金のカガリ
銀のカガリ
本日もカガリは忙しく、傍から見れば少な過ぎるくらいの休日に割り当てられた今日を、アスランはアスハ邸で独り過ごしていた。
カガリだって休日は取れる。だけど‥
休みは休みで、あの情勢はどうなってるとか、彼の人達はどうしているかと旅行と称して様子を見に行く始末。
「少しは休めよ。体を壊すぞ?」
「だから壊れる前にやってるんじゃないか。」
アスランの心配に口を尖らせた後、カガリは笑った。
無理なスケジュールを詰めてもキラ達と食事をしたり、仲間と談笑する事が何よりの休みになると。
「ふぅ‥」
ラクスと婚約していた頃は違ったと、アスランは思う。
アスランの都合でラクスに会いに行った。もっとも、それがラクスの都合だったのかもしれないのだけど。
今はカガリが全て。自分は側にいるだけ。
『いると認識すらされていないのかも‥』
私はそんな薄情じゃないぞ!
カガリの声が聞こえてくるようで、アスランは口元を綻ばせると胸ポケットから写真を取り出した。
フレームに笑いかけるカガリは、自分にだけ笑いかけているようで
「あれ?」
そんな事を考えて庭を歩いていたら、広大な庭の隅に見知らぬ泉をアスランは見つけた。
『こんなところに池があったか?』
ロマンのセンスに些か乏しいアスランには、泉も沼も池に違いなく、確かめにとそちらに足を向けた。
庭の端からは海が臨める
「あっ」
突然の突風に、アスランは眺めていた写真をさらわれた。
「ああっ」
写真はひらひらと舞って泉に落ちた。
『君と同じだな‥』
手の中にあると思っても、それは自惚れで‥いつ誰が君を奪っていくか、俺にそれが止められるのか‥
「‥違うか‥‥君は攫われるんじゃなく、自ら選んでいくんだろうな‥」
アスランは苦く笑って、泉に浮かぶはずの写真を
「あれ?確かにここに落ちたのに‥沈んだのか?」
そんな馬鹿な、と自嘲しつつ、アスランは泉に向かって屈み込んだ。
ザバッ
「うわっ」
池の中から現れたのは、長いビラビラを纏ったキラだった。
「キラ?」
「お前が落としたのは‥」
アスランの呼びかけに答えず、キラは手をかざす。
「この、可愛いカガリか?」
現れた可愛いカガリはガーベラのようなワンピースを纏い、小首を傾げてアスランを見つめていた。
可愛いカガリ「あの、、、さ、アスラン、、明日は、ヒマか?あ、いやたいした用事じゃなくて、、、その、、、クッキーなんだけど、、、作ったんだ、、
お前に‥」
背に隠していた包みを、可愛いカガリはおずおずと差し出した。
「カガリが俺に?」
可愛いカガリ「あ、味の保障は‥ないけど」
「ありがとう、嬉しいよ」
可愛いカガリの震える手ごと、アスランは包み込む。
可愛いカガリ「アスラ‥」
「どうした?カガリ。泣いてるのか?」
俯いた可愛いカガリの肩が小さく震えていて、アスランはカガリの頬に手を添えた。
可愛いカガリ「泣いてる?‥ホントへんだね。クッキー貰ってもらえて、、嬉しいだけなのに」
「カガリ‥」
「は〜い。ストープここまでここまで。だいたい君が言うせりふじゃないよね。」
キラの手に顔を押され、アスランは呻いて鼻をさすった。
「待って、カガリ!」
滲む涙にめげず、泉へ消えた可愛いカガリに未練がましく伸ばそうとするアスランの手を、キラはぴしゃりと叩き、冷たく話を進めた。
「それとも、キミが落としたのはこの、正義のカガリか?」
「正義?」
鸚鵡返すアスランの前に、オームの制服を纏ったカガリが現れた。
「カ、カガリ‥?」
正義のカガリ「アスラン、どうした?あぁ、今日は非番だったな。ゆっくりしてるか?」
「あ、ああ、俺はその、休ませて貰ってるけど、カガリは?」
正義のカガリ「私も今日は会議が早く終わって時間が出来たんだ。」
「え?そ、それじゃ、、、俺と、良ければ街にでも‥」
正義のカガリ「そうだな。うん。街の清掃に出かけるか!」
「せ、清掃?」
正義のカガリ「治安維持も兼ねながらな。」
「治安‥」
正義のカガリは拳を握ってアスランを振り向くと、瞳をキラキラと輝かせた。
正義のカガリ「やっぱりアスランは、良く分かってるな。」
「、、カガリ‥」
正義のカガリ「頑張ろうな、アスラン」
涙に咽ぶアスランを眺めて、キラは正義のカガリを引っ込めた。
「じゃ、キミが落としたのはこの、キラカガリかな?」
「キラカガリ?」
現れたカガリはキラに抱き付いていて、キラもちゃっかりカガリの腰に手を回していたりする。
「ちょっと待て。なんだ、これは‥」
「あ、つい本音が」
「キラ〜っ」
「あ、はい。カガリの写真。もう、落さないでね。じゃ、僕はこれで」
「待て、キラ!カガリを置いてけ!!」
置いてけーっ 置いてけーっ
魔法の泉は後に、おいてけ堀と名を変えたという‥
2006/05/21 7月竜