルの肉、ブレダ少尉はロイアルの骨、大佐はロイアルの命、アルフォンス・エルリックはロイアルの華だ。」
「ろいあるの鼻ですか」
「うむ。ちなみにエドワード・エルリックは牛乳に‥」
「その先は移動しながらにしよう。時間の無駄だ。」

とある空間の壁に薄暗い蝋燭に作られた影が踊っている。
「え〜、俺も鋼のぼ〜やの方へ行きたい。」
「ダメよ。エンヴィーは切れると見境無くすじゃない。鋼の坊やも冗談のキャパシティ少なそうだし、乱闘で死なれると困るもの。」
不服そうにしゃがむ小柄な影に、グラマラスな影が重なり濃さを増す。
「い〜じゃない、焔だって。からかいがいありそうよ。楽しんできたら?あ、それからグラトニー。」
離れた丸い影に細長い線が伸びる。
「グラトニーはここに残って見張り番よ。赤目以外食べちゃダメだからね。」
去っていく2つの影に、残された影はクスンと鼻を鳴らした。

中央を北に辿った森林地帯。木々に紛れながらロイアルは中心部に広がるという洞窟を探していた。
「よう、どんな調子だよ!?」
「おぉ、エドワード・エルリック‥いや牛乳に負けた男。どうしてここへ?他の者は?」
アームストロングの自分への呼称に、一瞬エドは言葉に詰ったが、額にかかる髪をかきあげた。
「はん。見当なんて直ぐつくさ。俺をなめるんじゃないぜ。他の連中は、どうやら俺に付いて来れなかったようだな。」
後方を見、エドは腰に手を当てた。
「どーでもいいけど、その呼び名は止めろよ。」
「しかし大佐、もとい、ロイアルの命殿がせっかく付けてくれたのだから‥」
「いーネーミングセンスなこった。」
嫌味たらたらなエドの言葉にロイが前に出ようとして、アルの静止を受ける。
「貴方は誰ですか?」
「誰って‥この兄の顔を忘れたのか?」
驚いたようにいうエドに、アルは首を振った。
「貴方は兄さんじゃない!」
「しかし、このクソ生意気な態度は鋼そのものじゃないのかね!?」
エドとアルを交互に見やり、ロイは尋ねた。
「ううん、違う!だって兄さんだったら‥」

【アル〜会いたかったぞ〜ッ。】
たとえ障害があってもなぎ払い、エドはアルをめがけ最短距離を走って抱き付いて来る。それが数分の別れだったとしても。

「って感じです。更に」

【寂しかったろ!?もう離れないからな!兄ちゃんがいない間に危ない事は無かったか?】

「って体中を隈なく調べた後、僕の頭に帰kissしてるらしいんです」
「「「「kiss?」」」」
4人の異口同音にアルははっきり頷いた。
「確かに兄さんは僕の肩に登って冑に何かしていました。でも、僕は感覚無いから、何をしているか分りませんでした。他人にkissしてたと言われた時も僕はまさかって信じてませんでした。でも、壊れてリゼンブールに帰る時、少佐に羊車に乗せられたでしょ」
アルがアームストロングを伺うと、少佐も思い出したようだ。うんうん頷くのを、ロイが半眼で睨む。
「少佐‥」
「今は肉です。我輩はロイアルの肉。」
自分で考え出した事とはいえ、ロイは思わず額を抑えた。
「肉!貴官はアルフォンス君を荷物扱いしたのかね!?」
「命殿、彼は華です。御間違いなく。」
「……、私が悪かった。もういい‥」
「漫才はいいから、話、続けたら?」
偽エドに促され、アルは話を再開した。
「で、その時羊の臭いが移っちゃったんです。そしたら兄さん羊臭いを連発して。肩に登った後、ぺって羊毛を吐き出したんです。兄さんは羊に触っていなかったから、口に入った羊の毛は僕に付いていた物になります。でもやっぱり、思い違いですよね!?」
はははっと笑うアル。
「究極だな。‥っていうか、急に暑くなってこない‥」
ブレダが見るとロイの右手から炎が。
「大佐ッ、手。手!」
ロイに握り締められた拳がその圧力のかかりで火花を散らし、発火に到ったようだった。
「骨、大佐ではない。命殿だ。」
「そんな事言ってる場合ですか!早く消さないと。」
おのれくされ鋼め〜っ。いまのうちに成敗しておいた方が‥。」
キッとロイに睨まれ、偽エドは後時去る。
「いや、俺は。」
「ですから、兄さんじゃないですよ。普通だし」
「………、普通か?」
ロイの火を消していたブレダが顔を上げる。ブレダに指をさされ、嫌そうに顔を顰めたものの、偽エドはずかずかとアルの傍へ寄った。見目はエドの為、対応に拱いているアームストロングの脇を抜け背伸びして顔を冑に近づける。
「なぁ、あんた。あんたは兄貴より俺の方がまともだと思うんだ!?」
こころなし嬉しそうに問われてアルは途惑った。
「えぇ〜っと‥」
「こらッ、貴様。アルフォンス君に近付くんじゃない!」
素早く間にロイが入る。
「御待ち下さい、命殿。命殿も華に近付いてはなりませぬ!」
「何を言う、少佐!アルフォンス君に危害が及んだらどうするのかね!?」
「しかし、牛乳に負けた男から会う度いつも、くれぐれも命殿と華の距離を保つよう頼まれておりますので。な、そうであろう、牛乳に負けた男!?」
「だから少佐、そいつはエドじゃないんですって。っていうよりもう、止めて下さい。そのコードネーム。不審者が現れた時点で無効ですよ、ソレ。」
脱力するブレダを他所にやり取りは続く。
「少佐は、私より鋼の言をとるのかね!?」
「いえ、そういうわけでは‥」
自分をはさんで交される軍人の会話に困り、アルが視線を流したところ、目をキラキラさせてガッツポーズを取るエド‥いや正しくは偽エドが目に入った。
お前ら、おもしれ〜〜v
そういう問題じゃないとアルは思ったが、偽者とはいえ兄のこんな喜びようはしばらく見ていないので、自然とアルも嬉しくなる。
『この人も色々タイヘンなのかも』
軍人二人が火花を散らし、兄弟二人がのほほん花を咲かしている。
「はぁ‥」
ブレダはチーム牛乳へ付いて行けばよかったと溜息をついた。そこへ
アル〜〜〜〜〜〜っ
凄まじい形相でかけ込んで来る鋼の錬金術師。
アルの説明通りわき目も振らず猛然と突っ込んできて、がばっとアルに抱き付いた。肩まで登るとアルを取り巻くロイ、アームストロング、偽エドに蹴りを入れ、アルから離す。
「あ、本物」
アルに言われずとも露骨な態度でそれが鋼だと全員わかった。
アル〜〜無事か〜〜〜?」
「何をする、鋼の。いや、いつも何をしているのだ貴様はっ!?
ズバッとロイに指をさされても気にもとめず、冑にスリスリ頬擦りしている。
「乱暴者だよね〜、エドワード・エルリックって」
元に戻ったエンヴィーに気付いてアルは声をかけた。
「済みません。大丈夫でしたか?」
「あー、いーって、いーって。慣れてるから」
ウィンクするエンヴィー。
「それは‥タイヘンですね。でも、頑張って下さい」
どう言っていいか分らず、せめて応援だけでもとアルが声をかけると、不機嫌な声が頭上からアルに降りてきた。
「アル〜、俺には声もかけず、なに見知らぬ奴と喋って…、あ”−−−っウロボロスっ!
やっとここの状況が目に入ったエドに指をさされ
「あ、やべっ」
エンヴィーは駆け出した。
あ、アルフォンス。また今度な!
振り向きざま片手を振り脱兎と化して消えていくエンヴィーにアルも思わず手を振った。
「アルッ!ウロボロスなんて絶対駄目だぞ!!」
「あ、うん。あーいや、そうじゃなくてさ‥」
エドの誤解する知り合いになったつもりは無いが、悪い人とも認識できず、アルは苦笑いを浮かべた。
「大佐、我輩奴を追います!」
「はっ、そうだった。追跡せねば!その前にアルフォンス君を送ってから‥」
ふざけンなーっ触んじゃねェ!
そこへやっと、エドにおいてかれたホークアイ、ハボック、フュリーが疲れ果ててやってきた。
『………、ロイアル班で良かったのかも』
いつも美しく結ってある髪を振り乱し、眼の下にクマを貼りつけたホークアイ。全力疾走による仮死状態に一歩足を突っ込んでいるフュリー達を見て、ブレダは腕を組んだ。
『それにしても、大総統の軍事作戦って何だったんだろう』

「御帰り、ラスト、どうしたの?」
「も〜、鋼ってなによ!なに考えてんのよぉ。」
ボサボサの黒髪とほつれた服のラストは、意気揚揚帰って来たエンヴィーで憂さを晴らしたのだった。

バラ売り。グループが単独で営業するたとえ。でも、こんな話だったっけ?アルの方が先にできたのが間違いだったかな(笑)。どんどんなんのサイトか分らなくなって行くような… 2004/03/07